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どう声をかければいいか分からない・・・貴方は手の施し様がないのだから。

 

桐杏(とうきょう) 
日本国首都
総人口約2563万人 
面積4,631.54Ku 

2010年
国際化の激動、世界規模での爆発的なボーダレス化が発生。
様々な民族が全世界へ流出し、単一民族国家として2000年以上存続していた日本も
ついに他民族国家へと変貌を遂げる。

2015年
東京を桐杏へと首都改変
確認出来る民族は少なくとも15種に及ぶアジア最大の巨大都市へと変貌を遂げる。
単一民族国家から徐々に多民族国家へと変貌し、それに伴い治安も悪化。 

2033年
ついに国会議員の過半数を占める賛成により、
『破壊活動強制防止法』(通称・第弐破防法)法案が可決。
翌、2034年に施行される。 

これに伴い、国家によって秘密裏に組織された部隊が 
テロ鎮圧及び治安の維持の為、国内で暗躍する体制へと移行しつつあった。 

 

 

 

「号外ですよー、号外ぃー。」

神樹宮(※旧 新宿)の大通りで、臨時アルバイトであろう風貌の青年が

新聞の号外を配布し、道行く人々が次々とそれを手に取っていく。

冬の空は朝から厚い雲に覆われていた為、昼間であるにもかかわらず夜のような暗さが首都を包んでいた。

巨大な交差点上には蟻のように群がるヒト、ヒト、ヒトの行列。

会社へ、学校へ、何処かへ、様々なベクトルがまるで幾何学模様を描くように交差していく。

その群れを離れたスーツ姿の中年が、先程を号外を路地の脇で広げ、大きな溜息をついた。

【テロ犯、志武矢中央通り 移民労働局渋谷事務所に篭城。死者多数】

プァーーン

ファンファンファンファンファン!

12月の寒風が吹き荒ぶ中、複数台のパトカーがサイレンを鳴らしつつ明治通りを疾走する。

志武矢(※旧 渋谷)の中央通りでは何台ものパトカーが集結し、

現場周辺を多数の警官隊が包囲している。

週末の午後という事もあり、大多数の野次馬が殺到するが、

屈強な警官隊がそれを手馴れた手付きで誘導、抑制していた。

 

『犯人につぐ、速やかに武器を捨て投降しなさい。』

 

車載スピーカーから犯行グループに対して英語と日本語で通告が行われているが、

依然として建物内の状況は芳しくない。

あるパトカーの中から年配の男が降り立ち、現場にいた若い刑事に近づいた。

 

「お疲れ様です。警部。」

 

「・・・現状は?」

 

「その後、既に人質3人が射殺されています。

 犯行グループは依然として興奮しており、非常に危険な状態です。」

 

「奴らの要求は?」

 

「予想通りVIVED(※ヴィヴェド 外国人不当就労反対組織の過激派)幹部2名の釈放を要求しています。」

 

「馬鹿が・・・。政府がそんな要求をのむ筈ないだろう。

 ・・・突入は時間の問題か。狙撃班は?」

 

「あと20分程で到着します。」

 

そこまで話した後、老刑事は煙草に火をつけ、深く息を吸った。

吐き出される白煙を見送った後、今度は周囲に集る野次馬達を睨む。

 

「見世物じゃないんだ。この暇な馬鹿ガキどもをなんとかしろ。」

 

それを聞いて、若い刑事は苦笑して答えた。

 

「無理ですよ警部。場所が場所なんですから・・・夜間帯じゃなかっただけマシと思って下さい。」

 

「やれやれ・・・・・。」

 

老警部は頭を2、3度掻くと、ふと思い出したかのように暗い空を眺めて呟いた。

 

「なぁ・・・黒鴉(レイヴン)の噂って聞いた事あるか?」

 

「公安特殊武装隊・・・の事ですか?まぁ・・・噂には聞いてますが与太話とか都市伝説の類では。」

 

「与太話・・・ね。」

 

直後、周囲が騒然とする。

自分達の要求に対する返答の遅さに痺れを切らした犯行グループが、

大声を張り上げながら、人質の一人を窓際へと引きずり出す。

 

「너가 느끼는 감각은 정신 질병의 1개의 종류 이다. 다만 우리는 치료의 방법을 있어있었다. 우리에게 허가!!」

 

そして、怒り狂ったように何か言葉を吐き捨てた後、人質の頭部にサブマシンガンの銃口を突きつけた。

 

「まずい・・・。また人質が撃たれるぞッ!」

 

「狙撃班はまだかッ!!」

 

様々な場所から警察関係者と思しき人間の焦りの混じった怒声が響き渡る。

―刹那

バリィン!

