特級ッ!難解電哲 【ラピードα】

FM040 See you on the other side

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。達樹・・・・

 

「既に復学の手続きは済ませてあります。

 君の御両親の問題に関しても、僕達が何とかしますので安心して下さい。」

 

メガネをかけたインテリ系のヤサオトコが俺の言葉を遮った。

 

「・・・久しぶりだな。河田。」

 

「お久しぶりです。長瀬君。」

 

河田はクイッとメガネを押し上げた後、着ている背広についた埃を手で払う。

 

「ちょっと!何なの?貴方達?

 このクソ忙しい時に突然やって来て言いたい事ばかり言って・・・・!」

 

すっかり頭に血が上った太田さんが噛み付かんばかりの勢いで詰め寄るが、

達樹はあっさり太田さんの脇をすり抜けると、俺の前へとやって来た。

 

「ん?裕介、この方達は?」

 

瑠璃子さんや藍原さんを見て、意外だというような表情を見せる。

 

「あぁ・・・俺が今通ってる高校の友達だ・・・・。」

 

「へぇ・・・!?珍しいな・・・・お前に女性の友達が・・・・?」

 

「アウト・オブ・眼中って訳ぇ〜?」 わなわな

 

「か、香奈子ちゃん!抑えてッ!!」

 

藍原さんがマジでブチ切れ5秒前の太田さんを必死に抑える。

ぎゅっ

瑠璃子さんが俺の服の端を握り、不安げな表情を浮かべた。

 

「長瀬ちゃん・・・・この人たち・・・・。」

 

「・・・・戸塚夜津徒高校生徒会。

 戸塚の全ての権限を握っている学生達・・・。

 事実上の戸塚のトップ達だよ。

 生徒会長の天露達樹(あまづゆ たつき)、

 俺とくされ縁でもあり副会長の三海美里(みつみ みさと)、

 そして会計・執行役員の河田優(かわた ゆう)だ。」

 

「あ、天露って・・・あの天露財閥の天露ですかッ!?」

 

俺の紹介を聞いた藍原さんが仰天して、目を白黒とさせた。

 

「あれ、藍原さん知ってるの?」

 

「し、知ってるも何も・・・!!」

 

「初めまして。天露達樹です。えぇっと・・・貴方は・・・

 

「あ・・!初めまして・・・藍原瑞穂です!」

 

「あ・・・つ、月島・・・瑠璃子です・・・。」

 

やや興奮気味に挨拶を交わす藍原さんとは対照的に、

妙にたどたどしく挨拶をする瑠璃子さん。

先程、達樹が話してた俺の戸塚復学の言葉に少なからず動揺してるようだった。

そんな瑠璃子さんの気持ちは他所に、達樹は俺に向きなおすと無邪気に話を続けた。

 

「あぁ、そう言えば阿川の奴が怒ってたぞ?本を借り逃げされたってな。」

 

クククと達樹が冗談交じり笑う。

 

「・・・バレてたか。」

 

「お前が本当に夜逃げしたと分かった時は、みんな大笑いしてたぞ。

 てっきりお前を妬む奴らが吹聴したデマだと思われてたからな。」

 

「ははッ。ひでぇな・・・・そりゃないだろう?」

 

「ハハハハハ。」

 

「ははははは。」

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

しばしの間の後、俺はちらりとヘリコプターを一瞥してから口を開いた。

 

「で、実際の話。俺に何の用なんだ?」

 

「だから言っただろう。迎えにきたんだよ。」

 

「・・・本気で言ってるのか?・・・理由は・・・?」

 

「前から言ってるだろ。俺にはお前が必要だとな。」

 

・・・・・・・。

 

「だ、大胆告白です・・・。」

 

「長瀬ちゃん・・・男の子にもモテるんだね・・・。」 しょぼ〜ん

 

こらこら、そこの二人。勝手に勘違いするな・・・。 (汗)

 

「・・・まだそんな事言ってるのかよ。」

 

「俺は本気だぞ。長瀬。

 戸塚を卒業したらドイツかイギリスの大学へ進学するつもりだ。

 そして、ゆくゆくは財界へ進出する。」

 

「・・・・・。」

 

「河田もケンブリッジへの進学がほぼ決定している。

 いづれ父親がいらっしゃる法曹界で職務に就くだろう。」

 

「あぁ・・・それは知ってるよ。」

 

「そして、父親が代議士である美里は葉鍵大学の文Tを受験するみたいだ。」

 

「ちょっと達樹。受験するみたいだじゃなくて受験するの。」

 

「あっとすまない。ハハハ。」

 

日本最高峰の大学、葉鍵大学。

その中でも特に難関と言われる文T・・・ね。

ピーポーピーポー・・・・

遠くの方から救急車と思わしきサイレンの音が聞こえてくる。

びゅうう・・・

刹那、突風が吹き、俺と達樹の隙間を駆け抜けていく。

いつの間にか達樹は真剣な表情になっていた。

 

「長瀬・・・俺達についてこい。

 今後の日本を動かす為に、お前は必要な人材だと俺は思っている。

 その為に、今お前に戸塚に戻ってきて欲しいんだ。」

 

「・・・相変わらず、スケールが大きいな。達樹は。」

 

過去幾度か聞いたその台詞を再び耳にして、俺は苦笑する。

 

「茶化すなよ。俺は本気なんだぜ?

 お前には人には無い何かがあると俺は確信しているんだ。」

 

・・・・・今思えば達樹の感は当たってたって事か・・・・・・。

 

「ったく、流石に苦労したよ。夜逃げしたお前を探す為に天露家の力を駆使して

 それでも1ヶ月経ってからようやく昨日発見したんだからな。ハハハ。」

 

「・・・・・達樹、俺は・・・

 

「あぁっと・・・すまない。俺の悪い癖だ。先走ってしまったな。

 いいんだ。その事に関してはすぐに返事を聞こうとは思ってないさ。

 とりあえず、戸塚に戻ってからでもゆっくりと・・・・

 

「違うんだ・・・その・・・俺は・・・戻るつもりはないんだよ。」

 

「そうか、なるほど・・・・はぁッ!?

