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特級ッ!難解電哲 【ラピードα】

FM036 微睡む蛹 (まどろむさなぎ)

 


ハァ・・・

ハァ・・・・。

夏・・・とても暑い夏だった。

体が溶けちゃうかと思うくらいの気温。

拭っても拭っても噴出す汗・・・。

周囲はびっくりするくらい騒がしいはずなのに、

不思議と激しい胸の鼓動は五月蝿いくらい耳に伝わってくる。

・・・・今、何点だろう?

私達、勝ってるの?

あ・・・視界が朦朧としてきた。

やばいよぉ・・・そろそろ脱水症状かな?

あれだけ練習してきても、やっぱりバテちゃうんだ。・・・もう!

ワァァァァーーーッ!!!!

いきなり物凄い歓声が私の耳に飛び込んできた。

ビーーーーッ!!

ブザーの音。

『沙織ッ!来るわよッ!!』

はッ!?

私が我に返ると、前方からすごいスピードで白い塊が飛んできた。

何だろう・・・・これ・・・・って!やっばぁ〜いッ!!

咄嗟に私の体が反射的に動く。

ガッ!

いったぁ〜いッ!!変なとこ当たっちゃったよぉ・・・。

ボールは私の伸ばした左腕に当たると、高く打ち上げられコート外へと飛んでいく。

 

「桜ァーッ!!お願いッ!!」

 

『ッライ!!まかせッ!!』

 

右斜め向かいにいた副キャプテンの桜が落下するボールに飛び込む。

ドムッ!

ガシャーーンッ!

 

『うわッ!?』

『大丈夫か!?』

 

勢い余って報道席へと突っ込んじゃう桜。

・・・ほんと、私、桜と3年間一緒にやれて良かったよぉ・・・。

私もその闘志に報いるように、その場から起き上がろうとする。

――――ズキッ!!

 

「あぅッ!!」

 

突如右足に激痛が走る。

うそ・・・こんなときに捻っちゃったの・・・!?

そんな事はおかまいなしに、無常にもボールは私の傍に向かって今まさに落下してきてる。

 

「お、お願いッ!誰かッ!!」

 

声を張り上げて仲間に呼びかける。

・・・今、私が抜けちゃったら・・・・駄目!絶対そんなの駄目ッ!!

だけど・・・この足じゃ・・・もう!!

 

『・・・・キャプテン・・・・まかせて下さい!』

 

!?

 

フワッ

目の前で誰かが跳躍した・・・・・。

・・・・・セッターの茜だった。

茜のバックアタックがスローモーションで見える。

・・・・綺麗・・・。

まるで翼の生えたように、優雅に・・・それでいて力強い跳躍。

絶妙のタイミングでモーションに入る茜。

スウゥゥ・・・

茜の掌に吸い込まれるように、ボールは落下して・・・・

バシィッ!!

強烈なバックアタックが相手側コートに放たれた。

・・・やったよぉ・・・これはもう・・・返せないでしょ?

ワァァーーーーッ!!

再び大きな歓声が会場に響き渡った。

・・・・勝った・・・よね?

喜びを隠しきれず、緩んだ顔を上げて茜達を見た・・・だけど。

茜や倒れたイスの山から起きかけていた桜の表情は固まっていた。

 

『信じらんない・・・!!』

 

『・・・・ひろったわ・・・!!』

 

(えーーーッ!?)

慌てて相手側のコートに視線を移すと、相手のセッターにボールが渡った直後だった。

 

「う、うっそー!!」

 

アタッカーへとトスで繋がれていく。

相手側にとっては勝利への繋ぎ目、私達にとっては敗北への道標。

(まずいよぉ・・・!)

私は激痛で悲鳴を上げる足を堪えてその場で立ち上がる。

 

ズキィッ!

・・・痛いよぉ!!

だけど、そんな事言ってられない!

バシィッ!!

強烈なアタックッ!!

幸いにもボールは私から離れたところを物凄い速度で通り過ぎていった。

 

「お願いッ!拾ってッ!!」

 

バンッ!!

乾いた音が会場に鳴り響く・・・。

後ろを振り返えると、千紗都が小さくガッツポーズしていた。

(ボールはッ!?)

空中を流れるように舞うボールは放物線を描いて桜のしなやかな掌目掛けて落下していく。

刹那、桜と目が合った。

桜はニコリと微笑みかけ、私も小さく頷いた。

 

『沙織ッ!!』

 

パシィッ!

 

「OKッ!!まかせてッ!!」

 

それから先は・・・・よく覚えていないんだけど・・・

足はすっごく痛かったよ。だけど、体は動いたの。

自分でも驚くくらいすごく綺麗な跳躍だった。

何もかもがスローモーション・・・・。

相手のブロッカーの必死の表情まで見て取れた。

そして・・・掌に伝わる心地よい感触・・・・・・。

バシィィーーーンッ!!

ピーーー!!

ワァァァーーーーッ!!!!

