特級ッ!難解電哲 【ラピードα】

FM037 SPEED POP

 


喉が渇き体の芯からヒリつくような感覚に襲われる。

目の前で起こっている最悪の事態に俺は戦慄を覚え、暫く呆然とその場に立ち尽くしていた。

・・・・俺は何て馬鹿だ。

よくよく考えたら沙織ちゃんだけが狙われ無い訳ないじゃないか。

相手はもうどこの学校にもいそうな危ない奴らというレベルじゃなく、

今日、明日にでもこの街全ての人の人格を奪い去ろうとしている危険な連中だ。

そんな奴らが、計画を妨害する俺達を黙って見過ごしている筈がないだろう!

 

『・・・ちょっと?新城さんッ!!』

 

冷たいアスファルトの道路に横たわった携帯から

動揺する太田さんの声が聞こえてくる。

ちりちりちりちり!

グォン!

・・・スタ。

呆然と立ち尽くす俺の真後ろから瑠璃子さん独特の伝送音と電波が聞こえる。

と同時に息を切らせた瑠璃子さんが俺の真横を通り過ぎると、落ちている携帯を手にとった。

 

「ハァ・・・ハァ・・・も・・・しもし!香奈子・・・ちゃん!」

 

『瑠璃子・・・?瑠璃子今そこにいるの!?』

 

「うん・・・・。」

 

『新城さんは!?』

 

「・・・・・いないの・・・・。」

 

『ッ!?』

 

「間に・・・合わなかったよ・・・。」

 

『な、長瀬くんはいるのッ!?』

 

ダメだ、思考が上手く働かない。

泣きそうな表情の瑠璃子さんから携帯を手渡されると

ぎこちない手つきで受話部分を耳たぶにあてがった。

 

『もしもし!?長瀬くん?』

 

「・・・・どこだよ?」

 

『落ち着いて聞いて!長瀬くん。』

 

「どこだって聞いてんだよッ!!」

 

もう何が何だか分からない。

ただ感情の赴くままに太田さんに怒声を張り上げていた。

 

『これは罠よッ!今下手に動いたら取り返しのつかない事になってしまうわ!』

 

「何・・・言ってんだよ、じゃあ沙織ちゃんはどうするんだよ?」

 

『彼らの狙いは分かっているの!まだ新城さんには危害を加えないわ!』

 

「どうして言い切れるんだよッ!!」

 

「な、長瀬ちゃん・・・!」

 

「大体、考えがなさ過ぎるんだよ!

 だってそうだろう?テロ地味たような事を平気でするような連中だぜ!?

 俺だって2回襲われたんだ!沙織ちゃんが安全な筈ないじゃないか!!」

 

・・・・そうだよ。俺って何て馬鹿なんだ。

天才だ?秀才だと?・・・聞いて呆れる。そう褒め称えられた人間がこの様かよ。

・・・・・初めから沙織ちゃんは誘うべきじゃなかった。

俺だって決して安全とは言い切れない状況下だったはずだ。

誰から見ても彼女を軽視していた様に捉えられても仕方がない。

 

お前はいいよ!お前はッ!!

 いざとなっても対処出来る!だけど、彼女は・・・沙織ちゃんは・・・・・・!
 

 

分かってる。俺が悪いんだ。

俺が・・・・彼女をちゃんと家まで見送らなかったから・・・・。

・・・・・だけど、心では分かっていても口から溢れ出る感情を止める事が出来ない。

 

『お願い・・・長瀬くん。お願いだから・・・一人で先走らないで頂戴・・・!』

 

―ハッ!?

太田さんの震える声を聞いてようやく俺は空回りする心を留める事が出来た。

・・・太田さんだって動揺し、後悔してる・・・みんな同じじゃないか。

 

「・・・・・・ごめん。動転してた。」

 

『・・・・いいのよ・・・。』

 

「あまり時間が無い。単刀直入に聞くぞ。もう場所は割れてるんだな。」

 

『えぇ。場所は・・・南海放送局。』

 

「な・・・・なんだって・・・!?」

 

『私がNHK近辺で生徒会の斥候部隊の1人をふん捕まえて、聞き出したわ。』

 

「だ、だけど南海放送局は俺が見張ってたが特に動きは・・・。」

 

