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ひゅるりら〜〜

 

「・・・寒い。」

師走の凍てつくような夜風が

孤独な僕をあざ笑うかのように吹き抜けていく。

ワイワイ

ガヤガヤ

 

『メリークリスマス。とろけるような恋の食感を、大好きな貴方に・・・・。

 (チャララ〜〜♪)

 【Loving Kiss チョコレート】期間限定発売!

 来栖川製菓ぁ〜♪』

 

ビルの側壁に設置された巨大なディスプレイの中から

人気アイドルの緒方里奈がこちらへ微笑みかける。

ワイワイ

ガヤガヤ

「・・・・・・。」

僕は虚ろな眼で辺りをぐるりと見渡す。

周囲は綺麗なイルミネーションに彩られ、

さっきから聞き覚えのある音楽が絶え間無く垂れ流されている。

その音楽が、ただでさえ虚しい僕の心に苛立ちを募らせるのは何故だろう?

いや、それ以上に忌むべき事は、今僕がいる大通りが

幸せそうなカップル達に埋め尽くされているという現状だ。

そんな大通りを孤独に彷徨っていた僕は、空き缶を蹴っ飛ばしながら

「・・・・なんでこんなところにいるんだ・・・。」

と吐き捨てるように呟き、煌びやかなビルの隙間から見える真っ黒な空を見上げた。

 

 

ベリィ・クルシミマス【思いきり流れた】特別企画。(号泣)

−クリスマス・キャロット−

 

 

今日は12月24日、クリスマス・イヴ

僕こと、椎名歩(しいな あゆむ)は例年と変わらぬ焦燥感にかられながら、

バイオハザードのゾンビの様な足取りで帰路についていた。

「そうだ、そもそも徹のアホがカラオケになんか誘うからだ・・・。」

小一時間前の出来事を思い出しながら僕は愚痴を洩らしつつよろよろと歩き続ける。

傍から見たらかなり危ない人だ。

「人をこんな街中に誘っておいて現地解散かよ。ふざけるなっつーの・・・ほんと。」

僕は今日、大学の帰りに輝ける我らが

『(男ばっかりの)清涼理科大学クリスマスなんてぶっとばせ同盟』から

ベリィクルシミマス・カラオケ大会に誘われたのだ。

んで、悲しいかな。イヴを一緒に過ごす相手がいない

あはれな僕は、なし崩し的にカラオケ大会に参加。

と、ここまでは良かったのだが、バスターミナル前のカラオケ店前で突如現地解散となり、

徒歩で帰らなくてはいけない僕は、一人で街の大通りを抜けていくハメになってしまったのだ。

「はぁ・・・・虚しい。」

トボトボと肩身の狭い思いをしながら駅へと向かおうとする僕に

追い討ちをかけるかの如く、雪が降り始める。

『見て見てぇ!雪よ。』

『ホワイトクリスマスだね。』

周囲のバカップル達が能天気に喜ぶ。

そんなカップル達を心の中で「クズがッ!!」と叫びながら

口から吐かれる白い息を追いかけるか如く、足早に人ごみを通り抜けて行く。

「もう・・・最悪だよ!一年で一番来たくない時にここに来ちゃうなんて・・・!」

屈辱と疎外感にまみれながら僕はようやく大通りを抜けた。

周囲の照明の減少と共に視界に静かな闇が降り立つと、

それに呼応するかのように降り注ぐ雪の陰影は強くなり、舞い降りる情景が美しさを増す。

「ここまで来ればもういいか・・・・はぁ〜〜〜・・・・。」

若干歩く速度を緩め、改めて深い溜息をついていた時・・・・・

ひらひらひら〜

目の前に赤い何かが舞い降りてきた。

「?」

パサッ

アスファルトに若干積もりかけていた雪の上に、それは静かに舞い落ちた。

・・・それは舞い散る桜のように。(謎)

「・・・・な、何だこれ?」

立ち止まって僕は上を見上げると、ぐるりと夜空を見渡した。

が、当然見えるのは暗い雲と舞い降りる雪だけ。

しかも雪が目に入って微妙に目が痛い。

再び視線をその何かに向けると、しげしげと観察する。

どうやら封筒みたいだ。

「・・・・天からの贈り物?」

今度は周囲を見渡すが、幸い通行人は途切れて近くには誰もいない。

僕は屈み込んでその封筒を手に取ると、おもむろに封筒を開けてみる。

すると中には一枚の紙切れが入っていた。

「何だこれ?」

その紙を引っ張り出してみると何か文字が書かれていた。

【当たり】

「・・・・・・・・・・。」

無言のまま僕はその紙を裏返してみる。すると、裏面にも文字が。

【当たりが出たらもう1本】

「なめてんのかぁッ!!」

思わずその紙と封筒を地面に叩きつける。

「・・・・・ハァ〜・・・。アホらし。帰って寝よう・・・。」

再び深い溜息をつくと僕は家路へと急いだ。

ガチャッ

2階建てのこじんまりしたワンルームマンションの扉を開け、

手探りで電灯のスイッチをつける。

パッ

暗かった我が家に明るさを取り戻すと、僕はコートを脱いでそれをハンガーにかけた。

「・・・ん?」

ふと部屋の隅に目をやると電話機の留守電のランプが点灯していた。

僕は面倒くさそうに足のつま先で再生のボタンを押す。

ピッ

『ピーッ♪12ガツ24カ、20ジ14フン』

『あ〜?あゆむ〜?俺、さとし。

 なにぃお前?今年もベリークルシミマス?