 

俺の意外な返答に達樹が豪快に驚く。

 

「その・・・なんだ・・・。」

 

「ゆ、裕介・・・お前・・・今何て言った!?」

 

すると隣にいた美里が顔色を一変させ、突然掴みかからんばかりの勢いでまくし立ててきた。

 

「ちょ、ちょっと裕介・・・何言ってんの!?

 戸塚に帰れるんだよ?またみんなで楽しく過ごせるんだよッ!?」

 

「美里・・・・。」

 

「あ・・・ひょ、ひょっとして・・・恥ずかしいの?

 大丈夫だってば!みんな裕介の帰りを待ってるんだよ!

 誰も裕介をバカになんかしないから・・・!」

 

「美里・・・。」

 

「だから・・・・。」

 

「止めてくれって美里。」

 

「ッ!?」

 

「そんなんじゃ・・・ないんだよ。」

 

ひゅおおぉぉぉぉ〜

俺の真剣な表情を見て、みるみる美里が泣きそうな顔になっていく。

 

「そ・・・んな・・・どうして・・・!?」

 

「・・・いや、ど、どうしてって言われても・・・。」 (汗)

 

戸惑う俺に河田が冷静に話しかけてきた。

 

「長瀬君・・・・三海さんの気持ちも察してあげて下さいよ。」

 

「・・・は!?」

 

「か、河田君・・・・?」

 

河田は美里を一瞥した後、ため息をつきながら言葉を続ける。

 

「僕からも御願いします。三海さんの為にも戸塚へ戻ってきて下さい。」

 

「ちょ、ちょっと!!河田君ッ!」 かぁぁぁ

 

「えッ!?そうだったのか!?美里、お前・・・裕介が好・・・

 

ボカッ!

 

「あぷすッ!」

 

驚く達樹の顔面に神代クンばりの右ストレートを喰らわした美里は、

俺の顔を見た途端真っ赤になって俯く。

それを見て俺の顔も紅潮してしまった。

ぎゅ〜〜

 

「痛ぇ!!」

 

服の端を掴んでいた瑠璃子さんが俺の皮膚までも掴み始めた。

 

「・・・もてるんだね。長瀬ちゃん・・・。」

 

「る、瑠璃子さん違ッ!」

 

「長瀬くん・・・戸塚に・・・・恋人がいたんですね・・・・。」

 

「あ、藍原さん!?ちょ、ちょっと待ッ!!」

 

「信じられない・・・・裕介が女の子と親しくしてるなんて・・・・。」

 

「み、美里・・・頼むからこれ以上・・・

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ヤバさアンリミテッドな雰囲気に思わずその場から逃げ出したくなる・・・。

 

「おほんッ!!」

 

天の助けか、太田さんがわざとらしく咳払いをすると、

ズィッという感じで俺と達樹の間に割って入ってきた。

 

「ちょっと、貴方。天露さんっておっしゃったかしら?」

 

「は、はぁ・・・俺は天露だけど・・・貴方は?」

 

「自己紹介が遅れて御免あそばせ。私は太田香奈子と言いますわ。」

 

・・・なんか太田さんの口調がお嬢様口調になっている。

マズイ。明らかにご機嫌ななめだ。

 

「先ほどから随分御勝手に物事を決めていっていらっしゃるようですけど、

 生憎、長瀬くんは南海高校哲学部の大切な部員ですの。

 悪いけど、そう簡単にハイそうですか。って引き下がれないですわ。」

 

「・・・部員?・・・哲学部・・・?」

 

なんじゃそりゃ?と言いたげな顔で達樹が視線を俺に向ける。

 

「そういう事になっているそうだ。」

 

「何だ?裕介。その・・・哲学部というのは?」

 

「知らん。しかも勝手に部員に・・・きめ”ッ!?

 

・・・・が・・!

太田さんが達樹の死角から俺の脇腹にボディブローを叩き込んできた。

 

「・・・・・・〜〜〜〜!!!」 ←悶絶

 

「おい?裕介?・・・・なんだお前、こんなところで急にしゃがみ込んで・・・・。」 (汗)

 

「おほほ!彼、今はちょっと疲れてるみたいなの。

 わ、私達は南海高校の哲学部の人間ですわ。

 この長瀬裕介くんも先日、哲学部に入部したばかりで

 私達としても彼に戸塚へ戻ってもらうと具合が悪いのよ。」

 

「裕介が・・・部活に・・・!?

 信じられない・・・・そんな協調性があったとは・・・。」

 

・・・マテヤ達樹・・・・ゲフッ・・・。

 

「しかし君達の事情は分かったが、それは裕介自身の問題であって、

 決めるのは裕介だと思うんだが、違うかな?

 俺達は彼に復学の機会を作っただけだ。」

 

「う・・・そ、それは・・・そうだけど・・・。」

 

「ゲホッ・・!!ゲホッ・・・!!や、やっと・・・呼吸が・・・。」

 

「ど、どうなのッ!長瀬くんッ!!」

 

「どうするんだい?裕介?」

 

「えっと・・・だ、だから俺は・・・。」 (;´Д`)

 

「このまま・・・南海高校だっけ?

