鬼兵般家長
DIE23話 その鬼にさせないで・・・・
約10秒ほど時が止まったような感覚を覚えた。
それほどまでに3人が微動だにしなかった為だ。
ごくり
思わず生唾を飲み込み、俺は梓の様子を伺う・・・。
まさに魏・呉・蜀の三竦み状態!
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
一番最初に均衡を崩したのは、予想外にも梓だった。
「あ、あのアタシ・・・耕一の親戚で、柏木梓って言います・・・。」
今いちこの冷戦のような状況を理解しきっていない由美子さんは
いきなり梓に自己紹介され、戸惑いながらも
「御丁寧にどうも・・・・
わ、私は耕一くんの大学の友人の・・・小出由美子って言います。」
「お、俺は・・・柏木耕一って言います・・・。昔から不幸を呼ぶ男って言われてるっす。」
し〜ん
はっ!?
な、何故に俺まで自己紹介してるんだっ!?
し〜ん・・・・・。
重い・・・・。
通夜なんてもんじゃねぇ・・・このままじゃ俺の人格が壊れそうだ・・・。
「な、なぁんだ耕一ぃ〜。こんなキレイな女の人と知り合いだったなんて・・・・
知らなかったよ。やるなぁ!コイツゥ〜♪はははは破破破・・・!」
・・・・明らかに死の匂いを漂わす梓の言葉・・・・。
一方、何となく気不味さを感じつつあった由美子さんが、
「ごめんなさいね・・・耕一くん。
親戚の方と食事してたんだよね?待たせちゃ悪いし・・・私そろそろ・・・・。」
すると梓が
「あれ?もう行っちゃうんですかぁ?もう直ぐ姉達が来ますんで、
良かったらお茶でも如何ですか?」
っ!!
ま、まさか梓さん・・・。
こ、公開処刑する気じゃないのくぁっ!?
「あ、いえ悪いですよ。それに・・・私温泉上がりで、そろそろ・・・。」
「そうですか・・・。あ、また宜しければ是非一度家へ遊びに来て下さい。
耕一に、こんな素手鬼なガールフレンドがいたって分かれば
姉妹一同、大変喜ぶと思いますので・・・・。」
そこで俺がようやく話に割り込めた・・・。
「由美子さん、そろそろ部屋に戻んないとホントに風邪ひくよ?
エレベーターまで送るからさ・・・・。じゃ梓悪ぃ!ちょっと待っててくれ。」
「あ・・・ご、ごめんなさい。それじゃ失礼します。」
俺はそそくさと由美子さんの肩を押して、その場を退散。
エレベーターホールで俺と由美子さんはしばらく無言だった。
エレベーターが1Fに向かって降りてくる・・・・。
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
・・・な、なんでこんなに気不味いんだ?
た、大した事じゃねーよ・・・ははは。
しばらく二人とも無言だったが、由美子さんが静かに口を開いた。
「耕一くんの親戚って、とても優しそうな人だったね・・・・。」
「えっ!?そ、そうかな?・・・・なんで?」
「・・・・何でって言われると困るけど・・・・なんか耕一くん楽しそう。」
楽しくなんかねーよっ!!
生き地獄だっつーのっ!!
「は、ははは・・・まぁ、女性が4人もいれば・・・賑やかだけどね・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
・・・なんでそこで黙るのっ!?(号泣)
チーン
エレベーターが到着し、扉が開いた。
由美子さんはすっと中に入り、こちらへ振り返ると
「なんか、とっても美人でスタイル良かったから、驚いちゃった・・・・。」
少し寂しそうな笑顔で、彼女はそう言った。
扉がしまり、エレベーターが昇っていく。
「・・・・・・・・・・由美子さん。」
君は彼女達を知らないんだよ・・・・。
・・・・・・・・・・・。
俺は梓のいる通路に戻った。
・・・・なんかさっきまでいい感じで歌月十夜って感じだったのに・・・。
いきなりリアルに引き摺り降ろされた気分で胸一杯だった。
むこうの方で梓が突っ立っている。
とりあえず体裁を繕おうと、うわずった声で声をかけた。
「よぉ!待たせたな・・・あず・・・。」
振り返った彼女の顔を見て・・・凍り付いてしまった。
能
まさに能面のような顔で梓さん(推定・室町時代)がこちらを凝視。
「は、はいぃぃぃっ!?」
思わず屁とク●と小便が同時に出そうになった。
・・・コツ・・・コツ
今にもガサラキを召還してしまいそうな彼女が一歩また一歩近寄ってくる・・・。
おっ・・・追い撃ちコマンドですかっ!!
