鬼兵般家長
DIE15話 百鬼夜行 〜ゲゲゲッ!の、ちーちゃん〜その3
「・・・・・ちゃん。」
うぐぅ・・・・うぐぅ・・・・。
「・・・・お兄ちゃん。」
やめちくり〜・・・・4人妻は・・・・・。
「もう・・・お兄ちゃんってばぁ!」
・・・・・・はっ!?
「お兄ちゃん!もう起きないと。」
「おわぁぁぁっ!!」 ガバッ
「わ、わっ!何?何なの!?」
「・・・・・は、初音ちゃん?」
「もう・・・寝ぼけてるのぉ?お兄ちゃん。」
「ハァ・・・・ハァ・・・・良かったぁ・・・・やっと起きれたぁ・・・。」
「??どうしたの?かなりうなされていたけど・・・・。」
「い、いや、いいんだ。それよりも今何時かな?」
「もう8時を過ぎてるよ。」
「やばっ!今日は千鶴さんと鶴来屋に行くんだった!」
俺は急いで居間に向かうと、既に千鶴さんは出社の支度を済ませ
食後のコーヒーを飲んでいた。
「おはよう御座います。耕一さん。」
「す、すいません。千鶴さん!今すぐ出かける用意をしますんで・・・。」
「あ・・・耕一さん。今日はスーツで来て頂きたいんですが・・・。」
「えっ!?スーツですか・・・?だけど、俺、持って来てないですよ。」
「あの、父ので宜しければ着て頂けませんか?」
「耕治さんのですか・・・?え、いいんですか?」
「どうせ、誰も着ませんし、耕一さんなら丁度いいサイズかと思います。」
「分かりました。じゃあ御言葉に甘えてお借りします。」
「では、出しますんで待ってて下さい。」
そう言うや否や、千鶴さんは立ち上がり・・・・・えっ?仏壇??
仏壇の方へ行っちゃったけど・・・・・。
仏壇の前に腰を下ろした千鶴さんは、『ちーん』と鈴を一回鳴らし
2秒ほど合掌した後、下の納骨室を開けた。
!?
その中から紳士服が一着・・・・・。
それを丁寧にこちらへ持って来て、
「御待たせしました。遠慮なく着て下さい。」
嫌過ぎる!
・・・・・・・うわ、線香の匂いが・・・・・。
「少し急いで貰えます?そろそろ迎えの車が来ますので・・・。」
「は、はぁ・・・。」
今更これを着るのを嫌だとも言えないので、渋々俺は着替えてきた。
なんか、すこし肩が重いような・・・・。
「・・・・・御待たせしました。」
「では、行きましょう。行ってきます〜。」
台所から梓が出てきて
「ん?もう行くの?んじゃ行ってらっしゃい。」
「梓、楓ちゃんは・・・・・そっか、部屋だよね・・・・・。」
「いや、楓の奴、なんかさっき出てったよ。何処行ったんだろ?」
「こんな早くから!?・・・・珍しいな。」
玄関先まで初音ちゃんが見送りにきて、千鶴さんが先に出たのを見計らうと、
「お兄ちゃん、何かあったらすぐ逃げてくるんだよ。」
「・・・・・・・・何かって。」(汗)
玄関を出て、庭を通り、門をくぐった先にマジェスタが停まっていた。
後部座席に千鶴さんと座ると、車はゆっくりと発車した。
柏木家から鶴来屋まで車だと20分ぐらいだろうな。
千鶴さんを見ると、既に御仕事モードに移行しているらしく
普段の『ぱはは〜』って顔から『キリリ』としたキャリアウーマンの顔になっていた。
そうだな、一応これでも女社長だもんな。
車は温泉街を通り抜け、隆山半島の先端に向かった。
すると、手前を海に面した山麓に一際大きな旅館が姿を現した。
日本でも有数の高級老舗温泉旅館、鶴来屋だ。
過去多くの著名人、財・政・法曹界の重鎮も宿泊したらしい。
意外にも一般の宿泊客がほとんどを占めているので、名前の割には
庶民的な旅館としても親しまれてきたみたいだ。
まぁ、ぶっちゃけピンからキリまで用意されている旅館だろう。
かく言う俺も、数える程度しか来た事がないけどな。
車は従業員入口側の方に向かった。
小さなロータリーに停車し、千鶴さんと俺は入口に向かって歩き出す。
周囲の従業員の方が一同にこちらへ向かって
「おはようございます。社長。」
「おはようございます!」
等と、挨拶をしてきた。
千鶴さんは軽く会釈した後、微笑みながら
「おはようございます。」 キラキラ
・・・・・・見事なまでのフェイクだ。
職場の千鶴さんを見るのは初めてだが、ここまでキャラ作りに徹底しているとは思わなかった。
はたから見たら、インテリの美人社長だものなぁ・・・・。
これが、家ではマツタケごはんを姉妹と奪い合ってるんだから・・・・。
ほんと、人間って嫌な生き物だな・・・・。
俺は兎に角千鶴さんの後についていく。
エレベーターに乗って15階へ上がり、さらに奥へ進んだところに
「重役会議室」というのがあった。
「耕一さん、ではこちらで待ってて下さい。」
「は、はぁ・・・。」
千鶴さんは俺を残して、どこかへ行ってしまった。
・・・・・・・・・。
数分後、千鶴さんと、専務である足立さんが入ってきた。
「やぁ、耕一くん、元気かね?」
「あ、足立さん!お久しぶりです。」
「すまいね。急に呼び出して、だが君がこちらにいるうちにどうしても話しておきたくてね。」
「はぁ、そもそも、今日僕が呼ばれた理由は何ですか?」
「・・・・・・・・・。」
千鶴さんは先程から真剣な顔で一言も話さない。
足立さんも話しづらいのか、場を見計らっているみたいだ。
「かまいません。どういった要件なんですか?」
「・・・・・・単刀直入に言おう。
柏木耕一くん、一刻も早く君にこの鶴来屋次期社長として来て頂きたい。」
「はっ?」
「千鶴社長では荷が重過ぎると我々役員で判断した結果なんだよ。」
「ちょっ、ちょっと待って下さいよ!僕はまだ学生で・・・。」
「それはこちらも重々承知している。だから卒業までは一応、社長補佐として席に
ついて頂きたい。再来年は君も4回生だし、大学に行く事も少なくなるだろ?
できればそれでこちらに移り住んで頂きたいのだ。」
「そ、そんな突然・・・・。」
「察してくれ、耕一くん。柏木家の次期当主である耕一くんをおいて他はないのだよ。
幸い、君の成績も優秀だし、それに・・・・・。」
足立さんはこほんと咳をはらうと・・・・妙な間が空いた。
・・・・・・・なんだ、この間は・・・・・。
・・・・・猛烈に嫌な予感がしてきた。
俺のハザードランプが高速で点滅している・・・・ヤヴァイ・・・・。
・・・・・・・・そこ、千鶴さん、なぜ赤くなってる!
「・・・・・・あの、足立さん・・・・?」
「ごほん・・・出来れば・・・・ちーちゃんと、結婚でもしてくれれば、安泰なんだが・・・・。」
「すわっ!?」
「・・・・・・・・・耕一さん。」 もじもじ
「あ、あ、あ、茜ですとぉぉぉぉぉ〜〜〜〜!!!!」
(つづく)