 そこにいても・・・失礼。みなさん、気を悪くしないでくれ。

 だけど、実際問題としてそこの高校の授業レベルは戸塚と比べてどうなんだい?」

 

「それは・・・・・。」

 

長瀬ちん、ぴんち。

 

「どうなの!?長瀬くん・・・?」 ジロ〜

 

「・・・長瀬ちゃん。」 しょぼ〜ん

 

「長瀬くん・・・。」 ジーーー

 

長瀬ちん、だぶるぴんち。

 

「・・・達樹・・・・少し、時間をくれないか?」

 

「・・・・・・・・分かった。では3日待とう。」

 

「た、たった3日ぁッ!?」

 

「悪いがこれ以上は待てないんだ。」

 

「な、なんでだよ?」

 

「裕介。これは特例なんだ。

 4日後の戸塚生徒議会までに決まらないと、

 流石に他の連中を抑えきれないからな。」

 

「・・・円卓会議・・・メロリンQの連中か・・・。」

 

俺はそう呟くと眉を歪ませた。

 

「ハ・・?長瀬くん、ナニソレ・・・?」

 

「戸塚生徒議会― 通称円卓会議。

 戸塚の実力者達が集まって学校内の物事を決議するのさ。

 これがうちの校風でね。教師はこれに関しては全く関与出来ないのさ。

 でだ。その円卓会議の中でも特に発言力が強い12人をメロリンQと言うのさ。」

 

「・・・はぁ?その訳の分からないネーミングはどこから・・・・

 

「聞くな。」 (汗)

 

「ただでさえ、今の時期は来月の学園祭について議会が荒れてるんだ。

 ここでお前の特例を槍玉に挙げられるのは目に見えてる。」

 

「荒れてる・・・?なんで?」

 

「学園祭のゲストにエスパー伊藤を呼ぶか、江頭2:50を呼ぶかで揉めてるんだ。」

 

「どっちもいらねーよ!」

 

「お前も知ってるとおり、俺と美里、そして河田の3人を除いた

 残りのメロリンQの連中の中には、お前を快く思っていない奴らがいるのさ。」

 

「・・・・まぁ、そりゃそうだろうな。」

 

「どうしてなの?」

 

「・・・・俺が・・・メ、メロリンQの一人だからさ。」

 

「・・・・・・プッ。」

 

・・・・・今笑った・・・。笑いやがった・・・・。

・・・・・・・・だから言いたくなかったんだ・・・・・。

笑いを堪えて小刻みに震えている太田さんを見て、

俺は心底メロリンQと命名した人間を恨んだ。

 

「とにかく・・・3日だ。裕介。・・・それ以上は待てない。」

 

「・・・分かった。」

 

「良い返事を期待している。自分自身の将来について、よく考えてくれ・・・。」

 

そう言うや否や、達樹は踵を返してヘリの中へと戻っていった。

キュンキュンキュン・・・・・・・・

バラバラバラバラバラバラバラ!

ヘリのエンジン音が鳴り響き、ローダーのけたたましい騒音と強風が吹き荒れる。

続いて河田が俺の目の前へやって来ると、

 

「長瀬くん。戸塚へ戻ってきて下さい。僕からも御願いします。」

 

「・・・・・・・よ、よく考えとくよ・・・。」

 

「では。」

 

達樹に続いて河田もヘリへと乗り込む。

 

「裕介・・・。」

 

「美里。」

 

「どうしちゃったの・・・裕介・・・。」

 

「な、何がだよ?」

 

「あれだけ、オックスフォードに行くんだ!って言ってたじゃない。」

 

「う、うん。言ったぜ。」

 

「戸塚に帰ってくれば、またハイレベルな授業が受けられるんだよ?

 教師陣の中にだって裕介の事心配してくれる先生がいるんだよ?

 それに・・・裕介のファンの子達だって・・・・・。」

 

「え?俺のファン!?」

 

「も、もう!そんなところだけ反応しなくてもいいの!

 と、兎に角・・・裕介は戸塚じゃなきゃダメなの!」

 

「は、はぁ・・・。」

 

「・・・・じゃあ・・・待ってるよ・・・?」

 

意味深な言葉を残して美里もヘリへと乗り込んでいった。

バララララララララララッ!!!

ヘリが轟音を上げながら駐車場を飛び立っていく。

ピーポーピーポー♪

ちょうどその時、救急車がようやくこちらへ到着した。

バタンッ!ゴ〜

横の扉や背面の扉から救急隊員達が出てくる。

 

『な、なんだぁ?あのヘリコプターは・・・!?』

『君達かい?連絡をくれたのは!?』

 

「はい!よろしく御願いします!」

 

藍原さんがテキパキと救急隊員達を先導した。

 

『うぉ!?随分沢山いるな・・・!!』

『見たところ外傷は大した事ないみたいだが、どういった症状かね?』

 

救急隊員の傍にいた生徒会員の一人が突然ムクリと起き出す。

 

『アオッ!ディ〜ス。ディ〜ッス。

 この壷いいでしょ?これもボクが買ったんだよ。

 オ〜プリ〜ズ!ステューピッド!ステューピィィッド!』

 

まだ毒電波が体から抜けきってないようだった。

 

『こ、これはイカンッ!』

『すぐさま既知街精神病院へ搬送するぞ!』

・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

ぽーん・ぽーん・ぽーん

・・・真っ暗で何もない空間に私は佇んでいた。

ここ何処なんだろう・・・・?

なんで私はここにいるんだろう・・・?

色んな疑問が湧いたかと思えば、数秒後にはどうでもよくなっている。

そんな状態が何度も何度も繰り返される・・・・。

だけどそれが苦痛でもなく、心地良くもなくて・・・・。

子供の頃、飼っていた金魚が泳いでいる水槽を眺めて

一体この子は何を考えているのかな?って思ったけど

ひょっとしたらあの子が感じていたのってこんなのだったのかな?

ぽーん・ぽーん・ぽーん

なんの音かな・・・よく聞いた音なんだけど・・・。

・・・・あ、そうだ・・・この音だね。ふふ・・・・・。

私はず〜〜っとバレーボールをバウンドさせてたんだ。

ぽーん・ぽーん・ぽーん

ボールが規則的に弾む・・・・振り子時計のように・・・・。

その単純な動作がずっとずっと失敗する事なく、

永遠に続くような気がする・・・・このまま・・・永遠に・・・・。

でも・・・それでもいいよ・・・なんだかどうでもいいんだもん・・・・。

ぽーん・ぽーん・ぽーん

 

『本当にそれでいいのかい?』

 

ッ!?