足の痛みで蹲っている私に、桜と千紗都が飛びついてきた。

 

『やったよ!!沙織ッ!!やったよぉーーーッ!!』

 

『キャプテンッ!私達、勝ったんですよぉ〜!!』

 

桜はボロボロと涙を零して、私を揺さぶる。

 

「い、痛い痛い!!桜、痛いよぉッ!!」

 

そう言う私も、いつのまにか泣いていた。

 

『あはは!ごめんごめん・・・グスッ。立てる?』

 

桜に肩を借りて、ゆっくりと立ち上がる。

送れて茜が目の前にゆっくりやって来た。

 

『キャプテン・・・・ありがとう・・ございます・・・!』

 

そう言うと、茜はユニフォームの袖を自分の顔に当てたまま嗚咽をもらす。

 

「あぁッ!?」

 

『・・・・?どうしたの沙織?』

 

「鬼の目にも・・・涙・・・。」

 

私がそう呟くと、メンバー全員がドッと笑う。

 

『キャプテン・・・・。』

 

物凄い形相の茜が私を睨む。

 

「う、嘘嘘ッ!冗談ですぅ!!」

 

『・・・・プッ・・・。』

 

やがて茜が吹きだした。

 

「あははは!!」

 

『クスクス・・・・。』

 

そこへ小泉コーチが駆け込んできた。

 

『お前らッ!よく頑張ったぞ!!・・・うぅ・・・感動したッ!!』

 

そう言うや否やその場に泣き崩れてしまった。

 

『コ、コ〜チィ〜!』

 

『ったく、このおっさんは・・・。』

 

千紗都や桜はそれを見て苦笑していたが、みんな何だかんだ言っても泣いてる。

ひょい♪

 

「ひゃ!?」

 

突然茜に抱きかかえられたので、思わず声を洩らしちゃった。

 

『キャプテン・・・足、痛いんでしょ?今医務室にお連れしますんで。』

 

「あ・・・ありがと。」

 

『さぁ、早く医務室に行ってから・・・授与式の用意をしましょう・・・。』

 

「うん!」

 

ワァァーーッ!!

歓声はまだ鳴り止まず続いている。

客席には、学校の先生やママやパパが見える。

大勢のクラスメート達も私達に手を振ってくれていた。

 

『・・・・・クス。』

 

茜が笑みを洩らす。

 

「・・・?どしたの?」

 

『・・・キャプテンって、意外に重かったんですね・・・。』

 

クスクスと茜は笑っていた。

 

「あぁ!!それひどくない〜?」

 

『クスクス・・・。』

 

「あははは!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

ぴぴぴぴ♪

ぴぴぴぴ♪

 

「〜〜〜〜〜〜ほぇ?」

 

気が付けばベッドの上だった。

寝ぼけ眼で周囲を見渡すと、紛れもなく私の部屋。

 

「・・・・なぁんだ、昔の夢だったのかぁ・・・。」

 

「・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・・・もう一眠り・・・・。」

 

もぞもぞと布団に包まる。

 

「〜〜〜〜クー。」

 

・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・ガバッ!!

 

「いっけない!!今日、裕くんと待ち合わせだった!」

 

バタバタッ!

すてーんッ!!

 

「いったぁ〜〜いッ!!」

 

『あら、沙織。おはよう。』

 

キッチンではママが朝食の目玉焼きをフライパンで焼きながら

こちらへ振り返った。

 

「あぅぅ・・・おはよう。ママ・・・。」

 

私はお尻をさすりながら、起き上がる。

 

『バカねぇ・・・慌てるからよ。』

 

そう言ってママは苦笑したけど、すぐにいつもの微笑みを浮かべた。

 

『ロールパンとクロワッサンどっちがいいかしら?』

 

「今日はクロワッサンで♪」

 

『はいはい。』

 

テーブルに朝食が並べられる。

私は急いで髪を梳きながら、鏡と睨めっこしていると、

 

『どうしたの、沙織?今日はそんなに急いで・・・。』

 

キッチンからママの声が聞こえる。

 

「えぇっと、ちょっち今日約束があって・・・。」

 

適当にお茶を濁しながらテーブルにつくと、

 

「いただきまぁっす。」

 

と言ってクロワッサンを齧る。

もぐもぐ・・・・。

甘めのホットミルクを口に運ぶと、

テーブルの反対側で頬杖をつきながらニヤニヤしているママがいた。

 

『うっふふ〜♪』

 

「な・・・・なによ?」

 

『沙織・・・貴方好きな子できたでしょ?』

 

「ぶッ!!」 かぁぁっ

 

『うふふ、図星ね?』

 

「な、な、な、何言ってんのよぉママッ!!」

 

『だって、今日の沙織の様子は変なんだもん。

 いつもより倍は鏡を見てるし、それにその服装。』

 

「・・・あぅ・・・。」

 

『いつもより気合が入っているのバレバレじゃない。うふふ。

 ママはすぐ分っちゃった♪』

 

得意げに鼻をならすママ。

そこまで的確に指摘されると、もう私は何も言えない・・・。

その直後・・・

 

『な、なにィーーーーッ!!』

 

突然トイレの扉が開いて、中から新聞紙を持ったまま

ズボンを引きずったパパが飛び出してきた。

 

「きゃぁ!!」

 

『あ、あなたぁ!はしたないわよ!』

 

『沙織に好きな奴が出来ただとぉーー!!』

 

とんでもない格好のまま、パパがトカゲのような動き方でこちらへやってくる。

 

「やだぁ!パパ最低ぇ!!」

 

私達の非難を物ともせず、興奮したパパは更にエキサイトする。

 

『沙織ッ!!パパはまだ認めてないぞぉ!!』

 

「ちょ・・・パパ!そ、そんなんじゃないんだってばぁ〜!!」

 

『どこの馬の骨か分らないが、取り合えずパパが査定していないうちは

 交際など言語道断だからなぁ!!』

 

「き、聞いてよぉ!!」

 

『どんな奴だぁ!格好いいのか?え?いいのくぁ!?