『全て陽動よ。貴方、その近辺で生徒会の人間を見かけなかった?』

 

「・・・あ、あぁ1人見たけどそいつは関係のない店に・・・・。」

 

『私達の見たものを合わせると少なくても10人は陽動作戦の実行部隊ね。』

 

「待てよ。陽動って・・・俺達に対する陽動かよ?」

 

『陽動じゃ語弊があるわね・・・。要するにこれは私達を安心させる為の罠。

 あいつらは端から下見とかそんなもの必要としなかったの。』

 

「・・・・・・・つまり。」

 

『もう準備は整っているって事よ。事は私達が考えている以上に深刻ね。』

 

「じゃあ・・・何で沙織ちゃんをさらう必要があるんだよ・・・・。」

 

『・・・・・・・それは・・・。』

 

「・・・・・・・・。」

 

『最後通告って事かしら。これ以上首を突っ込むなって言う・・・。』

 

(・・・ちりちりちりちり)

 

「・・・・・・・。」

 

『プロジェクトDは間違いなく明日実行されるわ。

 新城さんはそれまで監禁されている筈、今迂闊に手を出すよりも・・・・

 

「嘘だろ。」

 

『・・・・・・・ッ!?』

 

「無駄だよ。今の俺に嘘言っても。」

 

『な、何をいってるの・・・貴方・・・

 

「俺を誘い出す為の罠なんだろ・・・・。」

 

『・・・・・!!』

 

「そうか・・・・目的は・・・俺か・・・・!」

 

『ま、待ちなさいッ!長瀬君ッ!行っては駄目よ!』

 

太田さんが引き止めようと声を荒げるが、構わず俺は携帯を耳から話すと

南海放送局に向かって足を進めようとした。

すると、グイッと後から瑠璃子さんが俺の服を握ってくる。

 

「・・・・・。」

 

「長瀬ちゃん・・・。」

 

「・・・・離してくれ・・・俺、行かないと。」

 

「ワタシも行くよ!」

 

「え?」

 

「多分、お兄ちゃん達はもう明日の準備を整えて待ってる・・・・

 ・・・・・今夜、決着をつけるべきかも・・・・ね?香奈子ちゃん。」

 

そう言いながら、彼女は俺の手に持たれた携帯に向かって声をかけた。

携帯の向こう側から太田さんのため息が聞こる。

 

『・・・・・仕方ないわね・・・。長瀬くん、聞いてる?』

 

「ん?・・・あぁ、聞こえてるよ。」

 

『南海駅前で合流しましょう。予定変更ね・・・・・・・・今夜決着をつけるわよ!』

 

 

−南海駅前  PM23:30−

終電前だというのに、まだ通行人が多く見受けられる南海駅前。

噴水が夜の街灯に照らされ幻想的な輝きを放つ広場で、

お互い対になる方角から歩みより、合流する俺達。

 

「・・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・。」

 

太田さんと俺は噴水を背にして無言のまま向き合った。

 

「ごめんなさい。私が甘過ぎたわ・・・・。」

 

「いや・・・俺のせいだ。俺が彼女をちゃんと家まで届けなかったせいだ。」

 

「・・・・もう私の嘘まで分かるようになってしまったのね。」

 

「まぁ・・・ね。この2、3日で別人になったような気分だよ。」

 

一瞬だけど、隣にいた瑠璃子さんの表情が険しくなった。

 

「・・・長瀬君、覚悟はいい?」

 

「・・・今更聞く事でもないだろ?」

 

「・・・・殺されるかもしれないわよ?」

 

「・・・・・・。」

 

太田さんのその一言に否応なしに体が強張る。

うすうすは感じていたが、いざ口に出されると恐ろしい。

 

「どっちみち俺達がやらないと明日には街の人達が毒電波で洗脳されるんだ。

 ・・・・それって、殺されるようなもんさ。」

 

「準備はいいかしら?」

 

「いつでもいい。」

 

すると太田さんはふぅっと溜息をつき

 

「じゃぁ、この先の公園で時間を潰しましょう。」

 

淡い笑みを浮かべた。

 

「・・・へ?公園・・・?」

 

 

