愛と幻想のふぁしずむ エピソード2(第19話)
クーヤ・シェイカー ―Vol.9―
・・・ゴロゴロ。
カッ!
漆黒の夜空に雷鳴が響き渡り、刹那、雷光が暗闇を照らし出す。
・・・・ぴちゃ・・・ぴちゃ・・ぴちゃ・・・
・・・・・・・ザァァァーーーーーーーー。
ゴロゴロゴロッ!
カッ!!
「・・・・・・・・。」
そっと雨戸を閉め、サクヤはすぐ右隣にある灯籠に灯をともすと、
薄暗かった部屋がほのかに照らされはじめた。
「・・・降ってきたな。」
部屋の奥からヒエンがゆっくりと歩みより、
雨に濡れたサクヤの髪を持ってきた手拭いで拭いてやる。
「・・・・・。」
「・・・そんなに暗い顔をするな。既にチキナロ様がトゥスクルへ向かっているのだ。
もしかすれば、もうクーヤ様を連れてこちらへお戻りになられている途中かもしれん。」
「だと・・・いいんだけど・・・。」
「・・・・サクヤ?」
「もし・・・ハクオロ様がクーヤ様をお帰しになられなければ・・・・。」
「お、おいおい。何をバカな事を・・・ハクオロ皇がそんな事する訳がないだろう。」
ヒエンはサクヤの言葉を聞いて苦笑する。
「そっか・・・お兄ちゃんはハクオロ様と直接会った事がなかったね。」
「ん?ま、まぁ・・・噂はよく聞いている。好色一代皇とか。すきものとか。」
「そ、そうじゃなくて・・・!ハクオロ様は・・・確かに女たらしですけど・・・
・・・・それ以上に聡明で御優しい方です。
もし、今回のクーヤ様の異変にお気付きになられたのなら・・・・・。」
「・・・・・異変・・・・。」
ヒエンの耳がピクリと動き、サクヤから視線を逸らす。
それを見たサクヤはヒエンの服の裾を握りしめた。
「気付いているんでしょ?お兄ちゃん・・・・。
クーヤ様の御心が、最近揺らいでいる事・・・
「言葉を慎め・・・サクヤ!クーヤ様・・・いや、聖上はクンネカムンの頂点に立たれるお方。
幾千、幾万の民の運命を背負いになり、導く義務があるのだ。」
「そう・・・だけど・・・それじゃ・・・クーヤ様が・・・。」
じょび〜〜〜ん♪
「「・・・・・・・・。」」
いつの間にか部屋の片隅にギターを担いだハウエンクァが・・・。
ぎょっとしたようにハウエンクァを凝視する兄妹。
「フッ、聖上も皇である前にか弱い女性さ。ベイベー。
そんな彼女のガラスのハートを、守ってあげたくはないのか?ヒエン?あ?」
「・・・・・・・・・。」
「切なそうにしてる彼女はエンペラー。そして俺は愛の下僕。
そんな彼女を守ってあげたい・・・・どうすればいいと思う?」
「ほう・・・・どうすればいいんだ?」
ジャジャーーーン♪
「アーーービーーーースゥーーーーー!
・・・簡単さ。・・・・俺があの子の夫に・・・
ツカツカツカツカ
ムンズ。
ハウエンクァが台詞を言い終わらぬうちに、ヒエンは問答無用で彼の髪の毛を掴み
窓際に向かって引き摺り始める。
ズルズル・・・。
「ギャオッ!!髪掴むのはヤメテ!髪は!禿げるから!マジで危険だから!」
ガラッ。
ザァァァァーーーーーー。
っポイ!(花と夢)
・・・・・パタン。
「寒いッ!身も心も寒いんだが!?開けてくれよ!開けてくれよぉぉぉぉ!!!
って、おわッ!俺のフライングVがッ!!ちょ、ちょっとマジで濡れてるって!!」
ドンドンドンッ!ドンドンドンッ!!
