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Detective Chinguji tokimeki


Episode7



 ――ジャジャーン

「よっしゃ!亀釣ったで〜!ほら、みんなボコれや!……よし、そこでケアル!連携いくで〜!1番、バーニングブレイド!」

 自室のPCの前に座り込み、PS2のコントローラーを片手にしたときめきは、画面の中で繰り広げられる熱い戦いに、一喜一憂集中していた。

「よっしゃ、そこで挑発……って、虎羅、シナトラ!お前、何しとんねん!とっとと、挑発しろや……って、ああ!ヴォケ、何、隣のトカゲ挑発しとんじゃ!……ああ、石化した……」

 Mausaは死んでしまった……

「だーっ!シナトラーッ!このクソファック野郎がーっ!」

 シナトラの挑発ミスが原因で、自キャラが死んでしまったときめきは、コントローラーを床に叩きつけて立ち上がると、怒りをあらわに隣の会長の部屋に乗り込んで行った。

「おい、虎羅、シナトラーッ!また凡ミスかましやがって!」

 部屋に入るなり、ときめきは先ほどまでの自分と同じように、PS2のコントローラー片手にPCの前に座り込む会長を一喝した。

 しかし、会長も素直に『すまん』と反省することはなく、負けじと逆ギレして立ち上がった。

「うっさい、ボケ!俺かて一生懸命やっとんねん!第一、もういい加減、眠くて、意識が朦朧としとるんじゃ!」

「ほな、とっとと寝ろや!また、いきなりシボンヌして、PT全滅とかさせるなや!」

「じゃかましい!お前が『いいから付き合えや!』って、もう二日も人をつき合わせて徹夜でヴァナっとるんやないか!」

 ときめきの言い分に、さすがに会長も黙って入られなかった。
 
 言葉通り、この二日間、会長は……まあ、自分でも進んでやっていたという面もあるが、ときめきに請われて、ひたすらヴァナり続けていたのだから。
 
 会長の正論に、さすがにときめきはそれ以上理不尽に怒鳴ることもせず、『ちっ!』と不機嫌そうに舌打ちすると、さっさと自室へ戻って行ってしまった。

「おい、マゥーサ!」

 会長が呼び止めても、ときめきは振り返りもせず、やがてしばらくすると、ディスプレイの中のマゥーサが、

『ほら、シナトラ、さっさと行くぞ虎羅』

 と、Tellで話しかけ、さっさと走り始めてしまった。

 そんなマゥーサに、会長――シナトラは、『うんざりとした』とエモを出しながら、仕方なしに後を追って走り始めた。……そのときだった。

 ピンポーン

 来客を告げるチャイムの音が、室内に響き渡った。

「うん?誰やろ……お〜い、ときめき、お客やで〜!」

 もしかしたら依頼人では?との甘い期待を抱きながら、会長は隣の部屋のときめきに壁越しに声をかけたが、一切反応無かった。

 会長は、面倒くさそうに眉間に皴を寄せて舌打ちすると、仕方なしに立ち上がり、玄関へ応対へと出た。

「はいはい……誰やねん」

 ガチャ……

 扉を開けた正面に立っていたのは、Y2yと弥生の刑事コンビだった。

「ああ、おじ鬼に弥生さん……」

「よう、シナト……じゃなくて、会長。……マゥー……ときめきは?」

 挨拶もそこそこに、Y2yは少し気遣うような表情で尋ねてきた。

「いや……駄目や。もう、ひたすらホーリーランドに入り浸りで……捜査どころか、SSすら、もうまったく書かへんし……」

「もうだめぽ……ですか……はぁ〜」

 会長の言葉の続きを補うように、弥生はそう言うと、がっくりと肩をついた。

「そうか……まだ駄目か……参ったな」

 Y2yは、淡い期待を打ち砕かれ、がっくりと肩を落としながら首を横に振った。

「……おじ鬼、捜査の方は……?」

 会長の問いかけに、Y2yは、無念そうに首を横に振った。

「ああ……もう完全に駄目だ。犯人の自殺であの事件はおしまい。上の判断は覆らない……次から次に物騒な事件が起きてる今だ……片が付いた事件に何時までも人員を割く余裕はないとさ。……俺たちも、もう別の事件の捜査にあてられてるんだ」

