愛と幻想のふぁしずむ エピソード2(第12話)
クーヤ・シェイカー ―Vol.2―
−常春の国、トゥスクル−
「〜〜〜!!」
まろは鉄扇を額につけて苦悩していた。
「20秒・・・9、8、7、6・・・・」
真横に座していたウルトリゥが容赦なく秒読みを行なう。
「クッ・・・!!」
「聖上、早く指して下さい。」
対面に座しているベナウィが冷たく言い放つ・・・・。
クソ・・・少し自分が優勢だと思って調子にのっているでおじゃるな・・・。
「4、3、2・・・」
しびれを切らしたオボロが野次を飛ばしてくる。
「あ、兄者ぁー!びっと指してくれよー!」
「う、うるさいなッ!・・・・ク、クソッ!」
「・・・1。」
パチン♪
渋々私は皇駒を下げて、ひとまず戦局を変えようとしたが・・・・
「聖上・・・・詰めです。」
パチンッ。
非情にもベナウィの竜騎駒がマロの皇駒にとどめをさした。
「ま、待てッ!!」 (汗)
「申し訳御座いませんが、これ以上は待てません。」
キッパリと言い放たれてしもうた・・・。
私の膝を枕にして横になっていたアルルゥが一言・・・。
「・・・おと〜さん・・・弱ッ。」
ガビィィ〜〜〜ン。
「ま、まろは・・・まろは将棋が弱いのくぁ・・・!?」 カクカク
「お、御気になさらないで下さい。ハクオロ皇、ベナウィ様が御強いだけですわ。」
ウルトが苦笑しながらフォローを入れてくれる。
「ク・・・クソ〜!べ、ベナウィ!!泣きのもう1勝負でおじゃる!」
「・・・御心のままに。」
丁度その時、午前の修練を終えたトウカが汗を拭きながらやってきた。
「ふぅ〜、疲れました・・・・。あッ、将棋で御座いますか?」
・・・・ん、トウカか・・・。
・・・・・待てよ?(ニヤリ
「トウカ、丁度よいところへ来た。一局付き合え。」
「え・・・某が・・・ですか?」
フフフ・・・カモが来たでおじゃるよ・・・。
−数分後−
パチンッ。
「おっほっほ♪詰めでおじゃる♪」
「・・・・・・・。」
案の上、トウカはアフォだった。
「まだまだでおじゃるの〜、トウカ。おっほっほ♪」
ストレスが解消されて有頂天のまろを見て、呆れ返るギャラリー。
「ハ、ハクオロ皇・・・大人げないですよ・・・。」 (汗)
ウルトはリアクションに困ったような苦笑を浮かべ、
ベナウィは一言、
「・・・・情けない。」
と眉間にシワを寄せて呟いた。
「おっほっほっほ♪」
「・・・・・・・。」
「・・・あれ?」
「・・・・・・・。」 ワナワナ
トウカの様子がおかしい。
俯いたまま唇をかみ締めて小刻みに震えているのだ。
「・・・あの・・トウカたん?」
「・・・・・・・ク。」 ワナワナ
「ク?」 (汗)
「クケェーーーーッ!!!」
ガチャーンッ!
ドスーーンッ!
突如奇声を上げながら、トウカはベソをかいて将棋盤をちゃぶ台返し。
「おわッ!キ、キレたッ!?」
「く、悔しいぃ〜〜!!」
悔し涙を流しながらダンダンと床を殴りつけるトウカ・・・。
・・・そ、そこまで悔しがるようなものか・・・・?
「あのぉ・・・トウカたん?」
「な、なんですかッ!!せ、聖上は、どうせ某が馬鹿だと思っておいででしょう!!」
やれやれ・・・。
ぎゅ♪
私はトウカを優しく抱きしめてあげた。
「・・・・せ、聖上?」
「・・・・馬鹿者。別にそんな事思っておらんよ。
それに・・・まろはトウカのそういったそそっかしい所が好きでおじゃるよ。」
「・・・・聖上・・・。」 うっとり
「何真っ昼間から口説いてるんですかッ!」
どばきゃッ!