人質に銃を突きつけていた犯行グループのリーダーらしき人物が

頭部から大量の鮮血を噴出し、その場に崩れ落ちた。

直後、

 

『―ザァ・・・と、突入開始ッ!』

 

ピピピピーピピー!!

 

移民労働局前に待ち構えていた突入隊が、一斉に突入を開始し、

ひるんだ犯行グループ達を次々に制圧していった。

警笛の音・・・喧騒、銃声・・・・。上空にはテレビ局のヘリコプターの姿も見える。

大多数の人間が現場に釘付けになっている最中、

老いた警部は、別の場所を見つめ呆然としていた。

彼が見つめた先には、現場からゆうに1km以上は離れているであろう高層ビル群がある。

 

「・・・・・黒鴉・・・。」

 

そう呟くと、口に咥えてた煙草を落とした。

 

ザー

 

―――『ご苦労。入念にイレイスし、早々に現場を引き上げろ。』

 

「・・・了解。」

 

 

 

 

 

 

 

第一話 レイヴン

 

 

 

 

 

カチ・・・カチ・・・カチ・・・。

小奇麗なワンルームマンションの一室に、螺旋巻時計の音が響き渡る。

 

「・・・・・・・・・。」

 

本棚に置かれたその時計の秒針を、青年が虚ろな眼で眺めていた。

・・・スッ

 

「・・・・・・由綺?」

 

ふと視線を時計から戻すと、隣に座っていた女性が急に立ち上がっていた。

絹のような黒髪が流れ、細いアンティーク人形のような腰が揺れる。

 

「・・・冬弥くん。私、そろそろ行くね?」

 

「・・・・あぁ。」

 

冬弥と呼ばれたその青年は由綺と呼んだその女性に優しく微笑みかけた。

すると由綺は、上目遣いで冬弥を瞳を覗くように見つめかえし、

 

「ごめんね・・・今週末はゆっくり出来るって言ったのに・・・・。」

 

そう言うと、本当に申し訳なさそうな表情を浮かべる。

冬弥は立ち上がり、由綺の頭を自分の胸に押し当てて苦笑した。

 

「いいよ。それくらい俺も分かってる。今、大事な時期だろ?」

 

「う・・・うん。そうなんだけど・・・・私・・・。」

 

「芸能界で成功するって念願の夢が、あと一歩まで近づいているんだ。

 俺はかまわないから、由綺はそれに専念すればいい。」

 

冬弥が優しく由綺の髪を撫ぜてそう嗜めると、愛する彼の胸に顔を埋めていた

由綺は冬弥の服を強く握りしめて呟く。

 

「私、冬弥くんとの時間も大切にしたいの。」

 

「・・・・。」

 

しばらく無言のまま抱き合っていた2人だったが、

やがて由綺は彼から離れると、右手首の時計を見ながら左手でバッグを手に取る。

 

「冬弥くんは、今晩も仕事?」

 

「・・・あぁ。俺は俺でしっかり稼がなきゃな。」

 

冬弥がそう言って自分の手首を握っていると、

そっと由綺が冬弥に口付けをする。

 

「じゃぁ、行ってきます。」

 

照れながら由綺は足早に靴を履くと、冬弥の部屋から出て行った。

バタン。

カンカンカン・・・・。

部屋の扉が締められると、しばらくして由綺が階段を降りる音が聞こえた後

冬弥のワンルームは静寂に包まれた。

先程まで本当に人が居たのかと疑いたくなるような、気の遠くなるような・・・・

・・・・耳が痛くなるような静寂。

そして何時の間にか冬弥は苦悶の表情を浮かべていた。

 

「ごめん、由綺。・・・俺は、また君に嘘をついてる・・・・。」

 

その静寂の中で冬弥は一人、佇む。

今しがた由綺に見せたような笑顔はもう彼には無い。

ごく普通の勤労青年であった藤井冬弥のこの日の務めは終わったのだ。


しんしん・・・・。

暗闇に包まれた魔都桐杏に、静かに雪が舞い降りる。

 

『ザザ・・・―Σ(シグマ)、臨戦態勢に入れ。

 α(アルファ)が交戦開始次第、突撃指示を出す。以上。』

 

「・・・Σ、了解。」

 

