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ニクイ茜血苦笑発。突発的ゲリラリレーSS(笑)

 

ゴッド様が萌えてる

※< >は著者名(敬称略)

 

<タバコ>

「純夏萌え〜」

「祥子萌え〜」

混沌とした謎の挨拶が、くすんだ夜空にこだまする。

ゴッド☆元のお庭に集う超人たちが、今日も悪魔のような邪悪な笑顔で、

超人ショップの入り口を抜けていく。

汚れを知りすぎた心身を包むのは、スーツであったり学生服。

超人ゲーの山を崩さないように、白い目に晒されないように早足で歩くのがここでの常識。

もちろん遅刻ギリギリで走り去るなどといった愚行はせず、遅刻上等を掲げる超人が存在している。

国立魂血苦笑超人学園。

平成創立のこの学園は、もとはときめきと名乗る超人の趣味のために作られたという校である。

伝統無き葉っぱ系超人学東京都下。秋葉原の面影をむさ苦しいほどのこしているこの区画で、

ゴッド☆元に見守られ葉っぱから鍵ageまでの一環教育の受けられる超人の園。

時代は移り変わり、葉っぱが鍵から三回もあらたまったageの今日でさえ、

半月も通い続ければ萌えゲー育ちの不純培養の超人が社会の歯車となって出荷される、

という恐ろしい仕組みのある基調な学園である。?

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<星元>

「魂血苦笑」

「魂血苦笑」

生徒たちが挨拶を交わしている朝、十戒のように昇降口の生徒の群れが二つに割れていく。

「魂血苦笑、萌薔薇さま(ロサ・フェチダ)」

イケメンで黒いコートの人影が、颯爽と歩いていく。

「魂血苦笑、闘魂薔薇さま(ロサ・アントン)」

世界のロ●コンと書かれたガウンが朝の光に輝く。

ため息をつきながら見守る人垣の中に、一年うらりんご組広瀬凌の姿があった。

萌薔薇と闘魂薔薇、この学園の生徒会「萌百合会」のメンバーである。

本来萌百合会は三人の薔薇とそれぞれの妹、更にその妹の3学年で構成されている。

現在そのうちのひとつの薔薇が空位であることから、

「いったい誰がそのひとつを埋めるのか」がもっぱら学園の話題をさらっていた。

義妹薔薇、自爆薔薇、切番薔薇などが主な候補には挙がっている。

闘魂薔薇がふと足を止める、そこは広瀬の前であった。

「あなた、タイが曲がってるわよ」

タイとは、うぐうと文字が刻まれたタイヤキ型の校章である。

憧れの闘魂薔薇にタイを直され、広瀬の胸は恥ずかしいやらドキドキやら。

「これはナイスなシーンね」

思わず写真部のコロスケがシャッターを切る。

タイを直し、立ち去っていったロサ・アントンの背中をいつまでも見送る広瀬であった。

すべては、そこから始まった。

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<Y(お)2(じ)y(き)>

「……あら、魂血苦笑、自爆薔薇様(ロサ・メガンテ)」

「……誰かと思えば、朋友……もとい義妹薔薇様(ロサ・シスコン)、奇遇ですわね」

学内の廊下で偶然顔をあわせた二人――頭にきのこをつけた生徒と、

頭に『幸せ育成計画@やっぱり猫が好き』というボードをつけた生徒が、そう挨拶を交わす。

自爆薔薇、義妹薔薇。かつては互いに『朋友』と呼び合い、硬い萌えの絆で結ばれた二人も、

今は空位となった萌百合会薔薇の椅子をめぐり、火の粉を散らすライバルとなっていた。

と、見詰め合って視線を飛ばす二人の下に、二人の生徒が同時に駆け寄ってきた。

「「お姉様!」」

駆け寄ってくる、二人――自爆薔薇のつぼみ(ロサ・メガンテ・アンブトゥン)雷星と

義妹薔薇のつぼみ(ロサ・シスコン・アンブトゥン)KOK。

元々はそれぞれの薔薇様の『師匠』であった二人だったが、

常識ではありえない急成長を遂げた二人に追い抜かれ、

今ではつぼみの地位に納まっているのである。

「お姉さま、あのロリに何かされたんですか!?」

「お姉さまの方こそ、あの義妹萌えに何か変な知識植え込まれたんじゃ……近親相姦マンセーとか」

つぼみたちはそれぞれのお姉さまに駆け寄ると、

相手をじろっとにらみながら口々にそんなことを叫ぶ。

ひとつの『薔薇』の椅子をめぐって熾烈な争いを繰り広げている両陣営の抗争と対立は、

既に殺伐としたものになっていたのだ。

「なんですって!うちのお姉さまのどこがロリコンなのよ!

 そりゃ、はじるす、はじいしゃ、先生だいすき全部コンプしてるけど!」

「うちのお姉さまがいつ近親相姦マンセーなんていったのよ!