「……なまら悔しいけど……ボクたちも、警察の歯車だから……」

 弥生も悔しそうにうな垂れる。

 それを見つめながら、会長もやるせない思いを感じつつ、そっと部屋の中を振り返った。

「……ときめき、お前、ほんまにそのままでええんかい」

 会長の呟きは、ホーリーランドに埋もれるときめきの耳に、届くことはなかった――



                    第二章 挫折



 ――そのニュースが、Y2yと弥生の耳に飛び込んできたのは、ときめきと会長が、葉っぱの本社を訪れていた日の朝だった。

「ふぁ〜っ……お疲れ〜」

「あっ、お疲れです、あにぃ」

 大きなあくびをしながら、警視庁捜査一課のオフィスに入ってきたY2yを、同じく眠そうな目をした弥生が迎えた。

「んっ……なんだ、弥生、随分眠そうだなあ。どうした?まあ、大方、また妹ゲーのコンプに夢中になって徹夜でもしてたんだろうけどな」

「な〜に言ってるんですか〜。それを言うならあにぃだって、どうせまた、一晩中ラグナとヴァナをはしごでPLAYしてたんじゃないですか〜?駄目ですよ、そんな廃人まっしぐらなことしちゃ」

 お互い、ずばり事実を言い当てられ、言い合いながら苦笑を浮かべていた。

 Y2yは目を擦りながら自分の机に荷物を降ろし、壁際のポットから熱いブラック・コーヒーを備え付けの自分専用観鈴ちんマグカップに注いで飲む干し、一息ついて少し目が覚めたところで『さて』と弥生に声をかけた。

「うさ君の事件は、とりあえずときめきの親父さんと会長の調査結果待ちだし、他に急ぎの事件は今のところなし……今日はどうしたものかな?」

 呟いたY2yに、弥生が『それなら』と、すぐさま反応して答えた。

「じゃあ、今日は秋葉原でも見回って調査しましょうよ〜。もしかしたら、今回のうさ君のとか、他の未解決の超人事件絡み何かいいネタ拾えるかも」

 期待に満ちた眼差しで言う弥生に、Y2yは苦笑して返した。

「な〜にが、いいネタだよ。お前が言ういいネタってのは、義妹関連じゃないのか?この間もそう言って秋葉原調査しにいったら、フィギュアショップのショーウィンドウの前で、十二人の妹フィギュアを凝視して、五時間くらいずっとハァハァしてたくせに……あの時は、素で地元の所轄警察の人間呼ばれて、気まずい思いしたぜ」