淡々とした音声が無線機から流される。

 

「冬弥、準備はいいか?」

 

漆黒の装甲服に身を包まれた青年が、『冬弥』と呼びかけたもう一人の青年に目をやる。

だが、冬弥はそんな青年の呼びかけに反応を示さず、

ただ自分の手に持たれた拳銃を見つめていた。

 

「・・・・・冬弥!」

 

青年の強い呼びかけで、ようやく冬弥は我に返る。

 

「・・・?」

 

そんな冬弥の反応を見て呆れた表情を浮かべた青年は、

腕にかかえたアサルトライフルの銃底で冬弥の脇腹を小突く。

 

「・・・しっかりしろ冬弥。そんな調子だと死ぬぞ?」

 

「すまない・・・彰。」

 

―バツンッ!

目の前に佇むビルの電気系統が一斉にダウンし、

その直後、無線機から開始を告げる音声が発せられた。

 

『―Σ、突撃開始。』

 

「・・・了解・・・・・!!」

 

彰は険しい表情になると、十数メートル先のドアから突入を開始する。

ダァンッ!!

 

「行くぞ!」

 

ドアの先には真っ暗な深淵が口を開けて待ち構えている。

その中へ彰は躊躇せず踏み込んでいった。

続いて冬弥も拳銃を構えたまま、無表情にその闇へと飛び込んでいく。

ドドドドドゥッ!

ガーンガーンッ!!

 

「這是K烏鴉的突襲!殺害!」

 

聴きなれない言葉が四方八方から聞こえて来る。

耳を劈くような銃声と騒音、けたたましい悲鳴。

幾つもの銃弾が虚空で旋律を奏でる。

暗闇の中で銃口から放たれるマズルフラッシュが周囲を瞬間的に照らし出し、

階段についたおびただしい血痕が網膜に焼きつく。

・・・・何てことはない。ただ、標的が現れたらトリガーを引き絞るだけだ。

殺気が前後から、まるで身体を刺すかのように感じられる。

 

「・・・・!!」

 

異国の言葉を吐き出しながら、標的が一人、二人・・・・。

壁際を背にして初弾をやり過ごし、息を吐くと同時に身を乗り出し、トリガーを絞る。

ガァンガァンガァンッ!

人影が崩れ落ち、真っ暗な床を液体が這う。

黒と赤。

生と死。

藤井冬弥の目の前には、凄惨な死劇が繰り広げられていた。

 

『フロア3は制圧完了。これよりフロア4へ移行する。』

 

彰が淡々と無線に対して状況を報告し、再びライフルを構えた。

そして上階へと続く階段へと足を向ける。

途中、標的と思われる死体が数体床に転がっているのを発見した。

先行部隊に殺られたのだろう・・・・。

4階に上がり終えると、彰が指でサインを送ってくる。

それを見た冬弥は、彰とは逆の通路を疾走していった。

―― ベツコウドウ ギャクガワニ マワレ

彰の指示通り反対側のフロアに侵入した冬弥の傍で、物音が聞こえた。

 

「・・・・・・・!?」

 

銃を構えた冬弥が蹲っている人物を見て血相を変える。

仄かな非常灯に照らされたは、何が起きたのか理解できず

怯え震えている幼い子供の顔であった。

 

「子供・・・子供だ・・・なぜッ!?」

 

・・・・ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!

鼓動が激しくなり、脈拍が上がる。

 

『彰ッ!子供がいるッ!・・・至急

 

「至于您是什! 当? ,在那之上它得到近,您射!!」

 

冬弥が無線で彰に呼びかけようとした矢先、突如フロアの端から異国の言葉が耳に届く。

 

『銃を下ろし、床に伏せろ。でなければ射殺する。』

 

中国語で警告する言葉が聞こえるが、アクセントから後者は明らかに邦人である事が分かる。

すぐさま視線を先に向けると、3人の先行部隊と父娘と思われる2人組が対峙していた。

父親の方は状況を把握できておらず、完全にパニック状態に陥っており、

14、5歳程の少女が父親の背後で震えている。

傍には射殺されたと思わしき死体が転がっており、おそらくその死者の銃をとっさに拾ったのだろう。

状況は芳しくない。

下手に何かアクションを起せば、確実にあの父娘は射殺される運命にあるのだから・・・・

 

「まてッ!撃つなッ!!」

 

冬弥が先行部隊を制止しようと足を向けたその直後、

バァンッ!