 うちのお姉さまは、血のつながっていない『義妹』にしかハァハァしないわ!」

フォローになってるんだかなってないんだかわからない妹たちの叫びに、

薔薇二人は微妙な表情で額に汗を浮かべていた。

そんな風に、両陣営の空気が緊迫の一路を突き進んでいたときだった。

「おやめなさい、あなたたち!」

一同は、声のした方を振り向き、一斉に表情を青ざめさせた。

「「「「きっ……北にはさらわないで〜!」」」」

恐怖の悲鳴を上げて、四人はいっせいに逃げて行った。

「わっ、私は北のスパイじゃないわ〜!」

涙を浮かべて叫ぶ、怪しい風貌の生徒。

『ただ、喧嘩を止めようとしただけなのに』

双子薔薇(ロサ・デュオ)会長の、切ない悲鳴が、廊下にむなしくこだました――

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<星元>

一人残されたロサ・デュオにいきなり何者かが抱きつく。

「ぎゃっ」

「そんな恐竜の赤ちゃんみたいな声を出しても駄目よ、さあ来て貰いましょう」

それは萌薔薇さまことときめきであった。

「すまん、更新の事なら待って・・・」

「ああ、そんなことは後回しよ、とにかく一大事」

「???」

会長は、訳も分からずに連れて行かれてしまった。

「で、結局萌百合会の手伝いなの?」

ここは校舎とは離れになっている生徒会室通称「虎羅の館」。

萌薔薇の朋友である双子薔薇は時々手伝いにきているのである。

「そうなの、今度の学園祭で萌百合会主催の劇『シンデレラ』のことなんだけど・・・」

そこで闘魂薔薇が言葉を引き継ぐ。

「主役のシンデレラを、一般公募で生徒から選ぼうと思うの」

きな臭い話には目ざとい双子薔薇が聞く。

「それは、ただの女優を選ぶわけではないようね」

萌薔薇と闘魂薔薇が目線を合わせ、降参のポーズで両手を挙げる。

「その通りよ、さすがは双子薔薇」

「これを機会に、生徒会に新しい薔薇を・・・何奴」

闘魂薔薇がドアの隙間にティースプーンを投げると何者かが慌てて立ち去っていた。

そこにはキノコと猫用の鈴と『目指せ13万HIT』と書かれたメモが。

「あちゃ〜」

「聞かれたわね」

「大雨洪水注意報ね、血の雨の」

「まさに『レイニーレッド』」

嵐の、予感がした。

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<弥生>

「どうします?萌薔薇様。」

闘魂薔薇が萌薔薇に話しかけた。

「どうするって、聞かれてしまったのだから仕方ないわ」

そういって、この会話を終わらせようとした萌薔薇は一つ面白いことに気が付いた。

「このままでは血の雨が降るわね・・・。」

少し心配そうな萌薔薇様。

「あら、私は楽しみよ?だって、あの自爆薔薇と義妹薔薇よ?

 一体どんな戦いを見せてくれるのか楽しみだわ!」

そう言いきる闘魂薔薇様のお顔はまるで現役プロレスラー並の鋭い表情になっていた。

しかし、今日は純夏たんと空想デートの萌薔薇様は

学園のいざこざでデートに遅れることは出来なかった。

「ねぇ、闘魂薔薇様、あなたが責任をとって主役になられたら?」

「はい?何をおっしゃっているの萌薔薇様。」

「ふふふ、あなたの発言のせいで困ってしまう事態が起きる前に、その責任をあなたが負うのよ。」

萌薔薇様の発言は言いがかりだ。だいたい、そう言ったのは萌薔薇様のスールである双子薔薇様だ。

「どういうこと?それならあなたのスールに問題があるのじゃなくって?」

「妹も作れない人に発言権はないわ」

意地悪く言う萌薔薇様。この人は自分の空想のためなら手段を選ばない。

「く、萌薔薇様のいじわる〜」

そう言って、虎羅の館を出ていく闘魂薔薇様・・・のはずだったのだが。

「きゃ!」

「え?」

闘魂薔薇様は何かとぶつかってしまった。

その相手とは?

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<星の人>

「痛・・・」

と言いながら広瀬が目を開けると、誰かの髪が目の前にあった。

(あれ・・・どうして私ここに・・・?)

それは、闘魂薔薇様が虎羅の館を出ていく少し前

「広瀬さん、広瀬さん」

と広瀬は掃除日誌を書きが終わって、音楽室を出ようとすると呼び止められた。

「どうしたの?コロスケさん?」

「少々お話が」

「お話?」

そう言うと、コロスケは広瀬を音楽室の中に戻した。

「広瀬さん、この写真欲しくない?」

そう言うと、コロスケは一枚の写真を広瀬に差し出した。

「・・・・、えーーー!!」

広瀬が驚くのも無理はない、それは広瀬のタイを直している、

憧れの闘魂薔薇さまとのツーショット写真だった。

「欲しい。今、すぐ欲しい。」

すると、コロスケはやっぱりと言う表情で

「いいけど、2つだけ条件が・・・」

コロスケの言う条件とは、今度の学園祭で写真部として飾らせる事と、

闘魂薔薇さまの許可をとってくることだった。

そして、広瀬は闘魂薔薇さまとの写真という誘惑に負けて虎羅の館に前に来てしまったのだった。

そして意を決して入ろうとした瞬間に何かとぶつかったのだった。

(そうか、それで私ここにいるんだ)

と思い出してながら、前を見るとそこには憧れの闘魂薔薇さまの顔があった。

(あれ・・・、どうして闘魂薔薇さまが・・・)

