愛と幻想のふぁしずむ エピソード2(第18話)
クーヤ・シェイカー ―Vol.8―
ドンドンドンッ!
「あ、兄者ッ!!まだかよ!」
厠の扉が激しく叩かれ、外からオボロの焦る声が聞こえてくる。
「ま・・・まぁぁだだよ・・・。」
「も、もう俺・・・膀胱破裂しちまうッ!!」
「う、うるさいでおじゃる!んな事言っても
まろは動けないでおじゃ・・・ハォッ!?」
(聞くに堪えない音で御座いますので暫くお待ち下さい。)
♪しっずかに・・・・おとずれる・・・まばゆいせか・・・い♪
ジャ〜〜〜♪
バタン。
ようやく厠から出る事が出来たまろの体は、ラーメ●バーのように萎びれていた。
「・・・し、死ぬかと思ったでおじゃる。」 ヨロヨロ
ふらつく足取りで柱にもたれかかると、ふと思い出しオボロを呼ぶ。
「お、おぉい!オボロ!・・・ま、待たせたな。」
し〜ん
・・・・てっきり必死の形相で飛んでくると思ったが?
「あれ?・・・オボロー!もうトイレ使ってよいでおじゃるよー?」
やはりオボロはやってこない。
丁度いい具合にヘコヘコと酒瓶を片手に持ったカルラが
通りかかったので、呼び止めて尋ねてみた。
「なぁ、カルラ。」
「あら、主さま。お腹の調子は大丈夫でしたか?おほほ。」
「まぁ・・・おかげさまで・・・。
ところでオボロの奴見なかったか?」
「オボロ?立ちションの現行犯でベナウィに引っ張られていきましたけど。」
「・・・・・・・あっそ。」
『あ、兄者がバグダットイレを占拠したから、
仕方なくバスラ方面から攻めた結果で・・・!!』 (ズルズル
『だまりなさい。このションベン小僧め。』 (怒
「う〜ん・・・どうもまだ腹が痛いでおじゃるよ・・・・。」
身体から毒?は出したものの、今ひとつ腹の調子が悪いので、
仕方なく今日1日は部屋でまったりしようと考え、
エルルゥに黙ってこっそり冷蔵庫からぷりんをくすねて部屋へ戻った。
・・・・すると
「えへへ・・・・。」
「・・・・・。」 (汗)
フリルの付いたきっちゅなメイド服を着たクーヤたんが、
鏡に映る自分の姿を眺めて笑みを浮かべる。
「・・・なにしてんのクーヤたん?」 (汗)
「うわぁ!!ハ、ハクオロッ!!」
悲鳴に近い声を上げつつ、物凄い速度で数メートル先の壁際まであとずさるクーヤたん。
その後すぐに我に返ると、耳まで真っ赤にさせまろに詰め寄ってきた。
「ハ、ハ、ハクオロ!何を勝手に覗いておるのだ!」
「の、覗くもなにも・・・ここはまろの部屋でおじゃるが。」
「う・・・そ、そのような言い訳・・・・皇のくせに見苦しいぞ!」
バキャッ!
「む、無茶苦茶でおじゃるッ!」
ズボッ!
ひゅ〜〜〜〜ん♪
クーヤたんにシバキ上げられ、屋根を突き破り空を舞う。
どんがらがっしゃ〜ん!