「……人がそれで、連行されそうになってたとき、駅前のKブックスでずっと同人の見本誌熱心に見ててちっともフォローに来てくれなかったのは、どこのあにぃでしたっけ?」

「……そんな昔のことは忘れたよ」

 兄弟で生き恥を晒しあって、二人は揃ってため息とともに肩を落とした。

「まあ……似たもの兄弟ということで」

「……なまら悲しいけど……はぁ」

 呟きあった後、Y2yが気持ちを切り替えるように『よし』と小さく呟いた後、立ち上がった。

「まあ、とりあえず、机に向かってする仕事もないし……行くか?秋葉原」

「ィェァ!そうしましょう!」

 途端に生き生きとし始めた弥生を引き連れ、Y2yが部屋を出ようとしたその時だった。

「……どこに行こうとしているのかな、Y2y君、弥生君」

 呼び止められた声に、二人は『びくっ!』となりながら立ち止まった。

 恐る恐る振り返ったそこに立っていたのは、観鈴ちん人形を愛しげに胸に抱いた、角刈り頭でごっついサングラスをかけた、小柄ながらも某大○刑事のように威厳に満ちた男。

 警視庁捜査一課長、梅里咲、二人にとっては直属の上司に当たる男だった。

「いっ、いやあ……課長、どうも」

「おっ、おはようございます」

 誤魔化すように、わざとらしく揉み手で挨拶する二人だったが、梅里は、それを冷淡なまなざしで流すと、ギロリと二人を睨みつけた。

「……秋葉原に超人ショップめぐりに行くような相談をしていたように聴こえたが……?」

「いっ……そっ、そんなことは……これっぽっちもねえ?」

「そっ、そう!あにぃの言う通り!ただ、ボキたちはちょっと事件の情報収集に、人通りのなまら多いとこでも行こうかって……」

「うるさ〜い!」

 懸命に言い訳の言葉を探す二人を、梅里はそう一喝した。

 そんな梅里の様子に、二人は『やばい』と、引き気味になっていた。

 普段の梅里課長なら、ここまでギスギスとした言葉使いではなく、そのいかつい外見と裏腹にもっと温和な人なのだが、今日のこの荒れ具合。どうやら、今日は、『梅』ではなく『竹』の人格が出ているようだ。

 梅、竹、禁断の松。梅里課長は、三つの人格を持つ、多重人格刑事なのだ。

 こうなった梅里課長は、下手に刺激したら溜まったものではない。

 Y2yと弥生は顔を見合わせ、とにかく素直に謝罪して、何とかお怒りをといてもらおうと目配せで肯きあった。

 と、そんな二人に、梅里が急かすように言ってきた。

「とにかく、今日、お前たちにそんな暇つぶしをさせてやるわけにはいかん!今すぐ、S県T宮市の華音海岸に向かえ!」

「S県T宮市の華音海岸?……それって、確か、自殺の名所の崖があるところですよね?」

 梅里の突然の命令に、Y2yは事件の捜査で聞きなれた地名を思い出し、尋ねた。

「なんでそんなところにぼくとあにぃが?あそこは、管轄でもなんでも……」

 不思議そうに首を捻る弥生に、梅里が深刻な表情で言葉を続けた。

「今朝未明……その崖から、車が一台飛び込んだらしい。……その後に残されていた遺書が……」

 梅里が続ける説明を聞いているうちに、Y2yと弥生の顔から、段々と血の気が失われていった。

「っ……まさか……」

「あにぃ……」

「……そう言うわけで、事件担当のお前たちに、確認に出向いて欲しい……いいな」

 そう言う梅里の言葉を待つまでもなく、Y2yは無言で部屋を飛び出していた。

「あっ、あにぃ!……それでは課長、行って来ます!」

 弥生も血相を変えたまま口早に言い残すと、机の上の『義妹フォト手帳』をしっかりと胸に収めると、Y2yの後を追って、部屋を飛び出した――



 東京から数時間。昼頃には二人は事件の現場である、S県T宮市華音海岸にたどり着いていた。

「ここから車がねえ……」

 Y2yは、切り立った高い崖のスレスレの所から下を見下ろし、恐怖に少し震えながら呟いた。

 元々、若干高所恐怖症の気があるY2yには、かなりきつい高さだった。

「はい、今朝、午前4時ごろ、釣り客が、ここから自家用車が落ちるのを目撃したと通報がありまして」

 書類を片手に説明をするのは、このT宮市警察署の人間で、二人の案内を仰せつかった警官、GY!という男だった。

なぜか警帽に、蟹の目のような飾りをつけているのは、『私は極悪ライダーですから』とのこと。

 その言葉だけで、『ああ、こいつも超人だ』と悟ったY2yと弥生は、あえてそのことにそれ以上つっこもうともしなかった。

「……それで、車の引き上げ作業は?」

 辺りの様子をチェックしていた弥生が尋ねた言葉に、GY!は『はい』と肯いた。

「なにしろごらんの通り、ここは一年中波が高くて、荒れていまして……早々は出来ないんですよ。おまけに海流の関係もありまして、ここに飛び込んだ死体は、めったに発見できないので……」