 俺さぁ〜今さぁ〜サークルの飲み会でUBASHAに居るんだけどよぉ〜。

 良かったらお前も飲みに来ないかぁ〜?んじゃ連絡待ってるぜ?』

野郎同士でクリスマス・イヴに飲み会かよ・・・・。

「・・・・・・・あほか。」

『ピーッ♪12ガツ24カ、20ジ35フン』

『当たり〜!!』

「・・・・・・・。」

『ピーッ♪サイセイガ、シュウリョウシマシタ』

「・・・・・・・。」

ポチッ

ピッ♪

『当たり〜!!』

「・・・・・・。」

威勢のいい女の子の声だけが僕の部屋に響き渡る。

「何が当たりなんだよッ!!」

バシッ

『ピーッ♪ショウキョシマシタ』

「はぁ・・・はぁ・・・・・あ、あったまくるなぁ、くそ!」

淋しさに追い討ちをかけるかの如く、このイタ電。

顔をしかめながらそのままベットにゴロリと横になると、枕もとにあるテレビのリモコンを手にとった。

ピッ♪

『はぁい♪こちらは渋谷の道元坂です♪只今この通りはカップルで一杯で・・・・

ピッ♪

『今年のクリスマス・イブは雪に彩られ、恋人達にとってはも・・・

ピッ♪

『お前とたいやきは離さない・・・・!』

『うぐぅ。大好き・・・大好きだよ、祐一クンッ♪』

ブツンッ

「・・・・・あぁぁッ!!もう最悪だッ!!!」

とうとう鬱レベルが99にまでアップした僕はベットの上でのた打ち回る。

いたいけな青年にこの仕打ちッ。聖なる夜なのに神はいないのだろうか!?

・・・コンコンッ

「ッ!?」

カーテンで閉めきられたベランダの窓から誰かがノックするような音が聞こえた。

「・・・・空耳・・・・か?」

コンコンッ

「・・・・・・・・。」

空耳じゃない。

泥棒にしては、豪快過ぎるぞ。

おいおい。友人の悪戯にしては、ちょっとやり過ぎだろう?

息をのみゆっくりとカーテンの端を捲って窓の外のベランダを覗いてみる。

すると・・・・ベランダには・・・・女の子が立っていた。

「・・・・ハァッ!?」

シャァーーッ

慌ててカーテンを一気に開けると部屋の電灯でベランダが照らし出され、

『・・・・あ。』

暗くて今一つよく見えなかった女の子が窓を隔てて僕の視界にはっきりと映る・・・・

そう・・・・・サンタクロースのコスプレをした女の子が。

唖然としながら僕はその子と向かい合う。

「・・・・・・・・・・・。」

『・・・・・や、やっほ〜♪』

シャァ〜〜〜〜

もう一度カーテンを閉めると僕は再びベッドに横になった。

「・・・・・まずい。とうとう鬱病になった。」

幻覚を見た事実を認めたくないので早々に寝てしまおうと寝返りをうつが・・・。

ドンドンドンッ!!

『ちょ、ちょっとぉ〜開けてよぉぉ!!』

「・・・・・・・・。」

ドンドンドンッ!!

『ひどいよぉ〜ッ!寒いよ〜!!』

「・・・・・・・・。」

今度は思い切り窓を叩く音が僕の部屋に響き渡る。そして、女の子の声も。

無言のままベッドから起き上がると、スタスタと窓の前に立ち

カーテンを開けるとそのまま窓のロックをはずす。

シャァァーーーッ

ガラガラッ

「だ、誰だお前はぁぁ〜!?」

「きゃッ!」

思わず窓を開けて大声でつっこみを入れてしまった。

女の子は気圧された為か、その場で尻餅をつく。

「も、もう!いきなり大声出さないでよぉ〜!」

「黙れ!コスプレ泥棒。」

「コ、コス・・・・・。」 (汗)

信じられない!っと言いたげな表情を浮かべながら女の子は口をパクパクとさせる。

僕は僕で友人のタチの悪いドッキリだろうか?と、色々考えるが

残念ながら今のこの時期にこんな手の込んだ悪戯をする天然記念物級馬鹿は

流石に心当たりが見当たらない・・・・。

「で、誰だよ、君は?誰の友達?」

「あ、あのぉ・・・そのぉ・・・・おほん。」

女の子はその場で立ち上がるとお尻を手で払い、すぐに気を取り直して咳払いをする。

「・・・・・・・。」

「キミ、当たりだよぉ♪」

にっこりとしながらそう言って僕を指差す。

「・・・・ナンダッテ?」

「だ、だからぁ〜。当たったの!キミは!」

「当たったって何がだよ?俺は出張ヘルスなんて頼んだ覚えないぞ。」

「も・・・もう!違う違うッ!」

女の子は地団駄を踏みながら首を横に振って否定する。

取り合えず僕は彼女の言ってる意味が理解出来ないので、

何者かだけでも聞こうと思い、

「・・・・・・はぁ・・・。一体何なんだよ君は・・・。」

と訪ねると。

彼女はにっこりと微笑んで、一言。

「サンタクロース♪」

「・・・・・・・・・はい?」

「ワ・タ・シ・サンタクロースで御座いますよ♪」

「・・・・・・・・・。」

僕は無言のままその場で回れ右。

「あ、あれ?どこ行くの?」

ベランダから女の子の声が聞こえたが無視し、

そのまま電話の子機を手にとると・・・

「もしもし、警察ですか?