「へぶんが!」
「ハ、ハクオロさんッ!?」
驚くエルルゥの声が聞こえ目を開くと、
古ぼけた棚に沢山の瓶詰めされた薬草が見える。
どうやらエルルゥの部屋に落下したようだ。
慌ててエルルゥはまろを抱き起こす。
「だ、大丈夫ですか!?っていうか、何故屋根からハクオロさんが・・・。」
「い、いやぁ〜話せば長くなるのだが・・・・。」
「・・・・どうせまた女の人にちょっかい出したんでしょう?」
エルルゥはそう言うと頬を膨らませプイッとそっぽを向いてしまった。
「つれないでおじゃるよぉぉ。まろは何もしてないでおじゃる。」
「じゃあどーして顎にパンチの跡が残ってるんですか?」
「だ、だからそりは・・・・
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「クスクスクス。」
「わ、笑い事じゃないでおじゃるよ!」
「ごめんなさい。でも声をかけるハクオロさんも
少しデリカシーが無かったんですよ?クスクス。」
まろの顎にマキロンを塗りながらエルルゥは微笑む。
「でも・・・良かったじゃないですか?」
「うん?」
「クーヤさん・・・こちらへ来た頃と比べて楽しそうですから。」
「・・・・・・・・。」
「・・・・心配だったんです。
とても思いつめたような感じがしましたから・・・。
あんな表情をしてる人を見ると、少し辛くなっちゃうんです・・・・。」
そういうとエルルゥは寂しそうな表情を浮かべた。
−『どうしてだ!どうして俺だけを見ねぇ!』
−『・・・ちくしょお・・・・!お前さえ・・・お前さえいなければ!!』
エルルゥを想うあまり、道を過った幼馴染。
心の傷というのは早々に治るものではない・・・か。
ぽふっ
「・・・・あ。」
まろはエルルゥを胸元に引き寄せると、そっと髪を撫でてやる。
「もう・・・誰も悲しまずに済むんですよね・・・?」
「あぁ。私が必ずみんなを守ってみせるさ。」
「・・・ハクオロさん。」
「エルルゥ・・・。」
ガララッ!
「エルルゥ殿、誠に申し訳御座いませぬが、
某に便秘の薬を調合・・・ごう・・・・・・・。」
ノックもせず豪快に部屋に入ってきたトウカを見て硬直するまろ達。
トウカもアヤシイ雰囲気のまろ達を見て次第に表情が崩れ始める。
「ク・・・ク・・ク・・・
「や、やは・・・トウカ。そちは便秘でおじゃるか?」
「クケェーッ!何してるでアルかーッ!!」
ドガッ!
「こーらっくッ!!」
・・・・なんでまろが鞘でしばかれにゃならん・・・。
・・・・・・・。
キュキュッ。
ぴかぴか〜♪
「うん。綺麗になったぞ。余もやれば出来るではないか♪」
床を磨いてご機嫌のクーヤたんがニコニコ顔で一息ついていると、
「「「わ〜♪」」」
どすどすどすっ
ムティカパのムックルに跨った悪ガキ3人組が目の前を疾走していく。
そして、折角磨いた床に泥に汚れたムックルの足跡だけが残った。
ひゅううう〜〜〜〜。
「・・・・・・。」 (怒
しばらく怒りで体を震わせていたクーヤたんだったが、
やがて溜息をつくと再び雑巾をしぼって足跡を拭き始めた。
そこへ、申し訳なさそうにウルトがやってくる。
「ごめんなさいね。クーヤ皇。あの子達には後で言い聞かせますので・・・・。」
そう言うや否やウルトも腰を落として桶に入っていた雑巾をしぼり、
クーヤの隣で床を拭き始めた。
「あ・・・結構です。ウルトリィ皇女。これは余・・・おほん、私の仕事ですから。」
するとウルトは苦笑しながら答える。
「いいえ。そういう訳にはいきませんわ。私にも手伝わせて下さい。」
「お心遣い痛みいります。」
それぞれの國を代表する皇女2人が黙々と慣れない手つきで床を拭くという
何とも奇妙な光景だった。
ようやく床の汚れをおとすと、お互い同時に「ふ〜。」と溜息をつく。
それに気がつくと、ウルトもクーヤもプッと噴出した。
「クスクス。嫌だ私ったら年寄りみたいですわ。」
「ハハハ。余も思わず溜息をついてしまったぞ。」
しばらく笑った後、2人して縁側に腰をかけて休憩する。
「もし、クーヤ皇・・・。」
「ん?」
「トゥスクルは・・・・この國は如何ですか?」
「・・・良い國だ。つくづくそう思う。
ふるさと・・・・そんな言葉がしっくりする。」
「ですね・・・私も同感です。」
チュチュン・・・チュン。
ピーーーピロロロロロロ
鳥のさえずりが響き渡り、柔らかな風が二人の頬を撫ぜていく。
「では・・・ハクオロ皇の事をどう思ってますか?」
「え”ッ!?そ、そそそ、それはそのぉ・・・つまり・・・!?」
「率直に聞きますと、好いているか好いていないかという事です。」
ウルトの質問を聞くや否やクーヤは顔を赤らめて俯いてしまった。
「そ、そそそそ、そんな事余に聞かれても・・・余は・・・余は・・・。」
「私は・・・あの方を愛しています。」
驚いて顔を上げるとクーヤを、ウルトは真剣な表情で見つめる。
「・・・あの方の傍にいたいと思えば思うほど、
私自身の地位や立場が・・・私の思いを引き止めようとするのです。」
「・・・・・・・。」
ウルトはそこまで話すとクスリと微笑んだ。
「あぁ、私がオンカミヤムカイの皇女でなければ、もっと素直になれるのに・・・・
でも皇女でなければ、あの人に会う事もなかった。
本当・・・世の中上手くいきませんわね。」
「・・・・お主はすごいな。ウルト皇女。
とてもじゃないが、余は・・・・そこまで言い切れぬ。」
「どうしてですか?」
「余は・・・余には幾千、幾万というクンネカムンの民の生活が懸かっているのだ・・・・
・・・・だから・・・余の行動ひとつひとつが・・・・。」
「それが辛くて、ハクオロ皇のもとにいらしたのでしょう?」
チュチュン・・・ピーーーーピロロロロロ。
「ち、違ッ!余は決して逃げてきたのではない!