ドッ・・・・たーんたーんたんたん・・・・・ころころころ・・・・・。

・・・・あぁ・・・失敗しちゃった・・・・。

私の掌と真っ暗な地面を反復していたボールは、

軌道を逸れ、3、4度バウンドした後ゆっくりと転がっていく。

ころころ・・・・・とすん。

そのボールが誰かの足元に引っかかってようやく動きを止めた。

ボールから足元へ、そしてそのまま視線を上に上げていく・・・・・。

その人の顔が暗闇の中から現れた・・・。

 

「・・・・・あ・・・。」

 

『・・・遅れてごめん。』

 

「ゆ・・・裕・・くん・・・・。」

 

『・・・助けに来たよ。』

 

「助け・・・に・・・?」

 

『あぁ・・・さぁ・・・帰ろう。』

 

そっと裕君が私に手を差し伸ばした瞬間、私はその場をたじろいだ。

 

『沙織ちゃん・・・?』

 

「・・・嫌・・・。」

 

『えッ!?』

 

「このままで・・・いいの。」

 

『・・・・・・どうして?』

 

「・・・・・・・・・。」

 

『沙織ちゃん・・・。』

 

「・・・・・くない・・・。」

 

『?』

 

「現実は優しくないもんッ!!」

 

気が付けば、ぽろぽろと涙を流して私は裕君に叫んでいた。

 

「だって・・・!そうでしょ!?

 大好きだったバレーでやっていけなくなったもん!!

 あれだけ・・・頑張ったのに!!

 現実は冷たいよッ!!ちっとも優しくないッ!!」

 

溜まりに溜まった心の中のドロドロとしたものを、成すがままに裕君に叩きつける。

 

「結局世の中不公平だよぉ!嘘ばっかり!

 努力すればするだけ、虚しいだけなんて・・・そんなの酷いよ!!」

 

『・・・・・・・・。』

 

「ぐす・・・ぐすん・・・・ふぇ・・・ふええん。」

 

『あぁ・・・現実は冷たいよ。』

 

ビクッ

 

『確かに現実は冷たい。思い通りにいかないよ。

 生きる事を止める人達の気持ちだって分かるよ。』

 

「・・・・・・・・・。」

 

『だけど・・・・ここにいても・・・何も始まらない。』

 

「だから・・・いいのよぉ・・・何も起きないんだもん・・。」

 

『そうか・・・・じゃこのままそこにいなよ。』

 

「え!?」

 

突き放したような裕君の言葉に、思わず絶句する。

 

「ゆ、裕君・・・?」

 

『だけど、沙織ちゃんも勝手だよ。

 このままがいいだって?本当にこのままでいいのかい?

 このままだと沙織ちゃんは現実世界へ戻ってこれないんだぜ?

 これがどういう事が分かってるのかい?』

 

「・・・・・・・・。」

 

『沙織ちゃんの帰りを待ってる人がいる事を忘れてないかな?』

 

「ッ!!」

 

裕君が暗闇の先に向かって手を差し伸ばすと・・・・

ポォォォ・・・・。

暗闇の先に光が現れ、古びたスクリーンに映し出された映写機の映像みたいなものが見えた。

その映像みたいなものには・・・・私のパパやママが・・・。

 

『沙織・・・沙織・・・!』

 

ママが泣きながらベットに寝っている私の手を握り締めている。

 

『・・・身体的には全く損傷が見受けられないのですが・・・・

 意識の回復する兆しが・・・・見られません。

 申し訳御座いませんが、今のところ原因が全く掴めない状況でして・・・

 

『沙織・・・駄目じゃないか・・・・ママをこんなに泣かせ・・・ちゃ・・・・。』

 

ママの横でパパが静かにそう呟く。

・・・よく見ればパパの目の下には大きなクマが出来ていた。

 

「パパ・・・ママ・・・・。」

 

『おじさん、おばさんだけじゃない。』

 

パッ

画面が切り替わったかと思えば、今度はクラスの友達や桜や茜の姿が映し出された。

 

『沙織ッ!沙織ッ!!』

 

『桜さん・・・落ち着いて・・・下さい・・・!』

 

『ちょっとぉ!勝手に死ぬんじゃないわよッ!!』

 

『桜さん・・・勝手に殺さないで下さい・・・!』

 

『沙織ちゃんッ!早く戻ってきてよぉ!最新刊のバキ!楽しみにしてたじゃないのぉ!!』

 

『わぁああん!!』

 

ガクン

私は力なく膝をついてペタンと座り込んだ。

そしてポロポロと涙を流していた・・・。

 

「・・・あ・・・・あ・・・・私・・・私・・・・。」

 

ス・・・。

 

「・・・あ。」

 

裕君が私の前に屈むと、そっと優しく私の頭を撫ぜた。

私が涙でグシャグシャになった顔で裕君を見ると、

彼はニッコリと微笑む。

 

『分かっただろ?みんな待ってんだから。

 あの子達だけじゃない。先生も、クラスメートも、そして俺も。』

 

「・・・うん。・・・ヒック・・・ごめん・・・ね!」

 

『よし!んじゃ分かってくれたようだし。』

 

そう言うと裕君はスクッと立ち上がって、私の手を握ってきた。

 

『さぁ、帰ろう。アイスクリームを食べに行かなくっちゃね。』

 

「・・・・うん!」

 

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

「・・・・・・・・。」

 

「沙織ッ!沙織ッ!!見える?ママよ!」

 

「・・・・・ママ・・?」

 

「あぁ・・・なんて・・・・!良かった・・・本当に良かった・・・・!」

 

ママはそれだけ言うと私に抱きついてワンワンと泣きじゃくった。

 

「ちょっと・・・ママ・・・痛いよぉ。」

 

ふと視線をあげると、すぐ後ろにパパも立っていた。

 

「お帰り・・・沙織。」

 

「・・・・ただいま。パパ。」

 

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

「・・・・・・・・。」 ポケー

 

「大丈夫?長瀬ちゃん。」

 

