Natural2−DUO−
Fly us to the Moon
第1話「ボクにも買って」
「あたたたた。」
頭にできた瘤をさすりながら朝食の席に就く
「兄さまだいじょうぶですか?」
心配そうな顔で尋ねてきたのは千沙都。本名 鳥海千沙都。20歳。
10年前のあの日、爺さんが引き取った娘だ。
生まれつき体が弱くて、去年は一時期入院してたが今じゃ元気なもんだ。
大好物のホットケーキなんて、毎日おやつに10枚は食ってるからな(笑)
現在うちの炊事・洗濯・掃除を全てやってくれている。嫁さんにしたい鑑のようなヤツだ。
「?!大変!!兄さま瘤になってます。はっ早く病院に・・・」
ちょっと心配性で、でも前向きに現在を一生懸命生きてる、俺の大切な家族だ。
「千沙都は大げさなんだよ。そんなのは唾付けとけば治るって。」
「なっ何言ってるの空!兄さまにもしもの事があったらどうするの?」
・・・俺の頭に瘤を作った張本人、空。本名 鳥海空。20歳。
あの日爺さんが引き取ったもう1人の娘。千沙都の双子の妹。
小さい時の泣き虫は何処へやら、今じゃこんなにお転婆だ(笑)
掃除・洗濯は一人暮らしをしばらくしていたこともあって人並みにできるが、料理はからっきしだ。
焼きうどんしか作れないという妙な特技も持っている。
ちなみに焼きうどんのレパートリーは関西風から始まりカルボナーラ、ミートソースと現在も増殖中。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。あれくらいじゃないと、このどーらく兄貴は起きないんだから。
ねっ?そうでしょ?寝ぼスケの兄貴?」
いつも元気一杯、でも本当は小さい時と同じ泣き虫で甘えん坊で、もちろん俺の大切な家族だ。
「・・・・・ちったぁ加減ってもんがねぇーのか?お前には?」
「兄貴が悪いんだからね。昨日の晩『今日は特別な日だから』ってボク言ったのに・・・。」
ぼやく俺にサラダをつついていたフォークを向け、当然とでも言うような表情で空が言う。
・・・・こら。行儀悪いぞ空。お兄ちゃんはそんな子に育てた憶えはありませんッ。
などとバカなことを寝起きの頭で考えて苦笑していたが・・・ん?特別?
「特別な日?・・・今日なんかあったか?」
「・・・ハァ〜やっぱりね・・・。」
本気で思い出せない俺が頭をひねっていると、
カラン カラン ガタッ
ナイフとフォークを床に落とした千沙都が涙目で身を乗り出していた。
こら。お前もはしたないぞ。兄さまはそ・・・以下同文・・。
「ッ!!に、兄さま、まさか本当に記憶が飛んだんじゃ・・・」
おいおい(汗)マンガじゃねーんだから。
まぁ目の前に経験者がいるから、ありえないとは言い切れないけど(笑)
「千沙都ぉそんなわけないでしょ。でも兄貴にはあきれたよ。まさかホントに忘れてるなんて。
ホント兄貴はトリ頭だね。」
「なんだそりゃ。しかし昨日の晩か・・・・・・おおっ。そういや今日は爺さんのとこに行くんだったな。」
「やっと思い出したか。」
心底あきれたというような空はとりあえず放置しておき、
俺は起きてから一番気になっていたことを口にした。
「それで千沙都がいつものメイド服じゃないんだな。」
「はい。どうですか?この前兄さまからいただいた服ですけど・・・おかしくないですか?」
そう言って、千沙都は立ち上がってくるりと回ってみせた。
黒のタートルネックセーターにデニムのスカート。ジャケットもデニムで合わせている。
普段の大人しいイメージとのギャップでつい見惚れてしまった。
「ああ。思った通り良く似合ってるよ。」
「ぽぽぽ・・・・ありがとう御座います、兄さま。でもなんだか空とおそろいみたいですね。」
「そう言われてみるとそうだな。スカートかズボンかの違いだな。」
「ふふふ。おそろいなんて久しぶりよね空?」
本当に嬉しそうに微笑む千沙都とは対照的に、空は何故かジト目でこちらをにらんでいる。
「空?どうしたの?」
「・・・・・・ちょっと。どーゆうこと?兄貴?」
「は?」
「なんでちーちゃんだけなのぉ!!」
バンッ
食板を叩いて立ち上がる空。オイオイ何もそこまで騒がんでも・・・・。
「仕方ないだろ?前の休みに出かけた時、お前行けなかったんだから。」
「そうよ空。急にバイトが入ったじゃない。たしかメェーちゃんのかわりとかで。」
空の激しい反応に少々引きながら、まあ落ち着けとジェスチャーしてみるがあまり効果は無いようだ。
「おにーちゃんはボクには買ってくれないんだ・・・」
「買ってくれっていわれてもなぁ・・・」
ただでさえ薄給なんだ、無理は言わんでくれとは男の矜持にかけて言えないが(泣)
「グスッ・・・くうには買ってくれないんだ。・・・グスグス」
はっ!?い、いかん。空のやつ感情が高まりすぎて言葉遣いが戻ってる(汗)
千沙都も気付いたのかあわてて空をなだめにかかる。
「空。ダメよ我侭言っちゃあ。兄さまも・・・その・・・色々と大変なんだから。ね?」
チラチラと申し訳なさそうな視線をこちらに向け、言い難そうに説明している。
・・・・すまん兄さまの稼ぎが少ないばっかりに(泣)
「グスッ。じゃぁなんでちーちゃんは買ってもらったの?」
「・・・それはその・・ほら私あんまりお出かけ用の服とか持ってないから。」
・・・・重ね重ねスマン。もっと服買ってやるからな。
しかしこのままではイカン。俺の尊厳がこそぎ落とされていく。しかたがない。
「わかった。わかったから。空もう泣くな。お兄ちゃんが服買ってやるから。」
「ぐすっ・・・え?ほんとう?」
「ああ。次の休みに一緒に買いに行こう。」
「ホントにホントだよ。絶っっ対だからね?」
「ああ。約束だ。」
結局指切りまでさせられて、ようやく空は落ちついてくれた。
もっとも我に返った空は
「ごめんね?お兄ちゃん・・・」
としきりに謝っていたが、許してはくれないらしい。
それとこれとは別ってことか・・・・今週から禁煙しねぇとなぁ(泣)
「ごめんなさい兄さま。私ももっと節約しますから。」
「スマン・・・そうしてくれ。」
そんなこんなで賑やかな朝食を片付け、今から出かけようかという時に
ピンポーン
ふいにチャイムが鳴った。
つづく