突如、父娘側のフロア奥から男2人が現れ、奇声を上げながら銃を構えた!

―最悪の事態だ。

ドクン・・・・・・・ドクン・・・・・・・・ドクン。

 

『ヒィッ!!』

 

つられて緊張に耐え切れなくなった男が下げかけていた銃を再び構えた・・・・

 

ガァンッ!ガァンッ!ガァンッ!

ガシャーンッ!

 

後から現れた男2人は悲鳴を上げる間もなく、急所を撃ち抜かれて絶命。

そのうちの一人は右側にあったガラス細工に頭から突っ込んだ。

ドクン・・・・・・ドクン・・・・・・・・・ドクン。

冬弥の視線がその男達から先ほどの父娘に移される・・・・・・。

ビシャア

おびただしい量の鮮血が少女の顔や体に降り注ぎ、

顔の右半分が吹き飛んだ父の躯が少女に項垂れかかっていた。

 

「ーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 

最早言葉として聞き取れない少女の絶叫が、フロア内に響き渡る。

一部始終を見た冬弥はその場を動く事が出来なかった・・・・。

・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

―― 制圧が完了したビルに到着する複数台の特殊車両

―― 次々と運び出される遺体

―― ダンボール箱に山積みされた新型の麻薬

―― 人を殺す為の道具

―― 泣き叫ぶ異国の親子達

―― 負傷した隊員、肩を撃ち抜かれた女性

先程の少女の姿もあった。

血にまみれた彼女の横顔には最早生気は感じられず、立つ事もままならないのか

タンカに乗せられて連行されていく。

殺伐とした空気の中、冬弥は覚束ない足取りで集合場所へと向かった。

 

「・・・・はい、制圧完了しました。幹部数名は射殺しましたが肝心の・・・はい。」

 

目前には車載されている無線機で彰が誰かに報告を行っているのが見える。

 

「何故・・・・だ・・・・。

 黒龍牙(ヘロンヤァ)の掃討作戦だったはずだ・・・・。

 不法入国者の家族がいるなんて情報は・・・無かったぞッ!!」

 

カシャーンッ!

冬弥はそう叫ぶと返り血で汚れた装甲マスクをその場に叩きつけた。

 

「クソォッ!」

 

隊員達の視線は冬弥に向けられ、報告を終えた彰が歩み寄ってきた。

 

「冬弥・・・落ち着け・・・!」

 

「落ち着いていられるかよ・・・・関係ない人達まで巻き込んじまったんだ・・・・!」

 

歯軋りする冬弥を彰は鎮痛な表情で黙って見つめていた。

すると・・・・・背後から信じられない言葉が聞こえてくる。

 

「何を今更ガタガタ言ってるんだこいつは。」

 

「ッ!?」

 

冬弥が振り返ると、そこには先程の少女の父親を撃った男がいた。

 

「人を撃つ事に理由なんて要らねーよ。それが黒鴉だろう?」

 

「おい・・・御堂、やめろ。」

 

制止しようとする他の隊員の手を払いのけ、その巨漢が近づいてくる。

 

「お前・・・・今何て言った・・・?」

 

愕然とする冬弥の問い掛けに、男は悪びれもせずただ下卑た笑みを浮かべると口を開く。

 

「馬鹿か、お前。あんなこ汚ねぇ奴等何人死のうが、かまわねぇだろって言ってんだよ。」

 

「・・・・なん・・だと・・・?」

 

「冬弥・・・落ち着け・・・。」

 

彰が冬弥の表情に危険を察知し、すかさず落ち着かせようとするが、

愚かな男はそんな事はお構いなしに言葉を吐き続ける。

 

「不法入国者なんてのは、この国に巣食うダニじゃねーか。

 クズの命なんていちいち気にしてどうするんだ?」

 

ダンッ!

 

「がッ!?」

 

一瞬のうちに冬弥はその男の手首を関節を極めると、車のボンネットに顔面から叩きつけた。

 

「・・・・・・・・・・ギリギリッ。」

 

冬弥の口元から一段と歯軋りの音が高くなる。

・・・カチリッ

コルトガバメントの撃鉄を起こし、その重厚を巨躯の隊員の頬へと突き立てる。

 

「ま・・・待てよ・・・!てめぇ正気か?」

 

流石に巨漢の顔にも焦りの表情が浮かび上がる。

―― こいつ・・・!マジだ・・・!