 あのぉ・・・精神病の女の子が僕の家に勝手に上がりこんで・・・

「わわわわ!!ちょ、ちょっと待ってよ〜!!」

ズドドドド。と慌ててベランダから僕の部屋に入り込んできたその子は

僕の手から子機をぶん捕りその場にしゃがみこんだ。

「冗談だ。」

「ハァ・・・ハァ・・・・どうしてそんな事するかなぁ・・・?」

「次しょうもない事言ったらホントに電話するぞ?」

「だ、だからぁ〜、嘘じゃないよぉ!」

半泣きになりながらその子は、子機をしっかりと抱き込んで離さない。

僕は溜息をつくとベッドに腰掛けた。

「分かった分かった。じゃ話を聞いてあげるから、

 話終わったらとっとと病院に帰れよ?」

「だから!ワタシは病気じゃないったら!」

「あっそ。態度とか喋り方とかは一見普通に見えるけど・・・なにぶん言ってる事が痛いぞ、君。」

「うぅ〜。」

「はぁ〜・・・。で、サンタクロースさんが一体僕に何のよう?」

「赤い封筒拾ったよね?」

「・・・!な、何で知ってんだよ・・・!?もしかしてあれも君の悪戯・・・

「違う違うッ!あれは当たり券なの♪」

「あ、当たり券〜〜?」

呆れた僕を尻目に女の子はニコニコしながら得意げな表情を浮かべた。

「そう!ワタシが椎名歩クンの願い事を1つだけかなえてあげます♪」

ひゅ〜〜〜〜〜

開けっ放しのベランダの窓から寒風が吹き込んでくる。

「・・・・・・。」

ムクリ。とベッドから立上がると無言で窓を閉める。

ガラガラ・・・ピシャ。

「・・・・・あっそ。」

「あ、『あっそ。』って・・・・もっと喜んでよぉ!!」

「アホか!突然ベランダから女の子が入り込んできて

 貴方の願いを叶えるサンタクロースですぅ。って・・・んな話あるか!!」

「あ〜やだやだ。これだから今時の人間は・・・。」

フッといった仕草で僕を小馬鹿にする女の子。

「・・・・ふ〜ん、あっそ。んじゃ要するに君はサンタクロースで、

 可哀想な僕にプレゼントをくれるって訳だな?」

「いえす!」

女の子はそう言ってぴょこんとクッションの上に座る。

「じゃ、金くれ。」

そう言って僕は女の子にズイッと手を差し出す。

「ほぇ?」

「だから、金。マネー。万札バサバサ。僕幸せ。」

「ダメッ!」 プイッ

「な、なんでだよ!!」

「そんな欲にかられた御願いはダメ!歩クンが本当に願うものじゃないと。」

「なんじゃそりゃ!?・・・・・って待て!そう言えばなんで俺の名前知ってんだよ!」

「ふっふ〜ん♪サンタクロースは全てお見通しだよぉ〜♪」

「・・・・・やっぱ警察に・・・。」

「わー!!ホントなんだってばぁー!!」

「・・・・・・。」 じぃ〜

「ま、まだ疑ってるの〜!?」

「疑うも何も・・・はなから信じてない。」

「むぅ!分かったわよ!じゃあ証拠見せるよ!!」

余程信じてもらえないのが勘に触ったのだろうか。

女の子はその場に立ち上がると、すっと瞳を閉じる。

「何する気?」

『スノー』

!?

女の子がそう呟くと・・・・僕の部屋の中に・・・・雪が降り注ぐ。

「・・・・おわッ!?」

しんしん・・・・。

信じられない事に何故か部屋の天井から、雪が現れては床に降り注いだ。

部屋の中なのに雪が降るという幻想的かつ異常な光景・・・・。

ぱたぱたぱたぁ♪

雪が・・・・床に落ちては溶け、落ちては溶け・・・・・。

・・・・・・・・雪ッ!?

「待てッ!!」

「?」

「今すぐやめれッ!!」

「どう?これで信じてくれた?」

「信じる!信じるから!部屋に雪を降らすなッ!!」

どんどん降る雪。カーペットが・・・・家具が・・・・濡れていく。

「ぎゃぁ〜!!濡れる濡れるぅ!!プ、プレステがぁぁ!!」

「え、え〜〜っと。」

「早く止めてくれって!!」

「あ、あはは・・・・止め方、忘れちゃった♪」

「・・・・・・・・・・。」

スタスタ。

ペシッ。

女の子の頭を叩く。

「痛った〜〜い!!」

「アホかぁッ!!」

5分後、ようやく雪を止めれた時には、部屋の中は水気でぐちゃぐちゃだった。

「帰れ。」 ピキピキ

「ご、ごめんってばぁー!」

「サンタ。もう分かった。もう十分だ。そっとしておいてくれ。明日に、ああ繋がる今日くらい。」

「ま、まだ歩クンの御願い聞いてないよぉ!」

「・・・・・・・。」

「ね?歩クンの御願い、聞かせて?」

やる気満々の瞳をキラキラさせながら、バスタオルで頭を拭いていた僕の腕を掴む。

・・・・・・・さっきまで僕も気が動転してたけど

良く見れば結構可愛いな・・・この子・・・・。

「・・・・・・・・・。」

「ねぇねぇ!何が欲しいの?」

「・・・・・・・・な、何でもいいんだよな?」

「うん♪お金とかはダメだけど!」

「・・・・・・・じゃ、じゃあさ・・・。」

「うんうん!」

「・・・・・・サンタ、一発やら・・・

ズブッ

「ぎゃぁぁぁ!!!」

目潰しをくらってゴロゴロ部屋を転げまわる僕。

「歩クン、サイテー。」

女の子は真っ赤になりながら怒ってそっぽをむいた。

「お、おまッ・・・・今入ったって!眼球にきたって・・・!!」 ゴロゴロ

「もう!あのね!ちゃんと説明するとぉ〜、ワタシが贈れるモノは

 歩クンが本ッ当〜に心から純粋に願うモノなの!