豪雨の音に紛れてハウエンクァの叫び声と窓を叩く音が聞こえてくるが、あえて無視。
「で、サクヤ。話の続きだが・・・・。」
「あ・・・う、うん。それで、多分ハクオロ様はクーヤ様を帰さないと思うの。」
「・・・じゃあ、チキナロ様が黙ってはいないぞ・・・。」
「そ、そん・・・なッ!!」
ザァァァーーーーッ。
雨が一段と激しく降り始める。
「チキナロ様とハクオロ皇の戦い・・・・か。少し、見てみたかったな。
・・・・まぁ、流石のハクオロ皇も今度ばかりは・・・・。」
「お兄ちゃん!・・・私、まだ幼かったから当時のチキナロ様の事ってあまり覚えてなけど・・・・
ハクオロ様はあのニウェ皇と互角・・・それ以上の実力者なんだよ?
いくらなんでも・・・そんな簡単に・・・
「サクヤ。俺は、幼少の頃からチキナロ様と共に大老から剣術を学んできた。
その俺が断言するが、あの方の剣の腕は・・・・天才だ。」
ザァァァァァァーーーーーー。
ゴロゴロ・・・カッ!!
キィンッ!
ギャリリッ!!
金属が激しくぶつかり合う音、そして摩擦によって発生した火花が暗い竹林を微かに照らす。
「・・・・痛ッ!」
「ぜやッ!」
まろの体勢が崩れた直後、
チキナロは再び前傾姿勢に大きく屈み、刀を構えすかさず次の一撃を繰り出す。
・・・・チャキ。
ドンッ!
見えないバネに押し出されたような強烈な突進。
三間程先にいたはずのチキナロがもう目の前に迫っている。
「どうしました!ハクオロ皇ッ!ニウェを退けたという貴方の実力はこの程度ですか!」
「フッ。言いたい事を言ってくれる・・・!」
ドシュッ!。
独特の平突きから繰り出される閃光のような白刃が容赦なく襲い掛かる。
「クッ!これが・・・・噂に聞く『ガトゥツ』か・・・・!」
キィンッ!!
ビュンッ!
★『ガトゥツ』とは?★
かつて幕末に存在した伝説の男闘呼組3番隊組長が得意とする平突きを主体とした攻撃方法。
強靭な背筋・足腰から繰り出される突きから、横薙ぎ、縦薙ぎへの連携という
多彩な攻撃を繰り出せるのが特徴。
一見、全体重を預けての無謀な斬り込みに見えるかもしれないが、
受ける側にとっては反撃のタイミングが掴みづらく、厄介な技である。
クンネカムン陸戦特殊部隊、通称フレッシュ・グループの隊長チキナロの必殺技。
決して・・・決して某明治剣客浪漫譚のアレでは御座らんよ。薫どの。
大嫌いだったタソガレを♪
ちょっとひと撫でして溜息をひと〜つ♪
ヘビー級の恋は見事に〜♪
仙命樹と一緒にとけ〜た♪
「兄者ッ!」
堪りかねたオボロが叫び腰の二刀に手をかけるが、
すかさずカルラがその手を制止する。
「さがりなさい。オボロ!あるじ様の言った事が聞こえなかったの?」
「だ、だがッ!このままだと兄者が・・・・!」
・・・・ギリギリ。
カルラも歯軋りしながらまろとチキナロの戦いを見つめる。
「これが・・・大國クンネカムンの戦人(トゥミクゥル)の力なの・・・!?」
「あ?何を言ってるんだ、カルラ。シャクコポル族はもともと戦には向いてない体躯で・・・
「それはもう太古の話よ、おバカ。その非力さ故に虐げられてきた彼らは、
誰よりも力を欲したはずだわ。そして・・・今目の前にいる彼は・・・・
私の・・・ギリヤギナ族の身体能力とシャクコポル族の聡明な頭脳、そしてエヴェンクルガの武術を
併せ持った・・・まさに今のクンネカムンを象徴するかのような武人・・・。」
「ハイブリッドカーでごわすか・・・ゴクッ。」
オボロが思わず咽喉を鳴らす。
ギャリリリ・・・!
ザシュッ!