―南海第5市立公園  PM23:15―

公園のベンチに一同腰を下ろすと、藍原さんが手に持っていた

コンビニの袋からおにぎりとお茶を出してみんなに手渡した。

 

「お、おぃ!なんでこんなところに・・・・

 

悠長に構える太田さんに苛つきを覚え食って掛かるが、

 

「クスクスクス・・・・・・・。」

 

太田さんは笑ったまま答えようとしない。

 

「な、なにが可笑しいんだよ!」

 

「フフフ・・・予想外で驚いてるの。長瀬くんって意外と直情的なのね・・・。」

 

「ッ!?何言ってんだよ、こんな切迫した時に・・・。」

 

「慌てない慌てない。まだ拓也達は動いてないわ。

 それまでここで、しばらく身を潜めておくのよ。」

 

言いたい事だけ言うと、彼女は『シーチキン』と印刷されたおにぎりのフィルムを剥がす。

そんな彼女を見て、俺も手に握り締められたおにぎりを見つめた。

ちなみに包装フィルムには『こんぶ』と印刷されている。

 

「・・・・これが最期の晩餐になるのか?」

 

「私達が負ければね・・・・。」

 

「・・・・・。」

 

「あら?食べないの?」

 

「・・・・俺、こんぶ嫌いなんだけど・・・。」

 

 

―南海放送局前  PM23:30―

 

『お疲れ様でした。』

『お先に失礼します。』

今日の放送が一通り終わり、南海放送局員達が帰社し始める。

その様子を遠くの方から見つめる怪しい3人組の姿。

 

『・・・ブライト艦長。今のところ異常はなしだよもん。』

『うぐぅ、ハラ減ったっす。早く交代して欲しいッス。』

『貴様らそれでもニュータイプか!萌えが足りないのだよ萌えが。』

 

3人とも怪しげなTシャツを着ており、うち1人は怪しげなバンダナを巻いている。

気温が高いのか、それとも彼ら自身の体温が高いのか。萌えッ子が描かれたうちわで懸命に扇ぐ。

ぐ〜〜きゅるるるる・・・・。

 

『次の交代時間はいつなんだよもん?』

『が、がぉ。0:00・・・あと30分もあるっす!』

『クッ、愛しい姫君の為とはいえ、持久戦はとても辛いであります!』

 

 

―南海第5市立公園  PM23:50―

 

「―という感じで待機して、ここでもう1グループが待機。」

 

「いつの間にそんな事を・・・っていうか、よく彼らが承諾したな・・・?」

 

「簡単よぉ。瑞穂とデートさせてあげるって言ったらホイホイ釣れたわ。」

 

「・・・・・・・それ藍原さんに了承得てるの・・・?」

 

「得るも何も、そんなの嘘に決まってるじゃない。」

 

「・・・・・・・・・・。」 (汗)

 

「―で、こことここに配備している訳よ。」

 

「な、なるほど、これなら異常があればすぐに分かるな。

 ・・・だけどこれだと、今度は彼らが危険じゃないか? (汗)」

 

「あー、いいんじゃない?瑞穂の役に立てて死ねるのなら本望じゃないかしら?」

 

「それ相当酷いと思うんだが・・・・。」 (汗)

 

ふと公園の端を眺めると、瑠璃子さんがジャングルジムのてっぺんに

爪先立ちして少し悲しそうな表情で夜空を見つめていた。

 

「・・・・・・・・・よっと。」

 

俺はベンチから腰を上げると、ジャングルジムの傍へと歩み寄る。

 

「・・・・・・・・・満月だね。」

 

「・・・・・・・・・・うん。」

 

満月に照らされた瑠璃子さんは神秘的で、何時の間にか見惚れてしまっていた。

 

「瑠璃子さん・・・浮かない顔してるね。」

 

「そう・・・?・・・・そう・・かも・・・。」

 

「ま・・・そりゃそうだよな・・・。」

 

そう言うと俺はジャングルジムにもたれかかって瑠璃子さんを見上げた。

 

「思えば、俺って今年はスゴイ事だらけだ。」

 

「?」

 

「両親と夜逃げしたかと思えば、転校先の高校で太田さんにつかまって、

 哲学部に呼ばれたかと思えば、生徒会長が電波使い。そして俺も電波使い・・・

 ・・・・フッ・・・まったく笑っちゃうよ。」

 

「長瀬ちゃん、夜逃げしてきたの?」

 

「え?・・・・知らなかったの?」

 

「・・・・・・こくん。」

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

「ま、まぁ・・・その話は置いといて!