 それは煩悩とかが一切混ざってない。純粋無垢な望みなの。いい?」

「サンタ・・・それ結構言ってる事無茶苦茶だ。

 普通、人の欲しいものっていったら大体俗物まみれだぞ。」

「・・・・あの、さっきから気になってたんだけど・・・・

 そのサンタって、もしかしてワタシの名前?」

「に決まってんだろ。サンタクロースだから略してサンタ。まんま。」

「あはは・・・そういえばまだ名前言ってなかったね。」

「あ、名前あんの?てっきりサンタクロースって名前だと思ってたんだけど。」

「キャロット♪ワタシの名前はキャロットって言うの♪」

「じゃあキャロット。御願いだ。」

「はい♪」

「もう帰ってくれ。」

「・・・・・・・・・あぅ。」

十数分後、暖房がギンギンに効いた部屋で僕とキャロットはお互い向かいあっていた。

「あ、歩クン・・・ちょっと暑くないですかぁ・・・?」

「誰かさんが、雪を降らしたから早く乾かしてるんだけど、何か?」

「あぅ・・・・。」

「で、キャロットは年に一度特別に1人の人間の願いを叶えるっていうんだな?」

「ういっす♪」

「そして俺がたまたまその権利っていうか、対象になったと。」

「いぐざくとり〜♪」

「さらに言うと、その願いというか貰えるものは、ただ単に自分が欲しいものではダメだと。」

「えらいね歩クン♪飲み込み早いっす♪」

「・・・・どないせーちゅーねん。」

「何か思いつかないの?」

「う〜ん。幸せになりたい。ってのはどうだ?」

「・・・・ちょ、ちょっと漠然すぎるというか・・・。」

「あぁぁッ!!もうめんどくせー!!ドラ●もんみたいにペコペコっと

 ポルシェなり豪邸なり出してくれよ!」

「ドラ●もんはそんなの出さないよぉ・・・。」

「やれやれ・・・参ったなぁ・・・。」

僕はベッドから立ち上がると上着を着替え始めた。

「あれ?どうしたの??」

「今から街に遊びに行こう。」

「ほぇ?だってさっき帰ってきたばかりじゃ・・・?」

「街を歩いてたらふと願い事を思いつくかもしれないだろ?」

「う〜ん。そんなものなのかなぁ〜?」

実のところ、ぶっちゃけこれ以上キャロットと部屋に2人きりでいるのが

気不味かったというのがあるが、もう一つ、今までクリスマス・イヴなんかに

女の子と遊んだ事なんか無かったので、ちょっとした優越感にひたろうと思い←バカ

僕はキャロットを連れてもう一度街へ繰り出した。

彼女の格好はそりゃ多少は目立ったが、時期が時期だけに特別浮くような事もなく、

『ねぇ、あの子かわいい♪』

『ホントだ。あの服どこで買ったんだろうな?』

等と、キャロットの格好を見たカップルにそう囁かれたりしてちょっとだけ嬉しくなった。

適当にぶらついてゲーセンなどに入ると、

物珍しいのか、キャロットは喜んで色んな筐体の前へ僕を引っ張りまわした。

「ねぇねぇ?歩クン、これなぁに!?」

「これはUFOキャッチャーといってこのクレーンを操作して

 ぬいぐるみを捕って穴に落とすんだ。」

「このクレーンで?ふぇ〜。で、とったぬいぐるみさんはどうなるの?」

「キャトルミューティレーション室に運ばれ、そこで人体実験される。」

「嘘ッ!?」

「嘘だ。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

ボカッ。

「イテッ!」

「嘘つき。」

「じょ、冗談だっつーの。」

「あ、これはこれは〜?」

「これはテッケソと言う対戦格闘ゲームだ。」

「へ〜!どうやるのぉ?」

「まずコインを投入して、実際に殴りあう。」

「・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・。」

ボカッ。

「フッ。・・・学習したな。」

「歩クン。キライ。」

「じょ、冗談だっつーの!」

ゲーセンをぐるりと一回りした後、僕はキャロットを誘ってメダルコーナーに腰を下ろした。

「これって一体何?」

「あぁ、こうやってメダルを入れてだな。・・・よっと。」

僕は器用にメダルを投入すると、勢いよく転がったメダルは巨大なルーレット上に落下する。

ジャラララ・・・・。

ウィーーーーン、ピピピピピ♪

ルーレットが回転し、数字が揃っていく。

同じように何枚かメダルを投入すると数字がゾロ目になり、大量のメダルが下から出てきた。

「うわ〜♪スゴーイ!」

「フッフッフッ。こう見えても俺はこの界隈では『メダル・オブ・オナー』の称号を得ているのさ。」

「ねぇねぇ!ワタシにもやらせて!」

「はいはい。じゃあやってみなよ。」

キャロットは喜んで僕からメダルを受け取ると、真剣な面持ちで黙々とメダルを投入する。

チャリ〜ン。コロコロ・・・ポテ。

チャリ〜ン。コロコロ・・・ポテ。

「・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・。」

「う〜!全然コインが出てこないよぉ!」

「下手糞。」

「な、なんでそんな事言うのよぉ!」

「ちゃんとタイミング狙ってるか?ほら、この時に落とさないとメダルが無駄になっちまうぜ?」

「もう!・・・・エイッ!」

チャリ〜ン。コロコロ・・・ポテ。

チャリ〜ン。コロコロ・・・ポテ。

「・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・。」

キャロットの顔つきが険しくなる。

心なしか肩が震えているような気が・・・。

「あの・・・キャロット?」

「・・・・・・・も、もう怒ったよぉ・・・。」

「こ、子供かお前は・・・。」

「え〜い!!」

そう言ってキャロットが筐体を指差した直後・・・・

チャリチャリチャリ〜〜〜♪

ジャラララララッ!!!