「そうか……」

 その返答にため息をつきながら、Y2yは、GY!が手に持っていた紙を、手をのばして無言のまま受け取った。

 それは、この崖の所に、白い封筒に入れられて置かれていた遺書。おそらく、車の中の人間が置いたに違いないと思われるものだった。



『遺書
 
 この度は、お騒がせして申し訳ありません。日ごろの遺恨の暴走の果て、ほんの弾みで、とうとうこんな恐ろしいことをしでかしてしまいました。

 こうなっては、死んでお詫びするより無いと、こんな方法を取ったことをお許しください。

 お世話になった方々には、大変申し訳なく思っております。

 あの世で罪を食い……しーぽんと初佳さんとアルクェイドと舞と……(以下、萌えキャラ名がずらっと数十行に渡って書かれている 略)と、エイエソの快楽の中で暮らして逝きます。

 葉っぱ株式会社 広瀬凌』



 いかにも超人らしいその遺書に、思わず苦笑を浮かべながらも、Y2yは沈痛な気持ちにならざるを得なかった。

「うさ君……早まった真似を……」

 もう一度、海面を見つめながら、Y2yは沈痛な面持ちになった。

 せっかく、自分たちが彼の無実を信じ、動き出そうとしていたのに……

 今頃、葉っぱの本社を尋ねているときめきと会長のことを思えば、ますますやり切れない思いだった。

「……でも、あにぃ。死体があがらないと、まだはっきりとはわからないじゃないですか……」

 何とか希望をつなごうと懸命な表情で言う弥生に、Y2yは沈痛な面持ちで肯いた。

「それはそうだが……だが、どうやってそれを確認する?めったに死体があがらないって場所なんだぞ。今から、お前が海の中へダイブして探してくるってか?」

「はっ!?いっ、いや……それはさすがに……」

 突然のY2yの言葉に、弥生はびっくりしながら、改めて崖から下の荒れ狂う海を見下ろし、声を震わせつつ答えた。

「だろ?……こんなところじゃ、潜水艇やらクレーンやら機材持ち込むのも難しいし、プロのダイバーだってなかなかなあ……」

 無念そうに言うY2yに、弥生が『それなら』と、仕返しとばかりに言い始めた。

「あにぃが気合見せてくださいよ〜!ほら、乗せられたら蛇口で腰も振っちゃう、なまら凄いあにぃの暴走の真価、今こそ発揮する時ですって!」

「あほ言え!殺す気か!?」

 弥生の言葉に間髪入れずY2yが叫び、二人は改めて顔を見合すと、打つ手なしの現状にため息をつくしかなかった。

 と、そのとき、横からかかった声に、二人の目に揃って妖しい光が宿った。

「いやはや……大変ですね……」

 横でずっと事の成り行きを見守っていたGY!が、苦笑しながら言った声に、Y2yと弥生は何かを同時に思いついたように、目配せで肯きあった。

 二人は無言のまま、きょとんとするGY!を挟み込むように立つと、何か意味ありげな笑みを浮かべて、その肩にぽんっと手を置いた。

「なあ……GY!君、警官として、男になってみる気はないかい?」

「なまら熱い伝説作れるよ?」

「はっ?……あっ、あの、刑事さんたち、いったい何を?」

 二人の言葉の真意がわからず……いや、わかりたくないGY!は、額に汗を浮かべながら誤魔化すような笑いを浮かべて言った。

 しかし、そんなGY!の思惑など完全無視で、二人はにっこりと、まるでドッキリを思いついたときの星元(&Y2y)のような、まさに悪魔そのものの笑みを浮かべ、肩に置く手にぎゅっと力を入れた。