余は・・・・此度の事で・・・・
クーヤはそこまで言いかけるとキュッと唇を閉じて視線を逸らした。
スクッっとウルトはその場に立ち上がると、ん〜〜。と背伸びをして空を見上げる。
「・・・・そろそろ空が茜色に変わり初めますわ。」
「・・・・・・・・・・。」
「私はそろそろ出掛けます。今宵は収穫祭があるので司祭役を頼まれてますの・・・。」
ペコリとウルトは一礼して、踵を返した。
・・・その直後、俯いたままのクーヤが口を開く。
「ウルトリィ皇女・・・!」
「・・・なんでしょうか?」
「・・・余は・・・余はどうすればいいと思う?」
「ただ、素直になればよろしいかと・・・・この國では。」
そう言い残すと、ウルトは相変わらず優雅な足取りで去っていった。
「・・・・・素直に・・・か。」
−夕刻−
「ハクオロ・・・ハクオロいるか?」
「・・・・ん?」
シャァァー。
簾の向こう側からクーヤの声が聞こえたので、
まろは立ち上がって簾を捲ると、彼女がちょこんと座っていた。
「なんだ、もう夕飯の時間かい?」
「いや・・・その・・・ハ・・ハクオロ。今空いておるか?」
「ん?まぁ・・・・政事も終わってまったりしていたが。」
「じゃあ余を・・・・
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
・・・・トタトタトタ。
るんっらら〜♪
「聖上ぉ♪今宵暇で御座るなら某と収穫祭に行きませぬかぁ?
っていうか、連れて行けで御座る。」
シャアー。
るんるん顔でトウカがハクオロの部屋の簾を捲ると、
いつもはぷりんを片手に寝そべっている筈のハクオロの姿が見当たらない。
「あ・・・あれ?」
慌てて階段を降り、食堂で珍しく酒を飲んでいるオボロに尋ねてみると・・・・
「あぁ、兄者か?兄者はクーヤ・・・じゃなくてクラウと収穫祭に行ったぜ。」
「・・・・・・・。」
「な、なんだ?その土偶のような目つきは・・・。」
「クケーッ!!」
どぐわしゃ!
「げぼあ!?な、なんで俺ぇー!?」
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・ズドドドド。
酒瓶を片手にヘコヘコと何処かから戻ってきたカルラが、目の前を突っ走るトウカを見て声をかける。
「あらあら、トウカものすごい形相でどうしたの?」
キキィ〜!←急ブレーキ音
「う、うっさい!そ、そもそもカルラ!お主がいながら何故邪魔・・・おほん!止めぬのか!?」
「・・・・?」
「クーヤ殿の事だ!」
カルラはクィー。と酒を飲むと、プハーと溜息をつきながら呟く。
「何を神経質になってるの?トウカ?