南海高校の屋上で呆けている俺に、瑠璃子さんが紙パックのキャフェオレを差し出してきた。

 

「あぁ〜、あ〜り〜が〜と〜・・・。」

 

「もう、長瀬ちゃん顔が崩れてる・・・クスクス。」

 

「流石に・・・人の深層意識にまでダイヴするのは・・・・疲れた・・・・。」

 

沙織ちゃんの意識を取り戻す為、随分と無茶な事をした俺は、

ここ数日倦怠感にとらわれて、何もする気が起きてこなかったのだ。

 

「おつかれさま♪・・・でも、長瀬ちゃんはホントすごいよ。」

 

瑠璃子さんがニコニコしながらチュ〜とキャフェオレをストローで飲む。

 

「天才ですから。」

 

「も、もう〜。クスクス。」

 

「ところで太田さんは?今日、見かけてないけど・・・。」

 

「あ・・・香奈子ちゃんは・・・病院へ・・・。」

 

「そうか・・・・拓也さんの・・・ところか。」

 

出来れば俺が拓也さんを救ってあげれば良いんだけど、

拓也さんの場合は長い間フェイクに人格を乗っ取られていたし、

今回の沙織ちゃんのような症状とはまた別格だったので、

下手に俺が刺激しない方がいいと判断したのだ。

それに万が一という事もある。

それは俺自身があの円周率の無限連鎖に巻き込まれるかも知れないからだ。

・・・・あの時、確かに俺は拓也さんの意識を感じ取った。

だけど2日経った今でも意識が戻らないのは、

多分拓也さん自身が意識層で何かしらの問題があるからかもしれない・・・・。

 

「後は・・・拓也さん本人に賭けるしかないか・・・・。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

「あッ!ご、ごめん・・・こんな事瑠璃子さんの前で言う事じゃないよね・・・。」

 

「ううん。いいの。長瀬ちゃんは頑張ったもん。

 ワタシはとっても感謝してるの・・・・香奈子ちゃんだってそうだよ。」

 

「そうか・・・そう言ってくれると俺も助かるよ・・・・。」

 

チュウゥゥ・・・ズズッ

 

「・・・このキャフェオレ、美味いけど量が少ないんだよね・・・。」

 

「・・・・・長瀬ちゃん。」

 

「ん?」

 

「戸塚・・・返事、明日で締め切りだね。」

 

「・・・・・・そうだね。」

 

「どう・・するの?」

 

「・・・・・まだ、決めてない。」

 

「あのね、ワタシ思うんだ・・・長瀬ちゃんは戸塚に帰った方がいいよ。」

 

「え!?」

 

てっきり引き止めてくれるのかと思っていた瑠璃子さんの言葉は、

意外にも俺の戸塚復学をプッシュするものだった。

 

「ど、どうして?だってほら、俺、哲学・・・

 

「もう・・・哲学部は必要ないし・・・それに、長瀬ちゃんには

 ちゃんとしたあるべき道があるんだもん。

 あの天露さんの言う通りだよ・・・長瀬ちゃんは小さな南海市の中で

 収まるような人間じゃないなぁって、正直あの時思っちゃった。」

 

「瑠璃子さん・・・。」

 

「えへへ・・・ここへ来たのは、単なる寄り道だったんだよ。

 ほら、長瀬ちゃんが過去に忘れてきた大切なモノを見つける為の・・・ね?」

 

「・・・・嘘つきだな。」

 

ぽふっ

 

「・・・あ。」

 

俺はわざと怒ったように唇を尖らせると、瑠璃子さんの頭に掌をのせた。

 

「嘘ばっかじゃん。行って欲しくないって思ってるくせに。」

 

「・・・・!!」 かぁぁぁ

 

瑠璃子さんの顔が真っ赤になる。その様子を見ていると面白い。

 

「も、もう!!長瀬ちゃん、電波を使って心読んだでしょ!!」

 

ぽかぽか

瑠璃子さんが頬を膨らませながら俺の頭をゲンコツで叩いてくる。

 

「ハハハハ!ごめんごめん!でもやっぱ電波はこういう時に有効活用しないとね!」

 

「それは悪用って言うんだよぉ!」

 

「・・・・有難う瑠璃子さん。」

 

「・・・・・長瀬ちゃん。」

 

「俺・・・決めたよ。」

 

― 月島記念病院 ―

【月島 拓也 男性18歳】

ピッ・・・ピッ・・・・。

 

「いよいよ明日ね・・・長瀬くんが戸塚に帰るのよ。」

 

「・・・・・・・・。」

 

「貴方もいい加減目を覚ましたらどう?拓也。」

 

「・・・・・・・・。」

 

「あ〜あ、折角あの人格を倒したのに、貴方が植物状態なんて笑えないわね。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

「ほんと・・・笑えない・・・わよね。」

 

ピッ・・・ピッ・・・・。

 

「・・・・全くだ・・・それは・・・笑えないね。」

 

「え?」

 

ピッ・・・ピッ・・・・。

 

「たく・・・や・・・?」

 

「やぁ・・・おはよう・・・今何時・・・?」

 

「たくや・・・拓也なの?」

 

「フフフ・・・僕が、拓也じゃなかったら誰なんだい?」

 

「お帰り・・・拓也・・・・・!」

 

「相変わらず、難しい顔してるね・・・。」

 

「・・・・〜〜〜。」

 

「あれ?香奈子・・・目から水が出てるよ?」

 

ボカッ!