「……残暑の厳しい中、ダイビングも気持ちいいと思うぜ」

「そうそう、ボクの地元と違って、こっちはなまら暑いから、海で一泳ぎするには丁度いいんじゃないかなあ?」

「っ……なにを言ってんですか、貴方たちは〜!そんなこと、出来るわけないでしょ〜!」

 あまりにあまりな提案をするY2yと弥生の手を振り払い、GY!は声の限りに叫んだ。

 その目と、帽子についた蟹の目には、ありありと怒りと恐怖が浮かんでいた。

 完全な拒絶を見せるGY!に、Y2yと弥生は、『さてどうしたものか?』と、顔を見合わせた。

 と、その直後、Y2yが、また何かを思いついて、悪魔の笑みを浮かべて手を叩いた。

「あ〜っ……そう言えば、弥生、お前、一万人ライダーエキストラって知ってるか?」

「えっ?それ、何ですか、あにぃ?」

 義妹のこと以外には一切興味の無い弥生がそんなことを知っているはずも無く、きょとんとした顔で尋ね返して来た。

 それと裏腹に、GY!は、その言葉に思い当たるものがあるのか、ビクッ!とした表情で、興味津々な様子で、Y2yを見つめ始めた。

 その視線を感じながら、Y2yは『しめしめ』と思いながら、その悪魔の言葉を続けた。

「いや、今度やる仮面ライダー666の映画でな、一万人のエキストラを募集するって企画があったんだ。俺、何が気向いたのか、それに申し込んでみたら、見事に当選しちゃってさあ」

 そう言いながら、Y2yは自分を見つめるGY!を見やる。

 GY!は、Y2yの言葉に、心底羨ましそうな表情になっていた。

 どうやら、そのエキストラに応募し、見事に落選した口らしい。

 『しめしめ』と、Y2yはそんなGY!を見つめて思いながら、最後の止めとばかりに、言葉を紡いだ。

「……でもなあ、俺、その日は忙しいから行けないんだよなあ。いや、有明に、三沢と小橋の一騎打ち観に行く予定なんでね……でも、エキストラのチケット無駄にするのももったいないしなあ……」

「あっ、あの……もしよろしければ」

 Y2yの言葉に我慢できなくなり、『自分に譲ってください!』とGY!が言う刹那、Y2yはその悪魔的思考が生み出した、鬼のような一言を言い放った。

「そうだなあ〜……この崖からダイブして、下に沈んでる車の中を確認してくれる奴に譲ろうかなあ、エキストラの権利」

 その瞬間。その場はまるで絶対零度の嵐に襲われたかの如く、一瞬で凍り付いた。

 目の前に立つ弥生は、『あにぃ……あんた……あんた、やっぱり悪魔だよ』と、ガタガタと震えながら立ち尽くし、GY!は、苦悩をありありと浮かべた表情で呆然としていた。

『さあ、どうするかな?』 

 GY!の反応を楽しみに、にやりと笑みを浮かべて見守っていたY2yの目に、その結果は、予想以上に早く飛び込んで来た。

「俺は……俺は……俺は、仮面ライダーシザーズだーっ!海が何ぼのもんじゃい!極悪魂とくと見よ〜!」

 己の身の安全と、エキストラ参加権利。比べるまでも無く後者が上回ったGY!は、気合の叫びと共に、崖から豪快にダイブした。

 どぼーんっ!

