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『それではここからは洋楽ナンバーのリクエストコーナーです。

 今週は思い出のJAZZと題しまして、

 貴方の思い出の曲、心に残る1曲のリクエストにお答えしてい・・・』

 

「あっ!!リクエストのコーナーが始まったよ。」

 

Natural2−DUO−

Fly us to the Moon

第4話 「空のリクエスト」

 

 

女三人よればかしましいというかなんと言うか・・・

当初は「おにぃちゃんに反省してもらおう」というノリであったのだが、

次第にエスカレートしていき、最後には「奈良橋翔馬の性癖暴露大会」となってしまった(号泣)

「そこで兄さまは私の足を・・・」とか

「ボクの手を優しくにぎって・・・」とか

「私は後ろから =検閲削除= 」等のやけにリアルな話は、

DJ知得留が「鬼」「毒」「鬱」「殺します」等の

物騒な言葉が飛び交う救い様のない4件の相談を力技で解決し、

これまた相談内容と同じく救いがたい、4曲のリクエストに応えている間中続いた。

なまじ身に覚えがあるだけに言い訳もできず、かといって開き直るほどの度胸もなく、

俺に出来ることといったら一刻も早くこの針の筵のような時間が過ぎてくれる事を、

DJ知得留に祈る事だけだった(号泣)

そんな、俺にとって永い永い時間の終りが、軽快なJAZのリズムと共にやって来たようだ。

 

『・・・く予定だったのですが、残念ながら放送時間の関係上、

 お1人の方のリクエストにしかお答えできません〜。

 時間配分も満足に出来ない不出来なアシを持つと苦労するんですよ(ふぅ)

 ・・・セブン。後で改造です。こんどは轡でも噛ませますかね。』

 

『はぅぅぅぅぅ〜しょンなぁぁぁぁ〜』

 

く、轡ぁ!?最後の方でボソッとDJが言っていたが、えらくまた激しいプレ・・・オホン。

 

『ではコーナーが始まっていきなりですが、不出来なアシのせいで一旦ここでCMです〜』

 

「えーーーーー。これじゃぁリクエストかからないよぉ。」

 

一人のリクエストにしか応えられないというDJの言葉に、空が後部座席から身を乗り出してきた。

 

「コラ。あぶねぇからおとなしく座ってろ。」

 

「だって・・・・・・だってッ!!」

 

よほど今回のリクエストには思い入れがあったんだろう。目の端に涙まで滲ませている。

しかもどこから取り出したのか、胸にガブちゃんぬいぐるみまで抱きしめている。

ははは、このアンバランスさがかわいいじゃねぇか・・・ってオイッ!!               

またもどりかけてるんじゃないのか!?(汗)

 

「ま、まぁ今日はあきらめな。また来週リクエストすりゃいいじゃねぇか。な?」

 

「ダメッ!!今日じゃなきゃダメなのぉ!!」

 

うッ、だんだん喋り方も舌っ足らずになってきてるし(汗)

 

「く、空。落ち着いて。ね?大丈夫だから。」

 

いち早く空の変化に気付いた千紗都がフォローを入れる。

 

「そ、そうだぞ空。俺もなんかリクエストに応えてくれそうな気がしてきたぞ。

 そ、それにな、そんなにしかめっ面してちゃ、かわいい顔がだいなしだぞ。」

 

俺も同調し、畳み掛けるようにさらにフォローを入れる。

 

「・・・ホント?だいじょうぶかなぁ?」

 

瞳を潤ませて上目づかいに俺に問い掛けてくる空。

う゛ッ。かっかわいいじゃねぇーか。

運転中じゃなかったら、なでなでしてやれるのにッ。

 

「・・・兄さま(怒)信号変わりましたよ?」

 

「お、おう。」

 

俺がよほど間抜けなツラをしていたのだろう。

もどりかけてる空の事も忘れ、千沙都がブスッと頬を膨らませながら

ジト目でバックミラーを睨んでいる。

 

「は・は・は(汗)ち、千沙都もカワイイお顔が台無しだぞぅ。」

 

「兄さまは空に甘すぎなんです・・・もうちょっと私にもブツブツ・・・」

 

・・・イカンな。こっちのお姫さんまでへそを曲げだしちまった。

こう見えて千沙都は空以上に頑固な面があったりする。

普段が大人しいぶんだけに、本格的にへそを曲げてしまうと、それが3〜4日続くこともある。

また厄介な事に、千沙都は現在の奈良橋家の家事・財政を一手に引き受ける、

言わばライフラインのような存在でもあり、その機嫌を損ねる事は日常生活の妨げどころか、

非文化的生活に直結してしまうのである。

大きくは炊事・洗濯・掃除から、果ては俺の小遣い・タバコの1本に至るまで。

実に様々な場面で支障が出てくるのである。

つい2週間前にも一度、かわいい顔して意外と凶悪なこの「ちーちゃんサイクロン」(空命名)は

俺限定の猛威を振るってくれた。

きっかけはほんの些細な事だった。

千沙都が用意してくれた朝飯を食わなかっただけだ。

その日、週末の金曜日という事も有り、後輩のヒナに誘われて屋台に飲みに行った俺だったが、

ヒナと別れたすぐ後に、大學の友人達と何某かの打ち上げ?をやっていた空とばったり出くわした。

その後何故か、空とその親しい友人達数人とカラオケに行く事になってしまい、

結局家に帰れたのは日付の変わった翌土曜日の午前4時頃だった。

そんな二日酔いと寝不足で死にそうな俺に、朝からホットケーキ10枚はねーだろ?