しかし、憧れの闘魂薔薇さまの顔を見たが彼女にもそれが分からないらしく、その場で呆然としていた。

「あーあ、派手に転んじゃたわね〜」

「闘魂薔薇の120キロにつぶされちゃたの〜?悲惨ー」

「大丈夫〜?まだ、生きてる〜」

部屋の中からロサ・デュオ、萌薔薇、双子薔薇が出てきた。

「どうしたの?」

そこに、タイミングが良く自爆薔薇のつぼみと義妹薔薇のつぼみが虎羅の館に入ってきた。

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<星元>

勢いよく入ってきたはいいが、場の雰囲気に気圧される二人。

そんな二人にはお構いなしに闘魂薔薇は話を始める。

「あなた、一年生?お姉さまはいるの?」

「いませんけど・・・」

「それは良かった。萌薔薇さま、私の妹を紹介するわ。自己紹介なさい」

『えっ、いったいどういうおつもり?闘魂薔薇さまったら』

ためらいながらも何故か逆らえない凌。

「わわ、私は1年うらりんご組34番の広瀬凌といいます」

その様子を見ていた萌薔薇と双子薔薇、苦笑しながら

「あなたが余り急なものだから・・・そんなにうろたえてしまって。とにかく中へお入りなさい。」

「ああ、そこの二人もね。大体用件はわかっているけど。変なところに居合わせさせちゃって悪いわね」

一堂に事の顛末が説明され、ボーゼンとする凌。そんな凌をしばらくそっとしておきながら、

二人のつぼみたちからそれそれの姉の「シンデレラ」立候補の報告を受ける萌百合会の面々。

そのとき、凌は急に立ち上って言った。

「闘魂薔薇さま、お申し出は受けられません」

「私の何が不満なの」

「いえ、そうではないんです。闘魂薔薇さまの妹の座は、与えられるものではなく、

 勝ち取るもの、それが真の闘魂なのではないでしょうか」

「ちょっと、話が見えないわ。どういうこと?」

「今度のシンデレラの主役に私も立候補します。

 そして、見事主役の座を勝ち取ったら私を妹にしてください」

しかし心の中では同時に

『あんな桁外れの超人たちに萌百合会に入られたら闘魂薔薇さまたちが汚染されちゃう、

 私が萌百合会を守らなきゃ』

などとも考えていた。

「二人とも、かまわないわね」

面白いことになりそうとばかりに話し掛ける萌薔薇につぼみたちは慌てて

「もちろんかまいませんわ」

「ただ、どうやって決着をお付けになるのですか?」

「ちょうど10日後、学園祭の手伝いに萌寺の生徒会長『綾部の王子』さまがくるの。

 王子様に判定していただくわ」

ここに、広瀬凌、義妹薔薇、自爆薔薇の「三国志」顔負けの決戦の火蓋が切って落された。

「どうしよう、わたし劇もダンスもしたことないし」

とぼとぼとゴッド像の前を歩く凌。

すっと、凌の手をとる人影が。

「ととと闘魂薔薇さま、いったいどうして」

「どうもあなただけハンディキャップが有る気がしたから。

 ダンスの相手や、台詞の読み合わせに付き合うぐらいはいいでしょう」

そう言うと、凌の手をとり優雅に踊りだす(BGM・少女の檻 in Kanon)。

嬉しさに、涙が溢れそうになるのをじっとこらえてゴッド様の前で

楽しげに踊る凌と闘魂薔薇さまの姿は、すでに姉妹と言えるのかもしれない。

と盗み見していたコロスケは思った。

最終審査まであと10日。

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<弥生> 

次の日、義妹薔薇様と自爆薔薇様はお怒り気味であった。

その理由は決して、あるゲームであるキャラのえてぃシーンが無くなったとか、

大作ゲームなのに義妹がいないとかそんな理由ではなかった。

「「一体どういうことなの!?」」

「「落ち着いてお姉さま!」」

最初にヒステリックになったのは自爆薔薇様と義妹薔薇様、

それを止めたのは言うまでもなく二人のスールである。

「どうして、よりによって、あの屈強な1年生が立候補したの!!?」

叫ぶような調子の義妹薔薇様。

「その通りよ、タダでさえこっちは義妹薔薇という最低最悪の相手がいるというのに・・・。」

ぐちぐちと言っているのは自爆薔薇様。

そう、1年うらりんご組34番の広瀬凌の名は嫌でも知ることが出来る。

一見何も出来なさそうな外見とは裏腹に、

その能力は現、薔薇様である萌薔薇様以上と恐れられているからだ。

お二人は先ほどからこの、恐怖の新参者である広瀬凌について検討していた。

しかし、お世辞にも美しいとは言えない二人の様子に二人の妹は面白い提案をもちかけたのだ。

「お姉さま、ここは不本意ですが、自爆薔薇様と手を組んで広瀬を亡き者にしましょう!」

「「了承」」

二人の言葉に驚多少はいたものの、

そのことを元から考えていた二人はいとも簡単に了承するのであった。

そして、二人の共同作戦は始まったのだ。

最終審査まであと9日。

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<広瀬凌>

義妹薔薇様、自爆薔薇様。国立魂血苦笑超人学園誇るきっての二大超人二人が、

朝からせっせとゴッド像の前で汗を流している。

それだけで日本の景気がよくなるくらいの奇跡ぶりではあるが、

やっている行動自体はお世辞にもよいこととは言えそうになかった。

「よし・・・これであらかた掘り終わったわね」

「えぇ、そうね。いい感じよ、義妹薔薇様。あとは乾いた

木々を交差させて置き、新聞紙をその上から載せて優しく土をかけましょう」

「えぇ、わかったわ・・・それにしても久しぶりに運動した気がするわ・・」

「私もですわ。普段は部屋でヒッキーですからね」

内容が微妙にネガティブというかブラックなのは、超人である証だろうか。

それより、二人が今行っている作業。それすなわち『落とし穴』の製作である。

今時、こんな古典的な方法を使うやからがいるのか!と突っ込みたくなるところではあるが、

実際いると中々突っ込めないところではある。

「ふふふ・・・これで広瀬凌は・・・くくく・・・ケケケケケ」

「そうですわね・・・これで邪魔なやからがいなくなって

 一騎打ちと相成りますわおほほほほ・・・ウケケケケケ」

パンピーからみれば確実にキショイ笑い声をあげ、

シャベルを肩に担ぎ悠々と校舎へと引き下がっていく二薔薇。

その姿は肉眼で確認できるほどに黒いオーラに囲まれており、

常人では近づけない大気(AIR)をまとっていた。

その三十分後、広瀬凌がとてとてと鞄を抱え校舎内へと入ってきた。

そしていつも通りにゴッド像がある道へと足を運ぶ。

ちなみに、今の時刻は六時半である。普段なら、新作のエロゲー発売日しか、

この時間に起きていない超人たちが三人もこの時間に起きて、尚且つ学校に来ている。

それだけでKanonの奇跡に限りなく近い。まぁ、それはいいとして。

そのうち二人は落とし穴の制作にいそしんでいたわけではあるが、

この広瀬凌はその不純な目的とは少し違っていた。

そう、彼女は朝昼晩とダンスのレッスンに明け暮れているのである。

さすがに家でそんな奇怪な行動はできず、こうして学校に早く登校しているわけであるが・・・・。

「あぁ・・・急がないと練習時間が減ってしまうわ」

先ほどの両薔薇がこんなにも早い時間に学校に登校し、

落とし穴制作にふけっていた理由はこの広瀬凌の朝早い登校のためであったのだ。

まぁそれは両薔薇にとっても好都合ではあったのだが。

なにせ、こういうあくどいことをするのには、極力目撃されないようにするのが基本である。

それに、広瀬凌が一人で登校することによって、罠に格段にかかりやすくなるのだから。

やがて、彼女がゴッド像の前に歩み寄り、いつものように祈りを捧げようとする。

その刹那。重力に逆らえず、広瀬凌は大地の中へと吸い込まれ、青い空が遠くなった。

痛いっ!

穴の底で足を捻ったのだろうか。広瀬凌は小さなうめき声をあげ、程なくして意識を失った。

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<Y(お)2(じ)y(鬼)>

「……さん、凌さん、しっかりなさって!」

懸命な呼びかけの声に、広瀬凌は重いまぶたをようやく開けた。

途端、『ズキーンッ!』と激しい痛みが、右足首に走った。

「大丈夫?」

心配そうに凌に声をかけるのは、萌薔薇様だった。

「ロサ・フェチダ……どうして?」

痛みとともにようやく意識もしっかりしてきて、

凌は自分に何が起こったのか、ようやく思い出していた。

朝練の為に早く登校して……ゴッド様の前でお祈りしようと思ったときに突然穴に落ちて……

周りを見渡すと、最近、ようやく見慣れて来た、虎羅の館の室内。

いつの間に運ばれてきたのだろうか?