チャラリラリラ♪←1UP

そこらじゅうの筐体からメダルが大量に吐かれ始めた。

『おわわッ!?』

『な、なんじゃこりゃぁーーーッ!!』

店内騒然。

即、キャロットの腕を掴んで猛ダッシュで店を出る。

「もうてめぇとは絶対行かねぇッ!!」

「ご、ごめんなさ〜い!」

なんだかんだで色々と楽しんだ?後、ゲームセンターを出て再び大通りを歩く。

しばらくして立ち止まると、僕は目の前のマクソナルドを指差した。

「これがハンバーガー屋だ。」

「し、知ってるよぉ!それくらい。」

「あ、そうなの?」

「う、うん・・・・・・食べたことないけど。」

「じゃ、いっか。食べてこうかと思ったけど。」

ガシッ。

再び歩こうとする僕の服の袖をキャロットが掴む。

「・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・。」

「何?」

「・・・・・べたい。」

「はい?」

「・・・食べたいよぉ!!」

「食べたいのかよッ!!」

『いっらしゃいませ〜♪』

「すいません。バカヤリューセット2つ下さい。」

ハンバーガーセットを2つ買うと、キャロットと2Fの席に座る。

「・・・・22時30か・・・。」

ふと店内の時計を見て何気なく呟くと

一瞬キャロットの肩がピクリと動いたような気がした。

「・・・どうしたんだ?」

「うん?・・・なんでもないけど?」

「そうか・・・・じゃさっさと食べよう。」

「うん♪」

もぐもぐ・・・。

はもはも・・・。

「そう言えばさ、キャロットって年いくつ?」

ポテトを頬張りながら僕はキャロットに訪ねる。

「ん?1430歳。」

「ブッ!!」

思わずポテトを噴出す。

「マヂで・・・!?」

「嘘。」

「クッ・・・こやつ・・・。」

「えへへ。仕返し〜♪」

「で、マヂな話、いくつなんだよ?」

「う〜んと。18。」

「18ッ!?・・・15,6にしか見えない・・・。」

「わ、悪かったですねぇ!子供っぽくて!」

「こ、こら!ポテト投げるな!!」

「どこに住んでるんだ?」

「ひ・み・つ♪」

「なんだもったいつけやがって。吉街病院だろ?」

「吉街病院・・・?何で病院なのぉ?」

「ここらへんじゃ有名な精神病院だ。」

「もうッ!!」

「ま、待てッ!シェイクは投げないでおこう。な?な?」

・・・上手く表現出来ないけれど、すごく楽しかった。

キャロットとふざけ合う事。こうやって話をする事・・・・・。

「歩クン。あそこの店の前にあるおっきな機械って何ぃ〜?」

「あれ?あれはプリクラだな。」

「プリクラ?」

「ようするに写真を撮ってその場でシールにしてくれる機械だ。

 何なら撮ってくかい?」

「あ・・・・・う、ううん。いいよ・・別に・・・。」

「?」

彼女はプリクラの説明を聞いた途端、急に元気がなくなった。

・・・・何かまずい事言っただろうか?

う〜ん?

「・・・ま、しょうがないわよ。」

「しょうがないってなんだよ?」

「流石に・・・写真はマズイからよ。」

「あ、そうなの?・・・・って、ぬわッ!?」

思わず僕も自然に相槌をうってはいたが、驚いて声のした方を向くと、

何時の間にかすぐ隣にはキャロットと同じ格好をした女の子が立っていた。

キャロットより背が高く、大人びた顔立ちと腰まで伸びた長い髪。

その思わず見とれてしまいそうになるルックスに道行く男の視線が集まる。

「ローズ!?」

驚いたキャロットが少し大きな声をあげる。

「だ、誰だ・・キャロットの友達か?」

キャロットに訪ねるが、彼女はローズと呼んだその子と

目線を合わそうとせず、気まずそうにしている。

「初めまして、私はサンタクロース見習いのローズ。」

そう言うとニコリと微笑むローズ。

「ゲッ!こ、ここにもサンタクロースが・・・・って、見習いッ!?」

「そうよ。私達は見習いなの。そして今夜はその最終試験。

 ランダムにチョイスされた人間を満足させれらるかによって

 卒業資格が判定されるのよ。」

「サ、サンタクロース・・・見習い!?・・・最終試験!?」 (汗)

僕がキャロットを横目で見ると、キャロットはバツの悪そうな顔をして俯いた。

「キャ・・・キャロットくん。なんか若干お話が違うんだけど?」

「ご、ごめんッ!歩クン!・・・その、対象者にあまり詳しい話を言うのは・・・。

 ロ、ローズ!どうして歩クンにしゃべるの!?」

「いいじゃない。どうせ彼も・・・っと!(・・・そこまで言う必要も無いわね。)」

ローズは何かを言いかけたが、途中でやめてしまった。

「そもそも・・・こんなところで何してるの?

 まだ試験終了まで時間あるけど・・・。」

「あら?私はとっくに試験終わったわよ。」

「えぇッ!嘘ッ!?」

ぎょっとした眼でローズを凝視するキャロット。

「ええ。私の相手は可愛い女の子だったわ。」

長い髪を掻き揚げると、ローズは僕の方を見て苦笑し、

「貴方も大変ね。キャロットはうちの落ちこぼれだから。」

「お、落ちこぼれッ?」

「えぇ。何故か雪を降らすのだけは得意なんだけど。

 それ以外はからっきし。」

と言いキャロットを見つめた。

「そ、そうか。だから俺の部屋も雪まみれに・・・。」

「ど、どうしてそんな事歩クンに言うかな〜・・・・!」

キャロットは真っ赤になりながらローズを睨む。

「フフフ・・・。相変わらずドジばかりしてるみたいね。キャロット。」

「どうする気?試験時間は0時までよ?」

試験時間・・・だって?