 

「痛て・・・・。」

 

「バカッ!!貴方、どれだけ私が心配したと思ってるのよッ!!」

 

「ちょっと待ってくれよ・・・僕は病み上がりなんだよ?」

 

「この・・・クサレボンボンッ・・・!」

 

「うわ。さりげなく酷い事言うね、君。」 (汗)

 

「〜〜〜〜。」

 

ぎゅっ

俯いたままの太田さんを拓也さんはそっと自分に抱き寄せた。

 

「お腹・・・空いたな・・・。」

 

「バカ・・・・。」

 

「少し体重・・・・減ったんだね。軽くなったよ・・・。」

 

「・・・今度体重の事言ったら・・・・殴るから・・・ね・・・・!」

 

「ただいま・・・香奈子・・・。」

 

キ〜〜ンコ〜〜ンカ〜〜ンサ〜〜イシュ〜〜カ〜〜イ♪

 

「おはよう♪」

 

『沙織ィ〜!もう大丈夫なの!?』

 

『あー!!沙織ちゃんフカーツ?』

 

「うん♪もう全ッ然平気ッ!ホラ、この通り♪」

 

ボグッ

 

「あふん!」

 

『フッ沙織、この程度のボディブローで耐えられないようじゃまだまだね。』

 

「も、もう!私はグラップラーじゃないもんッ!」

 

『アハハハハ!』

 

「アハハハ!・・・・と、ところでさ・・・・。」

 

『うん、どうしたの?』

 

「ゆ、裕君は今日はまだ来てないのかな?」 かぁぁぁ

 

『・・・・あ・・・。』

 

「?」

 

『・・・・その・・・(言っちゃっていいのかな?)』

 

「どうしたの?」

 

『沙織・・・知らない・・・の?』

 

「ほぇ?」

 

『あのね、噂で聞いたんだけどね。長瀬くん・・・今日、転校なんだって・・・。』

 

「・・・・・・え?」

 

― 南海高校哲学部 ―

バァンッ!!

哲学部の扉が勢い良く開かれた。

 

「ちょっと、太田さんいるッ!?」

 

「し、新城さん・・・。」

 

「藍原さん、太田さんは!」

 

「うるさいわねぇ〜、そんな大声上げなくてもここにいるわよ。

 って、あら?新城さん。もう体の方は大丈夫なの?」

 

「なに呑気にLalaなんか読んでるのよッ!!

 裕君、今日転校って聞いたんだけどホントなのッ!?」

 

「・・・・・・・。」

 

「・・・・・あ。」

 

藍原さんはそれを聞くや否や視線を逸らした。

太田さんは読みかけのLalaを閉じると、気だるそうに答える。

 

「ホントも何も、彼、今ごろ緋月空港に向かってるわよ?」

 

「ッ!!」

 

「まぁ、所詮私達とは住む世界が違ってたのね・・・。」

 

「何言ってるの?本気ッ?!月島さん!月島さんは!?」

 

沙織ちゃんが窓際の方へ視線を移すと、瑠璃子さんが体育座りをして外を眺めていた。

 

「・・・・・・・。」 しょぼ〜ん

 

「ちょっと、月島さんッ!」

 

「長瀬ちゃんが・・・決めた事だから・・・仕方・・・ないよ。」

 

わなわな・・・・。

沙織ちゃんの両肩が小刻みに震えだす。

 

「みんな・・・どうしちゃったのッ!!

 どうして止めなかったのッ!?

 変だよッ!!みんな裕君に居て欲しいくせにッ!!」

 

バンッ!!

 

突然太田さんが机に掌を叩きつけて立ち上がると、沙織ちゃんに詰め寄った。

 

「そりゃ止めれるものなら止めたかったわよッ!!」

 

「だ、だったらなんで・・・・!!

 

「長瀬君の人生よ!私達の我侭で彼を引き止めれる訳ないじゃない!

 貴方、一流のバレー選手にブタミントンやってろって言える!?

 天才に公文式の小学一年生のドリルやれって言える!?

 次元が違うのよッ!!彼の為ならむしろ笑って送ってあげるべきじゃないのッ!?」

 

「うぅ〜!!」

 

「ガルルル!」

 

― ぽつり「違うの・・・。」

 

!?

 

「違うの・・・・・・長瀬ちゃん、多分私達の為に・・・・。」

 

「ッ!?」

 

――― 俺、戸塚に戻るよ。

――― え?

――― まぁ、やっぱりもっと勉強したいしね。

――― ちりちり

 

長瀬チャンノ、嘘ツキ・・・。

 

「お兄ちゃんも元に戻ったし、香奈子ちゃんの体も元に戻ったし・・・。

 こんな事言うのはよくないと思うけど・・・

 もう哲学部も必要じゃない・・・・よね?

 みんな今までの幸せな生活に戻れる・・・・。

 長瀬ちゃんは・・・これ以上居るのは邪魔になるだけだって・・・・。

 だから、笑いながら・・・・俺にはここの生活は眩し過ぎるって・・・・。」

 

瑠璃子さんの言葉を聞いて太田さんの表情に険しさが増した。

 

「何よ・・・それ、なに格好つけてんのよ・・・・・!!」

 

「月島さんは、それでいいの?」

 

「・・・・良い訳・・・ないよ・・・良い訳ないに決まってるよ!!

 

瑠璃子さんが珍しく大きめの声を張り上げた。

直後静寂に包まれた部室に、藍原さんの声が響き渡った。

 

「私も・・・このままじゃいけないと思います。香奈子ちゃん・・・。」

 

ガララッ!

太田さんが無言のまま部室の扉を開けた後、

瑠璃子さん、沙織ちゃん、藍原さんを真っ直ぐと見つめた。

 

「・・・・おほん。」

 

わざとらしい咳払いをした後、グッと拳を握りしめて微笑んだ。

 

「行くわよッ!!緋月空港へッ!!」

 

ガララッ!!

 

「先生ッ!山岡先生ッ!!」

 

『おま〜ら、頼むから朝のホームルームくらいはちゃんと出席・・・

 

「おだまりッ!!」

 

『ひっ!?』

 

「先生ッ!車を、車を貸してくださいッ!!」

 

『あ、藍原。何を言って・・・

 

「いいからキーを出しなさいッ!!」

 

『は、はひッ!』

 

チャララ・・・

ハシッ

 

「行くわよッ!!」

 

『待て!太田ッ!おまっ・・・免許ッ!!』

 

「免許なら持ってるわよッ!!」

 

ビシィ

 

『そ、それ原付の免許だろがぁ〜!!』

 

「ゲーセンの湾岸ミッドナイトを100円でクリア出来るわよ!」

 

『そ、それゲームだろがぁッ!!』

 

そう言うや否や疾風の如く教室を出て行き、裏の教職員用の駐車場へ駆け下りると

山岡教諭の愛車、インテグラへ乗り込む哲学部4人。

ヒャヒャヒャヒャヒャッ!