疑問に思う凌に、萌薔薇様が説明を始めた。

「貴方がなかなかこないから、ロサ・アントンと一緒に、心配して探しに行ったのよ……

 そうしたら、ゴッド様の前に掘られていた落とし穴の中に貴方が居て……大丈夫?足……酷いわね」

萌薔薇様が、心配そうに優しく摩ってくれている凌の右足首は、

まるで象のそれのように腫れ上がり、熱を持って赤くなっていた。

良くても捻挫……ひょっとすると、骨に異常があるかもしれない。

とにかく楽観し出来る状況でないのは確かだった。

「ええ……なんとか……うっ」

強気に立ち上がろうとした凌だったが、痛みに耐えかね、よろよろと崩れてしまう。

それを慌てて支える萌薔薇様が、『無茶はしないで!』と、心配そうに咎めた。

「はい……でも……」

苦痛に顔を歪めながら凌が答えたときだった。

「落ち着いて、ロサ・アントン!」

「うるさい!離して頂戴、このまま、黙っているわけにはいかないわ!」

大声で争う声に振り返ると、ビスケット扉の前で双子薔薇様が、

まるでシンに立ち向かう猪木のような鬼の形相で、

表に飛び出そうとしている闘魂薔薇様を必死に押しとどめているところだった。

殺気に満ちた闘魂薔薇様の手には、『闘魂注入』と書かれたパイプ椅子、

そして、『100t』と銘打たれた、どこか懐かしい、重そうなハンマーがもたれていて、

もう戦闘準備万端、どっからでもかかってきやがれシャーコノヤロウ!状態だった。

「ロサ・デュオ!このまま黙っていろとおっしゃるの!

 落とし穴を掘るだなんて……あんな姑息で卑怯な……

 プロレス道にもおとる鬼畜な行為に手を染めたロサ・メガンテとロサ・シスコン……

 見逃すわけにはいかないわ!萌百合三薔薇のひとりとして……いえ、一人の超人として!」

そう叫ぶ闘魂薔薇様は、既に完全にスイッチオン!イケイケ青信号状態!

頭の中には確実に『炎のファイター』が鳴り響いているだろう熱の入りようだった。

「落ち着きなさいよ、ロサ・アントン。何もまだ、あれがあの子たちの仕業だとは……」

熱くなりすぎている闘魂薔薇様に苦言を呈する萌薔薇様だったが、

その程度の言葉ではもう、燃え盛る闘魂薔薇様の闘魂を止めることなど出来ない。

「おだまりなさい、ロサ・フェチダ!あのキティ二組以外に、

 こんなたわけたことしでかす人間、この学園にいるはずないわ!

 ……いくら、シンデレラ役がほしいからといって……まさか、こんなことまでしでかすなんて……」

怒りに唇を震わせながら、闘魂薔薇様は手に持ったパイプ椅子とハンマーを握る手に力を込めた。

『血の雨を降らす!』

闘魂薔薇様の無言の決意が、それだけでも伝わってくるくらいだった。

「けど……シンデレラどうしましょう……凌ちゃんは、さすがにその怪我では……」

双子薔薇様が、『シンデレラ』と言う言葉に思い出し、凌を沈痛な面持ちで見つめた。

赤く腫れ上がった足首。これでは練習はおろか、

本番当日まで完治するかどうかも微妙……いや、ほぼ不可能だろう。

「そうね……」

萌薔薇様も苦悶の表情を浮かべた。このままでは、立候補者の実力から考えるに、

今回の事態を作り上げた自爆薔薇、義妹薔薇のどちらかにシンデレラ役が奪われてしまうのは確実だ。

口では『まだわからない』と言ってはいるものの、萌薔薇様とて今回の凶行が、

あの二人の暴走であることに確信を抱いている。

まさか、そんな人間を由緒ある萌百合会に招くわけには……

と、そのときだった。

「私……やれます!いや、やらせてください!」

突然、凌が必死の形相で立ち上がり、決意の叫びを吼えたのだった。

「ちょ、ちょっと凌!無理しないで!」

その行動に、闘魂薔薇様が椅子とハンマーを投げ捨て、慌てて凌の元に駆け寄った。

しかし、凌は自分を支えようとする闘魂薔薇様の手を払うと、決意の表情で叫んだ。?

「これくらいの……これくらいの怪我で、逃げ出すわけにはいけません!

 どんな状況でも勝負を捨てず、命がけで戦場に上がって立ち向かう!

 それがストロングスタイルではありませんか、闘魂薔薇様!」

「うっ……それは……けど、貴方のその足では……」

「足の一本や二本、どうってことありません!たとえ二度と歩けないことになろうとも……

 私、この勝負から逃げたくはありません!……それでこそ、闘魂ではありませんか!?

 私は……勝ち取ります!シンデレラの座も、闘魂の資格も!」

足の痛みは耐えかねないほどに酷くなっている。しかし、凌は逃げない。

逃げ出すわけにはいかないのだ。

憧れの闘魂薔薇様のためにも、萌百合会の未来を守るためにも。自分が戦わなければいけない!

その使命感が、彼女を奮い立たせている。

そんな広瀬の叫びに、薔薇様たちは、立ち尽くすしかなかった。

あの奥手な一年生が、まさかここまでの意地を見せるとは……

やがて、闘魂薔薇様が、苦笑を浮かべると、凌の肩に手を置いた。

「……そうね……勝負は、場外乱闘ではなく……舞台の上できっちりとつけるべきだわ……」

「闘魂薔薇様……」

「……練習はつらいし、途中で逃げることも許さないわよ、いいこと!」

「……はい!」

優しく微笑む闘魂薔薇様に、広瀬はにっこりと微笑んで返した。

そんな姿を少し離れたところから見ていた萌薔薇様と、双子薔薇様は、優しげな笑みを浮かべて思った。

この二人ならば、きっと、萌百合会の危機を必ずや救ってくれるだろうと……

シンデレラ役オーディションは、もう間近まで迫っている――

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<星元>

この日は、学園祭目前の、体育館の一般生徒への公開日であった。

初めて舞台での練習を迎える広瀬たち。

申請した時間に体育館へ行くとそこには最も顔を合わせたくない二人の姿が。

「ふん、申請者が多くて他の方と一緒に使えというのは仕方ないけど、

 よりによって彼方だったとはね、ロサ・シスコン」

「こっちこそ、貴女の様な方と一緒では調子が狂ってしまってよ」

相変わらずの激しい舌戦、どちらともなく広瀬に気が付く。

「あら、広瀬さん。交通事故に有って怪我をしたって噂は本当かしら?

