鬼兵般家長
DIE3話 憑鬼姫ぷらすDIS苦
『虎羅っ。そこのバイク、停まれ!停まらんかっ!』
プイ〜〜〜〜〜ンン♪パープーパープー♪
『・・・・・・・あのぉ・・・梓さぁ〜ん?国家権力の方々が
追いかけて来てるんですけど・・・・。』
『さっきからうっとうしい車だね。捕まえられるもんなら捕まえてみなって。』
『・・・・・・・・・高速道路を230キロで走ってたら、そりゃ追いかけてくるって・・・。』
『高速道路ってのは高速で走る為の道路だろ?』
『・・・・常識の範囲内でだろ・・・・って言うか、お前よく免許取れたな・・・・。
そもそも、御願いしていた安全運転はどうなったのでしょうか?』
『危ないだろがっ停まれっ!そこのZU!ナンバー折り曲げてても直ぐアシはつくぞっ!』
『うっとおしいなぁ・・・・撒くからしっかり掴まってろよ?耕一。』
『・・・・・・・・・・・・Oh、No』
梓は更にスピードを上げ、覆面パーカーを撒きにかかったらしく
周りの景色が新幹線から見る光景ばりに過ぎ去っていった。
国家権力さん、出来れば俺を保護して頂けないでしょうか・・・・?
スピードの恐怖に声も出ないまま固まっていると
何時の間にかバイクはスピードを落とし、高速を降りていた。
『お、おいおい!降りるインターはあと3つ先だぞ?』
『あれ以上、高速を走ってたら料金所あたりで挟み撃ちを喰らうからね。
そうでなくてもインターを降りたところで捕まっちまうよ。
ま、すぐ下道に降りたから足もつきにくいし、ここからだったら家までそう遠くもないよ。』
『・・・・・・そうっすか・・・。』
『あ、耕一、ナンバープレート下ろしといて。』
常々思うが、梓ってそもそも高校に行く以外は普段何をやっているのだろうか・・・・?
その後は下道の峠を目立たないように走り、気がつけば日もすっかり暮れ果てていた。
真っ暗な山道をバイクのライトだけが照らしていたが、最後の上りを越えたあと
印象深い夜景が目の前に姿を見せた。
手前は海沿いに囲まれ、奥は山に囲まれた日本情緒あふれる温泉街。
半島の端に一際輝いている光は多分鶴来屋だろう。
『・・・・・・。』
俺はここの夜景や風土はとても気に入っているので、この時ばかりは心を打たれた。
あぁ、やはり来て良かったなぁ・・・・。
一瞬だけだがその時はそう思った。
いつもの駅前の大通りを抜けた後、商店街にそって坂を下り、
温泉街をぬけて住宅地へと向かう。
さすがに平日の夜は客足も少なく、人もまばらで静かだった。
見覚えのある角を曲がると、一際大きな木造屋敷が構えており、
重厚な門に、年期を感じさせる表札には「柏木」の名が刻み込まれてた。
ブロロロ〜、キキィ。
『おつかれ、着いたよ。』
俺はヘルメットを脱ぐと溜息をひとつ。
「・・・・・・・・さんきゅ。ついに着いてしまったか。」
バカァンッ!
「!?」
突如として門が開いたと思うと
「耕一さぁぁ〜〜〜〜ん♪おかえりなさい!」ぱはは〜
来た。
千鶴さんが幸せ一杯の笑みを浮かべてこちらへ駈けて来る。
更にスキップしながら片手も振っているときた。
23歳にもなってそりゃねーだろ?姉さん。
「お、お久しぶりです。千鶴さん・・・。」
「お待ちしてましたぁ!耕一さん♪」
ボグゥッ!
「ガハァッ!」
一瞬何が起こったのか分からなかったが
よく見ると、千鶴さんの黄金の右が俺のレバー(肝臓)に直撃していた。
『な・・・なにすんねん・・・。』プルプル
「耕・一・さ・ん♪・・・・・・・よくもこの間バックレてくれたな?』
ヒッ!
