『 Fly me to the moon
Let me play among those stars
Let me see what spring is like
On Jupiter and Mars
In other words, hold my hand
In other words, baby kiss me
Fill my heart with song
Let me sing forever more
You are all I long for
All I worship and adore
In other words, please be true
In other words, I love you 』
Natural2−DUO−
Fly us to the Moon
第5話 「想い、歌にのせて」
『このリクエストをいただいた、ラジオネーム「くぅ」さん
二十歳の女性からのお便りです。
知得留先生こんにちは。いつもお姉ちゃんと2人楽しみに聞いています。
はい♪ありがとうございます♪
今日は思い出のJAZZ特集ということで、私の一番大好きな、
色んな想いの一杯こもった「Fry me to the Moon」をリクエストします。
はい。かけさせていただきましたよ〜。
この歌を初めて聞いたのは、おじいちゃんがまだ生きていた頃、高校2年生の時だったと思います。
おじいちゃんはとてもラジオ、特にFMが大好きで、家の中にはいつも音楽が溢れていました。
すごくハイカラなお祖父さんですねぇ。
ある日、学校から帰ってくると、
居間でおじいちゃんがラジオから流れるJAZZをじっと目をつぶって聞いていました。
いつもは私達姉妹が帰ってくるとまず頭をなでてお帰りのあいさつをするのが習慣だったのですが、
その日はただじっとその曲に聞き入っていました。
あまり英語が出来なかった私は
「Fry me to the Moon」「In other wards,I luv You.」の
ふたつのフレーズとJupitor・Mardsの単語しか聞き取れませんでした。
でもそのゆったりとしたメロディが何故かとても気に入って、おじいちゃんに曲のことを聞きました。
「やはりあの子らの娘じゃのぉ。」
と言ってやさしく微笑んだ後、この曲にまつわるお父さんとお母さんのお話を聞かせてくれました。
この曲はお父さんがお母さんにプロポーズするときに送ったものだということ。
自分の身体の弱さで迷惑をかけると、結婚に頑として首を縦に振らなかったお母さんが、
この曲をきいてお父さんと結婚する事になったこと。
それ以来この曲が2人の大のお気に入りになったこと。
この話を聞いて、物心つく前に亡くなって、数少ない色あせた写真と、
おじいちゃんとお姉ちゃんの話のなかでしか知らなかった、
お父さんとお母さんがずっと身近になったような気がしました。
そして私もこの曲が大好きになりました。
そんな思い出と想いの詰まったこの曲を、今度は私達姉妹の一番大切なヒトに送りたいと思います。
このリクエストの放送の日は、お兄ちゃんが家を出て行った日からちょうど10年目。
もう二度と離れ離れにならないように、決して見失わないように願いを込めて。
そして天国のおじいちゃん、お父さん、お母さんがやすらかに眠れるように祈りを込めて。
長いお手紙でごめんなさい。DJ知得留先生!!これからも楽しい番組よろしくお願いしますねっ。
それでは放送がんばってください。では。
はい。ラジオネーム「くぅ」さんからのお便りでした。
くぅさんはすごく優しい方なんでしょうね〜
このお手紙を読ませていただけてほんっとに心が暖かくなりました。
こんな風に家族を想える方はそう居ないんじゃないかっておもいますね。
・・・おそらくこの番組を聞いてるであろう私の恋人(きゃっ♪はぁと)の妹さん。
くぅさんを見習って家族を、特にお兄さんをもっと大切にしなさい。
貴女のお兄さんが私とお話するのを望めばそれを認め、
貴女のお兄さんが私とキスをしたいと望めば場の空気を読んで席をはずし、
貴女のお兄さんが私とキス以上のか・・・なんですかセブン?
「おしてるから余計な私事を挟むな」ですか・・・そもそもの元凶が何を戯けたこと
何?「さっきから抗議の電話がうるさい」そんなものは放っておきなさい。
どうせ現実を直視できない妄想過多のナイチチ・・・「頼むからパーソナリティとしての自覚を持ってくれ」ですって?
・・・セブン・・・貴女いつから私に説教できるほど偉くなったんですか?
これはまたちょっとキツめの調きょ「志貴さんにいいつけてやるぅぅぅ」・・・こほん
みなさん少々話が脱線してしまいましたね(ニコッ)
それではこのコーナーの最期に「くぅ」さんと、
そのお姉さんの「ちーちゃん」さんからの愛するお兄さんへのメッセージを伝えたいと思います。
【ボク達を月まで連れて行って
そして星の海で遊ぼう
遠い遠い星の春はどんな風景なのか
ボク達に教えてほしいの
ううん、ちがう
本当にお兄ちゃんに伝えたいのはそんな言葉じゃなくて
ボク達の手をやさしく握って欲しいってこと
キスしてほしいってことだよ
私達の心を兄さまで満たして
永遠に兄さまへの想いを歌い続けたい
兄さまは私達の全てだから
私達に永遠の愛をくれますか?
愛しています・・・永遠に
愛してるよ・・・・永遠に】
お兄さん聞きましたか?
ここまで女の子に言わせて、答えてあげなきゃ漢が廃るってもんですよ。
「くぅ」さん、「ちーちゃん」さん、そしてお兄さん。
貴方達に主のご加護と幸福のあらんことを。
今週のリクエスト、「あなたの心に残る一曲=JAZZ」でした。
ちゃららら〜ら ら〜ららららら ららら らら〜らら〜ら〜
はい。今週も終了の時間と・・・・・・・』
湾岸沿いの幹線道路がトンネルに差し掛かり、ステレオから砂嵐の音が聞こえ出す。
助手席の久美子さんがカーラジオのスイッチをOFFにした。
トンネルの赤色燈が静かに車内を彩っている。
独りで運転している時には少し物悲しい雰囲気になる色の世界だが、
今俺の心は酷く穏やかであったかかった。
「翔馬さん、翔馬さん。」
小声で俺を呼んだ久美子さん。
その瞳が「がんばった2人に何か言ってあげないと」と悪戯っぽく笑っている。
バックミラー越しの2人は赤色燈の光のなかでも分かるくらい真っ赤になって俯いていた。
俺は照れ隠しに眼鏡を上げると2人に
「あ〜・・・・・何て言って良いのか・・・と、とりあえず・・・さんきゅな。
2人の気持ちが改めて聞けて、俺はスゲーうれしいぞ。
正直・・・俺が2人にとってそこまで愛される資格があるのかはわからねぇ。
でもな・・・さっきも言ったけどな、俺は2人を幸せにするためならどんな努力でもする。
これだけは誓える。・・・だからな・・・ずっと傍に居てくれ。」
「はい、兄さま・・・私は、千沙都はずっと兄さまと一緒です。」
「お兄ちゃん・・・空もだよ。」
ふたりは今までのどんな笑顔よりも綺麗な、双子なだけにそっくりな笑顔で応えてくれた。
そう、俺はこの笑顔のためならどんな事でもやれる。
そう改めて決心できた。
いつもささくれ立ってた俺の心は、知らない間に癒されたようだ。
トンネルはいつしか終わり、また春の陽気が車内に差し込んできた。
祖父さんの眠る丘まで後少し。
「思い出」になるであろう曲を小さく口ずさみ、アクセルをゆっくりと踏み込んだ。
In other words, please be true
In other words, I love you
つづく