 自爆はわたしの専売特許なのにね、ホホホホホ」

「大方もう萌百合会に入ったつもりにでもなってうわのそらで歩いていたんでしょう」

我慢の限界とばかりに飛び出そうとするロサ・アントンの袖を広瀬はじっと引く。

「あんなに言われてあなたはなぜ黙っているの・・・!」

悔しそうな顔で唇をかみ、しかしその目には確かな情熱の炎が宿っていた。

『決着は舞台の上で』と広瀬の瞳が語っていた。?

広瀬の気迫を受けながらなおたじろがない義妹・自爆の二人の薔薇、

さすがに薔薇候補と呼ばれるだけのことはある。

「勘違いしないでほしいわね。あなたが怪我をしたことに関して何を思っているのかは知らないけど、

 わたしの実力が貴女より下だから、ではないのよ」

と自爆薔薇。

「わたしたちとやりあって心身ともにあなたがボロボロにならないように、

 そう、言うなれば思いやりだったのに。立ち上がるなんてバカな娘」

「「御覧なさい、わたしの舞を」」

壊れ系の動きの中に計算し尽くされた流れと尋常でない切れ味を見せる踊りのロサ・メガンテ。

そこはかとない色気の中に少女の初々しさと義妹への秘めた思い、

絶妙の『間』をもって見るものを魅せるロサ・シスコン。

二人の踊りには萌百合会のメンバーも感嘆のため息をつく。

「確かにこれじゃあね」

「卑怯な手なんか使わなくても十分にシンデレラ役を手に入れることだって・・・」

自信に満ちた義妹・自爆の両薔薇が去ったあとで、立ち尽くす広瀬に闘魂薔薇が声を掛ける。

「相手が大きければ大きいほど萌え上がるのが真の闘魂よ。さあ、わたしが稽古をつけてあげるわ」

いったいこの後どのような特訓が広瀬を待っているのであろうか?

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<美野里>

「甘い甘すぎるよぉ〜諸君♪」

シンデレラ役オーディションを間近に控え萌えを高める薔薇達の前に一人の学生が現れる。

犬の着ぐるを携え、煙草を吹かす奴・・・・・・

少なくとも体育館にこのような無作法な姿でくる人間は一人しかいない。

「また着たわね美野里さん・・・・・・煙草はやめなさいとあれほど言ったのに」

さり気なく、持っていたパイプ椅子を投げつける学生が一人・・・・

この学園をいくら探してもパイプ椅子をさり気なく投げつけれる学生は闘魂薔薇くらいだろう。

ガシャン!!

美野里が悠然と立っていた舞台に叩きつけられるパイプ椅子、

しかし、さきほどまでそこにいた人間は既に影も形もなくなっている。

「あれぇ・・・・まぁ〜た胸板ごつくなったんじゃないぃ♪闘魂ちゃん♪」

そう言いながら『プロレスラー顔負けの胸板』を揉みしだく美野里。

普段の『危ない知識の披露や変な哲学を言い出す』など謎が多い学生ではあるが、

萌える闘魂の薔薇を冠するロサ・アントンにこのようなことをできるのも美野里ならではである。

「で・・・・・・・何が甘いとおっしゃるの?美野里さん」

少し乳首が立ち始め恥ずかしいのを我慢し紅潮した顔を悟られないように毅然と仏舞う闘魂薔薇。

「別にぃ♪闘魂ちゃんと広ちゃんの関係が甘甘だって言いたいわけじゃないよぉ♪」

美野里は闘魂薔薇の胸元に入れていた手を引き抜くと、

まるで汚い物を触ったかのように水道で手を洗うと。

「ただねぇ・・・・・・このまま広ちゃんをほおって置くと間違いなく

 『自爆&義妹』ちゃん’sに負けちゃうよぉ♪」

「あら貴方はシンデレラに立候補しないの?