「貴方、このままだと彼の願いを叶えられず落第よ?」

「・・・・・分かってるよぉ。」

3人の間に暫く沈黙が続いたが、ローズがフッと微笑むと一言。

「『パパとママが元気でありますように。』」

「・・・え?」

「私が担当した女の子の願いよ。参考程度にはなったかしら?」

「ローズ・・・・、どうして?」

「あら、考えたらこれって試験違反よね・・・・ふふ。

 でも願いが一緒じゃない限りはバレやしないわよ。」

「で、でもローズ・・・!」

「ま、せいぜい頑張りなさいね。

 ・・・・貴方みたいな人でも一緒に合格出来ないと夢見が悪いから。」

「ローズ・・・・・ありがと。」

ローズはにこりと微笑むと人込の中に消えていった。

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「なぁ、試験って、やっぱサンタクロースになる為の試験だよ・・・な?」

「うん。」

「じゃ、これに落ちたら。キャロットはまた1年パチモノサンタになるって訳だ。」

「パ・・・パチ・・・!?あぅ〜・・・。」

僕はしょんぼりしているキャロットの頭をポンッと叩くと

「急ごうぜ。俺も何とか願い事考えるっつーか、見つけてみるからさ。」

そう言って微笑んでみせた。

「う、うん。ワタシも協力するから!」

キャロットは明るく微笑んだ。

「でも、君、落ちこぼれなんだろ・・・?」

「こ、細かい事気にしてないでよぉ!」

拗ねるキャロットを可愛いと思いながらその反面、僕は心の片隅で

ローズが言った言葉が気にかかっていた。

・・・何故写真がまずいんだ・・・・?

・・・・・・・・・。

「人類が平和でありますように!」

「それは私達が常日頃頑張ってる事だよぉ。」

「クッ!宝くじ当れッ!」

「お金はダメ〜!」

「じゃあ・・・トム・クルーズみたいな顔になりたい!」

「個人の顔を変えちゃったら、ワタシが怒られちゃう・・・。」

「えぇいッ!じゃあアメリカ合衆国大統領に就任!」

「運命律を大幅に操作するのも禁止されてる!っていうかワタシじゃ無理ッ!」

「は?運命律??」

「き、気にしないで・・・。」

「ベルダ●ディみたいな子にずっと傍にいて欲しいッ!」

「・・・・歩クン・・・。」

「冗談だ・・・・・。」

「誰彼のシナリオライターを変えてくれるか?」

「過ぎ去った出来事はどうする事も出来ないの・・・。」

「ギャルのパンティおくれッ!!」

「・・・・。」 ボカッ

「イテッ!」

「・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・。」

「君、本当にサンタクロースか?」

「うぐぅ。」

「うぐぅ!?」

「冗談ですぅ・・・。」

「・・・・・・・・。」

「「はぁ・・・・。」」

お互い深いため息をついた。

ブルブル・・・ブルブル。

「・・・あ、メールだ。」

僕はポケットから携帯電話を取り出し、メール画面を開くと

【クリスマスだからこそチャンス!素敵な出会い−−−】

ポチッ

【このメールを削除しますか?】

ポチッ

【YES】

【メールを削除しました】

「クソメールが・・・・っておわッ!?23時半じゃん!!」

「エッ!?嘘ッ!!」

キャロットの血相が変わる。

「わわわ・・・歩ク〜ン!どうしよう!!」

「・・・・・・・・・・。」

・・・・・しょうがないよな。

取り合えず、適当に何か言っておかないとキャロットが落第してしまうんだし。

僕は戸惑うキャロットの頭にポンッと手をのせると

「よし、決まったよ。」

と言って微笑んだ。

「エッ!?ホントッ!?」

キャロットの表情が瞬時に明るくなった。

「・・・・・・えぇっと。」

「なに?なにが望みなのぉ?」

「・・・・・・チキンラーメンが食いたい。今すぐ。」

「・・・・・・・。」

「・・・・・・・。」

ひゅぅ〜〜〜〜

「・・・・歩クンの嘘つき。」

「なッ!?単純かつ明快な望みじゃねーか!」

「心の底から望んでる願いじゃないもん。」

「ハァ〜!?な、何事も臨機応変、君が望む永遠って言葉知らないのかよ!」

「無理なの・・・歩クンが本当に望む事じゃないと発動出来ないの。」

「・・・何が?」

「ワタシの力が。」

「あるの?そんなの・・・?」

「・・・・・・・。」 ボカッ

「イテッ!」

「・・・・・ありがとう。」

「あん?」

「歩クン、ワタシの為に無理して言ってくれたんだよね・・・。」

「う・・・ま、まぁね。だってさ、俺の望みを叶えないと落第するんだろ?」

「うん・・・・だけど・・・・いいよ。また来年頑張るから・・・・。」

「おま・・・・

『わぁぁ〜〜ん!!』

!?