「グッ!ハァ・・・ハァ・・・。」
チキナロの猛攻を捌ききれず、肩口が血で滲む。
「・・・ハクオロ皇。いつまでもそうやって私の攻撃を避け続けられると御思いですか?」
「ぬぅ!まろは今日はまだ夜のぷりんを食べておらぬからの!どうもやる気が・・・」
「もう一度だけ言います。クーヤ様をお返し下さい。」
「・・・ふふ・・・くどいぞチキナロ。まろはあの女子が気に入ってな。
この戦いが終わったらおいしゅう頂くつもりだ。」
ピクッ・・・・。
品のないまろの台詞を聞いて、チキナロのコメカミの血管が浮き上がる。
「おいしゅう頂くじゃ・・・・ないわよッ!」
ドガッ!
カルラの投げたたけのこが後頭部に直撃。
「うがッ!」
悶絶するまろ目掛けて、再びチキナロの白刃が襲い掛かる。
「ハクオロ皇ッ!その命、頂きますッ!!」
「あ、兄者ぁぁぁ!!!」
「いけないッ!あるじ様ッ!!」
流石にまろの命の危険を察知してカルラとオボロが飛び出してくる。
「無駄だッ!もう遅いッ!!私のガトゥツは既にハクオロ皇の心臓を捕らえたッ!」
キュイイイン・・・・・。
直後まろは迫り来る白刃に怯みもせず、鉄扇を構え微笑を浮かべた。
「チキナロ・・・お主の負けでおじゃるよ。」
「なッ!?・・・なんだ!?この丸い円は・・・・!!」
「うたわれるもの・・・奥義・・・・。」
★ハクオロに向かって収束する円にタイミングを合わせてマウスをクリックだ!★
「くらうでおじゃるよ!!」
「うぉぉぉ!?」
ハクオロ、超必殺技・・・・
天使のいない12月
「新★作ッ!」
©Leaf「うたわれるもの」&「天使のいない12月」 転載しちゃ駄目です。
ドガァァァッ!!
「ぐはぁああッ!!」
・・・・ドシャア。
錐もみ状態でふっとんだチキナロの体が、激しく地面に叩きつけられた。
「・・・・グ・・・・こんな・・・バカな・・・!」
「焦って攻撃一辺倒になった結果でおじゃる・・・・まろはずっとこのタイミングを待っていた。」
「・・・・タ、タイミング・・・だと?」
「必殺技のパワーがたまるタイミングでおじゃるよ。
まぁ、正規の戦闘に登場しなかったお主の経験不足が敗因でおじゃるな。」
「グッ・・・所詮私は・・・脇役って事ですか・・・。」
「さっすが兄者ッ!!」
「あるじ様、素敵ぃー!(はあと)」
カルラがまろに抱きついてきて熱烈なキッスを浴びせて来る。
「お、おいおい、やめるでおじゃるよカルラ・・・こんな事してると・・・・
「クケェーッ!!何をしてるで御座るかぁー!」
突然トウカが現れ、横っ飛びで蹴りを繰り出す。
当然、カルラはあっさりとそれを避けて、行き場を失ったトウカの蹴りは満身創痍のまろの顔面に直撃。
ドガァッ!!
「げぼあ!?やっぱりッ!!」
「聖上、御無事でしたか!」
ウォプタル(騎竜)に跨ったベナウィがこちらへ疾走してきた。
陽動作戦に引っ掛かったとはいえ、この短時間でこちらへ引き返してくるのは流石といったところか。
「さてと・・・チキナロ。立てるか?」
「・・・・とどめを刺さないのですか?」
「なぁに。お前はうちが贔屓にしてる貴重な商人だからな。
アルルゥにまた珍しいものを持ってきて貰わないと困る。」
そう言ってまろがゲテゲテと笑うと、チキナロも苦笑して立ちあがった。
が、すぐに苦渋に満ちた表情を浮かべて俯いた。
「ハクオロ皇・・・・私は聖上の・・・・いや、妹の苦しみは知ってました。」
「・・・・・。」
「貴方のおっしゃる通りです・・・・私が・・・こうなる前に何とかするべきでした。
あの子の支えになってやりたかった・・・代われるものなら代わってやりたかった!