「……うわ〜っ!かっ、蟹が〜!蟹が俺の体をついばんで……うわ、そんなところハサミで切るな……うぎゃっ、やっ、やめてくれ〜!俺はもう、手術は必要ないんだ〜!」

 水に落ちる音と共に、何とも言えない痛々しい絶叫が辺りに響いた。

 Y2yと弥生がそっと下を見下ろすと、そこには、無数の蟹にたかられながら海の底に沈んでいくGY!の姿があった。

「……さてと……確認は無理そうだし……仕方ない、引き上げるか」

「ええ……それにしても、いったいどうすれば……」

 二人は、今、自分たちが見たものを、瞬時に忘れたように問題にせず、何事もなかったかのように会話を続けた。

「……犯人の自殺で、被疑者死亡のまま書類送検……そんなところになるだろうな……」

「そんな……それじゃあ……うさ君の疑惑は晴れないままじゃ」

 Y2yの冷静な呟きに、弥生は愕然とした表情で叫んだ。

「……ああ。そもそも、遺書に自分で自白を書いているんだからな、疑惑を晴らすもないもんさ。まあ、今からこれを東京へもって帰って、本当にうさ君の書いたものか、筆跡鑑定をしてみないと、どうにもならないがな……」

「……ええ。……違うことを祈りますよ」

「……俺もだ。とにかく、急ごう」

 Y2yがそう言うと、二人は足早に現場を後にし、東京へ急いだ。

 背後からは、GY!の断末魔の叫びがひたすら響いていたような気がしないでもないが、それはきっと幻だろうと、二人は勝手に思い込んでいた……



 ――ときめきから、Y2yへ電話が入ったのは、鑑識から、あの遺書の筆跡が、間違いなく『うさ君』こと広瀬凌本人のものだという報告が届いた、まさにその直後だった。



「……あの電話以降、ときめきの奴、完全に燃え尽きてもうたからなあ……」

 リヴィングルーム。Y2y、弥生と共にテーブルを囲み、コーヒーを啜っていた会長が、がっくりと肩を落として言った。

「無理もないですよね……これから、捜査を頑張ろうとしてたときに……ですから」

「ああ。けどなあ……」

 弥生とY2yはそう呟きながら、正面の閉ざされたドア――ときめきの自室のドア――に目をやった。
 
 中にも、リビングの自分たちの話し声はおそらく聞こえているはずなのだが、それに対するリアクションは一切なく、ただ、キーボードとコントローラーを操作するキー音だけが空しく響いて聴こえるだけだ。

「でも……しょうがないですよね。だって、無実と信じて、疑いを晴らそうと頑張って捜査を始めてたときに、本人が自白の遺書を残して死んじゃったんですから……なまらきつい話ですよ」

 沈痛な面持ちで呟いた弥生の言葉に、会長も言葉少なく『せやなあ』と、無念の思いをあらわに返した。

 そんな二人を見つめ、Y2yが、悔しそうに唇を噛み締めながら、搾り出すような声で話し始めた。

「結局、被疑者死亡で、書類送検で事件はおしまい……一応、盗まれた企画書の捜査は続いちゃいるけど、そっちも進展無し……もう、署内じゃ、『終わった事件』って扱いさ……だけどな、俺は、どうしても納得できないんだ。今回の事件、どうしても納得できないことが多すぎるんだ……」

「納得できないこと?」

 Y2yの言葉に、弥生と会長が揃って興味深げに尋ねた。

 Y2yは、コーヒーで少し口の中を潤し、ため息をひとつつくと語り始めた。

「……確かに、うさ君と被害者の超は折り合い悪かったらしいが……それにしても、今回のは唐突過ぎるし……それに、その後、すぐに自殺って言うのが、ますます唐突過ぎる。……少なくとも、うさ君はそう簡単に自殺するような人間じゃない。この世に、未練あり過ぎるだろうしな」

「未練って……なんやねん?」

 『何を根拠に?』と、怪訝そうに尋ねる会長に、Y2yはすぐにきっぱりと言い放った。

「ステルヴィア」

「「えっ?」」

「宇宙のステルヴィア……あいつ、毎週毎週、命のように楽しみにしてたんだ。『しーぽんハァハァ、小唄逝ってよし!初佳さん、萌え〜!』って、そんなあいつが、ステルヴィア完結前に、自ら命を絶つとは絶対に思えない」

