特級ッ!難解電哲 【ラピードα】

FM027 彼女が包帯を巻いた訳 −その1−

 

ピンポーン・・・・

ピンポーーーーン・・・・

 

「・・・・ん、誰だろう・・・?」

 

ピンポーン・・・・・

 

「母さん、誰か来たみたいだけど・・・」

 

って、そう言えば母さんは親父と一緒に出てるんだっけ・・・。

ピンポーン・・・・・

 

「・・・・・やれやれ。」

 

・・・・誰だろう?N●Kの集金なら嫌だなぁ・・・・。

俺はまだ寝起きでぼうっとした頭を掻きながら玄関のレンズを覗き込んだ。

・・・・ッ!?

急いで玄関の鍵を開け、扉を開ける。

ガチャ。

 

「あら・・・良かったわ。いたのね・・・・。」

 

「・・・・太田さん!?」

 

日曜の朝、突然太田さんが俺の家にやってきたのである。

右手には大きなバッグを手にし、

しかも彼女のトレードマーク?である包帯を顔に巻かず、

初夏の日差しを包み込むような真っ白いワンピースに身を包んでいた。

 

「ど、どうしたんだい!?」

 

「え?」

 

「いや・・・その・・・あまり見慣れない格好だったんで・・・。」

 

「あら、失礼ね・・・・。私が普通の格好じゃ変って言いたいの?」

 

「い、いや・・・そういう訳じゃないんだけど・・・・。」

 

「ふふふ・・・・。」

 

いつも凶暴だし、俺の常識の範囲外の行動ばかりする太田さん・・・・。

今こうして目の当たりにしている彼女は・・・・・悔しいが美人だと認めざるを得ない。

一瞬見とれてしまった自分に慌てながら、上擦った声で訊ねる。

 

「ど、どうして俺の家を・・・!?」

 

「うふふ、そんなの簡単に調べられるわよ。

 ・・・・・それにしても、随分素敵な御住まいね。

 

まじまじと辺りを見回す彼女。

ッ!!

こ・・・こいつ・・・笑ってやがる・・・・。

心の中で・・・・馬鹿にしてやがるな・・・・。(ぷるぷる)

 

「な、何かおっしゃりたいような顔振りですねぇ・・・太田さん?」

 

「いいえ〜、別にぃ〜、おほほほ♪」

 

「はははははは。」

 

「おほほほほほ♪・・・・で、長瀬くん。どうして物置で寝てるの?

 

バタンッ ←扉を閉める音

かちゃ。 ←鍵をかける音

 

「ちょッ!?やだ、冗談よ!」

 

「帰れ。」

 

「ちょっと〜、話があって来たんだからぁ〜!」

 

「・・・・話ぃ〜?」

 

「この私がわざわざこんな小汚い団地まで足を運んであげたのに

 それをむげに追い返すって言うの〜!?」

 

「・・・・さて、メシでも食うか・・・・。」

 

「じょ、冗談だってば!!」

 

・・・・ったく、日曜の朝からストレスが溜まる。

ガチャ。

次に俺が扉を開けると、彼女は打って変って真面目な表情で俺を見つめた。

 

「長瀬くん、今日ちょっと付き合ってもらえるかしら・・・・?」


・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

 

『・・・・先生、お会・・・来て光栄です。』

カツカツ・・・

「こちらこそ・・・・。すみません、ロスでの・・・引きまして。」

カツカツ・・・

『あの・・・・例の・・・クランケ(患者)・・・。』

「・・・・・・脳挫傷及び、肋骨の骨折・・・・右大腿骨の複雑骨折・・・・!?」

『生きてるの・・・思議ですよ。あの年齢で・・・・耐えられるなん・・・』

「・・・・・・・・・。

 で、このカルテに・・・・症状・・・・確かなんですか?」

『はい、・・・精神科の高砂先生が・・・・診断・・・です。』

「・・・・・御両親は?」

『3週間前、つまり・・・・の意識が戻るまでは

 交代で泊り込んでいましたが、ここ数日は・・・・・たみたいで

 泊り込んで・・・・せん。今日はもう面会・・・・ました。』

「・・・・・そうですか・・・。」

『なにしろ・・・変わってま・・・・』

「分かり・・・わ。後は任せて・・・い。」

『宜しく御願・・・ます。後で院長室・・・に御越し下さい。』

キィィ〜〜〜〜

バタン。

・・・・・・・・・・・・・。


プァァーーーン。

ゴーーー、ガタンゴトン、ガタンゴトン・・・・

ッ!?

