鬼兵般家長



DIE1話 鬼ぎり、ひとつだけ頂戴・・・



悪魔からの招待状を読んでしまった俺は、昨夜一睡も出来なかった。

おかげで四姉妹に追いかけられる夢は見ずに済んだけどな・・・。

12月も下旬にさしかかり、朝の寒さで窓はくもっている。

ストーブの上に置いた、やかんの吐く湯気を眺めながら物思いにふけった。

・・・・・・・さて・・・・どうしよう・・・・。

彼女らの事だ、俺が今日から休みになるのは百も承知だろう。

だが、なんで休みになった途端に俺が行かなくてはいけないのだろう?

・・・・・・・・・・ばっくれようかなぁ。

でも・・・・仕返しが怖いしなぁ・・・・・。

 

 

 

前回の3連休のとき、俺は多分に漏れず姉妹からのお誘いを受けた。

まぁ、連休があるごとに誘われる訳でもないし、いちいち行ってもられないのだが

たまたま、その連休中は千鶴さんの父親であった耕治さんの法要が重なったので

千鶴さんも仕事に休みを頂いて、みんなで集まろうって事になったのだ。

だがその時、俺は由美子さんと課題研究があったので、なんと行かなかったのである。

少し悪い事をしたかな?と反省はしたが、はっきり言えば行きたくなかったんだから仕方ない。

その日の夜、大学から帰宅すると留守番電話のランプが点灯していた。

はて?普段からあまりかかってこないので珍しいな。と思いながら

 

録音再生ボタンを押し、耳を傾けてみた。・・・・・すると。

 

 

(ピー、●月●日、午後1時40分)

『もしもし、千鶴ですぅ♪耕一さん、まだ家でしょうか?

 家族一同お待ちしてますんで、早くいらして下さいね♪』

 

 

 

 

(ピー、●月●日、午後3時10分)

『・・・・・・千鶴です。耕一さん?ひょっとしてもう出てますか?

 こちらは法要も終わって、今みんなで軽くお寿司を頂いてます。

 早くいらして下さいね。』

 

 

 

 

(ピー、●月●日、午後4時30分)

『・・・・・・・・・・・・・耕一さん・・・・・・・

 もしかして・・・・・・・・・・・・・・・バックレてるんですか・・・・?

 

 

 

 

 

(ピー、●月●日、午後5時20分)

『・・・・・・・・・・・貴方を殺します。』

 

 

 

 

 

(ピー、●月●日、午後6時10分)

『・・・・・・・・・・カサカサ・・・・・・・・・・・ザワザワ

 ・・・・・・・・フー!フー!・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ウゥ・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ツー・ツー・ツー。』

 

 

 

 

(ピー、●月●日、午後7時30分)

『もしもし?初音ですけど・・・・・・何してくれんだ?虎羅。

 おかげでこっちは大変だったんだよ!?

 千鶴のバカがヤケ酒飲みやがって暴れたから今、梓と戦闘中だし!

 ヒッキーは、やさぐれてトイレに立て篭もってるし・・・・・

 お兄ちゃんのアホーッ!!』

 

(ピー、再生が終了しました。)

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

 

 

行かなくてよかった。

 

 

2日後、大学判定模試を受ける為こちらへ出てきた梓に会うと、こっぴどく叱られた。

 

「今回ばかりは、耕一が悪いぞっ!そりゃ来たくないのは分かるが

 黙ってすっぽかすなんて幾らなんでも酷いじゃないかっ!」

 

「す・す・・・すいません。」

 

「ったく、あの後大変だったんだからな!姉貴が鬼の形相

 『耕一・殺』ってハチマキ巻いて包丁片手に出て行こうとするんだから

 こっちは必死で止めたっつーの!」

 

「仕方なかったんだよぉ。ゼミの研究論文の締め切りが迫ってて、忙しかったんだよぉ」

 

「だったらそれを先に言え!バカッ!次こんな事したら、もう知らないよ!」

 

「・・・・・・はひ。」

 

・・・・・・・・・・・・・・やっぱ今回はまずいよなぁ・・・・。

とりあえず、万が一に備えて荷造りだけでもしておくか・・・。

しぶしぶ腰を上げようとした矢先、電話が掛かってきた。

 

 

「ひっ!」

 

 

震えた手で受話器をとると

 

かちぁっ・・・・・・・

 

「は・・・はひ・・・・か・・・・かしわぎですけど・・・・」

 

「あ?もしもし、小出ですけど。耕一くん?」

 

「ゆ、由美子さん!?・・・・・よ、良かったぁ・・・・・。」

 

