鬼兵般家長
DIE8話 ときめ鬼トゥナイト 〜キラーQUEEN〜
夜も更け、冬の空には満月がかかり、静かに闇夜を照らしている。
俺が間借りしている和室にも月光がさしかかった。
障子から漏れる光によって、ほのかに部屋が見渡せるようになった頃
布団に横になりながら、俺は様々な回想に浸っていた。
ガキの頃、よくこの屋敷で寝泊りしていた事。
親父の葬式の為に、その屋敷を数年ぶりに訪れた事や、
数年ぶりに会った従姉妹に衝撃を受けた事。
千鶴さんの異常なまでの愛情表現。
楓ちゃんのアブノーマルな趣味。
梓の変わり果てた性格。
初音ちゃんの2重人格。
そして、柏木家の事実上の正統後継者が俺しかいないと知った事。
今年は・・・本当に色んな出来事があり過ぎた。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
満月が見えた。
大きな、とても大きな満月だ。
この世のどの様なものよりも美しい満月がのぼる中、
一面をススキで満たされた平野に俺はいた。
地面とススキと空と満月の間に・・・・・
俺は確かに見た・・・・・・。
この眩暈がするほどの美しい事象のなかに
同等の価値をもった美しい女の姿を・・・・。
生まれて初めて、同じような生物を見て
俺は心を打たれた。
その女がこちらを見ていた。
その淡く透き通った瞳がこちらに向けられている。
息を呑む程の美しさ・・・・。
お前さえいれば・・・・俺は何も求めなかったのに・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・何時の間にか寝てしまってたか・・・。
部屋の奥にぼんやりと時計が見える。
時刻は3時をまわっているみたいだった。
やれやれ、中途半端な時間に起きちまったな。
思わず背筋を伸ばしたい衝動にかられ・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
横に誰か寝てる・・・・・・・。
って言うか、抱きつかれてる。
誰だよ・・・・・・・・。
布団がかぶさっているせいか、暗くて見えない。
・・・・・・・・・・・・・・。
ペラッ
・・・・・・・・・・・・・・。
なにしてんだよ。楓ちゃん。
「・・・・・・・・・うん・・・・。」
布団を少しめくったせいか、寒くてお目覚めのようだ。
俺は呆気にとられたが、とりあえず彼女の挙動だけは見ていた。
じ〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
「・・・・・・・・・・・・さむい・・・・。」
楓ちゃんの目がかすかに開き、周囲の状況を把握し始めた。
そしてすぐに、俺と目があった。
じ〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
じ〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・あ・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・ナニシテンノ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・らぶ。」(ぽっ)
「・・・・・・・・・・・・・・・今直ぐ部屋に帰りなさい。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・いや。」(ふるふる)
ぎゅっ
・・・・・余計抱きついてきた。
ヤレメ・・・・だんだん、理性が・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・耕一さん(はあと)」
「・・・・・・・・・・・コ、コラッ!」
・・・・・あ・・・・・やわらかいにゃぁ〜♪
イ、イッカーーーーンッ!!
・・・・・・でも・・・・・いい香りが・・・・・。
ダ、ダレカ、タスケテクレェェーーーー!!!!
理性が弾けとびそうになり、思わず
盗ぅぅ〜んだ ぶぁ〜いくで はぁ〜しりだすぅ〜♪
などの歌が流れそうになった時。
「ぶっせつぅぅ〜〜〜〜〜まかぁ〜はんにゃあ〜〜〜〜
しんぎょおおおお〜〜〜」
トントントントントントントントン
!?
「がーんじーざいぼーさーつー・・・・・」トントントントントントン
な、なぜに般若心経ぉ!?
障子の向こう側から般若心経が・・・!!
声が近づいてくるとともに、障子に照らし出される姿。
・・・・頭にツノが・・・・鬼?
ガラッ
!?
障子をあけて部屋に入り込んできたのは
・・・・・・千鶴さん。
ヒッ!?
なぜか頭に「南無阿弥陀仏」と書かれたハチマキ。
しかも間にローソクを立てている。
・・・・・ちなみにローソクには「仲良昇天」の文字が・・・。
手には小太鼓とバチをもってドンドンドンと叩いている。
・・・・あまりの恐怖で腰がぬけた。
「かえでぇ〜〜〜〜あんたぁ〜〜〜〜なんばしょっとね〜〜〜〜?」 トントントントン
「・・・・・・・・・夫婦の営みに決まっているでしょ。」
「・・・・・・・パクパク」←耕一
「夜這をかけるなんてぇ〜〜〜〜ええ根性しとるのぉぉ〜〜?」
「・・・・・・・・・姉さん、出てってくれない?・・・・今いいところなの。」
いいもクソも、地獄絵図にしか見えないんだけど。
「・・・・楓ちゃん♪夜這をかけるのなら・・・もう少し大人になってからしましょうねぇ♪」 ビキッビキッ
「・・・・・・・どういう意味なの?」 ピクッ
「もうすこし、体が大人になってからって事よぉ♪」 ビキッビキッ
「・・・・・・・・それは姉さんにも言える事じゃないの?」 プチプチ
「そうねぇ。私も人の事は言えないけどぉ、あなたみたいにまっ平らじゃないから♪」
「・・・・・・・・・・・・・・・ブチッ」
「さぁ〜楓ちゃぁ〜ん、いらっしゃ〜い♪・・・・・・第2ラウンド開始じゃ虎羅!」 クワッ!
「・・・・・・・・・上等だよ。」 ブチィッ!
ガバァッ
俺の布団を投げ捨て、楓ちゃんが千鶴さんに向かっていく。
・・・・・・・・・この家は不夜城なのか?
俺はもはや成す術もなく、呆然としていた。
もう・・・・寝よう。
ドタドタドタドタドタドタドタッ
バァンッ!
「やかましいっ!何時だと思ってんだっ!」
「ゴルァッ!千鶴ぅ〜!楓ぇ〜!
ぶっ殺すぞ?てめぇ〜らぁ〜〜!」
凄まじい勢いで奥の障子から梓と初音ちゃんが怒鳴り込んできた。
二人とも安眠を邪魔されたので、えらく御立腹だった。
だが、間が悪く千鶴さんも楓ちゃんもすでに臨戦体制状態。
「あ?外野は黙ってろっ!」
「・・・・・・ひっこめ、カス!」
ブチッ←梓
ブチッ←初音
「ダボがぁぁ〜〜!!」
「死ねやぁぁ〜〜!!」
うばしゃぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!!!
女4人の凄まじいバトルが始まった・・・・。
マ・・・ママ・・・・ママぁ〜〜!
もう僕、お家に帰りたいよぉぉ〜〜〜〜〜!
(つづく)