ブロロロロ〜〜〜!!

 

『ひぃぃぃ!!俺のインテグラ、まだローンが28回も残ってるんだぞぉぉぉ!!!』

 

― 緋月空港 ―

キィィィーーーーーン

国内線の出発口のロビーに達樹と美里が佇んでいる。

 

「そろそろ約束の時間だな・・・。」

 

「ねぇ・・・達樹・・・。」

 

「ん?」

 

「裕介・・・来るよね?」

 

「そうだなぁ・・・。来ない要素はどこにも見あたらないからなぁ・・・。」

 

コツ・・・コツ・・・コツ・・・・。

そこへ大き目のスポーツバッグをぶら下げた俺がやって来た。

 

「裕介ッ!!」

 

「やっと来たか・・・。」

 

「よ、お待たせ。」

 

よっこらせっという具合にバッグをその場へ下ろす。

 

「フッ。ここへ来たと言う事は、決心がついたみたいだな。

 まぁ・・・別に決心なんて言うほど大げさなものじゃないか・・・。」

 

そう言って達樹が苦笑する。

 

「あぁ・・・決心がついたよ。すまなかったな。色々面倒かけて。」

 

「気にするな。俺が好きでやった事だからな。」

 

「もう〜!裕介遅いよぉ〜!ちょっとハラハラしちゃったんだから!」

 

「ごめん、美里。美里にも迷惑かけたな。」

 

「でだ、裕介。聞くまでもないが返事を聞いとくか。」

 

「あぁ、そうだな。俺は ―――

 

キキィィ〜ッ!!

ガツンッ!!

フロントと左側のサイドが大きくヘコんだインテグラが

緋月空港の駐車場へ停車し、女子高生4人組が降り立った。

 

「も、もう〜!!太田さんッ!ぶつけたのこれで3回目だよ!」

 

「し、仕方ないじゃない!ちょっとゲーセンのと勝手が違うんだから・・・!」

 

「クスクス・・・香奈子ちゃん、ハンドリングとブレーキのタイミングが

 

「それよりも長瀬ちゃんを!!」

 

「「「そうよッ!」」」

 

ズダダダ!!

 

― 大日本航空 226号便 11:40発 3番搭乗口 ―

 

「確かあれですッ!あの飛行機です!」

 

「もうッ!緋月空港なんて普段来ないから・・・3番搭乗口って何処よッ!」

 

「え〜っと、こっちが7番だから・・・え〜っと!!」

 

ちりちりちりちり

 

― 長瀬ちゃん・・・長瀬ちゃんのいるところは・・・・

 

「香奈子ちゃん!みんな、こっち!こっちに長瀬ちゃんが・・・!」

 

「あっ!?こっちです!3番搭乗口はこっちですぅ!!」

 

「急ぐわよ!もう時間が・・・!!」

 

「う・・・私ちょっとさっきの運転で酔っちゃったよぉ・・・。」

 

バタバタッ!!

ようやく3番搭乗口前まで辿り着いた4人組。

瑠璃子さんが立っていた空港の係員に問いあわせる。

 

「すいません!226号便ってここですよね!?」

 

『え・・・・はい。226号便はこちらで御座いますが・・・

 ・・・・ですがもう226号便は・・・・。』

 

「あぁぁあああ!!!」

 

キィィィーーーーーーーーーーン

 

「・・・・・行っちゃった・・・・・・。」

 

「ちょっと、マジで!?」

 

「うそ・・・裕君・・・・。」

 

「間に合わなかったんです・・・か?」

 

し〜〜〜〜〜〜〜ん

重苦しい空気がその場に漂い始める。

たまたま場に居合わせた係員にはいい迷惑だ。

 

「そんな・・・私、まだ裕君に気持ち伝えてないよぉ・・・・。」

 

「私だって・・・長瀬君に本当の事言ってません・・・・。」

 

「長瀬ちゃん・・・・。」 しょぼ〜ん

 

「あ、あら・・・困ったわね・・・お、おほほほ♪」

 

― コツコツコツ

 

「・・・・あれ?みんなこんなところで何してんのッ!?」

 

!?

 

「長瀬ちゃん!」

「裕君ッ!!」

「長瀬くんッ!!」

「な、長瀬くん!?」

 

呆然とする彼女達に似た制服姿の女子高生達を搭乗口付近で見つけて、

俺は食べかけのソフトクリームを片手に近寄ってみたが、

やはり彼女達に違いなかった。

 

「あ、貴方こんなところで何してんのよーーッ!!」

 

がおーと言わんばかりの勢いで、太田さんが俺の襟首を掴みかかった。

 

「へッ!?何って・・・達樹達に返事するのとちょっと渡したいものがあったから・・・・。」

 

「はぁ!?」

 

「長瀬ちゃん・・・・戸塚へ帰るんじゃ・・・。」

 

「え?あ、あれ。あれか・・・。」

 

・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・。

 

「でだ、裕介。聞くまでもないが返事を聞いとくか。」

 

「あぁ、そうだな。俺は・・・・・やっぱ残るよ。」

 

「そうか、じゃあ早く搭乗手続きを・・・って何だとッ!?