だが!貴方も御存知の通り・・・私は卑しい身・・・。
無論、妹に真実を打ち明けたところで困惑させ悩ませるだけです。
だから・・・せめて・・・私は・・・・!」
そこまで言って、チキナロは手を握り締め、肩を震わせた。
「なんだか・・・可哀想になってきましたわね。」
「まぁ・・・人それぞれ事情というものがあるでおじゃるからな。」
まろはそう言いながら纏わりつくカルラを離すと、チキナロの肩に手をかけた。
「大丈夫でおじゃるよ。クーヤたんは強い。しばらくすれば必ず立ち直ってくれるだろう。
それまでは・・・・もう少しだけゆっくりさせてやってはどうかな?」
すると、チキナロは先程までの武人モードを解除すると、
いつもの細目に戻り、バツが悪いように髪の毛をセットしながら苦笑した。
「ハクオロ皇・・・・今更、こんな事を頼めた義理では御座いませんが・・・
もうしばらく・・・・妹を・・・クーヤを宜しく御願いします。」
・・・ガサッ
!?
「ゲッ!?ク、クーヤたんッ!?」
おぉ・・・・なんたるファンキーマザファッカー。
驚いた事に、皇殿で寝ていたはずのクーヤたんが血相を変えて竹林の影で佇んでいるではないか!
「あ、あの・・・クーヤたん?」
「・・・・・・・・・。」 ガクガク
クーヤたんはまろとチキナロを交互に見つめながら震えている。
まずい・・・まさか聞かれたのか!?
「・・・ク、クーヤ様・・・。」
チキナロが足を引き摺りながら、クーヤに歩みよるが・・・
「今・・・余に近寄るなッ!!」
し〜〜ん・・・・。
「チキナロ・・・どうして・・・どうして・・・・黙っていたのだ!?」
クーヤが搾り出すような声でそう呟くと、チキナロはその場で硬直し、絶句する。
「え?な、ななな何の事で御座いますか?」
「誤魔化すでないッ!そ、そ、そなたは・・・余の・・・余の兄だと・・・・。」
「あ、あ〜。クーヤたんよ、気にするな。チキナロはシスプリのやり過ぎで頭が・・・・
「ハクオロは黙ってろッ!」 ギロッ
「は、はひ。」
「こ・・・答えよチキナロッ!!」
「・・・・・・。」
「答えられぬと申すのか!」
目に涙を溜めてクーヤが怒声を張り上げる。
チキナロはチキナロでどう話を切り出せばいいのか迷っているのだろう。
「ハ、ハクオロ・・・・余は・・・余は・・・!!」
「お、おおおお落ち着けクーヤ。この事については皇殿でゆっくり話そう・・・。な?」
何とか錯乱状態のクーヤを落ち着かせようとするが・・・
「やああッ!!」
「ま、待てッ!クーヤ!まろの愛人にならぬかぁぁぁ!?」
「どさくさに紛れてなにシャウトしてるんですのッ!」
バキッ!
・・・・・・カルラに後頭部をグーでシバかれてしまった。
そうしてる間に、物凄い速さでクーヤたんは絶叫しながら竹林の闇の中へと消えていった。
「し、しまったでおじゃるッ!!」
すぐさままろ達も追いかける。が、
グキッ!
「はうあッ!?」
慌てて走ろうとしたものだから、蹴つまずいて足首が曲がってはいけない方向へ・・・。
結果、あっという間にクーヤを見失う。その姿、さながらハイパーオリンピック。
「ベ、ベナウィ!お前のウォプタルなら先回りできるだろう!?」
「お言葉ですが聖上、こんな鬱蒼と茂る竹林をウィプタルで進むのは些か無理があるかと。」
「そ、そんなもんジョイカードマーク2使って何とかしろでおじゃる!」
ざざ・・・ざ・・ざ・・・
「はぁ・・・はぁ・・・・!!」
余は我武者羅に暗闇の中を走った。
「・・・・・はぁはぁ・・・・!」
ざざ・・・ざ・・・ビリッ・・・・ビリリ。
周囲は暗くてよく見えない。
時折木々の枝が余の服を引っ掛けていくのが分かるだけ。
視界が水に濡れたようにボヤけていく。雨・・・・それとも余の涙・・・・?