「……なるほど」

「それは……説得力ありやなあ」

 弥生と会長は、納得したように肯いた。

 常識で考えればありえない話だが、ことは超人の話。それは、超人ならば十二分に説得力のある理由だ。

「それに、あいつ、まだ歌月十夜もやってないって言ってたし、苺ましまろも読みたいって……とにかく、超人的欲望に満ち溢れた人間が、あっさり自殺は絶対しないさ。となると、これはやはり、何か裏があるとしか思えないんだ……例えば、真犯人に罪を着せられて……とか」

「そんな!……でも……」

「まあ……ありえん話やないな……推理小説とかじゃ良く聞く話や……そうやないにしても、なんかまだ明らかになってない事情があってもおかしくはないしな」

 Y2yの推理に、弥生と会長は、驚愕の表情になりながらも、なるほどと納得したように肯いた。

「けどなあ……俺たちには、もう、それを深く調べる時間がないんだ……他の事件の捜査が次々と積み重なって……合間を見て、調べるにも、限界が……」

「そうですね……最近、なまら事件が多くて……」

 Y2yの無念の言葉に、弥生もがっくりとうな垂れて続けた。

 二人の様子を見ながら、会長は、ときめきの部屋の扉を見つめ、深いため息をついた。

「……つまりは、うさ君の事件の真相を調べるには……あいつに、ホーリーランドから帰還してもらわなあかんっちゅうわけか……」

「ええ……ときめきさん……何時になったら……」

「……ああ……参ったな……」

 三人は、すがるようなまなざしで、天岩戸を決め込んでいるときめきの部屋の閉ざされた扉を、ただじっと見つめるしかなかった――



 ――ホーリーランド、ヴァナ・ディール。

 ウィンダス王国にある湖畔で、ときめきの『リアル』、マゥーサは、一人佇んでいた。
 
 少し離れた岩場では、会長の『リアル』、シナトラが、岸壁に向かって只管体当たりをかまし続けている。

走りっぱなしのまま、中の人が寝落ちしているのだろう。いつものことだと、マゥーサは少しも気にせずに、ただじっと、湖畔を見つめていた。

俺は……何をしているのだろう?
 