突然僕達の背後で泣き声が聞こえてきた。

振り返ってみると小さな女の子が立ち尽くして泣いていた。

「なんだ・・・迷子か?」

僕がキャロットに話かけるよりも先に、彼女は女の子の前で屈みこんでいた。

「って早ッ!」

「えぇ〜〜ん!!」

「どうしたのぉ、泣かないで・・・・。サンタのお姉ちゃんが来たからね♪」

「えぇ〜〜ん・・・・ママァ・・・・。」

「ママ何処行ったのぉ?」

「えぇ〜〜ん!えぇ〜〜〜ん!!」

「ママとはぐれちゃったのぉ?」

「うわぁ〜〜ん!」

「はいはい、泣かない泣かない。お姉ちゃんがママを探してあげるからね。」

そう言うとキャロットはポケットから小さなクマのヌイグルミを取り出した。

さっき僕がUFOキャッチャーで取ってあげたやつだ。

泣きながらも好奇心でそのヌイグルミを見る女の子を確認すると、

パチンッと指を鳴らす。その直後。

ムクリ。

ヌイグルミが起き上がって2本足で立つと、

トテトテトテトテ・・・・。

女の子の目の前をぐるぐると歩き始めた。

「ぐす・・・すん・・・・くまさん!」

「お姉ちゃんとね、くまさんがね、きっとキミのママを見つけてあげるから。ね?」

「・・・・うん。」

ポテッ。ゴロゴロ。

クマのヌイグルミはその場で寝転がると、ゴロゴロと猫のような仕草を始める。

「・・・・えへ・・・えへへへ。」

ようやく女の子が泣き止んだのを確認すると、キャロットはこちらに振り返り

はにかんだ笑みを浮かべた。

「っという訳で、歩クン・・・・。」

僕は頭を掻きながら苦笑し、キャロットとその子を見つめた。

「わーってるよ。その子の母親、早く見つけてあげよう。」

「ありがとう!」

僕とキャロット、そして僕に肩車されたマナミという迷子の女の子は

大通りをひたすら歩いて母親を探す。

「マナミちゃんのお母さんいますかぁ〜!?」

「なぁ、マナミちゃん。ママは見えるか?」

「・・・うぅん。みつからない・・・。」

「マナミちゃんのおか・・・ケホケホッ!」

「おいおい、大丈夫かキャロット。」

苦笑しながら彼女の背中をさする。

「ケホッ・・・うぅ・・大声出し過ぎてむせちゃたよぉ・・・。」

「ったくしゃーねぇな・・・俺に任せろ。」

すぅぅっと僕は大きく息を吸い込む。

「マナミちゃんのお母さんはいらっしゃいませんかぁ〜〜〜!?」

正直言って・・・そりゃ恥ずかしかった。

普段なら絶対やらないと断言できる。だけど、キャロットの一生懸命な姿を見てると、

僕は不思議とその恥ずかしさを感じずに、大声を張り上げてマナミちゃんの母親に呼びかけ続けていた。

僕の大声が功をそうしたのか、しばらくしてマナミちゃんの母親は見つかった。

どうやら目を離したすきに、マナミちゃんが街のパレードを追いかけてはぐれてしまったらしいのだ。

「本当に、有難う御座いました・・・!」

そう言ってマナミちゃんの母親は深々と頭を下げた。

「いえ。僕も、すぐにお会い出来て安心しました。」

「おねーちゃん、ありがとう。」

「うん♪元気でねマナミちゃん♪もう迷子になっちゃダメだぞぉ?」

「ばいばーい!」

クマのヌイグルミを嬉しそうに抱きかかえ、母親と手を繋いだ少女は人込の中へと消えていった。

そんな少女をキャロットは優しい眼差しでずっと見送っている。

「・・・・ふぅ・・・疲れたぁ・・・。」

公園のベンチでドカリと座り込む。

「ご、ごめ〜ん!歩クン!」

「いや、いいよ。そりゃほっとけないだろ?」

「えへへ。」

「それにしても、何だかさっきまでのキャロットは別人みたいだったよ。」

ニヤニヤしながら僕がそう言ってからかう。

「えぇ・・!な、何それぇ。」

「何かさ、やたらお姉さんっつーか、大人の女性って感じで・・・保母さんみたい。」

そう言ってケタケタと僕が笑うと、キャロットは顔を赤らめ

「だってワタシも迷子になったとき不安で不安でしょうがなかったもん。

 だから・・・あの子から少しでもその不安を取り除いてあげたくて・・・・。」

と言ってぷぅと頬を膨らませた。

「そっか・・・。」

僕はそれだけ言って微笑むと、キャロットの頭をなでなでしてあげた。

「いい子いい子。」

「も、もう!なにそれぇ〜!?」

「キャロットなら良い保育園の保母さんになれるぞ。」

「ワ、ワタシ・・・・サンタクロースなんだけど・・・・。」

「見習いだろが。」

「が、がぉ」

「がぉッ!?」

「冗談ですぅ・・・。」

僕はふと時計を見ると、時刻はもう23時57分を指していた。

「・・・・ヤベ。」

「・・・もう時間、ないよね。」

キャロットが苦笑しながらそう呟く。

「悪りィ・・・・結局願い事・・・見つけられなくて・・・。」

「うぅん・・・歩クンは悪くないよ。マナミちゃんのお母さんを探すのに時間かかっちゃったし。」

「やっぱり、その・・・落第?」

「ら、落第って言わないでよぉ〜!来年こそ絶対合格するんだもん!」

「ハハハ。そっか、頑張れよ。

 あ、また来年になったら俺んところにも顔出せよ?