仮にもあのお子様は一國の皇なんですし、あと2、3日もすれば強制送還ですわ。」
「し、しかしだな・・・・そのぉ・・・万が一というか・・・・
・・・・聖上は・・・・・女性にだらしないというか・・・・。」
「そりゃ、あるじ様は・・・アレですから・・・・。
って、ちょっとトウカ?一体何を言ってるの?貴方・・・。」
「聖上とクーヤ殿が収穫祭に行ったのだ!二人っきりでなッ!!」
ガシャーン。
カルラの手から酒瓶がズレ落ち、地面で割れた。
「な、なんで・・・すって?」 わなわな
「あ〜!どうりで話が噛み合わぬと思ったら、お主気付いてなかったで御座るかぁ!」
「トウカッ!」
「カルラッ!」
「「潰しますわよ。」」 ←悪
・・・・。
・・・・・・・・・・。
−皇都中央通り−
こんちきちん♪こんちきちん♪
ザワザワ・・・ワイワイ
皇都は年に一度の収穫祭ともあって、いつも以上に活気に満ち溢れ、
露店には家族連れや旅人、異国の商人達で賑わっており、
そんな中をまろとクーヤたんは微笑みながら歩いていく。
何故か今日のクーヤたんはまるで甘えた子供のように、
先ほどからずっとまろの腕を両腕で掴んで離さない。
「ハクオロ、ハクオロ!あれは何だ?」
「え〜っと、あれはメアンゴリーといって、果実を飴で包んだお菓子だな。」
「ふ〜ん。・・・・・欲しいぞ。」
「分かった分かった。」
苦笑しながらクーヤたんに引っ張られるままに・・・。
「これはなんだ?ハクオロ?」
「金魚救いだな・・・。よし一丁やってみるか。」
屋台のおやじに小銭を渡すと、まろは袖を巻くって
「雪乃はどれだッ!?」
「・・・はぁ?」
・・・結局雪乃はいなかった・・・・。
「ハクオロ!あれは!?」
「あれは・・・超先生のサイン会だ。」
「貰ってきてよいか?」
「・・・・やめとけ。」
こんちきちん・・・こんちきちん・・・・。
大通りから少し離れた川の岸に腰を下ろす。
空を見上げると、都の光で若干かすれてはいるものの、幾千もの星が輝いている。
「ふ〜やれやれ、結構歩いたなぁ。」
「す、すまぬ。余が些かはしゃぎ過ぎた。」
「まぁ、しょうがないさ。エルルゥもカルラもトウカも、
何だかんだ言ってもみな祭りとなると子供のように喜ぶからな。」
「フフ・・・・・星が・・・綺麗だな。」
「ん?あぁ、そうか。流石にクンネカムンではこうはいかないか。」
「本当に・・・綺麗・・・。」
星空を見上げて感嘆の溜息をつくクーヤ。
さてと・・・そろそろ話すか。
「・・・・クーヤ。なにか私に話したい事があったんだろう?」
「・・・・ッ!!」
クーヤたんはまろの言葉を聞いて、一瞬ビクッと肩を揺らし、
しばらくして苦笑を漏らし始めた。
「フフ・・・・気付かれてたか・・・。」
「まぁ・・・な。勘は良い方だからな。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
ドンドン・・・・!
パラララ・・・・。
ヒュ〜〜〜ドンドンドドン!
収穫祭もクライマックスにさしあたり、花火が皇都の夜空を極彩色に染め上げる。
「・・・軽い・・・軽い気持ちだった。
ちょっと最近執政にうんざりしてて・・・
トゥスクルなら・・・トゥスクルなら余を普通の女の子として接してくれるから・・・・。
そ、それに・・・・。」
クーヤはそこまで言うと、ちらりと私の顔を横目で見てきた。
そして私と目が合うと慌ててまたすぐ顔を伏せた。
「だけど・・・トゥスクルに来てから・・・
今の自分と、クンネカムン皇としての自分とのギャップがどんどん大きくなって・・・・。」
ブルブルとクーヤの肩が震え始める。
それに気付いた私はそっとクーヤの肩を抱いた。
「・・・もういい。それ以上は言わなくてもいいんだ。」
「わがままかもしれない・・・・・
・・・分かっている。それは分かっているのだ!
だけど・・・だけど・・・余は己自身の立場が辛い・・・・!」
ポロポロと涙を流し、途切れ途切れに言葉を続けるクーヤたん。
「もう・・・余は限界だ。」
「・・・・・・・クーヤ。」
クンネカムン皇の重責は、こうやって彼女の心をゆっくりと蝕んでいたのか・・・・。
ぎゅ〜〜♪
「きゃ!?」
まろはクーヤたんを自分の膝の上に座らせると、大胆かつ繊細に抱き締めた。
「ハ、ハクオロ?」
「クーヤ。」
顔を真っ赤にさせて、どぎまぎするクーヤたん。ク〜!可愛いのぉ!
