鬼兵般家長



DIE2話 これが鬼塚ボクシングだ!⇒レフリーストップ(終了)

 

梓はこちらに気が付くと、つかつかと歩み寄って来た。

・・・・・・・あれ?何かいつもの梓と違和感があるな?

 

「あ、梓・・・ど、どうしてここに?」

 

「聞かなくても、うすうす気付いてるんじゃないの?

 ・・・・・・耕一を迎えに来たに決まってんだろ。」

 

「はぁっ?それだけの為にあんだけの距離をバイクで来たのか!?」

 

「こうでもしないと来ないだろっ!どうせ今日もバックレようとか考えてたんだろが?」

 

「うぐぅ・・・・。」

 

「ったく、1時間近くも外に待たせやがって、女の子に風邪をひかす気かよ。」

 

「ッ!お前、着いてからずっとここで待ってたのか?」

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

「ったく、バカだなぁ〜、俺が今帰って来なかったらどうする気だったんだよ?」

 

「・・・・・・耕一を例の喫茶店で見かけたからここにいるんだよ。」

 

 

「!」

 

この時点で俺は梓の違和感の正体に気がついた。

梓は俺と会話を始めてから、全く目線を合わせていないのだ。

 

「お、お前見てたのか?」

 

次の瞬間、うつむき加減だった梓は石仮面のような顔を覗かせ

あっという間に両手で俺の肩をつかむと、

 

「・・・・・耕一・・・・・・誰だね?あの女は?

 

「・・・・・・・・・・は、はひ?」

 

「喫茶店でしゃべってた女だよ。しらばっくれる気かな?

 

ギリギリギリギリ

 

梓に掴まれた俺の両肩がイヤな音をたてる。

 

「い、痛いよぅ〜!や、止めてよぉ〜!」

 

「かわいい子だったよなぁ〜〜〜〜〜?」

 

心なしか梓の口から(しゃぁぁぁぁ〜〜〜〜)って音が聞こえるような気がする。

俺は涙目になりながらぽんこつな声で必死に弁解した。

 

「あ、あれは友達だよぉぉぉ〜〜〜!!!」

 

「ほ〜〜〜?そうかい?耕一くんは私達の家には来ないくせに

 女の子の御友達とは茶ぁ〜シバクんか?あ?

 

「イタイ、イタイ〜!・・・・・ぐっすん」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

危うくもう少しで両肩を粉砕されるところだった。

梓はとりあえず、由美子さんの事はあれ以上触れてこなかったが

部屋で紅茶を飲んで一服してる間も不機嫌そうだった。

 

「ところで・・・・やはり今日中に行くのか?」

 

「当たり前だろ。それとも姉貴直々に迎えにきて貰いたいか?」

 

「・・・・・・・・・いえ結構です。」

 

「どうせ、大した荷物なんてないんだから私の後ろに乗っけてくよ。」

 

 

はいっ!?

 


「あ、梓さん・・・・・ま・・・まさかZU2人乗りで行くんですか?」

 

「当ったり前だろ。もう特急も行っちゃったし、どうやって行くんだよ?」

 

「いや・・・だって・・・・その・・・・バリバリ伝説だからなぁ・・・。」

 

「なんだよ!?それっ!どういう意味だよ?」

 

「・・・・・・・いや、だって前科あるし・・・。」

 

 

梓はバイクに乗ると化わる。

以前俺を乗せて走っていた時、数台のちんぴらバイクに煽られた事があったのだが

彼女は俺を後ろに乗せているにも関わらず、アクセルを吹かしてスピードアップ。

 

シュパァァーーーーーンッ!(←エンジンの悲鳴)

 

!?

 

『・・・・・・・・あの・・・・・梓さん?』

 

『・・・・・・・・・・・あの野郎ども・・・!!』

 

もう時既に遅し

彼女の闘争本能は燃え尽きるぞハート。

 

バイクのスポークは震えるほどヒート。

 

後ろの俺はもう恐怖で刻むぜ!破悶のビート。

 

ちんぴらバイクもこちらに気付きスピードを上げて追いかけてくる。

既にスピードメーターの示す速度は風伝説。

 

『あ``・・・・あずざざぁぁ〜〜〜〜ん、や、やめてくれぇぇ〜〜!!!』

 

『風だぁ・・・・私は風になる・・・・。』

 

!?

 

すると手前にゆるやかなカーブが現れた。

そう・・・・普通に走っていれば緩やかなカーブだ。

だが、梓はリニアのスピードでつっこんだ。

 

 

『イヤァァァァーーーー!!!!』

 

 

その直後凄まじいリーンをかけて強引に曲がろうとした。

通常の人間はこの時点で神経的にも技術的にも限界になるだろうが

梓は・・・っていうか柏木姉妹は人間を超越しているのでノープロブレム。

そう、自分だけノープロブレムだよ!

 

アイ・アム・ノヴァッ!!

 

常識を逸脱したコーナリングの為、2人にかかる重力は予測不可能。

 

 

「その後、耕一の身に信じられない出来事がっ!!」

 

あまりの急激な加重移動の変化に未経験の俺はついていけず

 

・・・・・・・・・・・・・・俺は飛んだ。

 

俺、風になりました。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

「普通の人間なら死んでたところだよな。」

 

「あ、あれは!その、不可抗力だよ!」

 

「そ、そもそも、今回は姉貴がどうしても連れて来いっ!って五月蝿いから

 仕方なく来たんだよ。もともと長距離運転なんて面倒くさいし、

 エンジンにも負荷がかかるから嫌だったんだよ。」

 

「・・・・・・俺が嫌だっつったら、どうするつもりなんだよ?」

 

「・・・・・・・・・姉貴に殺されたいの?」

 

「・・・・・・いいえ。」

 

「姉貴なら初音の頭脳戦艦使って、このアパート焼き払うくらい平気でやるぜ?」

 

武力行使ですか・・・・。世間一般ではそれをテロと言うんですが・・・。」

 

「来るの?来ないの?」

 

「行かせて頂きます・・・・。」(血の涙)

 

簡単な着替えを詰めた小さめのスポーツバッグを背中に担ぎ

俺は梓のバイクの後ろに跨った。

さよなら・・・俺の20歳の冬よ・・・。

 

『とりあえず、1時間ほど下道走って、●●インターから高速に入るから。』

 

『・・・・さすがに俺もダンプと相撲したら死ぬからな・・・。』

 

『チッ!しつこい男だなぁ!』

 

『ははは、あ、あと悪いけど三●百貨店に寄ってくれないかな?』

 

『はぁ?なんでだよ?』

 

『いや、初音ちゃんに御土産頼まれちゃったからね。高級チョコでも買おうかと。』

 

『・・・・・・・・ったくあのガキャァ・・・。』

 

『じゃあ、安全運転で宜しくな。』

 

ぎゅっ

俺は梓の腰に手を廻した。

 

『あ・・・・・・』

 

『?どうしたんだ?』

 

『な、なんでもないよ!』

 

ブォン!ブォン!ブォォーーーンッ!!

梓のZUはいかめしい音響をあげながら

あきらかに法定速度以上で急発進して行くのだった。

 

・・・・・・・・・「安全運転で」って言っただろうが・・・・。

 

 

(つづく)