 ・・・・これが終われば、きっと瑠璃子さんも心の底から笑えるさ。」

 

「・・・・うん。」

 

「あのキティに囚われた拓也さんを助けよう。」

 

「うん!」

 

夜風が吹いて俺達の髪を静かに揺らす。

 

「・・・長瀬ちゃん。」

 

「なんだい?」

 

「・・・・・あのね、長瀬ちゃん。長瀬ちゃんは・・・・

 

 

―南海放送局前  AM0:00―

 

(ぷ・ぷ・ぷ・ぷーん♪)

『や・・・やっと12時になったよもん!』

『うぐぅ。メシっす!メシっす!早く呼び出すっす!』

『・・・・お、おいちょっと待て、あれ・・・・。』

 

―ザ、ザ、ザ

オタッキー達が切り上げようとした直後、何時の間にか南海放送局の門前には

数十人の高校生達が集まり、隊列を組んでいた。

 

『ひぃ!?ほ、ほんとに来たんだよもん!』

『うぐぅ。』

『あわわ・・・ど、どうすればいいんだ!?』

 

門前に居たガードマン2人が異常に気付き、高校生達に声をかける。

 

『お、おい。君達、そこで何をして・・・・

ぢりぢりぢりぢり!

『あ”〜〜〜しびれるぅ!?』

『お、おぃ!どうし・・・ぎゃぁぁ!?

バタリ・・・。

ドサ・・・。

毒電波をもろに受けて、ガードマン達が昏倒すると、

ザザザザ・・・・・・。

生徒達の隊列が真中から左右に分かれていき、その先から遂に姿を見せる月島拓也。

ドドドドドドドド

そして月島拓也の背後には腹心である坂上と光岡。

さらに虚ろな目をした沙織がおぼつかない足取りで佇んでいた。

 

「・・・ふん。ちゃちな警備だ。・・・行くぞ。」

 

『はい。』

 

『ククク、ちょろいもんですね。』

 

「・・・・・・・・。」 フラフラ・・・。

 

 

―南海第5市立公園  AM0:05―

 

「長瀬ちゃんは・・・・

 

「?」

 

ぴぴぴーぴーぴぴーぴぴーぴぴぴぴ♪

突然、携帯の着メロが鳴り出すと、

太田さんは急いでGパンのポケットから携帯電話を取り出した。

ピッ!

 

「はい、太田です!」

 

『あわわわ・・・・来た!来ただよもん!』

 

「ちょっと、落ち着いて!拓也達が動き出したのね?』

 

『ヒッ!?気付かれたぞッ!!』

 

ぢりぢりぢりぢり

ピー!ガガガ!!

ザーーー・ザザ・・・・

携帯の受話部分から不快なジャミング音が響き渡る。

 

「ちょ、ちょっと!貴方達!!」

 

『あ”〜〜!!永遠の世界がぁぁ〜!!』

 

『いやぁぁ!!助けてあゆちゃん!!』

 

ブツッ・・・。

ツー、ツー、ツー・・・・。

 

あゆちゃんって・・・・誰だ? (汗)

 

「出撃よッ!!」

 

ベンチから立ち上がり太田さんは気合の入った声で檄を飛ばす。

 

「よし・・・行くぞ。」

 

「うん。」

 

ジャングルジムの上に佇んでいた瑠璃子さんはぴょんと地面に降りたつ。

 

「頑張りましょう!」

 

そして藍原さんも・・・・って、え?

 

「え・・・!?ちょ、藍原さんも来るのか!?」

 

「いけませんか?」

 

「・・・・流石に今回は危険だよ。」

 

「もう〜、私、こう見えても強いんですよぉ?」

 

藍原さんは手に持った金属バットを硬く握りしめる。

そう言えば、手負いだったとは言え、ドクデンプァ・シリーズを倒してんだよな・・・?