 

「・・・・か、格好いいよぉ・・・。」

 

そうぽつりと呟くと私の顔は真っ赤になる。

 

『あらあら。』

 

ママは困ったような表情を浮かべながらパパを見つめた。

――ガァァァン・・・。

 

『さおりが・・・・私のさおりが・・・。』  カクカク

 

『・・・・貴方、いい加減に子離れしなさいよ。』

 

ママが苦笑しながら、パパの肩を叩く。

 

『娘は渡さんぞぉぉーー!!』

 

「も、もう〜・・・い、行ってきますッ!」

 

『はい♪行ってらっしゃい。』

 

『待て!沙織!パパの話はまだ終わって・・・・

 

バタン。

・・・・・・・。

・・・・・・・・・・。

パッパーーー。

プープーーー。

ブロロロローーーー。

ガタンゴトン・・・・ガタンゴトン・・・・。

 

「・・・・・そろそろ、時間だな。」

 

俺は時計を見ながらそう呟いた。

市内の中心地、待ち合わせには最適のショッピングモール街の

ビル下で俺は街行く人々を見ながら沙織ちゃんを待っていた。

 

『おい、何してんだよ?』

『ちょ、ちょっと待って!あそこに新型のプリクラがあるのッ!』

『またかよぉ!さっき撮ったばっかじゃないか!』

『あぅ〜。撮りたい撮りたいぃ〜!』

『・・・・しょうがねーな。どれだよ?』

『わーい♪祐一大好きッ!』

『恥ずかしいから、あまり大声でそんな事言うなって・・・。』

 

目の前を俺と同じくらいの年齢のカップルが通り過ぎていく。

・・・なんか、どっかで見たような2人だな・・・。(汗)

ちりちり・・・

 

「・・・またかよ・・・。」

 

頭部全体がヒリつくような感覚に襲われ、

その直後に俺の脳内で他人の声が響き渡り始める。

・・・・今度は何だってんだ・・・・。

 

【あ、耕一さん♪わ・た・し♪】

【ど・・・どちら様ですか?】

【ちーちゃん♪】

【(プツッ・・・ツーー。ツーー。)】

【・・・・・・・・・。】

【ピッポッパ♪】

【(プルルルル♪)】

【(ガチャ)はい。柏木です。】

【今度やったら殺しますよ?】

【ひぃぃッ!】

【・・・・・何ですか?その「ひぃぃッ!」と言うのは?】

【いや!その!こっちの話で・・・あの、ど、どうしたんですか?千鶴さん!?】

【実はちょっと用事があってこの辺に来たんですよぉ♪】

【あ・・・・そうですか。お疲れ様です。・・・・じゃ俺、忙しいんで・・・。】

【待てや、虎羅。】

【な、なんなんすか・・・!?】

【今から耕一さんの家に行きますぅ♪】

【・・・・・来なくて結構です。】

【・・・・・・・。】

【・・・・・・・。】

【耕一さん・・・最近調子にのってますね。】

【いや!滅相も御座いませんッ!!】

【・・・何か隠し事してませんか・・・・?】

【え?・・・そんな事・・・ないですが・・・・。】

【(耕一くん?誰から電話?)】

【ワッ!ちょ、待って・・・!!】

【・・・・・・・。】

【ははは・・・なんかこの携帯混線してるみたいですね。】

【・・・・・小出由美子かえ?】

【ち、違います違いますッ!!】

【そっか、ふ〜ん。そうなんだ・・・。】

【あ、あの・・・千鶴さん・・・?】

殺す。・・・(ブツッ。ツーツーツー)】

・・・・・なんだか凄い会話だったな・・・。

昨日よりマシになったとはいえ、まだ俺は電波の受信を制御しきれていない。

瑠璃子さんは心配いらないって言ったけど、

タクシーの無線から始まり、ラジオ、携帯電話での会話、果ては人の残留思念まで

こっちの都合はお構いなしで一方的に垂れ流されるのでたまったもんじゃない。

昨晩なんて人がまさに寝ようとしている時に突然

『おぅ!社畜ぅ、生きてっか?』とか意味不明な声が聞こえてくるんだから腹が立つ。

 

「しっかし、余計なものを次から次へと節操無にひっぱってくるもんだ!」

 

ちりちりちり・・・・・。

 

【どうして・・・・どうしてそんな事言うの・・・?】

【お前がいま感じている感情は精神的疾患の一種だ。

 鎮める方法は俺が知っている。俺に任せろ。】

【うぅ〜!浩之ちゃん何処行ったんだろう・・・!!】

【チッ・・・あかりの奴、しつっこいなぁ・・・!】

【うぐぅ。お腹へったなぁ〜。鯛焼き屋ないかなぁ?】

【クッ・・・ラーメンセット600円もするのか!!】

・・・・・・・・。

こりゃ早いうちに何とかしないと、俺がおかしくなっちまうよ。

街中に飛び交う人の思念や電波を受信しながら俺は苦笑していた。

 