「オジャルンバッ!?」
何時の間にか背後に立っていたエルルゥが手にしてた大釜でまろの後頭部をしばき上げた。
「い、痛たいでおじゃる〜〜!」 (ゴロゴロ
「みなさん、昼食の御用意が出来ましたよ。」 にっこり
何事も無かったかの様に笑顔で皆にそう伝えるエルルゥ。
「・・・・では、昼食を頂きに参りますか・・・。」 (汗)
「そ、そうですわね・・・おほほ♪」
「あはは・・・そ、某もお腹が空いてましたので・・・・。」
ウルトとベナウィとトウカは苦笑しながらコソコソとその場から退散した。
「で、ではまろも昼食を・・・。」 コソコソ
背中にたれアルルゥを貼り付けたまま、逃げようとするまろの前に
むぅ〜。と膨れっ面をしたエルルゥが立ち塞がった。
「あ、あの・・・・エルルゥ?」
「・・・・・・。」 むぅ〜
「そ、そんなに怒らないでくれぇ・・・あの場は致し方ないだろう〜?」
「・・・・・・。」 むぅ〜
・・・ふぅ、仕方が無いな・・・。
ぽふっ。
「・・・・・・あ!」
私は無言でエルルゥを抱き寄せ、頭を撫でた。
「・・・・も、もう!」
「で、今日の昼メシは?」
「・・・・・ハクオロさんの好きな、モロロと茸を交ぜて蒸したのです。」 ぷぅ
「そっか♪・・・エルルゥのメシが1日で1番の楽しみだからな。」
「・・・ちょ、調子いいんですからぁ・・・。」
クイクイッ。
背中に貼りついているアルルゥが襟を引っ張ってきた。
「ん?どうしたんだい?」
「おと〜さん、おなかへった。」
「ははは・・・じゃ、行くか。」
私はエルルゥとアルルゥを連れて歩き始める。
「・・・ハクオロさん。」
「ん?」
「・・・たらし。」 ぷぅ
「・・・・・・。」 (苦笑)
「むふぅ〜♪おと〜さん、たらしって何ぃ〜?」
「お・・・おっほっほっほ♪」 (汗)
−午後−
「・・・・・・。」 カリカリカリ
午後はやけにいつもよりも多い政事に追われた。
「・・・・これが治水案件の資料です。」
ドサドサッ
ベナウィが大量の資料を目の前に積み上げる。
「こ、こんなにあるでおじゃるかぁ!?」
「残念ながら、これだけ御座います。」
「もう嫌ぁーーッ!!」
そう叫びつつも、何とかそこはまろの気力と根性で
どうにか今日の政事は終了した。
「あぅぅ・・・。」
「お疲れ様です。」
「じゃ、じゃぁ・・・まろはもう休むぞ?」 ふらふら〜
「聖上、宜しければたまには騎兵衆の訓練でも見に来て下さい。」
「・・・すまんな。今日はちとまだやらねばならん用事があってな。」
苦笑しながら私が答えると、すぐにベナウィは気付いた表情を浮かべた。
「・・・・例の、畑ですか?」
「あぁ・・・。」
するとベナウィは笑みを浮かべて
「分かりました。それでは失礼します。」
と、一言言った後、その場を去っていった。
「・・・・さて・・・と。」
私はへこへこと皇殿の一角にひっそりとある小さな畑に足を踏み入れた。
畑には既にいくらかの野菜が熟れて、美しい輝きを放っていた。
「・・・・ふむ。」
パチンッ
パチンッ
私は丹念に野菜の生っている周囲の葉っぱを切り取り、
熟れてる野菜は摘み取って籠に入れていった。
『はははッ!あんちゃん。駄目だぜ!そんなへっぴり腰じゃな!』
『む、無茶言うなよ、おやっさん。まだ体が治りきってないんですよ?』 (苦笑)
『あんたが偉そうな事言うんじゃないよ!
こうやって地の御神様の恵を頂けるのも、みーんなハクオロのおかげじゃないか!』 ドスッ
『痛ッ!か、母ちゃん!レバーブローは止めてッ!』
『やれやれ・・・豪腕テオロもソポクにゃ、このか細いモロロと一緒じゃな。カカカ!』
『や、やかましいわいッ!』
『喋ってないで、さっさと耕すッ!』 ドスッ
『だ、だから母ちゃん、レバーは止めてッ!!』
『ハハハハハッ!』
・・・・・・・おやっさん・・・・みんな・・・・。
「これはこれは・・・ハクオロ皇、なかなかの御趣味で御座いますね。ハイ。」
!?