 

「おぃ!やめろッ!藤井!」

 

「馬鹿な真似は止せ!」

 

居合わせた他の隊員達も冬弥を刺激しないよう必要以上は近づかず、制止の言葉を投げかけた。

 

「・・・・・やめろ・・・・・・冬弥!」

 

見かねた彰の一声で、ようやく冬弥は銃を下げると男から手を離した。

少し間をおき先行部隊のチームリーダーが彰に謝罪する。

 

「すまん。七瀬・・・こいつは先月来たばかりで・・・。」

 

彰は無言でリーダーの男の謝罪を聞き流しながら、冷徹な視線を御堂に向けていた。

 

「お前・・・勘違いするな。俺達は殺人狂じゃない。

 そんなに人が殺したければ、マフィアの手先なり何なりなればいい。」

 

そう怒気の篭った言葉を吐き捨てると、冬弥は踵を返して車に向かって歩こうとした。

そして・・・・・・・・次の瞬間に事は起こった。

 

「・・・・・俺を・・・コケにしやがって・・・・!!」

 

「おい!御堂ッ!」

 

腰のホルスターから拳銃を取り出し、御堂は背中を見せている冬弥に向かって銃を構えた。

 

「舐めてんじゃねーぞ!クソガキがぁッ!!」

 

・・・・・・・・その直後

バァンッ!

・・・びしゃ。

御堂の背後にあったコンクリート壁に小型のバケツでぶちまけたように

真っ赤な液体が飛び散り、滴り落ちていく。

そして、御堂の体もまるで糸が切れた人形のように崩れ落ち、

そのまま微動だにしなくなった。

・・・・・・・静寂が周囲を包む。

その場にいた隊員達の誰もが、しばらく御堂の死体を眺めた後、視線を冬弥へと向ける。

銃口からまだ微かに煙がたちこめる銃を構えたまま、冬弥は御堂を眺めていた。

彰が鎮痛な表情で溜息をつくと、無線機を再び手にする。

 

『―こちらシルヴァークロー、問題が発生した・・・・・。』

 

・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

パパー、パー

車のクラクションが鳴り響き、街のネオンが闇夜を照らす。

・・・・・魔都桐杏

・・・・ニューアーク(※旧 ニューヨーク)に次いで世界最悪レベルの犯罪多発都市。

雪が積もった眠らぬ街のアスファルトを踏みしめ、雑踏の中を亡霊のように彷徨う藤井冬弥の姿がそこにあった。

 

「由綺・・・今日も俺は人を殺したよ・・・・・。

 ・・・・・・・・たくさん・・・たくさん殺した・・・・。」

 

そう呟きタバコを咥えたまま、まだ夜の明けきっていない神樹宮の大通りに立ち尽くす。

雪は今も静かに降り注ぎ、冬弥の肩や頭部に纏わりつく。

ふと瞳を閉じるとあの光景が蘇る。

娘を必死に守ろうとし、射殺された父親。

それを目の当たりにした少女のあの表情。

 

「・・・・・・・・うッ!・・・・・・ゲッ・・・・・・。」

 

もう吐くものは胃に残っていないはずだが、

再び襲い掛かる嘔吐感に耐え切れず、道路脇へとへたり込む冬弥の前に

ひときわ明るい看板が光彩を放っていた。

 

『緒方理奈 NewSingl  ―Sound of Distiny―』

 

「・・・・・・・運命の、旋律・・・・・・。」

 

ザッ


そんな彼の視界に一人の女性が現れた。・・・・河島はるかだ。

 

「冬弥、報告だよ。」

 

・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・。

ゴォォーーー!

夜魔手線(※旧 山手線)が行きかう高架下で、冬弥とはるかは話を始めた。

 

「・・・・・・。」

 

「少しは彰の身になったらどう?

 レッド・アイに直々に呼び出されたのよ。」

 

「・・・・・・すまない。」

 

「貴方が射殺した御堂って男、先月12日にSATから入隊。

  戦歴はそこそこ、好戦的な性格が問題視され、2度の謹慎処分を受けているわ。

  いろいろ過去を探ってみて思ったけど、黒鴉で長生きできる輩じゃなかった事は確かね。」

 

「・・・・・・。」

 

淡々と話すはるかの言葉を冬弥は黙って聞いていた。

昔からそうだが、彼女は何を考えているのかよく分からない。

ただ、人形のように真っ黒な瞳が彼を凝視するだけだ。

 

「彰の話を聞く限りでは、死んで当然よ。」

 

「・・・・じゃあ俺は少なからず黒鴉に貢献したって訳だ。」

 