「裕くんッ!」

 

・・・あ、来た来た。

俺は声のした方に振り向くと、沙織ちゃんが微笑みながらやってきていた。

 

「やぁ。沙織ちゃん。」

 

「ごめん。待ったかな?」

 

「いや、俺もさっき来たばかりだし。それに予定の時間よりも5分早いよ。」

 

「えへへ。」

 

何やらさっきから沙織ちゃんはやたら嬉しそうにしている。

 

「・・・?どうしたんだい?」

 

「ん?」

 

「いや、さっきからやたらと嬉しそうだけど・・・。」

 

「そうかな?」

 

「うん。」

 

「あ、あはは!そ、そう言えば裕くんと学校以外で会うのって初めてだよね!」

 

「そういえば・・・そうだね。」

 

「へぇ〜。」

 

沙織ちゃんはマジマジと俺の服装を眺める。

 

「な、なに?」

 

「裕くんって意外とカジュアルなんだぁ。」

 

「はぁ?」

 

「いつも渋い顔して本ばっかり読んでるからもっとシックな服装が趣味だと思ってたよぉ。」

 

そう言うと彼女はニヤニヤと笑う。

 

「し、失礼だな。俺だって、年相応の服くらい着るよ。」

 

「ん〜、じゃあ裕くんはどこの服が好きなの?」

 

「・・・・・・・・。」

 

・・・・・ギャルソソとか好きなんて死んでも言えない。

親父が事業に失敗してからはユニシロしか着れなくなっちゃったしな・・・。

さて困った・・・偉そうに言ったけど、どうしよう?

 

「えっと・・・・ナ、ナイKey・・・・。」

 

「ほぇ?」

 

「ナイkey。」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

しまった!!それ靴のメーカーじゃないか!!

 

「ぷっ・・・あはははッ!裕くん最高〜!そのギャグ面白いよぉ!」

 

「あ・・あはは・・は・・・。」

 

大笑いする沙織ちゃんの見て、胸中複雑な俺。

 

「じゃ、じゃあ行こうか?」

 

「あ、うん!」

 

そう。今日の俺達の目的は奴らの計画を事前にくい止める為の張り込みだ。

とりあえず南海市内で大きなメディア関連の施設は考えられるだけで3つ。

NHK、NTT、そしてローカルの南海放送局だ。

そして、俺達のいるこの場所からは南海放送局のビルが既に見えている。

 

「あの向こうの方に見えてるのが南海放送だね。」

 

「うん。私は小学生の頃に社会科見学で行った事あるような・・・・。」

 

「・・・・しかし、驚いたなぁ。休日の市内は結構人がいるんだね。」

 

「あ〜、馬鹿にしてるでしょ?結構南海市って栄えてるんだよ?」

 

「そっか。越してきてからまだこっちには出てなかったから・・・へえ〜。」

 

俺達はしばらくそんな立ち話をした後、いい具合に南海放送局の建物を一望出来るビルの

最上階の喫茶店で張り込みを開始した。

 

「さて・・・と。持久戦ってとこだな。」

 

アイスコーヒーを飲みながら窓から小さく見える通行人を眺めていると、

なにやら沙織ちゃんがゴソゴソと鞄を漁り始める。

 

「・・・?なにしてるの?」

 

「え・・えへへ。そのぉ。多分暇ってゆーかぁ。」

 

そう言って顔を赤らめながら彼女が鞄から取り出したのは厚めの黄色い本だった。

『出来るッ!数学U』

 

「・・・・・・・。」 ぽかーん

 

「ど、どうせ席に座ってじっとしてるんだからぁ・・・・えへへ。」

 

「・・・・はぁ。」

 

「でね、でね!ちょ〜っとここが分からないんですぅ〜長瀬せんせ〜。」

 

おもむろに参考書を開けると、上目遣いで俺を見つめる沙織ちゃん。

 

「・・・・分かった、分かったよ。」

 

俺は軽く苦笑した後、沙織ちゃんに数学を教えながらも通行人の監視を始めた。

 

―3時間後―

 

「・・・シロだなぁ・・。」

 

俺は溜息をついた。

 

「と、いう事はあとは月島さんと太田さんチームのどちらかが当たりって事なんだよね?」

 

「一概にそうとも言い切れないんだけどね・・・たった3時間しか見張ってないし。」

 

苦笑しながら俺は立ち上がる。

 

「じゃあ、もう帰ろうか?」

 

「え・・・、帰るって・・・。」

 

「家にだけど・・・・?もう今日は何もなさそうだし。」

 

「・・・あ・・・裕くん。これから予定とかあるかな?」

 

「ん?いや別に、帰って本読むだけだよ・・・。」

 

「じゃあ一緒に映画行かない!?」

 

「映画・・・。」

 

「ちょうど見たかった映画あるんだぁ♪行こうよぉ〜?」

 

うぅ・・・情けないけど、あまりお金ないんだよなぁ・・・・・。

でも、沙織ちゃんのこの笑顔で誘われると断り辛いし・・・。

 

「・・・いいよ。折角の休日だし、見に行こうか。」

 

「やったね♪」

 

あぁ・・・・・俺って奴は・・・。

ちりっ

!?

沙織ちゃんとビルを出て映画館に向かっている途中、ふと通りの向こうが気にかかった。

・・・なんだ?