 ・・・・・・この学園を裏で牛耳り始めている貴方なら何か仕掛けてくると思ってたんですけど」

「んふふふふ♪私はめんどくさいことはどおでもいいんだよぉ♪こっちの仕事も忙しいしねぇ♪」

軽軽しく右手を上げる美野里その手にはいつの間に持っていたのか

数枚のCD-Rとノートパソコンが握られていた。

「はぁ・・・・・・たまに利用させてもらってはいるけど・・・・・・

 あんまり関心しないわよ、その仕事」

はぁとため息をつくように項垂れる闘魂薔薇・・・・・・

少なくとも性格はともかく能力にかんしては美野里のことを認めているようだ。

「あははは♪毎度ありがとうございますぅ・・・・・・

 それだけが私の仕事じゃないけどねぇ☆

 まぁ私言いたかったのは誰がシンデレラになろうが関係ないけどぉ♪

 漢気あふれる広ちゃんがシンデレラだとおもしろいかなぁ♪ってところかなぁ♪」

「それだけのためにわざわざ私に声をかけたの」

「もちろんだよぉ♪今の私の命題は『客観性からなる主観と主観からなる客観性』だからねぇ♪

 これほど面白いサンプルはないよぉ♪」

どこか楽しそうに、いまいち人が理解しにくそうな言葉を残し去っていく美野里。

さっき吸った煙草が最後の一本だとしって悲しそうな顔をしているのはご愛嬌というところだろう。

「甘い・・・・・・か」

今にも消え入りそうな声で呟くと・・・・『ロサ・アントン』は力強い目で

すぐ近くに立つ広瀬を見つめた。

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<Y(お)2(じ)y(鬼)>

――それから日々は瞬く間に過ぎ、

いよいよ、シンデレラ役、そして萌百合会の新たなる『薔薇』を決める、

運命のオーディション当日が訪れた。

会場となる体育館には、この世紀の一戦を見ようと、学園中の生徒たちが詰め寄せ、

一大イベントの様相を呈していた。

「まったく……大騒ぎね」

舞台裏から、満員となった体育館の様子を覗き、双子薔薇が少し呆れ気味にため息をついた。

「まあ……それだけ、萌百合会が生徒の注目の的だということよ……

 まして、このオーディションで、いよいよ空席になっていた

もう一人の『薔薇』が決定するのですもの。騒ぎになるのも無理はないわ」

萌薔薇様はそう答えると、自らも今日のオーディションを

心から楽しみにしていると言うように、不適な笑みを浮かべた。

―― 十名近くが参戦する今日のオーディションだが、

その勝負の行方は事実上三人で争われるだろうというのが、多くの生徒の予想だった。

『神にもっとも近い漢』と異名をとる自爆薔薇様。

『キノコの森の小公女』こと義妹薔薇様。

そして、一年生ながら『次世代の神』との評価を受ける、天才超人、広瀬凌。

元朋友であり、自他とも認めるライバル同士の自爆薔薇様と義妹薔薇様の一騎打ちに、

一歩下がって広瀬凌が食い下がるのではないかというのが、大方の予想だった。

しかし、三番手につける広瀬凌は、事故で足に重度の捻挫を負い、

それを押しての出場とのことなので、やはり不利では?との声も、大きい。

これはやはり、自爆薔薇様と義妹薔薇様の一騎打ちだろうと、

会場の予想はその路線で固まりつつあるようだった。

おまけに……舞台裏は、広瀬凌のことで、ちょっとした騒動になっていた。

「ああ!凌さん、いったいどうしたのかしら?」

『公式カメラマン』として、舞台裏に潜入取材が許されているコロスケが、

会場裏に未だ姿を現さない広瀬凌を気遣って、おろおろとしていた。

もう、集合時間はとっくに過ぎている。

それなのに、連絡もなく、広瀬凌はまだ姿を現していないのだ。

「おほほっ、土壇場になって、怖くなったのでは〜?」

「そうね〜。そもそも、一年生ごときが、私と自爆薔薇様の『最終戦争』に

 クビを突っ込もうと言うのが、はじめから思い上がりだったのよ」

それぞれの妹に身支度を整えさせながら悠然と構える自爆薔薇様と義妹薔薇様が、

あたふたするコロスケに、皮肉たっぷりに言った。

コロスケは、そんな二人に、さすがに怒りを目に浮かべながらも、不安を隠しきれない。

まさか、あの広瀬凌に限って、敵前逃亡などということはないだろう。

しかし、何しろ、あれだけの重度の捻挫を負っていて、おまけにそれを押して、

ここ数日ずっと鍛錬を積んでいた。その影響で、怪我が悪化して、

来れなくなってしまっているという可能性は十二分にありえる。

(凌さん……どうしちゃったの?……憧れの闘魂薔薇様のために、リング舞台に立つんじゃなかったの!)

不安に、写真撮影を忘れてしまうほどのコロスケの背後に、いきなり一人の人物が歩み寄った。

「落ち着きなくあたふたするのは、おやめなさい。みっともなくてよ」

「えっ?……あっ、闘魂薔薇様!」

後ろに立っていたのは、広瀬凌を、ここ数日ずっと鍛え続けていた闘魂薔薇様、その人だった。

「コロスケさん、あなたには写真撮影という、自分に与えられた仕事があるでしょ?

 人の心配をしている余裕があるなら、まずは自分の役目をきっちりと果たしなさい」

「でも……」

厳しい口調で言う闘魂薔薇様に、コロスケはまだ心配げな目で訴えかけるようにつぶやいた。

 そんなコロスケに、闘魂薔薇様は何も言わず、ただにっこりと微笑を浮かべるだけだった。

『大丈夫、あの子は敵前逃亡など決してしないわ』

言葉を発さなくても、その目は、ここ数日間、ずっと広瀬凌を鍛えて続けていた闘魂薔薇様の

『確信』が感じられるものだった。

そのとき、会場の照明がふっと落ち、既に舞台袖に移動していた、萌薔薇様から声がかかった。

「闘魂薔薇様、そろそろ時間よ」

闘魂薔薇様はふーっと息を着くと、脇に置いてあった、

真紅の炎の中に『世界のロ○コン』と猛々しく書かれたガウンを手に取り、

頷いて、舞台袖に移動した――

暗闇に包まれた体育館。そのステージを照らすスポットライトの中に、まずは萌薔薇様が姿を現した。

途端、満場の生徒たちからの黄色い声援が乱れ飛ぶ。

萌薔薇様は歓声に片手を上げて応えつつ、マイクを手に取り、高々と開会の宣言を詠う。

「魂血苦笑。皆様!いよいよ、我が萌百合会主催、『シンデレラ』

主役オーディションを開催いたします!司会は、私、萌薔薇様と」

「私、双子薔薇様がお送りいたしますわ♪」

続いて舞台に姿を現した双子薔薇様が続けて言った。

いよいよ始まった、オーディションに、観客の期待も大爆発。

もはや歯止めの利かない盛り上がりっぷりだ。

そんな盛り上がりに更に火を着けるように、萌薔薇様が言葉を続ける。

「それでは、まず、本大会の代表として、この方に挨拶していただきましょう!」

萌薔薇様が言った途端、再び会場の照明が落ち、舞台袖にスポットライトが集中する。

ファイッ!ファイッ!

この学園の生徒ならば、幾度も聞いたことのあるおなじみのメロディ、

『炎のファイター』のイントロが、体育館中に轟く。

生徒たちの歓声は、そのテーマと共に登場するお方に対して、更にヒートアップする。

その歓声に引きずられるように、舞台袖から一人の超人が姿を現す。

愛用の『世界のロリ○ン』ガウンに身を包んだ、『萌える闘魂』闘魂薔薇様その人だ。

闘魂薔薇様は、歓声に手を上げて応えながら、ゆっくりと舞台中央に歩みを進める。

その堂々とした態度、これこそ多くの生徒をひきつけ、あの広瀬凌をも憧れさせた、

闘魂薔薇様の一流のカリスマがもっとも感じられる瞬間だ。

闘魂薔薇様は畏怖堂々と舞台中央に着くと、マイクを受け取り、満員の会場をじろっと見渡す。

それに応えるように更に湧き上がる生徒たち。

闘魂薔薇様は、その歓声を存分に堪能するが如く、ゆっくりと天を仰ぐ。

『毎度毎度、よくやるわね』

少し呆れ顔の萌薔薇様と双子薔薇様の表情など目に入らないが如く、

完全に『アントン・ワールド』に突入してしまっている闘魂薔薇様は、

ゆっくりとマイクを口元に近づける。

「萌えてますかーっ!」

闘魂薔薇様御決まりのフレーズに、会場からは『魂血苦笑。!』と、元気な返答が返ってくる。

「萌えがあれば、何でも出来る。闘魂薔薇様が萌えれば世界が萌える!」

もはやオーディションだか、闘魂薔薇様オンステージだかわからなくなってしまうかのごとく、

闘魂薔薇様の独演ショーは更に続く。

「いよいよ、『シンデレラ』オーディションの始まり!