「?どうしたの?」

 

「い、いや何でもないよ。ところで、昨日の飲み会はどうだった?」

 

「えへへ、あんまり気が乗らなかったから、早めに切り上げちゃった。

 あ、ところで、いま時間空いてるかな?」

 

「え?・・・あ、あぁ。大丈夫だよ。」

 

「そう!?良かったぁ〜、今回の課題の事についてちょっと相談したいんだけど・・・いいかなぁ?」

 

「あぁ、『郷土史・伝承と地場産業』だったよね?いいよ、じゃぁ、いつもの店でいいかな?」

 

「ありがとう。助かるわ。じゃあ30分後に待ってるから。」

 

「了解、すぐ行くよ。」

 

ガチャッ

 

俺はそそくさと厚着に着替えると

いつもの喫茶店「石切代」に向かった。

カランカラン♪

「いらっしゃい」

「マスター、いつもの」

 

「やぁ、御待たせ。」

 

「クスクス、別に待ってないよ。私も今来たところだから。」

 

「ハハ、昨日の御礼に今日はおごるよ。」

 

「えぇ、いいの?ありがとう♪」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

1時間ほど二人で課題研究について議論した後、世間話になった。

 

「こ、耕一くんは今年の冬休みはどうするの?」

 

「ッ!!ゲホッゲホッ!」

 

「!?だ、だいじょうぶ?」

 

「ゴホッ・・・だ、大丈夫。ごめん。ところで・・・休みの事だったっけ?」

 

「うん、どこか旅行とか行くのかなぁって思って。」

 

「旅行かぁ、行きたいんだけどね。・・・・あれ?どうして俺が旅行好きなの知ってるの?」

 

「えっ!?・・・・・だ・・・・だって、耕一くんってなんか、一人旅とか好きそうに見えるもん。あはは。」

 

「ハハハ、なんだよそれぇ〜。ネクラな人間みたいだよぉ。」

 

「でも・・・・耕一くんって・・・あまり人と接しないね・・・・。」

 

「・・・・・・・・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・・・・・・・。」

 

「な、なに言ってんだよ。こうして由美子さんと話してるじゃないか。」

 

「あはは、ごめんね変な事言って。」

 

「まぁ、予定っつーか、そんなもんはあるけどね・・・。」

 

「え?」

 

「多分、冬休みは親戚の家に逝くと思うよ。・・・・・・・逝きたくないけどね。

 っつーか、連れて逝かれそうだけどね・・・・。」

 

「親戚って・・・・例の鶴来屋の?」

 

「うん。」

 

「たしか、4人姉妹だったっけ?耕一くんの親戚の人って・・・。」

 

「うん、4人死舞だよ。」

 

「それで、正月はずっとそこで?」

 

「だろうな・・・。」

 

「・・・・・・・・・・・・そっか・・・・・・。」

 

「?」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

「どうしたの?由美子さん?」

 

「えっ!?あ、ごめんなさい!ちょっと・・・考え事してたから。」

 

「ハハハ、そっか。ところで由美子さんの方こそ、どうするの?」

 

「私?私は・・・・・・・温泉でも・・・・・行こうかなぁ・・・・・・。」

 

「温泉?まぢで?あぁ、言っとくけど、鶴来屋だけは止めたほうがいいよ。

 露天風呂のお湯は多分、バスクリンだから。」

 

「あはは!耕一くん、身内の旅館の悪口なんて失礼だよぉ。」

 

「わははは!事実だけどね。」

 

結局トータル2時間くらい由美子さんとダベッた後、俺は喫茶石切代を出た。

気になったんだけど、由美子さんは話の途中から何故か物憂げな表情を浮かべていたのだ。

 

・・・・・・・俺、なんか悪い事言ったかな?

 

・・・・・・・時計を見ると時刻は13時をまわっていた。

さて・・・・どうしよう・・・。

15時までには特急の指定券を購入しないと、間に合わないや。

もう今日はやめよかな?

コンビニに立ち寄ってテックジャイアンを購入した後、

ふらふらと家に戻ると

 

!?

 

アパートの前に一台の見覚えのあるバイクが止まっていた。

・・・・・・・・・・・・・梓のZUじゃねーか・・・・・・。

他人のものかと信じたかったが、あの品のないマフラーの曲がり具合は

梓のものしか考えられない!

汗が滝のように噴出してきた。柏木塩田本日オープン状態。

おそるおそるボロい鉄階段を上がって玄関先を見ると・・・・・・・・・・

 

 

ライダースーツの梓が長渕剛のような眼つきで突っ立っていた。


 

(つづく)