どうして・・・どうして・・・・!?
チキナロが余の兄・・・!?
卑しい身・・・・!?
どうして・・・ゲンジマル・・・どうして余に黙っていた!
・・・・知らなかったのは・・・・余だけか・・・。
ズルッ!
「きゃぁ!」
どしゃ。
雨でぬかるんだ土に足をとらわれ、余はその場で転倒してしまった。
ザァーーーーーー
「・・・・・・う・・。」
寒さと惨めさでその場でうずくまると、余はいつの間にか嗚咽を漏らしていた。
大粒の涙が余の頬を流れていく。
「うぅ・・・・ぐすっ・・・・うああ・・・・。」
ザァーーーーーーー
・・・・ぴちゃ・・・ぴちゃ・・・。
「探したぞクーヤたん。」
「・・・ハクオ・・・ロッ!?」 ビクッ
余が見上げると、そこには先程とは打って変わり
全身血みどろズタボロのハクオロがカクカクと軽くエレクトしながら佇んでいる。
・・・・思わず反射的に仰け反ってしまった。
「グス・・・。ど、どうしたのだ・・・その格好は・・・?」
「いやぁ〜、途中でどこぞの猟師の仕掛けた罠にかかった後、
エルルゥに2回殴られ、更にはユズハのロメロスペシャルの餌食になり、
挙句の果てに天然のムティに襲われたでおじゃるよ。おっほっほ。」
そう笑いながら、微妙に笑いの合間に吐血しているハクオロ。
ザァーーーーーーー
「さぁ、帰ろう。」
「ふ、ふん。余は帰らぬぞ・・・。」
「またまたぁ〜。そんな事言っちゃってぇ〜。わがままはいかんでおじゃるよ。」
愛想笑いを浮かべながらハクオロは余の前に屈むと、
今度は一転して真面目な表情に切り替わり、
手に持ったはんかちーふで泥で汚れた余の顔を優しく拭い始めた。
「ほら・・・・可愛い顔が台無しだ。」
そんないつもと違うハクオロの声を聞いた途端、また涙が堰を切って流れ始める。
「・・・・余だけ・・・余だけが知らされていなかった・・・・!」
「クーヤだけじゃない。ほとんどの人間は知らないさ。
多分、ゲンジマルやヒエンくらいじゃないか?」
「・・・・・・・・・チキナロが余の兄上だなんて・・・・!」
「チキナロは、先代の隠し子なんだよ。」
「ッ!!」
驚いて余が顔を上げると、ハクオロが苦笑しながら事の次第を話し始めた。
・・・・・・。(カクカクッ
・・・・・・・・・・・・。(シカジカッ
・・・・・・・・・・・・・・・・・。(あふぅ!
「・・・そうで・・あったか。」
「分かってくれたか?」
「・・・ずるい。」
「はい?」 (汗
「兄上はずるい。という事は今まで余に政事を任せきりで
自分はいつもどこかへフラフラと遊びに行ってたのではないか。」 (ぷぅ
「ク、クーヤたぁ〜ん。それは飽く迄隠密行動であって、決して遊んでた訳では・・」 (汗
ハクオロの困った顔を確認し、余は意地悪く微笑んだ。
「・・・クスッ・・・冗談だ。」
「ったくクーヤたんも人が悪いでおじゃる。さぁ、そろそろ帰ろう?な?」
「・・・やだ。」
「ど、どうしてでおじゃるか?」
「チ、チキナロ・・・いや、兄上にどんな顔して話せばいいか分からない・・・。」
「フフ・・・自然に話せばいいだろう。腹違いではあれど、兄妹だ。
チキナロも・・・本当はクーヤとちゃんと話したかったに違いないよ。」
「・・・・・・。」
余が視線を逸らすとハクオロは懐から飴を取り出した。
「ほら、メアンゴリーあげるから、帰ろう。」
「ま、またそなたはそうやって余を子供扱いするッ!」
バシッ!
