鬼兵般家長



DIE17話 鬼夢遊腐食列島 〜自爆〜

 

俺なにしてんだろ・・・?

温かくて柔らかい感触に触れるうちに、正気に戻ると・・・・。

楓ちゃんに抱きしめられていた。

 

「・・・・・・・・・あ、あの・・・?」(滝汗)

 

「・・・・・・耕一さん(はあと)

 

ぎゅっ

 

おわわっ!?何故こんな状況に!?

やばいよ!こんなの千鶴さん達に見つかった日にゃ・・・骨も残らねぇ〜!

・・・・・でも、ちょっといいかも・・・。

 

「か、楓ちゃん・・・。」

 

「・・・・ふふ・・・なんですか♪」

 

「そ、そろそろ、帰りませんか・・・?」

 

「・・・・・もう少し、このままで♪」

 

ぎゅぎゅっ

 

あわわ・・・・え、えらいこっちゃぁ!

とりあえず為すがままの俺。

 

「そもそも・・・ここで何してたの?」

 

「・・・・・・昨夜エンジェル様と御話していたら・・・・・

 今日はここでチャネリングをしたら・・・・いい事があると教えてくれたのです。」

 

「ふ、ふ〜ん・・・で、いい事あった?」

 

「・・・・・・・・♪」 ぎゅ〜〜

 

ドツボだった・・・・・。

 

「あ、あのさ俺なんか腹減っちゃった。どこか食べに行かない?」

 

「・・・・そうですね。私もお腹がすきました・・・。」

 

そう言って、ようやく楓ちゃんは俺を放してくれた。

なんともバツが悪いので、頭を掻きながら

俺はとりあえず、楓ちゃんを連れて温泉街に戻ると、

俺行きつけの隠れた名店、軽食「鵜婆紗」に入った。

・・・・・・・・・・・。

2人で日替わりウバシャランチを黙々と食べていると、

珍しく楓ちゃんが話を切り出した。

 

「・・・・・鶴来屋で何があったんですか・・・?」

 

「ッ!!」

 

「・・・・・姉さんに何かされたのですか?」

 

険しい顔つきで聞いてくる。

 

「いや・・・大した事じゃないんだ。ちょっと俺の今後の進路の事で・・・」

 

「・・・・・・・嘘。あんなに動揺していたのに。」

 

「・・・・・・・・・・うぐぅ。」

 

「・・・・・耕一さん、私は貴方の妻ですよ。正直に教えて下さい・・・。」

 

「ご、ごめん・・・・・って、待て。楓ちゃん、ちょっと今の発言おかしくないかい?

 

「・・・・・男性が細かい事を言っちゃいけません。・・・・で、何があったのですか?」

 

こういう時の楓ちゃんの瞳には弱い。

普段電波な事を口走っている彼女だが、こと真面目な話をしている時の瞳は

透き通った黒い宝石みたいで、心が吸い込まれそうになる・・・・。

・・・・・・って、それって催眠術か何かじゃ・・・・?

仕方なく俺は出来るだけ紛争を避けるように、

足立さんに言われた事を最小限にまとめ、なおかつ千鶴さんのリアクションを省いて説明した。

・・・・・・・・・。

 

「で、逃げてきたという訳なんだ・・・・。」

 

「・・・・・・・・。」

 

「か、楓ちゃん?」

 

「・・・・・・・・・・あのアマァ。

 

「あひゃ!?」

 

ガタガタガタガタガタ

 

鵜婆紗の店内全体が楓ちゃんを中心に揺れているみたいだ。あわわ、かなり御怒りのようですぅ・・・。

 

「いや、落ち着いて楓ちゃん!これは飽く迄足立さんや、分家の人達の意見なんだよ。」

 

「・・・・・・耕一さん、甘いですよ。

 ・・・・明らかに姉さんの裏工作があるに違いありません!