 

「ゆ、裕介ぇ!本気なのッ!?」

 

「ごめん、本当にごめん。だけど、俺は・・・

 

「理由を聞く事くらいいいだろう?」

 

「あぁ。その・・・なんていうか。戸塚の環境は充実してるし、

 学校としては申し分ないよ。

 出来る事なら・・・俺も戸塚で勉強した方が良いと思う。」

 

「だ、だったらどうして・・・!?」

 

「戸塚や・・・今までいた学校と違うんだ・・・南海高校は。

 上手く言えないんだけど・・・暖かいっていうか・・・・

 戸塚に居た時はさ、もっと張り詰めたような空気みたいなものがあってさ。

 まぁ・・・それは俺が思ってるだけかもしれないけど。

 確かに、南海高校が戸塚に勝ってると言えば嘘になる。

 本読もうと思ったら中庭の端までいかなきゃならないし・・・

 食堂はいつも満席だし・・・変なの多いし・・・・。

 だけど・・・俺は残りの高校生活を・・・南海で過ごしたいんだ。」

 

「・・・・・・・・。」

 

「これって・・・わがまま・・・かな?」

 

「・・・・いや、お前がそこまで言うんだ。きっと良い学校なんだろう。」

 

「ちょ、達・・・・樹ッ!!」

 

何かを言いかけた美里をなだめながら、達樹が話を続ける。

 

「正直、驚いたよ。お前・・・本当に裕介か?」

 

「はぁ?どういう意味だよ?」

 

「戸塚の時のお前ってさ、もっとこう孤高な雰囲気してたけどな。

 ・・・・でも、今は良い顔してるぜ。」

 

「そうか。そうかもな・・・。」

 

「後悔はしないだな?」

 

「あぁ。」

 

「南海高校だと、海外の大学の推薦枠は無いだろうから、厳しいぞ?」

 

「まぁ、覚悟の上だ。何とかなるだろう。ハハハハ。」

 

俺は俯いている美里の傍まで寄った。

 

「み、美里。」

 

「・・・・・バカ。」

 

「ごめん。本当に俺、バカになったかもな。」

 

「・・・・知らないわよ・・・・バカ・・・・。」

 

「みんなによろしく伝えといてくれ。」

 

「・・・・・私も・・・・転校しようかな・・・・。」 ボソッ

 

「「えッ!?」」

 

「・・・・冗談よ・・・・バカ。」

 

ガバッ!

美里がそのまま俺に抱きついてきた。

 

「わっ・・・。」

 

「・・・・メロリンQの連中には、伝言ある?」

 

「う〜ん。くたばれって言っといてくれ。」

 

「・・・・・そんな事だから目の敵にされるのよ?」

 

「そうかもな。ハハハ。」

 

「・・・・・・フフフ・・・・。」

 

・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

 

「じゃあ俺達は行くぞ。裕介。」

 

「でも戸塚の学園祭には絶対来てね!」

 

「分かったよ。・・・って、あぁ!忘れるところだった!

 達樹・・・ちょっとこれ、持っていってくれないかな?」

 

そう言って俺は持ってきたスポーツバッグを達樹に差し出した。

 

「なんだこれ・・・って重ッ!!」

 

「いやぁ〜・・・すまん。」

 

「何が入ってるんだよ?」

 

「阿川達に借りた本と・・・戸塚の図書室の本・・・。」

 

照れながら笑う俺に達樹は呆れた表情を浮かべた。

 

「こんなに借りてたのかよ・・・どうりで図書役員が怒る訳だ。ハハハハッ!!」

 

・・・・そして俺は2人を見送った。

・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

「っという訳だ。」

 

ワナワナ・・・・。

あ、あり?

何だか様子がおかしい彼女達に気付いて、俺は後ろずさった。

 

「あ、あ〜〜の〜〜ね〜〜!」

「もう!間際らしい事しないで下さいッ!!」

「裕君のバカーッ!!」

 

ドカッ!バキッ!

4人に揉みくちゃにされる俺。

 

「た、滞在決定した俺に、このおもてなしはアリですか?」

 

ちりちりちり・・・・・

ったく・・・みんな怒ってるのか喜んでるのかはっきりすればいいのに・・・・。

まぁ・・・はっきりと分かってるけどね。

ちりちりちり

 

――― も〜、また電波を悪用してる!

――― あ、ヤベ。

 

見上げた視線の先には瑠璃子さんが微笑んでいる。

 

「お帰り・・・・・長瀬ちゃん!」

 

「ただいま、瑠璃子さん。」

 

 

 

See you on the other side

                    originaled by OZZY OSBOURNE

                    japanese transrated by tokimeki48000


Voices,                                          声
A thousand,thousand voices              幾千の声
Whispering,                                     ささやき
the time has passed for choices          あれこれ選び過ぎて時間が経ってしまった
Golden days are passing over,yeah       あぁ、素晴らしき日々が過ぎてしまったんだよ


I can't seem to see you baby              君が見えないんだよ
although my eyes are open wide          瞳を大きくこらしても


But I know I'll see you once more        でも分かってるんだ。俺はまた君に会える


When I see you,                   君を見つける
I'll see you on the other side          遠く離れていても見つけてみせる


Yes I'll see you                               あぁ会えるさ
See you on the other side                 遠く離れていても会おう


キィィィィーーーーーン

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

「ちぇ、裕介が来ないのなら、わざわざ民間の旅客機を使う必要なかったな。

 時間ズラしてチャーター便でも呼べば良かった・・・・。」

 

「・・・・・裕介のバカ。」

 

「しょうがないさ。本人の意思だ。」

 

「本当の事どうして言わないのよ!」

 

「まだその時じゃないからさ。学長の許可も下りてないし。」

 

「電波使いなんて100年に一度生まれるかどうかなのよ!

 更にそれを自在に操れる逸材なんて1000年に一度と言われてるのに・・・!」

 

「まぁ、ゆっくりと待つさ。」

 

「もう〜!達樹に任せた私が一番バカだったわ。」

 

「やれやれ。戸塚が能力者の素質がある人間を集めた政府機関だと

 裕介が気付くのはいつになる事やら・・・。」

 

「現状、一番の問題はメロリンQの連中でしょ!」

 

 

特級ッ!難解電哲 −終−

See you on the other side!