・・・カラン・・・ぴちゃ・・ぴちゃ・・・。
「・・・あ・・・す、すまん。」
飴を叩こうと思って出した手が、ハクオロの仮面に当たってしまい
・・・・ハクオロの仮面が地面に落ちた。
初めて見るハクオロの素顔・・・・。
「おっと!しまったでおじゃる。」
ハクオロは慌てて水溜りに落ちた仮面を拾い上げ、再びつけようとするが、
いつの間にか余がその手を掴んでしまっていた。
「・・・クーヤたん、離して欲しいでおじゃるよ・・・。」
「・・・・・・・。」
余は無言のまま、もう片方の手でハクオロの頬をなぞる。
「参ったなぁ・・・企業秘密なのに。」
「ハクオロの顔・・・初めて見た。」
「まぁ・・・本当に企業秘密だからな・・・。」 (苦笑)
「もっとしまりのない女好きな顔だと思ってたぞ・・・。」
「はは・・・ひどいでおじゃる。」
ザァァァァーーーーーーー。
ぎゅぅ・・・。
気がつけば、ハクオロを思い切り抱きしめていた。
「おわ!?ク、クーヤたん!?」
「ハクオロ・・・・。余の夫になってくれぬか・・・・。」
「!・・・・・・クーヤたん・・・。」
「そなたが傍に居てくれれば・・・・余は・・・余は・・・。」
そうだ・・・。
余はこの者を知らず知らずのうちに愛していたのだ・・・。
この者に会う為に、何度黙って國を抜け出した事か。
従者の妊娠騒動でアヴ・カムゥを使って破壊の限りを尽くした事もあった。
今回の事も、満たされぬ日々に辟易していたのもあるが・・・・・
一番の理由は・・・・ハクオロに会いたかったから。
・・・・・。
・・・・・・・・・・。
「よしッ!分かったッ!」 (クワッ
「え・・!?きゃ!」
突如、ハクオロは余を抱きかかえて立ち上がる。
「二人でどこか遠い遠い世界へ行くでおじゃるよ!
そこがまろ達のホーリーランド(聖域)だ!」
「あ、あの・・・ハクオロ?」
・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
パラリラパラリラ♪
ウォンウォウォウォン、ウォウォウォン!
クーヤたんを捜す為、カルラ達が急遽結成した別働捜索隊がバイクに跨って皇都内を疾走する。
【夜露死苦機械犬】
といった意味不明な単語を掲げ、いつのまにか捜索隊は珍走団まがいと化していた。
『ご家庭で 不要になった バイク 自転車 などは御座いませんか?
高く 高く 買い取らせて 頂きます。』
最後尾を走る極彩色ネオンが煌びやかなお洒落トラック。
それに搭載されたスピーカーから、
やる気なさげなオボロの声が響き渡る。
「オボロ・・・・ふざけてないで真面目にやりなさい。」 (怒)
ドゲシッ
カルラが憮然とした表情で、運転席のオボロの頭に蹴りをいれる。
「痛テッ!だ、だけどよ〜。こんな事してもクーヤ皇が素直に出てくる訳ないじゃないか。」
「何をいってるの!軟弱者ッ!
あるじ様はたったお一人で夜の森の中を懸命に捜索活動なさって・・・・
ガサガサッ
「あら?」
荷台に立ち乗りしてたエルルゥが、ふと向こうの方で揺れ動く草むらに気付いた。
すると・・・・
ガササ・・・・・・ひょこ。
なんとクーヤを抱きかかえたハクオロが現れたではないか!
しかも、背中には大きな風呂敷が背負われている。
「あれッ!?ハクオロさんッ!!」
「ッ!!し、しまった!見つかったでおじゃる!!」
ズドドドドッ。
まろ、猛ダッシュ。
「ちょ、ちょっとハクオロさん!?」
「あん?アネさん。どうしたんだ?」
「ちょっとマイクかしてッ!