・・・・・・ゆ、夢か・・・・・。

何だっただろう・・・凄く嫌な夢だった・・・・。

 

『次はぁ・・・南緋月ぅ〜・・・南緋月ぅ〜、地下鉄七夜線が〜御乗換です。』

 

ガタンガタン・・・・

 

「どういうつもりだよ?緋月市に入っちゃったぜ?」

 

「・・・・・もうすぐよ。」

 

「まだ、乗ってるのかよ!?かれこれ乗り継いで1時間以上経つよ?」

 

「・・・・・・・。」

 

「そろそろ、俺を何処へ連れてくのか話してくれたっていいだろ?」

 

「・・・・・・・御免なさい。今は・・・・言えない。」

 

「は・・・はぁ!?」

 

「言いたくないの・・・・!」

 

・・・・・太田さんが付き合ってくれないかと言うので

断れる雰囲気でもなくついてきたのはいいけど・・・・・。

結構遠くまで来てしまったな・・・・。

プシュゥゥゥ・・・・。

プァーーーン

・・・・ゴトンゴトン・・・・。

ようやく電車から降り、あたりを見渡すと

既に都会の風景は消え去り、山に囲まれた風景が展開している。

 

「こ、こんな郊外の田舎まで来て・・・・

 

俺がまだ喋り終わる前に太田さんは

小さなロータリーにあるバスの停留所のベンチに腰をかけた。

 

「・・・・そんなところに突っ立ってないで、 日陰に入りなさいよ。」

 

「・・・・・ハァ〜。こんな事なら小説でも持ってくるんだった・・・。」

 

ミーンミンミンミンミンミーン・・・・・

都会と違ってもう蝉が鳴いてる・・・・。

周囲には2人しかおらず、熱気の為汗で滲んだTシャツを扇ぎながら

太田さんの顔を横目で見やる。

実は電車に乗ってから太田さんの口数がめっきりと減っているのが気になっていたのだ。

 

「な、なぁ・・・太田さん。」

 

「・・・・なに?」

 

「ひとつ聞いていいかな?今日の事じゃなくって・・・。」

 

「・・・・いいわ。答えられる範囲でなら。」

 

「太田さんは瑠璃子さんの兄貴と付き合ってたって本当かい?」

 

「・・・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

う・・・・しまった。やっぱり聞くんじゃなかった。 (汗)

 

「・・・・・本当よ。」

 

「そ、そうか・・・・。」

 

「・・・・・丁度、半年くらい前までかしら。」

 

「で、でさ・・・その・・・・何で別れたって言うか・・・・

 

「はぁ?」

 

太田さんが少し怖い目付きで俺を見つめる。

 

「い、いや!その・・・ちょっと上手く言えないんだけどさ。

 もともと・・・好きだから付き合ってたんだろ?」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

「じゃあさ、何で今は・・・あんなに憎みあってるんだい?」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

「人の事について、とやかく言うつもりじゃないけど、

 どうも腑に落ちない点が多いんだよ。」

 

「・・・・・・・長瀬くん、仮に貴方が私なら、あんなシスプリな兄貴と

 分かって、なお付き合いたいと思う?」

 

「・・・・・・いいえ・・・。」

 

「でしょう?」

 

「だ、だけどさ・・・あんなにキティってたら付き合う以前に気付くだろ?」

 

「・・・・・・・。」

 

「なんだか君の話って、どうも・・・つじつまが合わないだよ。」

 

「・・・・・・・う。」

 

「絶対・・・まだ俺に隠してる事あるだろ?」

 

「・・・・・・・。」

 

「いい加減、教えろよ・・・・。」

 

そこまで話した後、一瞬太田さんは悲しい表情を浮かべたが

すぐに凛とした表情に戻ると・・・・

 

「イヤ。」

 

「ふぁ?」

 

「・・・まだ教えない。」

 

「ハ・・・ハァッ!?な、なんだよそれ〜!」

 