突如、背後で聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「・・・・・チキナロか。」
パチンッ
私は最後の苗を手入れし終わるとゆっくりと振り替える。
その先には、國を又にかける商人チキナロが佇んでいた。
「予定よりも早かったな。」
「へぇ・・・他國での商談が予想よりも円滑に進みましたので
毎度御贔屓にして頂いておりますトゥスクルに、優先的に立ち寄った次第で御座います。ハイ。」
目が細く、長身・・・特徴的な法被を着て、相変わらずの愛想笑いを浮かべた
チキナロは、ニヤニヤとしながらそう答えた。
「そうか・・・頼んでた商品の方はどうだ?」
「はい〜。既にさきほどこちらへ収めさせて頂きました。」
「仕事が早いな・・・では代金の方はいつものように支払っておこう。
今日はこちらでゆっくりとくつろいでいってくれ。」
「毎度有り難う御座います・・・・。さてさて、ではもう一つ大切な仕事の御話を。」
「・・・・・・・・・・。」
チキナロの目がギラリと光る。
「クンネカムン國とカルラゥアツゥレイ國の会談は、順調に進んでおります。」
「そうか・・・ゲンジマルはデリホウライの意見を受け入れたか。」
「左様で御座います。」
「クッチャ・ケッチャ國の状況は?」
「未だ混乱が続き、内乱状態で御座います。」
「・・・そうか。礼を言う。もう下がっていいぞ。」
「まいど。では今日はトゥスクルの秘湯でも浴びて・・・・
「・・・・チキナロ。」
「はい、まだ何かおありで御座いましょうか?」
「クーヤは・・・元気か?」
「は?」
「今更誤魔化さなくていい。クーヤはどうしているか聞きたいだけだ。」
チキナロの表情が険しくなる。
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
周囲の空気が一気に張り詰める。
「・・・いつからお気づきに?」
「さぁな、いつからだったか忘れた。」
「・・・・ク、ククク・・・いやいや、ハクオロ皇も御人が悪い・・・・。
では御教えする前にそこの噛み付かんばかりのギリヤギナの御嬢さんをなんとかして下さいな。」
チキナロが苦笑いしながら、立てた親指で指差した皇殿のかげには
険しい表情をしたカルラが殺気を抑えながら息を潜めていた。
「あ・・・そ、そうだったな。すまん。」
私も苦笑しながらカルラに「心配しなくてよい」というジェスチャーを手で送った。
するとカルラは溜め息を吐くと手にしていた武器を下げ、その場に腰を降ろした。
「さてと・・・んで、クーヤたんはどうしてる?」
「はぁ・・・聖上は、相変わらず執政を続けておりますが・・・
・・・・最近少し御様子が。」
「と言うと?」
「いい加減、うんざりなさっていらっしゃる感じがするのです・・・・。」
「・・・・だろうな。」 (汗)
「・・・・あの御方にかかる責務が些か大きすぎるので御座いますよ。」
「そうか・・・いや、礼を言う。最近クーヤたんがどうしてるのか気になってたもんでな。
特別報酬も付け足しておこう。ゆっくり秘湯にでも浸かってくれ。」
「有り難う御座います。これで妻子も喜びますです。はい。」
「フフ、嘘つけ、そんなものおらぬくせに・・・。」
「・・・それも御見通しで御座いますか・・・ククク。」
チキナロはそう言い終わると、その場を去っていこうとしたが、
去り際にそのまま振り向きもせず口を開いた。
「あぁ・・・ついでですから大サービスで教えておきましょう。
・・・・・・・・・何やらシケリペチムが不穏な行動をとっております。
気を付けた方がいいですよ?」
「・・・・・・・・・・。」
ザッザッザッ・・・・。
そう言い終わると、今度こそその場から去っていった。
・・・・・・シケリペチム・・・か・・・。
「何者ですの?あの男。」
カルラがほっとした表情を浮かべながら、私の脇にやって来た。
「なに・・・クンネカムンの間者(スパイ)だ。」
「・・・そうですの。・・・どおりで只者じゃないと思いましたわ。」
そう言いながら、さりげなく私にしなだれてくるカルラ。
私は苦笑しながら、皇殿の屋根を見上げながらそこに潜んでいた
オボロに声をかけた。
「お〜い、オボロ。いい加減に降りてきたらどうだ?」
「チッ、なんだ兄者。バレてたのかよ?」
スタッ。
オボロが苦笑しながら屋根から降り立った。
「あれだけ殺気を放っていたら、流石に分かるぞ。」
「グッ・・・じゃぁ奴さんにも、とっくにバレてたか・・・。」
「まぁ、堂々と単身でトゥスクルに入り込んで来るくらいだからな。」
「・・・ふぅ。兄者はちと不用心過ぎるからな。少しは心配する俺達の身にもなってくれよ。」
そう言うと、手をプラプラとこちらに向けて振りながら去っていった。
「さてと・・・・で、カルラ、いつまで引っ付いているんだ?」 (汗)
「うふふ・・・あ・る・じ・様?」
「ふぁ?」
「夕飯までまだまだ時間は御座いますわよ?(はあと)」
「いッ!?ちょ、ちょっとカルラ・・・!?」
「〜〜♪」
ズルズルゥ〜。
「あ〜〜〜れ〜〜〜〜!でおじゃる・・・・イヒッ♪」
ザッ・・・。
私達を陰から見つめる不穏な輩・・・じゃなかった、トウカ。
「さてと・・・夕飯までにカルラをシメますか・・・。」 ゴゴゴゴゴゴ
チャキッ。←刀の音(笑)
づづっく〜♪