俺は心の中のレバーを必死に何回転もさせながら、コンボ回避に追われた。
『どう来るんだ・・・・?』 ガタガタ
『いきなりパンチか・・・?それとも頭突きかも・・・・・?』
『まさかいきなり(ぶすっ♪)では・・・!?』
梓は俺の目の前まで来ると・・・・。
にっこり
へっ?
いきなり恵比寿顔になった梓さん・・・・。
これは予想外だった・・・ど、どういうつもりだ?
「こ・お・い・ち・くん♪あの人ってさぁ・・・先日の人だよね?」
「・・・・・は、はい・・・・。」 ガタガタ
「遠くから見ても美人だったけどぉ〜、近くで見たらすっごく美人じゃない?」
「・・・・・はい。・・・大学でも・・・・有名です・・・・。」 ガクガク
「で、なんで彼女、ここに居るのぉ〜?」
「・・・・さ、さぁ・・・・なんか、一度隆山に来たかったらしいですぅ・・・・。」
「ふ〜〜〜ん。鶴来屋に宿泊するなんてぇ・・・結構裕福なんだねぇ〜。」
「・・・・・そ、それは分かりかねますが・・・・どうしてですか?」
「だってさぁ〜・・・鶴来屋って言ってもそこらの旅館よりは割高だしぃ〜・・・
・・学生さんだったらぁ〜、『温泉旅館 鵜婆紗』とかリーズナブルだしぃ
他に『ホテル サンズ・オブ・隆山』とかの方が若者向けで人気あるじゃない?」
「・・・ま、まぁ俺が鶴来屋の事色々話してたからじゃないかなぁ〜?」
「耕一くんは〜、ここの関係者とかって事を話してる訳ぇ〜?」
「・・・・はい。」
「へぇぇ〜仲がいいんだぁ〜♪」
「・・・・えへへ。そうっす・・・結構大学の野郎連中から目の仇にされて・・・・」
ボスゥッ!!
「すぅぁんとりぃぃっ!!」
突然俺の鳩尾に梓のぼでーぶろーが炸裂・・・・・。
「ゲ・ゲボワッ!?」
その場で倒れ、悶絶。
い・・・・息が・・・・・息がぁぁ〜〜〜〜。
「・・・嘘つき。ただの友達だって言ったじゃん。」
あ・・・・あぐぅ・・・・。
「別に・・・・耕一が女の子と居たって・・・・・チッ!!
そうじゃなくってっ!わざわざ嘘つかなくたっていいじゃんっ!」
・・・・ララァが・・・・ララァが・・・・。
「よかったじゃんっ!モテモテ耕一くん。いっその事、彼女と鶴来屋に泊まれば?」
・・・・・!?
『は・・・・はぁ・・・?お・・・お前何言ってんの・・・?
・・・た、たまたま女友達が・・・・ここで泊まってて・・・・偶然会っただけじゃん・・・・。』
「バカァッ!!そんな訳ないだろっ!!あの人・・・・。」
・・・・・・・・・イタイヨ〜〜〜〜〜。
「チッ、やめたやめた。なんか馬鹿らしくなっちゃった・・・。
・・・・なんでこんな事でアタシが・・・・。」 ぶつぶつ
じゃあ殴んなよ・・・・。
梓はそのまま俺を見捨て、ロビーに戻ってしまった。
・・・・・・・・。
俺は大ダメージの為しばらく動けず、その場でうずくまっていた・・・。
ちょんちょん
『は・・・はうあ〜〜〜〜・・・・・く、苦しい・・・・。』
ちょんちょん
『だ・・・誰っすかぁ?』
目線を床から水平に戻すと・・・・
目の前に楓ちゃんがしゃがんでいた。
『・・・・あぅぅ・・・か、楓ちゅわ〜〜〜ん・・・・』
「・・・・・・・・何してるんですか?」
『・・・・・ちょ・・・ちょっと背中をさすってくりぃ・・・・』
「・・・・・・・耕一さん?」
『何ですかぁ〜〜・・・・・・』
「・・・・・・・切腹ごっこですか?」
な訳ねーだろぁっ!!(号泣)
(人類補完計画発動まで・・・・あと2日・・・・。)