すっかり悪いムシが出始めているまろは、とうとう禁断の言葉を口にする。
あー、ベナウィ。悪いがまろの代わりに皇になってくれ。おっほっほっほ♪
「よし!まろがクーヤたんの夫になっ・・・
ざわざわ・・・。
さ、殺気ッ!?
「愛の十字砲火ッ!!」
「アバウトアスッ!」
まろの両脇から突如カルラとトウカの姿が物凄い速度で現れたかと思うと、
まるで北斗と南斗の如く、華麗な飛び蹴りで襲い掛かる。
「うぉぉぉ!?」
慌ててクーヤたんを膝から下ろすと、すんでのところで滑り込むように避ける。
ふと視線を地面から前に移すと、見慣れた柄の布が・・・・
恐る恐るそのままゆっくりと視線を上に移すと、
晩飯を作ってる最中に抜けてきたであろう、おたまを片手に持ったエルルゥ。
「ひ、ひぃッ!?」
「ちょっと目を離したら、すぐコレですかッ!!」
ドバキャッ!!
「オジャスティスッ!!」
・・・・・。
・・・・・・・・・・。
すーすー。
布団で寝息を立てるクーヤたんを見て微笑だエルルゥは、そっと寝室の戸を閉めた。
「クーヤたんは?」
「泣き疲れて寝ちゃったみたいです。」
「そうか。」
「なんか、可愛そうで御座るな・・・・。」
緑茶をすすりながらトウカがそう呟き、居間に重苦しい空気が漂い始めた。
「ハクオロさん・・・クーヤさんをこれからどうするんですか?」
エルルゥが緑茶のおかわりを持ってきて私の顔を見つめる。
「さすがにこれ以上日を置く訳にもいかねーよな・・・。」
オボロがそう言いながら、ちらりとベナウィを一瞥すると、
ベナウィは眉間にしわを寄せて考え込んでいるようだった。
・・・。
・・・・・・・。
「・・・許せんよ。」
「・・・・あ、兄者?」
「クーヤたんをここまで追い詰めた情けない奴らが許せんよ。」
そう吐き捨てて私は立ち上がり、居間を出ていった。
「お、おい兄者!?」
「ちょっと夜風に当たってくるだけだ。」
「こ、こんな時間にかよ・・・。」
・・・・・。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
月夜に照らされた庭園内の竹林をゆっくりと歩みながら、酒瓶を2,3度口へ傾けた時、
カンカンカンッ!カンカンカンッ!
物見櫓の方から突如警鐘が鳴り響いた。
「・・・・・・・・・。」
酒瓶に栓をし、地面にゆっくりと置いたところで
オボロとカルラがやって来た。
ヒュンッ!・・・・シュタ。
「兄者ッ!賊だッ!!今ベナウィ達が追跡している。」
「あるじ様、急いで内殿に戻りましょう。」
「・・・・フッ、ベナウィにしては珍しく騙されたな。」
「あ?」
「おそらく陽動だろう。本命は・・・こっちだ。」
・・・・ザッザッザッ・・・・。
・・・暗闇の向こうから足音が聞こえてくる。
そして、人影から竹林から現れ月の光で顔が露になる。
「そろそろ来る頃だと思ったぞ。・・・・チキナロ。」
「夜分恐れいります。ハクオロ皇。」
月夜に照らされたチキナロの姿は、いつもの商売法被ではなく
深い青紫に輝く鎧に包まれていた。
「なるほど・・・今日はクンネカムン國陸戦特殊部隊長としての話か。」
「・・・はい。」
「てめぇ・・・一体どういうつもりだ・・・!」
「オボロ・・・良い。黙っていろ。」
怒りを露にするオボロを制止しながら、一歩前に出る。
「クーヤたんを迎えにきたつもりか?」
「えぇ・・・。流石にこれ以上は皇の失踪を隠し切れなくなってきますので。」
チキナロは苦笑しながら、そう答えた。
「・・・まるで初めからクーヤたんがトゥスクルに行く事を知っていたような口振りだな。」
「聖上のお気持ちを察した故、多少目を瞑った所存で御座います。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
しばらく無言のまま対峙するまろとチキナロ。
「何卒ご理解下さい。ハクオロ皇。
我々としても非常に心苦しいのですが、
我が國にとって聖上は無くてはならない存在。民の礎に御座います。
ご迷惑をおかけした事に関しましては後ほど・・・・
「残念だが、クーヤは帰せないな。」
「・・・・!?」
ひゅぉぉぉぉぉぉ・・・・。
ざわざわ・・・。
突風が吹き、竹林がざわめき立てる。
「それは・・・どういうおつもりですか?ハクオロ皇・・・・。」
「正直に言うとな、私は怒っているんだ。
ゲンジマルや・・・お前にだ。
こうなってしまう前に、お前が何とかしてやるべきじゃなかったのか?