・・・・・キィィン・・・・ハクオロさんッ!どうして逃げるんですかぁ!?(汗)」
見逃してくだせぇ!見逃してくだせぇ!
「ま・・・まさ・・・か・・・!?」
エルルゥがハッと気付く。
そう、そのまさかなのだよ!エルルゥくんッ!(涙)
「ッ!!か、駆け落ちよぉ〜〜〜〜!!」
ウウウウ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
エルルゥが叫び終わると同時に皇都全域に警戒警報が響き渡った。
「みなさん!ハクオロさんを見事に捕まえた方には・・・!
賞金100万ウォンですッ!!」
な、なにぃ〜!?勝手に賞金首ッ!?
『御用だ!御用だ!御用だ!御用だ!』
あちこちから人の声が聞こえ始めてきた。
「オボロッ!運転代わりなさいッ!」
「分かった!今、車止め・・・
グシャッ!
・・・・げぶわッ!?」
運転席の窓から荷台にいたカルラが飛び込んできて、オボロの顔面に両足蹴りをくらわす。
蹴られたオボロは反対側のドアから外へ吹っ飛ばされた挙句、
ゴロゴロと土手を転がっていった・・・・。
「飛ばすわよッ!」
ギャギャギャーーーッ!!
カルラがアクセルを思い切り踏むと同時に、ハンドルを右一杯に回す。
グリップを失ったタイヤがけたたましいスキール音をあげ、
トラックが激しくターンし、まろの逃げた方向に前部を向けた。
「生死は問いませんッ!死ぬ気で追いかけて下さいッ!」
「ま、まろも死ぬ気で逃げるぞッ!!」
ブロロロロローーーーッ!!!
ヘッドライトはハイビーム。
ふかすアクセル、Vテック。
魅せるネオンは漢の花道。
あぁ・・・今日も積荷を載せ、漢一匹夢街道。
「あるじ様・・・・・ちょっとオイタが過ぎてよッ!!」 ビキッビキィ!
「ハ、ハクオロさんッ!止まってくださいッ!・・・止まりなさいッ!
・・・・・・待ってってば〜!!
・・・・むぅぅ〜〜ハ、ハクオロさぁ〜んッ!!うに〜〜!!」
すまん・・・エルルゥ・・・漢には引けない場面があるでおじゃるよ・・・・。
「わーん!ハクオロさんが私を捨てたぁ〜!!」
何時の間にかまろは大罪人ですか・・・。
「ちょ、ちょっとハクオロ・・・・!そなた・・・!!」
「喋るなクーヤたん。舌噛むぞ。」
足を挫いたクーヤたんを抱きかかえ、漢ハクオロ、参ります。
―次回予告―
あ〜いとゆ〜
ひかり〜も〜と〜め〜
さ〜ま〜よう〜は〜な〜
ち〜り〜ゆ〜く〜〜
さだ〜〜〜め〜〜〜〜〜♪
「シュミクラム(電子戦闘体)を転送します!」
「聖上、今度ばかりは・・・己の悪行、見逃す訳にはいかんッ!」
『ゔぁるどッ!』
『ふぉぉぉっすッ!!』
―戦闘開始―
「うぉぉぉッ!!!」
「まろは・・・まろは草原の狼(ステッペン・ウルフ)じゃけん!」
チャ〜ララ〜ラララ〜♪
チャ〜ララ〜ララ〜ラ〜♪
「既知街六人衆カルラ・・・。貴方にはここで死んでもらうわ。」
「やめて!ハクオロは余に何もしてないわ!」
「いえ!奴は貴方の心を盗んでいきました!」
次回、クーヤシェイカー最終話ッ!!
『天誅 参 ―賽の河原へおつれしやす―』
乞う、ご期待ッ!!
★ふぁしずむの蛇足★
クーヤ 皇位即位時 6才 現在16歳
チキナロ 皇都帰還時15歳 現在25歳
って事で年齢差は9歳になるんですねぇ♪え?チキナロは25歳に見えないですって?
いいんですYO!25ったら25なのッ!(おぃおぃ
※今回もLeaf/Aquaplus(株)の画像を一部加工・使用させて頂きました。(笑)