おもむろに視線を反対の通りに向けた瞬間、俺は立ち止まる。

 

「あいつ・・・・・!」

 

「ん?どうしたの?」

 

「ほら!あの青い服の男!」

 

そう囁くと、俺は顎でその男を指した。

 

「見た事ある。・・・・間違いない。この間の生徒会の連中の1人だ。」

 

「・・・あ!」

 

「土壇場で手がかりがつかめそうだ。」

 

意気揚揚と俺達はその男の後を人込にまぎれてついていく。

 

「やっぱり、南海放送なのぉ?」

 

「どうだろう?まだ何とも言えないが・・・あ!曲がった。」

 

男は通りの角を曲がると、狭い路地へと入り込んでいった。

急ぎ足で俺達もそれに続く。

 

「なんだ・・・どんどん放送局から遠ざかっていってるぞ・・・?」

 

「何処に向かってるのかなぁ?」

 

様々な疑惑を胸に抱きながら、男を尾行し続けた俺達は・・・・

・・・・やがてある真実へと辿り着いた。

通行人が少ない通りに出た男はやがて、怪しげな店へと入っていく。

 

「あッ!!」

 

「こ、これってッ!!」

 

男が入った先は・・・・超人ショップだった。

 

「「ズコーーッ!!」」

 

思わずその場でずっこける俺達。

 

「さ、さっさと映画館に行こう・・・ははは。」

 

「う、うん。そうだね。」

 

・・・・思い違いだったか・・・・。

太田さんの言った事が、単に彼女の懸念であれば。と思いながら、

改めて沙織ちゃんに誘われるまま映画館へと足を運んでいると、

途中の交差点である女子高生の一団と遭遇した。

・・・・でけぇ!

驚いた事に、女の子達のほとんどが俺よりも背が高い。

休みの日なのに制服を着てるし、体育会系クラブだろうな・・・・。

そう思いながら視線を彼女達が持っているスポーツバッグに移すと

そこには『西園寺女学園』とプリントされている。

・・・西園寺女学園・・・あぁ!これがあの有名な寺女か!

 

「沙織ちゃん、あれ寺女だよね?

 そっか・・・寺女って南海市の近辺だったんだ。ふ〜ん。」

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

「みんな背、高いねぇ・・・!多分バレー部か何かかな?」

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

「・・・沙織ちゃん?」

 

反応がない隣の沙織ちゃんを見ると、彼女は困惑した表情を浮かべながら

寺女の一団を見つめたまま凍り付いていた。

プープープープープププー♪

信号が青に変り、前の一団がこちらへ渡ってくる。

ぞろぞろ・・・・。

 

『でさぁ、超ムカツクんだよねぇ!そこの選手。』

『・・・・桜さん、あまりそんな事外で言わない方がいいですよ。』

『先輩、先輩ッ!ゲーセンいきましょうよぉ〜!』

『はぁぁ〜、今日は疲れたからパス〜。』

『えぇ〜!?そんなぁ〜!』

 

そんな事を話しながらワラワラとこちらの直ぐ前まで近づいてくる。

一番前を歩いていた長髪を束ねた女の子がこちらに気付き、俺達と目線が合った。

 

『・・・・ッ!!』

 

突然その子は驚いたような表情を浮かべるとその場に立ち止まる。

すると、すぐ後を歩いていたショートカットの女の子が

 

『ん?どったの茜?カッコイイ男でもいたのぉ?』

 

ニヤニヤしながら茜と呼んだ女の子の背後からひょいとこちらを眺める。

 

『・・・え!?』

 

その子もまた同じように絶句すると、俺達を凝視する。

・・・違う、彼女達が見てるのは・・・詳しくは俺達じゃない・・・沙織ちゃんだ!

し〜〜〜〜〜〜ん

 

『沙織・・・・・。』

 

『・・・沙織さん・・・。』

 

「・・あ・・・・・。」

 

俺はまったく状況が把握出来ず、ただただ気不味い雰囲気を察して困惑する。

他の女子高生達も、俺と同様で皆一様に様子を伺っている。

 

『久しぶり・・・元気してんの?』

 

ようやくショートカットの女の子が口を開くと、俯き加減だった沙織ちゃんも遠慮がちに答えた。

 

「う、うん。・・・・桜も茜も・・・元気そうじゃない。

 西園寺女子学院のバレー部はどう?名門だけど、貴方達なら前々問題ないよね。」

 

『そうとも言えないわよ。さすが天下の寺女だけあって練習もキツイよ。

 今日だって・・・・ほら。』

 

そう言うとショートカットの女の子は背後の女の子達を親指で指した。

 

『ここんとこずっと休日返上で練習。おかげで身体がボロボロだよ。』

 

女の子が苦笑すると沙織ちゃんも微笑んだ。

2、3会話が続くと、ようやく初めのぎこちなさが和らいでいく。

 

「でも、寺女って確か体育会系専用のバスがあったでしょ?