 多くの方々が集まっているようですわね……

 しかし、あえてここで私は、今、舞台裏に控えている出場者の方々に問いたい!

 あなたたちは出来るのかと!」

マイクを片手に、闘魂薔薇様のシャウトは更に勢いづく。

「この萌百合会が自信と誇りを持ってお送りする『シンデレラ』!その主役の座を、

 あなたたちはやり切れるのか!やれるの、やれるの、やれるのですか!?やれないなら去りなさい!

 萌百合鬼闘女(おとめ)塾!」

意味不明なまでの闘魂薔薇様のハイテンションに乗せられ、観客の興奮はますますヒートアップ。

その盛り上がりに闘魂薔薇様は、『オーディション開始前の、客席の温めはこの程度でOKね』と、

かすかに微笑み、マイクを下げた。

(……私に出来ることはここまで……凌、あとは……貴方次第よ。さあ、早く現れなさい!)

オーディションはいよいよ開始。しかし……舞台裏に、まだ広瀬凌の姿はなかった――

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<星元>

「ふん、臆病者は放って置いて、勝負を始めようじゃないの。よろしくって、ロサ・シスコン」

「望むところよ、もともとこれは私と貴女の宿命の対決に

 決着を着ける為のものですから、ロサ・メガンテ」

義妹薔薇が取り出したコインを放り投げ、手のひらで受ける。

表に皐槻、裏に冥夜のこの世に二枚しかない特注コインは、表であった。

「先に逝かせてもらうわ」

自爆薔薇の演技が始まる。

そのときちょうど萌寺学院の生徒会長、綾部の王子様が体育館に現れた。

「ほう、オーディションでこの盛り上がりとは。本番が楽しみです」

突然、客席から歓声が起こる。

「アレを見ました、ロサ・アントン」

「アレが目に入らないというほうがおかしいですわ、ロサ・フェチダ」

舞台の上では、眼鏡をかけたドジっ子メイド姿のシンデレラ(変身前)を演ずるロサ・メガンテの姿が。

「眼鏡を使って変身前、変身後のメリハリをつけただけでなく

 眼鏡属性の生徒をごっそり味方にした訳ね」

実は工作員顔ではなかったロサ・デュオがわずかに震えながら言う。

自信満々で舞台袖に帰るロサ・メガンテ。

「さすがの貴女も今度ばかりは終わりね、おほほほほ」

だが、いつもの毒気はなぜか感じられない。

にらみ合う二人にシャッターを切るコロスケ。

「貴女こそ、今回で薔薇の称号を失うことになるんじゃないの、星元さん」

あえて嫌味のつもりで『星元さん』と呼んだ義妹薔薇。

だが、その時お互いが一瞬苦い顔になったのをコロスケは見逃さなかった。

それが何故かはわからなかったが。

『弥生さん』『星元さん』それは二人がまだ『朋友(ポンヨウ)』であった頃の呼び名であったから。

「あなたに眼鏡があるように、私にもこれがあるのよ」

ロサ・シスコンの舞台が始まった。?