「馬鹿を言ってんじゃないわよ。いくら正当防衛だったとはいえ・・・・・謹慎処分よ、貴方。」

 

「・・・・・・謹慎処分か。」

 

冬弥はフッと鼻で笑うと、腰に巻かれたホルスターから

デザートイーグルAE50改造拳銃、愛銃テスタメントを抜き、はるかに差し出した。

 

「・・・・何のつもり?」

 

「とぼけるなよ。わざわざ謹慎処分を通告しにきただけじゃないだろ。

 ・・・・・・目的はこいつ(愛銃)の回収だろ?」

 

ゴォォォーーーーーーー!ヒュンヒュンヒュンヒュン

再び二人の頭上に夜魔手線が通過する。リニア駆動の独特の機械音が鼓膜を痛いくらいに震わせる。


「テスタメントを保持するかどうかは貴方の自己判断に任せるわ。」

 

「・・・・・・なんだよ、そりゃ。」

 

「謹慎処分とは言え、いつ部隊に復帰するか分からない以上、

 それは貴方が持っておくべきだと思うけど。」

 

はるかの言葉を聞いて、冬弥は無言でテスタメントをしまう。

 

「・・・・・・・あと、これは忠告よ。

 いい加減、あの子と付き合うのはやめたら?」

 

「・・・な・・に?」

 

偽りの恋人の事を意外な人物に指摘され、冬弥は思わず言葉につまった。

 

「辛いでしょ?いつまで彼女に嘘を突き通せるかしら?」

 

「・・・・・余計なお世話だ。」

 

明らかに不機嫌な表情を浮かべ、冬弥はその場を去ろうとするが

はるかの言葉はまだ続いた。

 

「・・・・貴方、変わったわね。」

 

・・・・ピタリ。

冬弥の足が止まる。

 

「・・・人はみな変わる。当たり前の話だ。」

 

「貴方の変わり方は方向性が間違ってる。・・・・・どうして死急ごうとするの?」

 

「別に・・・・俺はただ任務を遂行しているだけだ。」

 

冬弥のしぐさに苛立ちが現れ始めたのを、はるかは見逃さない。

 

「・・・・・零國が無くなった時から、貴方は変わったわ。」

 

「零國の話は聞きたくないし話したくもない・・・・・!2度とするなッ!!」

 

ゴォォーーーーーッ!!!ヒュンヒュン、ヒュンヒュンッ

振り返り、珍しく激情を露にした彼を見て絶句するはるかを一瞥した後、

冬弥はその場を後にするのだった・・・・・。

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・。

ピピッ!カチャ・・・・・バタン。

いつもの部屋に辿り着き、電灯のスイッチを入れる。

テスタメントを乱暴にソファの上に置くと、冬弥は頭を抱えて蹲った。

・・・・ふと留守番電話の伝言ランプが点滅している事に気付く。

 

「・・・・再生。」

 

―― ヴン

 

『・・・・あ。冬弥くん?由綺です・・・。

 えっと・・・・その・・・・ご飯ちゃんと食べてますか?

 冬弥くん、あまり食べようとしないから・・・・・えへへ、私何言ってんだろ。

 あ、そうだ!明日はプロモーションの後は予定が入ってないから・・・・・・・・

 ・・・・あのね。良かったら一緒に晩御飯を食べないかな・・・って。

 あ!もちろん冬弥くんの予定が空いてればの話なんだけど!えへへ。

 ・・・・・・また連絡します・・・・・・おやすみなさい。』

 

―― ヴン   ゴゴ ナナジ ヨンジュウ ニフンデス

 

「・・・・・・・・・。」

 

―― リアル

―― 死

―― かりそめ

―― 嘘

胸から熱いものが込み上げてくる。

・・・・・彼は部屋の中で、一人静かに嗚咽を漏らした。

 

―― 黒鴉

公安特殊武装隊・・・・通称レイヴン

鴉は黒い翼を広げ、街を見下ろし

贖罪するかの如く、穢れた声で懺悔の詩を謳い続ける。

その姿、悲しく、儚い。

 

I don't know what to say You don't care anywhere

 

次回予告

弾幕の中で、冬弥は信じられない事実と直面した。

御互いの虚構が崩壊し、そして物語の幕が静かに上がろとしている。

・・・・・・運命が加速する。

次回BloodyAlum 『This is end of love』

―― 俺達は水晶のようなもの

―― 簡単に壊れちまう