 どうしてこんなところを歩いてたの?」

 

『それがひっどい話なんだ。顧問が経費削減の為って言ってさ。

 最近は電車で行ったり来たり。』

 

「えぇ・・・!?なんで・・・?」

 

『・・・・最近は特に体育会系の部費の奪い合いが熾烈を極めてまして・・・・。

 今年出来たエクストリーム部という総合格闘技のクラブに学校側が力を入れてるようで、

 そのしわ寄せがうちにも来てるみたいなんです・・・・。』

 

長髪の女の子が苦笑する。

 

「ほぇ?・・・なに・・・そのエクなんちゃらって・・・?」

 

沙織ちゃんが尋ねるとショートカットの女の子はキョトンとして、その後呆れた表情を浮かべた。

 

『沙織マジ知らないのぉ!?超有名だよ〜?
 

 エクストリームって言ったら今や飛ぶ鳥を落とす勢いの格闘技じゃん!』

 

「ご、ごめん。ホント知らないの。」

 

・・・俺も知らない。(汗)

 

『信じらんなぁーい!テレビでバシバシ放送してるっつーの!』

 

あちゃぁというような表情で掌を額にあてる女の子。

 

『まぁ、沙織らしいっていえば沙織らしいけど。』

 

苦笑している女の子の後で、それまで黙っていた取り巻きの女の子達が口を開いた。

 

『先輩ッ・・・・もしかしてこの人、あの新庄沙織さんですか!?』

 

そう言いながら何故か顔を紅潮させて沙織ちゃんを指差す。

 

『あぁ、そうだよ。みんなの憧れ、伝説の中学生アタッカー新城沙織様。』

 

「ちょ!桜・・・・!?」

 

『うそぉっ!?』

 

『きゃぁ〜!私ファンなんですぅ!握手して下さい〜!』

 

『先輩からお話を伺ってますぅ!すごいすごい〜!こんなところで会えるなんて!』』

 

どんっ!

 

「ぐわッ!」

 

突如女の子達は俺を押しのけ沙織ちゃんを取り囲む。

しばらくしてようやく事が落ち着くと、ショートカットの女の子は

後輩達を下がらせてまた沙織ちゃんと向かい合う。

 

『沙織・・・・戻ってくる気はないの?』

 

「・・・・・・・・・え?」

 

『あんただって・・・後悔してるんだろ?

 いいじゃん。プロとかどうとか・・・そんなの大人の都合じゃん。

 アタシは、絶対沙織は戻るべきだと今でも思ってるよ?』

 

「・・・・・・・・。」

 

女の子の言葉に沙織ちゃんは無言のまま自嘲気味な笑みを浮かべた。

 

『また、あんたと一緒にバレーがやりたかったんだけどなぁ・・・・。』

 

「・・・ごめん・・・・私・・・・ごめんね・・・。」

 

『・・・桜先輩・・・沙織さんがどれだけの思いで決断したのか分らない訳ないですよね・・・?

 あまり・・・その決心を揺るがせるような事は言わないで下さい。』

 

長髪の女の子が諭すと、ショートカットの女の子は髪の毛を弄りながら気不味く笑う。

 

『ごめん・・・・沙織。その、アタシわがままだね・・・アハハ。』

 

「ううん。・・・桜がそう言ってくれると嬉しいから・・・。」

 

・・・・なんか俺がいたら邪魔になるかもな。

俺はそう考えて沙織ちゃんの肩をぽんっと叩くと声をかけた。

 

「あの、沙織ちゃん。俺・・・そのぉ、なんだし帰るよ。」

 

「え!?」

 

「ゆっくり話していけばいいよ。」

 

するとショートカットの女の子がようやく俺をマジマジと見つめ、

ケラケラと笑い出した。

 

『あぁ!いいよいいよぉ!私達もたまたま通りかかっただけだし。もう帰るから。』

 

そう言うと沙織ちゃんの肩を抱きこんで何やらコソコソと耳打ちする。

 

「ちょ・・・な、なに?桜?」

 

『ちょっとちょっと〜、誰だよあの子ぉ?沙織もう男見つけたの?えぇ〜?』

 

「えぇっ!?」

 

『ふ〜ん、なかなかカッコイイじゃん。へぇ〜、沙織もやってくれるねぇ〜。』

 

「ちょ!桜・・・!」

 

『うんうん。お姉様は安心したよ。沙織もバレー馬鹿一代じゃなかったのね。オホホホ。』

 

「も、もう!」

 

・・・・・・・・・・。

 

『じゃぁ、またね。沙織。』

 

『・・・沙織さん、また私達の試合見に来て下さいね・・・。』

 

「うん。頑張ってね!」

 

『あ、そこの彼。』

 

「・・・俺?」

 

『沙織ってさぁ〜、バレー一筋だったからうといんだよねぇ〜。フォローしてあげてね♪』

 

「は?」

 

「もうッ!桜、余計な事言わないのッ!!」

 

『アハハハ!じゃね!!』

 

数分後、別れの挨拶を交わした寺女のバレー部一団は人込の中へと消えていった。

 

「・・・・・私の分まで・・・頑張ってね・・・。」 ポツリ

 

小さく手を振り続けていた沙織ちゃんがそう呟いた。

 

「・・・え?どういう意味?」

 

「・・・・・・・・。」

 

沙織ちゃんは俺の問いかけには答えず、時計を見ると苦笑した。

 

「・・・映画、もうとっくに始まっちゃった。」

 

「あ、そうか。どうしよう?」

 

「帰ろう?」

 

「沙織ちゃんがいいっていうんなら・・・。」

 