はじめこそ、普通のシンデレラであったが、徐々に観客たちは息を飲み始める。

「シンデレラの姉と勘違いで結婚した王子が、義妹となったシンデレラに徐々に惹かれていく・・・・」

「これは、シンデレラが妹であることを利用した荒技」

「ストーリーさえ捻じ曲げるとは、恐るべし、義妹薔薇」

これには、ロサ・アントン・ロサ・フェチダ・ロサ・デュオも絶句する。

舞台袖に戻ったロサ・シスコン。全力を出し切ったその顔にもう邪念は無かった。

「パチパチパチ・・・」

拍手の主は、ロサ・メガンテであった。

「すばらしい演技だったわ。さすがは私の自慢の朋友」

お互い全力を出し切ることで、わだかまりも何もかもが消えた。

二人は、堅く手を握り合う。

「パチパチパチ・・・」

なんと拍手をしながら現れたのは、広瀬凌。

「私がいては、二人の仲直りの邪魔になるから隠れてなさいって、ロサ・アントンが」

そこに、ロサ・アントンが現れる。

「ちょっと荒療治だったけど、うまくいったようね」

「「これは、どういうこと!」」

「忘れてもらっては困るわ。私だって貴女たちの友達のつもりよ」

ロサ・フェチダが続ける。

「友達同士が喧嘩してたら、仲裁するのは当然じゃない」

義妹薔薇と自爆薔薇は、思わず涙を流す。

「馬鹿ね、私たちって」

「こんなに素敵なお友達に、余計な心配をさせていたなんて」

お互いに見つめあうと、くるりときびすを返す。

「あんな汚い手を使った私たちに」

「この舞台にたっている資格は無いわ」

「お待ちになって、お姉さま方。私だったら、もう気にしていません」

広瀬が叫ぶ。

「お二人がいたから、私ここまで頑張れたんです、ロサ・アントンと一緒に。

 お願いです、私の舞台を見ていってください」

二人は振り返り、ぬれた瞳のまま広瀬に笑いかける。

「有難う、ここからあなたの演技を見ているわ」

「みっともない演技をして、

 ロサ・アントン・・・私たちの友達の名を汚すような真似をしたら、許さないわよ」

萌百合会、ロサ・シスコン、ロサ・メガンテに見守られながら、凌の舞台は幕をあけた。

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<弥生>

舞台裏から広瀬を見守るロサ・アントン。凌の事を信じているのだが、

先ほどちらりと見た足は怪我をさらに悪くしたみたいで立っているのがやっとのようだった。

「さすがに、アレでは何も出来ないかもしれないわ・・・」

不安になるロサ・アントン。それを見て怪我の原因を作った二人はいたたまれなくなる。

だが、今から広瀬を助けに行ったのなら、せっかくの広瀬のステージを壊すことになる。

迷惑をかけた二人はそれだけは避けたかった。

舞台に立ってからそでに3分が過ぎたが広瀬はいっこうに何もする気配はない。

その様子にさすがの観客達も不思議に思いざわめきはじめた。

「ねぇ、何あの子?何も出来何じゃないの?」

「そうね、あれじゃ、萌百合会は任せられないわね」

観客達は次第に罵声を浴びせるようになった。しかし、それでも凌は動かない。

まるで、犬に手を噛まれても何事もなかったのかのように振る舞っている。

それを見てロサ・アントンは気が付いた。

「そうか、あの子!」

ロサ・アントンが気が付くより早く、あまりにもいたたまれなくなって

ロサ・シスコンとロサ・メガンテが舞台へと飛び出した。

「もうおやめになって!」

ロサ・シスコンが叫ぶ。

「みんなで広瀬さんをいじめないで!悪のは全部私たちなのだから」

その言葉に会場内は静まりかえった。

そして、すぐにざわめきだした。

一方、舞台裏の萌薔薇様方は、その様子を唖然とした様子で見ていた。

確かに、凌を怪我させたのは知っていたが、

先ほどまで萌百合会幹部を狙っていた彼女らが言うセリフではなかったからだ。

「ち!あの二人、何もみんなの前で言わなくても!」

「ばか!それを今言っちゃ駄目よ!」

凌を含め3人とも萌百合会の助けになってもらおうと考えていた双子薔薇は驚きのあまり、

大声で叫んでしまった。

それを聞いた観客達はさらに、ざわめきはじめたのだ。

萌薔薇・自爆薔薇の二人はそれでも、声を出し、凌は悪くないと主張する。

そのとき、何も話さなかった凌が口を開いた・・・。

「嫌いじゃない・・・」

凌が放ったその言葉は一瞬にして会場の雰囲気を変えた。それは、舞台裏も同じだった。

「も、萌薔薇様・・・いまのって・・・」

さすがの闘魂薔薇様も驚きを隠せない。

「え、えぇ、完璧だわ・・・。」

驚いているのは薔薇様だけではない。会場全体が驚いているのだ。

凌の放ったその一言とは・・・

「川澄舞だわ・・・。」

さすがのコロスケも写真を撮れる状態ではなかった。

それは、あまりにも完璧すぎるからであった。凌の演技はそれほどまでに完璧だったのだ。

舞に萌えなければ出来ることない真似・・・。いや、なりきりとでも言うのだろうか。

とにかく、そんじょそこらの超人には絶対に出来るはずのない技を凌はやってのけたのだ。

「自爆薔薇様の義妹薔薇様もかなり、嫌いじゃない・・・。」

そして、会場内は再び盛り上がったのだ。

その中には二人が凌を助けるためにわざとああいう、発言をし、

また、それを双子薔薇様と萌薔薇様が見抜いたという、

まことに超人らしい思いこみが会場内に浸透したのである。

かくして、凌は学園の全校生徒から認められるようになったのだ。

「大成功ね、ロサ・アントン。」

「ええ、そうみたいね。」

そう言って、笑みを浮かべる萌百合会の面々。

「さ、会場が盛り上がっている今があなたの出番よ。

 みんなはりょっちゃんが、幹部になるのを認めたみたいよ。」

「えぇ、わかったわ。任せておいて・・・。」

そう言って、闘魂薔薇様はマイク片手に舞台へと移動した。

「皆さん、それじゃあ、いくぞぉ〜!」

「おぉ〜!!」

ロサ・アントンの声に会場全体が答える。そこには地自爆薔薇様と義妹薔薇様に方を借りた凌もいた。

「い〜ちぃ!」

「にぃ〜!」

「さ〜ん!」

「「「だぁぁぁ〜!!!」」」

それから・・・

「あら、凌、あなたは何を見ているの?」

「あ、お姉さま、これを見ていました」

そう言って凌はロサ・アントンに手渡した。

「これは・・・懐かしいわね・・・。」

「はい、お姉さま。あのとき・・・私がお姉さまの妹になった時のアルバムです・・・。」

凌は嬉しそうに笑う。それにつられてロサ・アントンも笑う。

「なになに、何の話?」

二人の笑い声に誘われるように、萌百合会の面々が集まってきた。

「あ、懐かしい物見てるじゃない。私にも見せて」

「もう、あなたはすぐそうやって急ぐんだから。」

仲が良さそうな二人は自爆薔薇様と義妹薔薇様。

あれから二人は正式な萌百合会幹部ではないものの、

こうやって、虎羅の館でみんなを手伝うようになったのだ。

「懐かしいなぁ、会長」

「ほんまやな、ときめき」

お互いを名前で呼び合う萌薔薇様と双子薔薇様。二人は相変わらず仲がいいようだ。

「凌、もう一度オーディションやってみる?」

闘魂薔薇様は笑いながら凌に話しかける、

「も、もう勘弁してください。私あれでも緊張してたんですから」

そう言いながらも笑っている凌。この二人はあれから仲むつまじくやっている。

笑いが絶えない萌百合会・・・。今日も今日とて、超人達は楽しそうに生きているのである。

たとえ、一般の人から蔑まれても・・・。

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<美野里>

「くっくっく、面白い面白すぎるサンプル達だよぉ♪」

シンデレラのオーディションが終わる舞台袖の暗闇で薄気味悪く笑う一人の学生。

舞台袖という事もあり、てっきりオーディションを受けた学生かと思っていたが、

少なくともその学生がオーディションを受けている姿を目にしたものはいない。

ノートパソコンを片手に立つ、その眼鏡ごしの瞳は明らかに狂喜に彩られている。

強いて、しっくり言葉を上げるとしたら『マッドサイエンティスト』や

『狂人』がぴったりくるかもしれない。

「萌百合会幹部・・・・・・・・・未だかつてこれほどまで個性的なサンプルはいなかったねぇ♪」

嬉しそうな言葉と共に闇に溶け込んでいく学生。

「革命を期待しているよぉ♪薔薇達」

その学生が去った後には、煙草の灰がら山のように詰まれていた。

 

 

・・・・・『萌薔薇革命』へ続く (おぃ