笑顔の奥に殺意の波動がエネルギッシュに満ち溢れていらっしゃる千鶴さんは
中腰でうずくまる俺を氷のような瞳で見下した後
俺のあごを左手でくいっと持ち上げ
「ふふふ・・・・今夜はお姉さんが大人としてのマナーをたっぷり教えてア・ゲ・ル♪」
「虎羅、姉貴。いい加減にしろよ。会って早々そりゃないだろ。」
「うぐぅ。あ・・・梓・・・タスケテェ・・・。」
「あらあら、梓ちゃんもえらくなったわねぇ・・・。お姉さんに説教する鬼?」
「あ?・・・・・・姉鬼、喧嘩売ってんのか?」
ズォォォォォーーー!
・・・・・周囲の気温が恐ろしい寒さになる。
勘弁してくれ、とばっちりを喰らうのはミーざんすよ?
「ま、まぁまぁ二人とも!あ、そ、そうだ!ぼ、僕お腹へったなぁ〜♪」
「・・・・・・・そうですか・・・・・・でしたら晩御飯にしましょう。」
「・・・・・・・・・そうだな、今日は初音が作ってくれてるよ。」
俺はなんとかその場を和平調停にこぎつけ、事無きを得た。
・・・・・・もうさっさと晩飯食って帰りてぇ・・・・・・。
二人の後について屋敷に入ろうとすると、
・・・ぎゅっ
!?
背後から何かに抱きしめられた。
「な、なんだ!?」
首を廻して後ろを覗いてみると・・・・。
何時の間にか楓ちゃんが俺にひっついていたのだ。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・おかえりなさい、耕一さん。」ぎゅっ
「や、やあ、楓ちゃん。いま着い・・・
「エディフェルって呼んでくれないと・・・・イヤ。」
「・・・・・・それはあまり外では言いたくないんだけど・・・。」
「・・・・・・・・いぢわる。・・・・・・でも・・・・・・・好き。」ポッ
「・・・・・・・・・・・・・・。」
相変わらず病的だな。この子は。
楓ちゃんはぱっと見は凄く可愛らしいのだが、実はオツムがかなりイタイ。
はっきり言ってあまり近寄って欲しくないのだが・・・・。
自分の名前を「エディフェル」(宇宙名らしい)と呼んで欲しいらしいが、
俺的にはむしろリュシフェルと呼びたいくらいだ。
俺は後ろに張り付いたままの楓ちゃんを引きずり、玄関に入った。
夕飯の良い香りが玄関まで漂ってきたので、反射的にお腹が鳴ってしまった。
「・・・・・・・・耕一さん、グ〜グ〜鳴ってる。」クスッ
「まだ張り付いてたのか・・・・楓ちゃん、離れてくれないと靴が脱げないんだけど・・・。」
「・・・・・・・・ゴロゴロ。」
駄目だこりゃ。
・・・・・・・・・・!!
その矢先、奥から「おたま」が物凄いスピードで、こちら目掛けて飛んできたのだ。
「おわっ!」
ッ!狙いは俺ではなく、背後の楓ちゃん。
(危ないっ!顔に直撃するぞ!)
俺は急いでおたまを弾こうとしたが
「オラッ!」
バキャッ!
それより先に楓ちゃんの背後から、得体の知れない何かの腕が出てきて、おたまを弾き飛ばした。
「・・・・・・・・・・・・。」
見なかった事にしよう。
「あ、ごめ〜ん♪手がすべっちゃった。」
とてとて、と奥の台所からエプロン姿の初音ちゃんがやってきた。
「・・・・・やぁ、こんばんわ。初音ちゃん。」
「いらっしゃい。お兄ちゃん♪」
「はい、御土産のチョコレートだよ。」
「わぁ、有難う!全部大切に食べるよぉ。」
全部一人で食べる鬼なのか・・・・?
「あれ?楓お姉ちゃん、どうしたの?スゴイ顔して?」
「・・・・・・・・・・・初音・・・・邪魔する鬼?」
「え〜?何の事言ってるの〜?訳が分からないよぉ〜。・・・・これだからヒッキーは困るぜ。」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
・・・・・・・晩御飯も結構ですので、帰っても宜しいでしょうか?
(つづく)