聞くところによると凄腕のハッカーらしいし・・・彼女は色々と謎が多い。

あと・・・・・・・今気付いたけど、バット持って来てたんだ。(汗)

 

「急ぐわよ!戦いは始まってるんだから!!」

 

「あ、あぁ!分かった!」

 

俺達哲学部4人は公園を後にし、南海放送に向かって疾走を始めた。

ピッ♪ピッ♪

プルルルルル♪

走りながらも太田さんは携帯で連絡をとる。

 

「太田よ!聞こえる!始まったわ!各自、連絡した通りに動いて頂戴ッ!!」

 

『了解しますた!』

 

ピッ!

 

「誰に電話を・・・!?」

 

「さっき話した作戦よ!」

 

「あぁ・・・!あれか!!」

 

そうこう言っている間にみるみる南海放送の建物が大きく見えてくる。

沙織ちゃん・・・・すぐに助けてあげるからな!

 

 

―南海放送局手前  AM0:15―

もう少しで南海放送局入口に着くというところで先頭を走っていた太田さんが

とつぜん路地裏へと針路変更をする。

 

「お、おい!どこ行くんだよ!入口はそっちじゃ・・・

 

「おばか!正門から堂々と殴りこみなんかかけれる訳ないでしょ!」

 

そう言えば、なにやら放送局入口が騒がしい。

ワーーーー!

ワーーーー!

 

『クソッ!なんだこのオタッキーどもは!!』

『貴様ら!生徒会長の邪魔をするつもりか!!』

 

戸惑う見張りの生徒会員達に果敢にも玉砕特攻をかける藍原瑞穂親衛隊。

【大日本瑞穂同盟】

【われ、瑞穂の為に死せり】

【萌えがりません、勝つまでは】

などと訳の分からない文章が殴り書きされたハチマキをして

毒電波で強化された生徒会員達と揉み合う。

一人、また一人しばかれては倒れていく親衛隊。

 

亜ァ、瑞穂親衛隊ヨ、諸君ラノ死ハ無駄ニ非ズ。

ソノ勇敢ナル魂ハ、我ガ日本国民ニ更ナル栄光ヲモタラサン。

 

「い、一体何の騒ぎなんだ・・・!?」

 

「さっき話した陽動よ!」

 

「陽動・・・ってまさか!?」

 

「そう!親衛隊の彼らに陽動役をかってでて貰ったの。」

 

「こ、こきつかうなぁ〜。」  (苦笑)

 

「正面入口、駐車場方面、そして駅側から一斉に仕掛けてもらってるわ!

 これで奴らの戦力を分散させるのよ!」

 

「それで俺達は裏口から侵入って訳か・・・・!」

 

「Quiッ!(そうよ!)」

 

薄暗い路地裏を真横にそびえ立つ放送局のコンクリート壁にそって疾走する。

しばらくすると、裏口が見えてきた。

予想通り見張りの連中がいるが、陽動作戦が功を奏したのか?たったの2人だった。

 

『なにッ!?』

『哲学部ッ!!』

 

     スタ           グラ
「星間★卒業ァッ!!」

 

ドカァッ!!バキッ!!

 

『まりみてッ!?』

『さちこさま〜ッ!?』

 

太田さんが瞬殺。

難なく裏口から進入すると、向こう側に見える駐車場では

親衛隊と生徒会員が戦っていた。

パッと見、現状は・・・やっぱり親衛隊が劣勢。

 

『このタッキーどもがッ!!』

『星に帰れッ!』

 

ガスガス!

ボカボカッ!!

 

『あぁぁぁ・・・・。』

『み、瑞穂さまぁぁぁあ!』

 

ちぎられては投げられ、ちぎられては投げられる親衛隊もとい特攻隊を見て

心の中で念仏を唱えつつ、建物の入口の直ぐ手前までやって来た。

途端、急に藍原さんが足を止める。

 

「あ、藍原さん?どうしたんだい?急に立ち止まって。」

 

「・・・・・・。」

 

「瑞穂ちゃん?」

 

「ごめんなさい、私。あの人達を助けに行きます。」

 

驚いた事に藍原さんはあの特攻隊の連中を助けると言い出したのだ。

 

「おいおい!た、助けるって・・・藍原さんが!?」

 

「はい。」

 

「無茶言うなよ?男の彼らだってやられてるのに・・・・。」

 