チキナロ・・・・いや、アムリネウルカ・ティキナウロ。」
「なッ!?」
「ア、アムリネウルカ・・・ですって・・・!?」
オボロとカルラが衝撃の事実にぽかんと口を開いたまま固まってしまった。
ひゅぉぉぉぉおおお〜〜〜。
チキナロの表情がいつにもまして険しくなり、周囲が緊張感に包まれる。
「本名アムリネウルカ・ティキナウロ。
前クンネカムン皇とギリヤギナ族の流浪の踊り子との間に生まれた隠し子。
ティキナウロが誕生した時、既に前皇はクーヤたんの母親・・・・
つまり故クンネカムン皇妃と既に婚姻していた。
そんな事が世間にバレてはまずい為、ティキナウロは幼少の頃よりゲンジマルの庇護の下
エヴェンクルガ族の村で成人まで過ごす。
そして前皇が亡くなられた後、クンネカムン國の土を踏み
以後、様々な経緯を経て陸戦特殊部隊長の地位につく訳だ。
シャクコポル族主体の國家であるクンネカムンにおいては異例の出世だな。」
「・・・・・・・ギリッ。」
暗闇の中でチキナロの歯軋りが聞こえた。
「初めは母親ゆずりの耳のせいで分からなかったぞ。」
「・・・・・そんな事まで知っていらっしゃたのですか・・・・。」
「影からクーヤを見守っていたようだが、
今クーヤに必要なのは支えとなる者、そして温もりだ。
お前にそれが分からなかったとは言わせないぞ?チキナロ。
何故本当の事をクーヤに話さない?
そのまま一生他人のフリを貫き通すつもりか?」
「・・・・・・貴方には分かりませんよ。ハクオロ皇・・・・。」
スゥゥゥ。
ゆっくりとチキナロは腰の鞘からエヴェンクルガ族独特の刀を引き抜く。
「どうしてもクーヤ様を返して頂けないとあれば・・・致し方ありませんね。」
「フッ、力ずくか・・・・。」
まろも懐から鉄扇を取り出した。
「兄者ッ!」
「下がっていろオボロ。こいつは漢の戦いでおじゃるよ。」
オボロを制し、静かに鉄扇を広げ構える。
ザッ。
チキナロは右手に携えた刀の切っ先を真っ直ぐ正面に伸ばした左手に添えると、
大きく左足を前に出し、前傾姿勢気味の構えをとる。
「やはり・・・・貴方は危険な存在だ。ハクオロ皇。
今ここで・・・・貴方の命を絶っておく方が良いのかもしれません・・・・・・。」
平突きの構え。
「うーむ、版権モノには気をつけるでおじゃるよ。」 (汗)
次回予告ッ!
「沖田くん、下がっていたまえ。」
『チ、チキナロさん!?』
「人斬り抜刀斎はこの新撰組三番隊組長、斉藤チキナロが斬る。」
飛天御剣流ハクオロに襲い掛かる牙突の脅威ッ!
さぁハクオロよ。今こそマグネロボガキーンを召喚するのだ!
そして、ヴァナ・ディールに平和を!
DivXの映像はDVDにライティングしても
プレステ2では観れないぞ!
今更気付いてもヨドバシで買ったDVD-R(太陽誘電)は返品出来ないから気をつけろ。
次回、クーヤ・シェイカー!
『はぴぶりファンディスクは反則だろッ!』
乞うご期待ッ!!
ずんぱんずんぱん!