ブロロロ〜〜〜〜。

プップーーー。

 

「・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・。」

 

お互い無言で通りを歩きつづける。

変な事に沙織ちゃんはさっきから何も喋らない。

寺女の子達に会ってから、様子がおかしくなったのは明らかだが、

俺としてもあまりつっこんだ事が聞けず、黙って沙織ちゃんの隣を歩くしかなかった。

・・・すると。

 

「・・・・・さっきの2人ね。」

 

「・・・!」

 

「・・・私の中学校の時のバレー部で一緒だったんだ。」

 

「そうなんだ・・・。」

 

「うん。」

 

「なんだか沙織ちゃんって結構有名人っぽくて驚いたよ。」

 

正直にさきほど感じた事を俺が言うと、沙織ちゃんは苦笑した。

 

「だって・・・中学の全国大会で2連覇したんだもん。」

 

「へぇ〜!そりゃすごいじゃないか?」

 

ッ!?

・・・・その時点でようやく俺が感じていた違和感の正体が分かった。

それは沙織ちゃんだ。

さっきの彼女達はスポーツでも名門である寺女のバレー部の部員だった。

じゃぁ・・・・・沙織ちゃんはどうして・・・・南海高校の・・・帰宅部だったんだ?

 

「私・・・・小学校の時からず〜〜っとバレーばっかりやってたんだ・・・。」

 

「うん。」

 

「でもね・・・・私・・・あんなに大好きだったバレーに・・・そっぽむかれちゃった。」

 

「・・・・・どうして?」

 

「・・・・背が・・・・・・伸びなくなっちゃったんだ・・・・中学生の時から。」

 

・・・あ!

【みんな背、高いねぇ・・・!多分バレー部か何かかな?】

マズった・・・、あんな事言うんじゃなかった・・・。

 

「みんな推薦入学で、名門って言われてる高校にいったんだけど・・・・

 私は先生とかからね・・・その身長だと多分これ以上は無理なんじゃないかって

 説得されちゃった・・・・。」

 

「・・・・・・・・。」

 

「だから・・・近所だった南海高校に入学したんだ。」

 

沙織ちゃんの身長は低くはない。むしろ女の子の平均身長からみたら高い方だ。

だけど・・・・やはり先程の寺女の子達に比べると・・・・。

俺はそれ以上何も言えず、ただ沙織ちゃんの言う事に耳を傾けていたが、

ふと気が付くと沙織ちゃんの姿が隣に居なかった。

 

「あ・・・あれ!?」

 

振り返ると沙織ちゃんは既に俯いたまま立ち止まっていた。

 

「沙織ちゃん・・・急に立ち止まって・・・

 

苦笑しながら沙織ちゃんに歩み寄った瞬間、俺は固まった。

・・・・沙織ちゃんは声を殺して泣いていた。

 

「沙織ちゃん!?」

 

「・・・・・・・・・。」

 

「ちょ、ちょっと!!どうしちゃったんだよ!?」

 

「・・・・・・・・・。」

 

ギュッ!

突然、沙織ちゃんは俺の胸に飛び込んでくると上着をキツク握り締め、顔を埋めた。

 

「わわッ!?」

 

「ふぇぇ・・・・ん・・・私・・・バレーがやりたい。やりたいよぉ・・・!!」

 

「・・・沙織ちゃん。」

 

「どうして・・・どうして背が低いってだけでバレーしちゃダメなのよぉ・・・!」

 

・・・・・・・・・・。

人には触れて欲しくない過去の1つや2つはあるものだって誰かが言っていたが、

俺は今、沙織ちゃんの辛い過去を偶々垣間見る事になったのだ。

 

・・・・・・・・介・。

・・・・・・・・・・・・・・裕介・・・。

 

「ちょっと裕介ぇ!裕介いるッ!?」 ガラッ!

―『長瀬、三海が呼んでるぞ?』

―「なんだよ、うるさいな・・・。」

―「裕介!あんた、梢に謝んなさいよッ!」

―「・・・・なんで俺が謝らなきゃいけないんだよ?」

―「なんで・・・ですって!?あんたがあんな事言ったから梢が泣いてるんじゃないの!」

―「はぁ〜、いいか?美里。先に俺にいちゃもんをつけてきたのはあの子だ。」

―「そ、そんな事は分かってるわよ!だけどね、裕介の言い方も悪いのよ。」

―「美里・・・お前、言ってる事が滅茶苦茶だぞ?」

―「裕介、人には触れて欲しくない過去の1つや2つくらいあるの。」

―「・・・・・・・。」

―「御願い、裕介・・・梢に謝ってあげて・・・。」

―「・・・ハァ・・・この本、今いいとこだったのに。」 ガタッ

―「・・・裕介・・・。」

―「今、どこだよ?案内してくれ。」

―「・・あ・・・・う、うん!」

 

・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・。

 

「・・・・ればいいじゃないか・・・・。」

 

「グス・・・グス・・・・?」

 

「やれば・・・いいじゃないか!」

 

「・・・ふぇ?」

 

「沙織ちゃんがやりたきゃやりゃいいじゃないか。

 プロになれないとか、やっていけないっては全部そいつらの勝手な言い草だよ。

 とことんやればいいじゃん。沙織ちゃんらしくないよ。

 やってやってやりまくって、それでもあの子達に追いつけないって

 納得するまで、やりゃいいと俺は思う!」

 

