鬼兵般家長
DIE4話 鬼怨すーぷはいかが?
今にも殺り合いそうな二人を何とか鎮めて居間に入ると
一人暮らしでは見慣れない豪華な料理がテーブル狭しと並んでいた。
「うおぉ〜!スゴイなぁ!これ、全部初音ちゃんが作ったの?」
俺は鍋を運んでいた初音ちゃんに訊ねると、
初音ちゃんは無言のまま俺の袖をひっぱり、渡り廊下に連れ出すと
ボソボソと小声でこう言った。
『・・・・・今晩は覚悟しておいた方がいいよ・・・・。』
『はい?』
『端っこに置いてある、茶色の大食器を見て気付かない?』
『・・・・・・あの、奥の料理の事かい?』
『見たら分かるよ・・・。』
俺は首をのばし、茶色の大きなシチュー皿みたいな食器の中身を覗くと・・・・。
きてはっ!?
なにか、液体らしきもので満たされているのだが・・・。
黄緑みたいな毒々しい色をしており、
明らかに人間の食い物とは一線を画しているのが見て取れた。
『・・・・・・・・・なに?あれ?』
『・・・・・・・千鶴が作ったんだよ。』
『はぁっ!?なんで作らせたんだよ!』
『知らないよぉ!お兄ちゃんが来るからあのバカが張り切って勝手に作りやがったんだよ!』
『・・・・・なんか暗黒面のフォースが流れ出ているんだけど・・・。』
『食事が始まったら、千鶴は間違いなく最初にあれを振ってくるよ・・・。』
『・・・・・・・・・・・・・・・・。』
「あらあら♪美味しそうねぇ。ホント初音ちゃんは料理が上手くで憎らしいわぁ。」
不意に千鶴さんが居間へ現れた。
ビクッ!
反射的に驚いてしまったが、幸い勘繰られずにすんだ。
千鶴さんは(よいしょっ)っと奥の座布団に座り
「あら、耕一さん。そんなところで突っ立っていないでこちらへ座って下さい。」
ポンポン
っと自分が座っている直ぐとなりの座布団をかるく手でたたいた。
・・・・それはあんたの下家(シモチャ)に座れという事かい・・・・?
すると、楓ちゃんがす〜っと割って入って来て、その座布団に腰をおろした。
「・・・・・・・・・・楓、なんのつもり?」
「・・・・・・姉さん・・・・・・・そうはさせるか。」
「ッ!!あ・・・あ・・・あなた妹のクセに少しは姉に対する思いやりってものがないのっ!!」
「・・・・耕一さんの隣に座るのは、私というのが前世からの定説ですから。」
「ムキィーーー!独り善がりの妄想を放ってんじゃないわよ!!」
・・・・・・・・・・。
情けなくて涙が出そうな光景だった。
それを尻目に初音ちゃんが俺の手を取ると一言、
「さ、耕一兄ちゃん。あんなアホ共はほっといて、こっちに座ろ♪」
『オラッ!』
サッ
楓ちゃんの何かWith任意の鉄拳を初音ちゃんは難無くかわすと
持っていた鍋のフタを反撃とばかりに円盤投げで楓ちゃんに投げつけた。
パシィッ!
何時の間にか居間にやってきた梓がチャクラムと化した鍋フタを掴み取ると
「あんた達!いい加減にしなっ!そんな事ばっかやってたら
耕一がいつまでたっても晩御飯を食べられないじゃないか!」
・・・・・・・・・・もうお腹一杯です。
「そ、そうね。梓のいう通りだわ♪」
「・・・・・・。」
「・・・・チッ。」
食事をするだけなのに、何故にここまで殺伐とした雰囲気を
食事前に味わわなければならないのだろうか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
結局、俺は千鶴さんが座っている対面に座る事で、ようやく食事が始まった。
詳しく言えば、右手に初音ちゃん。左手に梓と楓ちゃんが座っている状態だ。
俺はとりあえず、味噌汁を少しすすった後、主食の肉じゃがと天婦羅を口に運んだ。
率直な感想をいうと、やはり初音ちゃんは料理が上手い!
レベル的には梓と遜色ないほど、洗練された技術と味で、
一人暮らしの俺には、なつかしくもあり、こそばゆくもあった。
・・・・・・・・・・・・・・って、イヤな視線を感じるんだけど。
しかも対面から。
俺が味噌汁をすすろうと、お椀を口に近づけると、お椀の縁の視界から
(今か今かと)話を切り出そうとしている千鶴さんの目線が・・・。
いうなれば、牽制球を投げようかどうかというピッチャーみたいだった。
頼む、見逃してくれ!
「・・・・耕一さん♪美味しいですかぁ?」
鬼た。
初音ちゃんがお茶碗を持ったまま固まった。
梓は状況を把握出来ておらず、楓ちゃん至っては我関せず。
「いやぁ〜、ははは。とってもうまいっす!もう最高っすよ!」
「ほほほ。初音ちゃん、良かったわねぇ♪」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」←初音
どう話を振ってくるんだろう・・・・・・?(滝汗)
うまくさばけるだろうか・・・・・なにを投げてくる?・・・・・フォークか?スライダーか?
「よろしければ私の作ったスープもいかがですか?」
ど真ん中直球かよ!
しかもスープかい、それ!?
ブーッ!
左手に座っていた梓が、吸ってた味噌汁をふきだした。
初音ちゃんは(あちゃ〜〜〜)っていうような顔をし、
楓ちゃんは依然、もくもくと食事をしていたが、ちらちらと目線を運ばせ
さりげなくだが、千鶴素宇腐の確認を怠らない。
「ゲホッ!ゲホッ! あ、姉貴も作ったのかよ!?」
「そうよ。耕一さんに栄養つけてもらう為に
オニオンとガーリックペッパー、その他もろもろをベースに、牛肉を煮込んだ
ちーちゃん特製オニオンスープよ♪」
「待て、その他もろもろってのはなんだ?」
「ユンケルとか、 ねるねるネルネとか、シーモンキーとか・・・・。」
「おいっ!待てやっ!」
「な、なによ?急に大声だしたりして。」
梓は注意して食卓を見回すと、瘴気を放つ例の食器に目が止まった。
ほのかに湯気がたっている器の中を注意深く覗くと同時に・・・・。
「ウッ!」
御見事、その一言だけでよく表現出来ている。
はっきり言って、俺は今すぐにでもその器ごと棄ててやりたい気分だ。
梓は手で口を隠し、まるで汚物を見るかのような
嫌悪感たっぷりの目線でアレを見つめていた。
「梓、それどういう意味なの?」
殺気エキス配合の千鶴さんがドスのこもった声で聞く。
「ま、まぁまぁ!ち、千鶴さん♪」
俺はなんとかその場を立てなおそうと、千鶴さんをなだめた。
「まぁいいわ。じゃぁ・・・・はい、耕一さん。召し上がれ♪」
かちゃり
そう言うと千鶴さんは、いつのまにか食器を手にとり
そのなかに死の水を、なみなみとそそいで俺に差し出した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
それを俺に食えと?
って言うか、あんたが食べろよ。
(つづく)