「・・・・瑞穂。いいの?」

 

太田さんが凛としたそれでいて優しい声で問い掛ける。

 

「だって、あの人達ほおっておけませんから・・・。」

 

はにかんだ表情を浮かべ、一瞬俺を見つめた後

藍原さんは踵を返して親衛隊達が戦う方へと走っていった。

 

「ちょ!藍原さんッ!!」

 

「長瀬くんッ!貴方はこんな所で立ち止まって暇はないでしょ!」

 

引き止めようとする俺の襟首をムンズと捕まえて太田さんが強い口調で諭してきた。

 

「ク・・クソッ!!」

 

俺は踵を返して再び建物の中へ向かって走り出した。

 

『み、瑞穂様ッ!!』

『おぉ・・・瑞穂様・・・。』

『ありがたやありがたや。』

 

藍原さんの姿を見るや、まるでナウ●カの帰還を喜ぶ風の民のように

感極まって涙する奴や手を合わせる輩たち・・・。

異変に気付いた生徒会の連中も一瞬気を取られる。

 

『なんだとッ!?』

『き、貴様は藍原瑞穂ッ!(ドグワシャ)グワッ!!』 ドサ・・・

金属バッドを持った眼鏡ッ子が果敢な勇姿を見せる。

 

「み、みなさん、大丈夫ですか!!」

 

『瑞穂っちゅわぁ〜ん!』

 

「きゃぁ!ど、ドサクサに紛れて抱きつかないで下さいッ!」

 

ドカァ!

 

『マンッセーーッ!!』

 

萌え?パワー充電の藍原親衛隊の逆襲が始まった。

 

 

―南海放送局内 AM0:30―

放送局内に進入し、廊下を突き進んでいく。

途中、ここの職員の人が何人か倒れているのを見かけた。

みんな白目をむいて痙攣していたが、今は助けている時間がない・・・。

 

「・・・そこを右!」

 

瑠璃子さんが電波で兄の居所を感知し、道を案内していく。

多分、兄の方も俺達の侵入に気付いてるはずだ。

という事は何らかの手を・・・。

―ちりちりちりッ!

 

「ハッ!?・・・待てッ!そこは危険だッ!!」

 

「クッ・・・!」

 

俺の叫び声を聞いて先頭を走っていた太田さんは、咄嗟に体をスライディングさせる。

 

ゴッ!!

 

その直後、太田さんがいた場所のコンクリートが激しく抉れた。

ッシャァァア!!パラパラ・・・・。

コンクリートの破片と粉塵の煙の先に佇んでいる2つの人影・・・・。

坂上と光岡、・・・・・誰彼コンビ!

 

『やぁ。』

『久しぶりだな。クックック。』

 

「・・・・・・・。」

 

『安心して下さい、君は極力無傷で捕らえろとの会長直々の命令を受けてますからね。』

『痛い思いしたくなければ、抵抗しないことだな。』

 

誰彼コンビの面を見た途端、脳裏に沙織ちゃんの顔が浮かび

忌々しくてムカッ腹が立ってくる。

 

「・・・どけよ。」

 

『ハハ、聞いたかい?光岡。』

『無駄な事はやめろやガキ。お前のようなパンピーが息巻いても俺達に勝てる・・・

 

・・・・ちりちりちりちり

周囲の空気がひりつき、俺の髪の毛が逆立つのが自分でも分かる。

 

『なッ!?』

『・・・マジかよ・・?』

 

「お前達にかまってる暇はないんだ・・・。」 ちりッ・・ちりッ・・・。

 

『・・・・・予定変更・・・ですね。』

『やはりここで壊しておくか。』

 

毒電波で強化された2人が冷酷な表情を浮かべながら俺達の前へ立ちふさがる。

 

「はぁぁぁ!!」

 

ブンッ!

 

『クッ!』

『おっと!』

 

突然の太田さんの奇襲で流石に面食らったのか?

誰彼コンビは彼女に気を取られ、一瞬の隙を作る。

 

「行きなさいッ!!」

 

太田さんが叫ぶ。

 

「・・・ッ!!」

 

俺はその隙をついて瑠璃子さんの手を引くと、疾風の如く傍の階段へと走り去った。

 

『し、しまったッ!』

『行かすなッ!!』

 

ビュンッ!!