 ・・・・・・どうせ、もう仕事が嫌だ。パートナーが欲しい。

 ・・・ぶっちゃけ結婚して夫が欲しいとかなんとか・・・グチをこぼしていたんです・・・!」

 

「そ、それはいくらなんでも・・・・。

 っつーか、出来ん子リーサラのぼやきみたいだね・・・・。」

 

「・・・・・・・アレならやりかねません。」

 

・・・・・・・・・・。

店を出てから歩いている時も、楓ちゃんは怒っていた。

内心はらわたが煮えくり返っているに違いない・・・・。

とりあえず今直ぐ家に帰る気がしなかったので、

俺は楓ちゃんを誘って、映画を見に行った。

「突き姫」とか言う、最近話題の映画だ。

内容は撞球の「死点」が見える青年のハスラー

凄腕ハスラーのシスター金髪の最強女帝ハスラー

はたまた嫉妬深い義理の妹ハスラー

骨肉のビリヤード争いを展開するという凄まじい内容だった・・・・。

って言うか、なんか俺の私生活とダブって痛々しかった・・・・。

となりの席の楓ちゃんを見ると、彼女にはツボだったのか?

大興奮しながらスクリーンに魅入ってた・・・。

 

『兄さんっ!殺してあげるっ!!』

 

『これが、究極マッセ、第7聖典ショットですっ!』

 

『・・・・・私のローボールを殺した責任、とってもらうからね・・・。』

 

『もう、こんなビリヤード、嫌じゃぁぁ〜〜!!!!』

 

・・・・・・・・・。

なんで、こんな映画が人気あるのか、さっぱり理解出来なかった・・・・。

つまらない時間を過ごして、ヘコみながら劇場を出ると、

目の前の通りに、見知った女の子がパタパタと走っていた。

 

「ッ!は、初音ちゃん!?」

 

「!!」

 

キキィ

 

初音ちゃんは立ち止まり、こちらを2秒ほど凝視すると

 

「お、お、お、お兄ちゃんっ!!」

 

いきなり怒鳴りつけてきた。

 

「は、はいっ!?」

 

「こんなところで、なにしてんのよぉ〜!!!探してたんだよぉ!

 ・・・・て、あれ?」

 

直ぐに初音ちゃんは俺の腕に抱きついている楓ちゃんに気付いた。

 

「・・・・・・・チャオ。」

 

「楓ねーちゃんっ!!な、どういう事なのっ!?」

 

「・・・・・・・デート。」 にやそ

 

「ッ!!」

 

初音ちゃんは、呆気にとられ絶句したが

直ぐに怒った顔に戻り、こちらを睨みつけると

 

「あ、あ、あ、あ・き・れ・たぁぁ〜〜!!」

 

「は、初音ちゃん、お、落ち着けよ!何か、あったの?」

 

「何かあったのじゃないよっ!千鶴がヒス起こして大変なんだよぉ!」

 

「は?ヒス?」

 

「・・・・・・ヒステリーの事です。」

 

「って言うか、楓だけズルイズルイィィ〜〜!!私も映画見たかったのにぃぃ〜〜!!」

 

バタバタ

 

と、その場で地団駄を踏む初音ちゃん。

なんか、おもちゃを買ってもらえなかったお子様にしか見えない・・・・。

 

「千鶴さんが・・・暴れてるの・・・・?」

 

「そうだよぉ〜〜!!何があったのぉぉ〜〜!?」

 

・・・・・・・・・・まさか・・・・。

 

俺のせいかよっ!!

 

「・・・・・・耕一さん、ほっときましょう。」

 

「お兄ちゃん、どうしよ〜!?」

 

どうしようって言ったって・・・今帰ったら逆に殺されるんじゃないのか?

 

「は、初音ちゃん、梓は?」

 

「梓は今日、部活の仲間と忘年会だって言って出てったんだよぉ〜!」

 

「まぢで・・・?んじゃあのキラーマシーンを止めるのって不可能じゃないか・・・。」

 

「まずいよ、このままじゃ家が壊れちゃうよぉ!っていうより、

 御近所の人が警察よんじゃうよ!」

 

「・・・・・・・一度ぶち込まれた方がいいんじゃない?」

 

「か、楓ちゃん・・・・それはちょっと・・・・。」

 

と、とにかく一度柏木家に戻って、様子を見なければ・・・・。

・・・・・って、もし千鶴さんが襲ってきたらどうしよう。

う、うぐぅ・・・。

なんか猛烈にトイレへ行きたくなった。

 

(俺の屍を越えていけ)