 今度はもうちっと美味い店とか調べとくからな。」

「・・・・あ。」

その途端、また彼女の表情に翳りが見える。

プリクラの話題になった時と同じ表情が気になって、僕は立ち止まって彼女に尋ねてみた。

「何だよ・・・?」

「え?」

「何か言いたい事あるんだろ?言ってみろよ。」

するとキャロットは俯いて、ぼそぼそと何かを呟き始めた。

「・・・・えない。」

「何だって?聞こえないんだけど?」

「・・・・来年は・・・・もう会えない。」

「・・・え?」

「・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・。」

し・・・・ん。

静寂が俺達に重くのしかかった。

「ど、どういう事だよ・・・?」

「歩クンは・・・明日にはワタシとの記憶を消されちゃうの。」

「記憶を・・・消されるだって・・・・?」

その後、キャロットは消え入るような声で僕に色々と話してくれた。

本来、キャロット達の素性は人間にバレてはいけない事。

そして試験に関った人間の記憶は、試験が終了すると共に勝手に操作されてしまうという事。

「なん・・・だよ、それ・・・・。」

「ごめん・・・・歩クン。」

「じゃなにか!?試験が終わると俺の中では24日のイヴの日は家で寝てた事になるのかよ!」

「・・・・多分。」

「そっか・・・・・そう・・・だよな。」

考えたら今の今までキャロットがサンタクロース候補生だという事実に

あまり実感が湧かなかったが、彼女は普通の女の子とは明らかに違うのだ。

そして、今夜のような非現実的な体験には・・・終わりが来るのだ。

「考えたら・・・実際にサンタクロースが存在するなんて誰も思っちゃいないもんな・・・。」

夢が終わり、そしてまた日常がくる・・・それだけじゃないか。

僕は勤めて平静を装うとしたが、心の底で、この目の前の女の子の事ばかり考えてしまっていた。

―もうキャロットには会えない。

―もうキャロットを思い出せない。

何か、悲しくなってキャロットをまともに見れなかった。

「・・・・ごめんね。」

弱々しい声でキャロットが呟く。

「バッカ。もう謝んなよ。」

「・・・・うん・・・。」

「ッ!?何お前・・・泣いてんのかよ!?」

「・・・・・〜〜〜。」

「な、何で泣いてんだよぉ〜!泣きたいのはこっちだぜ・・・散々振り回されたんだから・・・。」

僕は苦笑しながら、キャロットの頭を撫ぜてあげた。

「・・・・くないよぉ。」

涙声でキャロットが何かを呟いた。

「え?何だって?」

「・・・・・別れなくないよぉ。」

「・・・・キャロット・・・。」

立ち尽くす僕達に雪がしんしんと降り注ぐ・・・・。

「何してるの?キャロット!」

「!?」

「・・・・あ・・・!」

声が聞こえた方に振り返ると、1人の金髪の女性がツカツカとこちらへやって来ている。

「だ、誰だ、あの人。」

ウールのロングコートを来た長身の女性。

「マ、マリーしぇんせぇ・・・・!」

「せんせいだぁッ!?」

僕は素っ頓狂な声を上げ、その女性とキャロットを交互に見比べた。

失礼だが、どう見ても教師というよりはキャバクラにいそうだ。

「キャロット、試験終了時刻前よ。例の場所に集合しなさい。」

「マリー先生・・・!

 もう少しだけ・・・もう少しだけ待って下さいッ!」

「貴方、何を言ってるの?試験は終了したの。速やかに集合場所に帰還しなさい。」

冷たく言い放つ女性。

だが、キャロットは懸命に食い下がる。

「御願いします!もう少しだけ、この人と・・・!!」

「・・・・・・・・いいわ。あと少しだけ待っててあげる。」

「ありがとう御座います。」

マリー先生と呼ばれた女性は踵を返すと人込みの中に消えていった。

「・・・・・・・今の、先生?」

「・・・・・・・うん。ワタシの担任。」

「そう・・・ファンキーなんだな。キャロットの学校は。」

「人間世界に、溶け込んでるから・・・・。」

今の女性の言葉で、実感が湧いてきた。

キャロットと会えるのは・・・今夜限りなんだと。そして僕の記憶も・・・・。

リンゴ〜ン♪

リンゴ〜ン♪

0時を知らせる大通りのパークウェイビルの鐘が鳴り響いた。 

翌日の始まりを告げる合図であり、今日の終わりを告げる合図。

そして、僕たちの別れを告げる合図だった・・・。

「・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・。」

「・・・・・お別れだね・・・歩クン。」

寂しそうな笑みを浮かべてキャロットが呟く。

「ごめんね・・・ワタシ・・・落ちこぼれだから、

 結局歩の願い事叶えられなかった・・・よぉ・・・。」

キャロットはまたうっすらと涙を浮かべながらも話を続ける。

「こ、こんな事じゃ・・・サンタクロース失格だね・・・グス。」

「そんな事ないっつーの。」

「・・・ふぇ?」

「キャロットは良いサンタになるよ。

 さっきのあの子供の笑顔。あれはキャロットだから引き出せたんだよ。」

「・・・・そうかなぁ・・・?」

「俺はそう思うぞ。キャロット、子供は嫌いか?」

「・・・大好きだもん。」

「だろ?じゃあやっぱりキャロットはサンタクロースになるべきだよ。」

「・・・・歩クン。」

リンゴ〜〜ン♪

リンゴ〜〜ン♪・・・・・・。

鐘が12回鳴り終わると、辺りは静けさが戻ってきた。

「じゃ・・・もう帰るね・・・。」

「・・・・・・・・。」

「本当に・・・ごめんね・・・。」

そう言うと、彼女は無理して笑みをつくろうとする。

「・・・・待てよ!まだ、やるべき事が残ってる。」

「?」

「俺の願い事、叶えてくれるんだろ・・・?」

「え・・・?だ、だって結局歩クンの願い事は・・・・・。」

ギュッ。

「・・・・・・・。」

「あ、歩クン・・・!?」

僕はキャロットを抱きしめるとそっと彼女の耳に囁く。

「もうさっきから決めてたんだよ。」

「え・・・えぇッ!?」

「サンタクロース様、椎名歩の御願いです・・・・。」

「・・・・・・・。」

「俺は、一人のサンタクロース見習いの女の子を好きになってしまいました。」

「!!」

「どうか、俺とキャロットとの記憶を消さないで下さい。それが願いです。」

「あゆむ・・・・くん。」

「俺は・・・・俺はまたキャロットと会いたいです・・・来年も再来年も・・・ずっと。」

「ふ・・・ふぇぇ!」

「バ、バカ・・・・泣くなよ・・。」

照れながらキャロットの髪を優しく撫ぜる。

「ワタシも・・・また歩クンと会いたいよぉ・・・・!」

キャロットは涙で顔がくしゃくしゃになりながらもニッコリと微笑んだ。

そんな僕たち二人を優しく見守る二つの影があった。

「校長、キャロットも合格ですね。」

マリー先生がそう呟くと、隣に佇むタイ焼き屋の老人に微笑みかける。

「ふぉっふぉっふぉっ。だから言ったじゃろ?キャロットは立派なサンタクロースになるってな。」

校長と呼ばれたその老人も、やさしい眼差しでいつまでも抱き合う2人を見つめていた。

クリスマス・イヴの夜

僕は小さなサンタクロースに恋をした。

 

―1年後―

 

「歩ク〜ン!助けて〜!!」

「あほぅ!そんな山のようなプレゼント俺の部屋に入りきるか!!」

僕の彼女はサンタクロース。

色々と苦労が耐えないけど、それなりに幸せだ。

 

― Merry Cristmas ! ―