「・・・・ぐす・・・。」

 

「泣かないでくれよ・・・女の子に泣かれんの、慣れてないんだよなぁ・・・。」

 

そう言って、俺は苦笑する。

 

「・・・・・・・・裕くん・・・・。」

 

「ほらほら〜!泣きやんで。ハハ・・・アイスでも食べにいこうよ?」

 

「・・・・・・・。」

 

「アイス嫌いだっけ?」

 

「・・・・・・ううん。」

 

俺は微笑みながら沙織ちゃんの頭をくしゃくしゃと2、3度撫ぜると

通りの先に見えるアイスクリームチェーン店

『ゴルゴ13アイスクリーム』に向かって歩き始めた。

背後から沙織ちゃんの呟くような声が聞こえてくる。

 

「・・・・裕くん。」

 

「うん?」

 

「・・・・好き。」

 

「はい?」

 

「・・・好きなの。」

 

「分かってるって。」

 

「・・・・え?」

 

「ストロベリーとバニラ、トッピングにチョコレートだろ?」

 

「・・・・・・・。」

 

「あれ?違ったけ?」

 

「・・・・う〜〜〜!」

 

ズビシッ!

俺の後頭部に沙織ちゃんのチョップが炸裂。

 

「痛ぇッ!?な、なにするんだよッ!?」

 

「・・・・・裕くんの馬鹿。」

 

・・・・・・・・・。

 

『・・・見つけた・・・・!見つけましたッ!!今確かに長瀬裕介さんを見つけましたッ!!』

 

・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・・。

俺達が帰路に着く頃、辺りは既に暗くなっていた。

 

「あ・・・私もうここでいいから。」

 

「え!?いや、いいよ。家まで送るから・・・。」

 

「ううん。いいよ。もうちょっとこの先行ったら私の家だし。」

 

「・・・・そっか。」

 

「取り合えず、南海放送局の方はシロだったみたいだし。

 後は・・・太田さん達の連絡待ちって事だな。」

 

「本当に明日やるのかなぁ・・・?」

 

「さぁ、どうなんだろ?正直、俺自身この数日間の出来事が

 あまりにも現実離れし過ぎてて・・・・。」

 

「アハハ。ほんと、私も信じられない。」

 

「じゃぁ、また何かあったら連絡するよ。」

 

「うん。じゃあね♪」

 

「沙織ちゃん、本当に大丈夫?」

 

「もう〜、大丈夫だよぉ。・・・裕くんこそ、気を付けてね?」

 

「うん・・・・じゃあ、御休み。」

 

「・・・あ!裕くん!」

 

「ん?」

 

そう言って振り返った俺のほっぺたに沙織ちゃんは軽くキスした。

 

「・・・・・・。」 呆然

 

「・・・・・じゃ!おやすみぃ〜長瀬少年!!」

 

真っ赤になりながら夜道を走っていく沙織ちゃん。

・・・・・・俺は周囲を見回した後、ほっと溜息をついて一人ニヤニヤと

顔を緩ませながら家路に向かった。

トコトコ・・・・。

 

「さてと・・・図書室でかりた本、そろそろ読み終わらないと・・・。」

 

ちり・・・・!

ッ!?

ちりちり・・・・!

『長瀬ちゃんッ!!』

ちりちりちりちりちり・・!!!

突然脳裏に振り返ってこちらに微笑みかける沙織ちゃんの姿が浮かび上がった。

 

「・・・・・沙織ちゃん・・・・・しまったッ!!」

 

ぴ・ぴ・ぴーぴーぴ・ぴーぴぴーぴーぴぴぴーぴぴー♪ ←瑠璃子のテーマ

 

「あ・・・太田さんからだ。」

 

ピッ。

 

「はい、新城です。」

 

『もしもし?新城さん?太田だけど・・・。』

 

「うん!そっちはどうだったの?」

 

『その事なんだけど。あの貧ぼっちゃまは?』

 

「ほぇ?」

 

『長瀬くんの事よ。』

 

「裕くんとはさっき別れたけど・・・。」

 

『もう!携帯くらい持っててくれればいいのに・・・!』

 

「なに?何かあったの!?」

 

『えぇ。バッチリよ!急いで長瀬くんと連絡を・・・・

 

ちりちり・・・!

 

『新城さんッ!逃げてッ!!今すぐその場所からッ!!』

 

「つ、月島さんッ!?」

 

『早く・・・・ザー・・・

 

『ククク・・・・もう遅いな。』

 

ガッ!!

 

!?

 

「ッ!!」

 

「ンンーーッ!!」

 

突如沙織ちゃんは何者かに背後から口や手を押さえられる。

カシャンッ。

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・。

ハァ・・・ハァ・・・ッ!!

ようやく俺がその場に着いた時には、既に沙織ちゃんの姿は無く、

彼女の携帯だけが地面に転がっていた。

 

『・・・ちょっと、新城さんッ・・・?新城さんッ!?

 ・・・・・瑠璃子、どういう事よ・・・!!』

 

携帯のスピーカーから太田さんの声が聞こえてくる。

 

「・・・・・沙織ちゃんッ・・・!?」

 

嫌な予感が背筋を凍らせていく。

 

「沙織ちゃんッ!!」

 

 

See you on the other side