しかも蜂蜜・シロップ・バター・チョコレートたっぷりならなおさらだ。

同じく二日酔いに苦しんでいる空が食べていた、インスタントの味噌汁と

レンジでチンする○トウのご飯に箸が向いた俺を誰が責められようか?

そんな休日の遅めの朝食が終わった時、千沙都が突然キレた。

無言で俺に近づき、食後の一服とくわえていたタバコをひったくると、

生ゴミと一緒にポリバケツに投げ捨てた。

そして一言

 

「今からウチは禁煙です。良いですね、兄さま?」

 

と氷の微笑で宣言したのだった。

その後3日間千沙都は説教と小言、イヤミ以外では俺と口をきいてくれず、4日目にはついに

奈良橋家の家事一切を放棄。天岩戸よろしく、部屋に閉じこもってしまった。

事ここに到ってようやく事態の深刻さを理解した、というより日に日に荒れ果てていく

我が家を見て無理やりにでも理解させられた俺と空は、なんとかこの理不尽皇女様にお怒りを解いて頂こうと

あの手この手(主に食べ物による)を実践するも、あえなく玉砕。

後がなくなった俺たちは最終手段、全身全霊を傾けた

「愛の奉仕活動〜48時間耐久トライアスロン〜」に挑戦し辛くも許しを乞うことに成功したのだった。

あの時の過酷?な、文字通りの肉体労働が頭をよぎり、

げっそりしながら無い知恵を絞って、千沙都のご機嫌取りの方法をあれやこれやと考えていると、

これまで急な事態の展開に目が点になって固まっていた久美子さんが、

ようやく事の成り行きを飲み込んで事態の収拾に取り掛かってくれた。

 

「空さん。大丈夫ですよ。」

 

優しく微笑みながら空に話し掛ける久美子さん。

その姿はまるで子供をあやす母親のように見える。

まあ今の状態の空は、「子供」と言えなくも無いのだが(汗)

 

「え?なんで?どうしてそんなこと分かるの?」

 

涙目の空がすぐに久美子さんのその言葉に食いついた。

 

「ふふふ。空さんのように心が真っ直ぐで綺麗な方のお願いは必ずかなうっていうのが

 この世界の決まりごとだからですよ。」

 

そう言って俺と千沙都にウィンクする久美子さん。

本当に幼子に言って聞かせるような諭し文句だが、俺にも久美子さんの言わんとしている事は解るつもりだ。

遠い10年前のあの日々。

あの時から変わらない、俺への思いを持ち続けてくれている鳥海姉妹の心は、

色んなモノを捨てたり諦めたりして生きてきていた俺にとって、

ひどく美しく、そして何物にも変えがたい価値のあるモノのように思えるからだ。

 

「そ、そうよ空。それにね、DJ知得瑠もいつも言ってるじゃない。

 『正直者には必ず主の祝福がありますよ』って。ね?だから泣き止んで。」

 

さっきまでぶーたれていた千沙都だったが、

久美子さんの言葉にきょとんとしている空を落ち着かせる方が大事だと、

当初の目的を思い出してくれたようだ。

ただし、俺に向けるその瞳は「私はまだ納得していませんよ。兄さま」と雄弁に語っていたのだが・・・

千沙都のその視線を、苦笑し「わかってる」と目だけで制しながら、俺も空への言葉を続けた。

 

「空、大丈夫だ。お前のお願いなら、きっと神様だって聞いてくれる。

 まぁ神様が忙しくてお願いを聞いてくんねぇなら、俺が聞いてやっから。な?」

 

千沙都の目の鋭さが増したような気がしたので、俺の本心をもう少しだけ付け加えておく事にする。

 

「もちろん、千沙都も久美子さんもな。俺に出来る事なら、多少無茶でも努力すっからさ。」

 

「おにぃちゃん・・・」

 

「兄さま・・・」

 

「翔馬さん・・・」

 

俺のガラにも無い言葉に照れたのだろうか?3人は顔を赤くして俯いてしまった。

まぁ、かく言う俺も自分自身の歯の浮くような台詞に、穴があったら入りたい心境なのだが(苦笑)

 

「まぁ今回の空のお願いは、DJじゃない俺には叶えてやれねぇかもしんねぇけどな。

 そん時は屋敷に帰ってから、皆でその曲を聞こうか。ゆっくりと、な?」

 

俺自身が招いた気恥ずかしさを誤魔化すために、そんなオチをつけてしまった。

 

「・・・うん。そうだね。リクエストでかからなかったら、ウチでみんなで一緒に聞こうね。

 ごめんね、三人とも。またボクわがまま言っちゃったね。」

 

コツンと頭を叩いて、空が恥ずかしそうに言った。

ようやく落ち着いてくれたようだ。

 

「良いんだ。それよりも、そろそろリクエストコーナー始まんぞ。」

 

「何だかドキドキしてきました。」

 

「リクエスト懸かると良いね、空。」

 

「うんっ!!」

 

千沙都の言葉に大きく頷くと、空はこの春の空のように澄み切った明るい笑顔を浮かべた。

 

『・・・DJさん。こんな良い娘のお願いくらい聞いてやってくれよ。』

 

俺のそんな思いの中、番組は再開された。

 

『お待たせしました。それでは今日のリクエストです。今日はまず曲から聞いていただきましょう。

 ラジオネームくぅちゃんからのリクエストで Fry me to the Moon です。どうぞ。』

 

そしてカーステレオから、ボサノヴァ調のゆっくりしたメロディが流れ始めた。

 

 

つづく