ブロロロロロ

プップー♪

俺達の目の前にバスが停車した。

『尊厳寺』とプレートに表示されたそのバスに、太田さんが乗り込んだ。

 

「さぁ、このバスで最後よ。」

 

「・・・・・ハァ〜。」

 

ブロロロロロ・・・・・

・・・・・・・・・・・・・。

長い石段の前で俺達はバスを降りた・・・・。

周りは既に森や田んぼ、用水路くらいしかない。

 

「この先が・・・尊厳寺か・・・・?」

 

「さぁ、こっちよ。」

 

カツカツ・・・・・・

長い石段を登る・・・・。

太田さんはバスの中、そして今でもほとんど喋らずじまいだ・・・。

カツカツ・・・・・・・。

石段を登りきると、大きな寺が姿を現した。

 

「でかいな・・・・。」

 

「・・・・・・・・。」

 

「って、言うかさ!なんで寺なんだよ!?」

 

「・・・・もうすぐ分かるから・・・!」

 

そのまま彼女は寺に入り、向かって右側の方に向かうと

古びた桶に水を汲み、勺と一緒に持ってきた。

・・・・・・。(汗)

お、おいおい・・・・・まさか・・・・・。

嫌な予感が確信へと変ったのはこの直後だ。

彼女はそのまま奥の方へと歩いていく・・・・・。

しょうがなくついていった俺の目の前に、

ズラァ〜〜〜〜〜〜〜〜っと広大な墓苑が・・・・。

俺は思わずフラリとして、膝から崩れ落ちそうになった。

な、なんで俺が・・・・他人の墓まいりに・・・・・。(ぷるぷる)

墓苑の中をひたすら歩く・・・・・。

丁度真ん中より少し奥へ行ったくらいだろうか?

ようやく太田さんの足が止まった。

俺は今にもブチ切れそうな心を抑えつつ、彼女の一挙一動を見つめていた。

ガサ・・・・ガササ・・・・・。

彼女はバッグから紙で包装された何かを丁寧に取り出し始めた。

・・・・・出てきた中身は・・・花束

墓参りでよく見かける、あの花束だ・・・・。

それを両手に持つと、とある墓前にそえる。

・・・・その墓を見た途端、言葉に詰まった。

・・・・・あ・・・。

墓石には、意外な名前が刻まれていたのだ。

 

『月島 達郎』
『月島 小百合』

 

「・・・・・・・こ、これ!?」

 

「そう、瑠璃子の両親・・・。」

 

ジャァァ・・・・ぴちゃぴちゃ。

桶からすくった勺で水を墓石にかけながら、太田さんは答えた。

 

「そ、そうか・・・瑠璃子さんの御両親の墓か・・・・。」

 

「・・・・・・・・。」

 

「で、でも!?なんで太田さんが瑠璃子さんの両親の墓参りをッ!?」

 

「・・・・・あの人が、いつも・・・・してたから・・・・。」

 

「は?」

 

「拓也と瑠璃子はね・・・・幼い頃に両親を亡くしたの。」

 

「・・・・・??」

 

「そして・・・・・私は、父を亡くした。」

 

「・・・・・・・・!?」

 

「母の愛に餓えた男と、父の愛に餓えた女。・・・・笑・・・っちゃうわね・・・・。」

 

「・・・・・・あッ。」

 

太田さんが・・・・泣いている。

超合金で出来てるとばかり思っていた彼女が・・・

声を殺して・・・俺の目の前で泣いている・・・・・。

 

「お・・・おい。」

 

「・・・・・・・・〜〜〜〜。」

 

「な、何なんだよ・・・全く・・・!」

 

「〜〜〜〜・・・・。」

 

太田さんが何を語りたかったのか、俺にははっきりとは分からなかった・・・・。

ただ、今彼女が話している事は紛れも無い真実だと言う事は分かった・・・・。

そして・・・・・・その真実は・・・・・・。

 

「泣かせるねぇ・・・香奈子。」

 

「なっ!?」

 

「〜〜ッ!?」

 

反射的に声のする方向に視線を移す・・・!

この人を見下した声・・・・やはり・・・・

 

月島拓也ッ・・・!

 

どこぞのどなたさんの墓石上に降臨ッ!




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