鬼兵般家長
DIE9話 いい旅、夢鬼行 ぷれせんつ・ばい 耕一
・・・・・・・・チュン・チュン。
「・・・・・・・・・・・。」
俺は現実逃避するかの如く、いつの間にか寝てしまっていたらしい。
目が覚めた俺は昨夜の惨劇を思い出し、
急いで着替えると、居間に向かった。
部屋を出て愕然としたが、屋敷のなかは
まるで台風かツイスターがピンポイントで通り過ぎたのかと
思ってしまうほど、見事に荒れ果てていたのだ。
居間に着くと既に朝食が並べられ、4姉妹が準備をしていた。
・・・・・・・・・・。
大体そこまでは、俺も知ってるはずの柏木家の朝だが、
今日はやはり朝から違和感がぬぐえない。
そりゃそうだろう。
4姉妹とも傷だらけなのだから。
居間の中央のテーブルで、食器を並べていた千鶴さんが俺に気付いたらしく
「あ・あら♪おはようございます・・・耕一さん。」
「あッ!お、おはよう。千鶴さん・・・・。」
「・・・?耕一さん、どうかしましたか?」
「い、いや。その・・・。目の下にアザが・・・。」
「えっ!?・・・あ・・・・あら、嫌だ。おほほほほ。」
ふと向こうの渡り廊下を見ると、
楓ちゃんがもくもくとガラスの破片をホウキで集めていたが、
なぜか片方の足を引きずっている・・・・・。
奥から初音ちゃんが味噌汁の入った鍋をこちらに持って来た。
「あ・・・・お兄ちゃん・・・お、おはよう。」
「おはよう。初音ちゃん・・・。」
・・・・・初音ちゃん・・・・その・・・・・・・。
初音ちゃんは鼻にティッシュをつめていた。
・・・・多分、鼻血が出たのだろう。本人はとり忘れているに違いない。
あぁ・・・・なにか悲しくて見てられない光景だった。
すると奥の方から焼き魚がのった皿を手に持って来た梓が、
「初音・・・・・あんたティッシュつめたままだよ。」
「えっ!?うそっ!」
初音ちゃんは慌てて鼻を押さえ、
俺の顔をちらっと見て顔を真っ赤にすると、急いで居間を出て行ってしまった。
・・・・・・・・・まぁ、今更そんな事で恥ずかしがる事もないが。
「よぉ、耕一。今日は早起きだな。」
「おぉ、おはよう。あず・・・ッ!!」
梓は左のほっぺたがギャグのように膨れ上がっていたので
思わず俺も驚いて・・・笑っていいのかどうか躊躇してしまった。
・・・・・・・・・・・・・・・。
「いただ鬼まぁ〜す。」
「・・・・・ゴチ。」
「いただくぜ。」
「アイ、ガティ。」
「い、いただきます。」
今日は一段とダークな雰囲気で、朝食が始まった。
前回俺が来たときは、みんな少なからず談笑しながら食事をしていたが
・・・・・昨日が昨日だけに、黙々と食べている。
俺は、まぁ別にどっちでもいいので、黙々と朝食を食べていた。
千鶴さんは時間を気にしているらしく、チラチラと時計を確認していた。
8時ちょいを過ぎると、ご飯も早々に切り上げ、席を立った。
「ごめん、梓、あと夜露死苦。」
「あぁ、逝ってらっしゃい。」
「あれ?千鶴さん、まだ仕事なの?」
「えぇ、28日からはお休みが頂けるんですが、
今はまだちょっと忙しいので・・・・。耕一さんはゆっくりしてて下さい。」
千鶴さんはああ見えてもビジネスウーマンだ。
なにせ有名老舗温泉旅館の社長なのだから、なかなか思うようにお休みも頂けないのだろう。
急ぎ足で出社の支度をし、ファンデーションで顔のアザを強引に消すと
外で待機していたお迎えの車に乗って、行ってしまった。
「・・・・・・ああ見えても、千鶴さんはやっぱ社長なんだよなぁ〜。」
「あたし達はもう高校もお休みだけど、姉貴はそういう訳にはいかないからねぇ。」
「じゃあ、みんなもう片付けていいのかな?お兄ちゃんはおかわりは?」
「・・・・・・・結局、姉さんって、いつも鶴来屋で何してるの?」
「・・・・・・・・・・・・・。」←全員
朝食を頂いたあと、俺は姉妹から逃げるように町を散策しに出かけた。
もともとここは情緒溢れる温泉街で、山あり海ありの素薔薇しい観光名所なのだ。
さらに山の幸、海の幸にも恵まれ、そこらの定食屋でも中々のものが食える。
とは言ったものの、俺は柏木家で半強制的にメシを食わされるので、
まぁ、実際に食ったのは数える程度なんだけどね。
とりあえず、俺は温泉街をぶらぶらと歩いていた。
この町自体はとても魅力を感じるし、俺自身気に入っている。
問題は・・・・・あの4姉妹さえマトモな人間だったら良かったんだがなぁ・・・・・。
年末の用意だろうか?周囲は心なしか騒々しかった。
地元の子供も冬休みに入ったらしく、寒いのに路地裏を走り回っていた。
そんなのどかな光景を見ていたら、どこからともなく温泉の香りが鼻をくすぐる。
「う〜ん、いいねぇ・・・。やっぱ都会とは違って落ち着くよ。」
俺は御機嫌で缶コーヒーをすすりながらブラブラしていた。
・・・・・その時は、まだつけられている事に気付かぬまま・・・・・・。
(つづく)