 

『クッ・・・!』

『邪魔するなアマァッ!!』

 

「ふん。貴方達の相手は私で十分よ。」

 

―夢幻太田流消火器二刀流ッ!(バンッ

 

『クッ・・・プロトタイプが・・・・!』

『今度は手加減しねーぞ!こらぁッ!!』

 

・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

―南海放送局内2F  AM0:35―

カチッ・・カチッ・・・。

 

「エレベーター・・・クソッ、止まっちゃってるな・・・。」

 

エレベーターのボタンを押して舌打ちし、

 

「階段しか・・・ないか。」

 

俺はグチるように呟く。

南海放送局は10F建て・・・ちと辛いがしょうがない。

 

「アッ!!」

 

突然隣の瑠璃子さんが頭を抱えてうずくまった。

 

「ど・・・どうしたんだい!?」

 

「駄目・・・・消されちゃった・・・・。」

 

「??」

 

「お兄ちゃんが・・・電波を遮断しちゃった・・・どうしよう・・・。」

 

「え・・・って事は、奴らの正確な位置が分からないって事?」

 

「・・・・こくん。」

 

・・・・まんまとあいつらの掌の上で踊られてるって事か。

 

『裕クン・・・助けて・・・・。』

 

ちりッ!

 

「・・・・ッ!!」

 

俺の脳裏に微かだが沙織ちゃんの声が聞こえた気がした。

 

「長瀬ちゃん・・・・?」

 

「こっちだ!瑠璃子さん!」

 

再び瑠璃子さんの手をとると、階段へ向かう

3F・・・4F・・・・5F・・・・

 

「ハァ・・・ハァ・・・・ハァ・・・!!」

 

8F

 

「ゼェ〜、ゼェ〜・・・・ゴホン!」

 

「ハァ・・・ハァ・・・い、一気に上っちゃったね・・・長瀬ちゃん。」

 

ここだ・・・ここに奴らがいる・・・!

階段傍で膝に手をついて、肩で息をしていると

目の前に案内図が見える。

 

―8F 第3スタジオ―

 

ピキッ・・・パシッ・・・!

 

「ッ!!」

 

分かる・・・空間に磁場を感じる・・・。

上手くは説明出来ないけど、月島拓也は間違いなくこのフロアにいる。

瑠璃子さんもどうやら感じているらしく、俺の服を握ると

不安げな表情で俺を見つめてきた。

 

「・・・・いくよ?」

 

「・・・・・こくん。」

 

ツカツカツカ・・・・・・。

目の前にテレビとかで見た事ある、収録場によくある分厚い扉が見えた。

上の標示を見ると、【第3スタジオ】と書かれている。

 

「・・・・・。」

 

バァンッ!!

不安と怒り・・・複雑に絡み合う感情にまかせて

扉を勢いよく開ける・・・・・。

扉の向こうは電気を落とされ暗闇に包まれている。

無言のまま、瑠璃子さんの手を引いて俺はスタジオの中へと入って行った。

キィィ・・・バタン・・・。

俺達が入ってきた扉が背後で閉まる音がし、唯一の明かりも消え去った。

暗黒。暗黒だけだ・・・。

 

「・・・・スゥ〜、月島拓也ァッ!!ここにいるんだろう!!」

 

俺の怒声がスタジオ内に反響する。

 

「望みどおり来てやったぞッ!!出てこいよッ!!」

 

パチ・・パチ・・・パチ・・・・パチ・・・。

ッ!!

暗闇の向こうから拍手する音が聞こえる。

 

「クックックッ・・・・。」

 

人を見下したようなその声、そして拍手の音が折り重なり、たまらなく不快感を煽る。

バツンッ!バツンッ!!

 

「―うッ!」

 

突然、スタジオ内がライトで照らし出される。

急に明るくなり、思わず目を細める俺のぼやけた視界に・・・奴がいる。

 

「クククク・・・・。ようこそ、聖なる革命の場へ。」

 

鉄骨で組まれた退廃的な舞台の上に月島拓也と数名の生徒会員。そして・・・・

 

「沙織ちゃんッ!!」

 

沙織ちゃんが覚束ない足取りで佇んでいた。

 

 

 

See you on the other side