 友のためにと、全力を挙げて捜査に乗り出したときに、それを裏切られるような突然の自殺。

 そして、無気力のまま、ただ、鬱屈した思いを、ホーリーランドで燻らせるだけの日々。

 こんな日々が何もならないことは、自分でもよくわかっている。

 わかっているが、しかし……

「俺が救いたいと思ったあいつは……死んだ。もう、何をやっても無駄やないか……そうや、無駄や……」

 自虐的にときめきが呟いたときだった。

「溢れる愛を、貴方にお裾分け〜」

 AnliettaはMausaにケアルUを唱えた。

「えっ……?」

 突然かけられた癒しの魔法に、マゥーサは驚いて振り返る。

 そこに立ち、自分にケアルをかけてくれたのは、一人のミスラの黒魔導師(サポ:白魔)、アンリエッタちゃん。マゥーサの嫁である、萌えミスラだ。

 ちなみに、中の人が『ゴッド』星元だというのは、あまりにォェァなため、知っていても言わない約束である。

「ハニー……どうしてここに?」

 マゥーサは、きょとんとしながらTellを飛ばす。

 しかし、アンリエッタから、返事のTellは返ってこなかった。

「溢れる愛を、貴方にお裾分け〜」

 AnliettaはMausaにケアルUを唱えた。

 AnliettaはMausaにケアルUを唱えた……

 代わりとばかりに返って来るのは、何回も何回も繰り返される癒しの魔法。

 とっくにマゥーサのHPは全快になっているのに、それは何時までも止むことは無かった。

「おい、ハニー、もういいって!とっくに全快してるから……」

 戸惑い止めるマゥーサの声にも耳を貸さず、アンリエッタの癒し魔法は只管続く。

 それは結局、アンリエッタのMPが底を尽きるまで続いたのだった。

 全てのMPでケアルを打ち尽くしたアンリエッタは、そのまま無言でしゃがみこみ、ヒーリングの体勢に入った。

「ハニー……いったいどうしたんだ?」

 ゆっくりと近づくマゥーサに、アンリエッタはようやくTellを返した。

「……ダーリン、まだまだ傷ついてるから……」

「えっ?いや、もうとっくにHPは全快で……」

「ダーリンの……心が、傷ついたままだっちゃ!」

「……えっ?」

 悲痛な叫びをあげるアンリエッタに、マゥーサは絶句する。

「だって……ダーリン、あれからずっと廃人みたいに……ホーリーランドの中でも無気力で……だからうrち……うち……なんとか、ダーリンを元気にしてあげたくて……」

「ハニー……」

 アンリエッタ……そして、中の人の思いを汲み取り、マゥーサはなんと言っていいのかわからず、ただ呆然と立ち尽くした。

 と、そのとき、背後に突然、一人の男が立った。

「うん……あっ……サイキさん……」

 そこに立っていたのは、モンクの男、サイキ。中の人は雷星だ。

「サイキさん、いったい……」

 Xaikiは無言のまま、マゥーサを静かに見つめた。

 エモーションを知らせる文字が、チャットウィンドウに躍った。

「サイキさん……」

 Xaikiは、マゥーサの頬を張った。

「つっ!サイキさん、いきなり何を……」

 Xaikiは無言のまま、Mausaを静かに見つめた。

「……サイキさん……?」

 エモーションのみで、何も語らないサイキを、マゥーサはその真意を掴みかね、呆然と見つめるしかなかった。

 ……いや、なんとなくはわかっていた。おそらく、これは、無口なサイキなりの激励なのだろう。

 いつまでも燻っていてどうする!立ち上がり、己のなすべきことをせよ!と。

 そうこうしている間に、ヒーリングでMPを回復させたアンリエッタは立ち上がり、再びマゥーサに癒しの魔法をかけ始めた。

「私の愛で、貴方の心を癒します♪ダーリン、ファイトだっちゃ〜!まだ……まだ、全ては終わったわけじゃないっちゃ!まだ、うさ君が死んだって決まったわけじゃないし……もし、そうだとしても、ちゃんと本当の真実を、日の下に暴くのが、ダーリンの務めだっちゃ!」

 Xaikiは、Mausaを静かに見つめ続けた。

「サイキさん……ハニー……」

 現実の世界では引きこもってしまっている自分を励ますために、わざわざリアル・ワールド内でかけつけてきて、こうして励ましてくれる二人。

 二人のそんな底知れぬ深い思いに、マゥーサは自然と熱いものが胸に蘇えって来ていた。

 そうだ……確かに……この事件には、まだ不透明なものが多過ぎる。

 絶対に、明らかになっていない、黒い真実が奥にあるはず。それを暴いてこそ、自分の役目は終わるのではないか!

 自分のため、友のため。何時までもリアル・ワールドにのめり込んでいるわけにはいかない!

「……よっしゃ……ありがとう、ハニー、サイキさん!」

 マゥーサ……ときめきは、そうSayすると、ログアウトするのももどかしいと、LANケーブルを引き抜いて強制終了してリアル・ワールドから帰還すると、部屋を飛び出し、隣の会長の部屋に飛び込んだ。

 そして、キーボードに突っ伏して寝ていた会長の背中を蹴り上げると、高らかに叫んだ。

「おら、起きろや会長!出かけるで!捜査再開や!」

「うおっ!なっ……なんや!って、ときめき……」

 寝起きではっきりしない目を擦りながら、会長はときめきの様子の変化に気づき、少し驚きの表情を浮かべた。

 さっきまでの覇気のない、死人同然の表情と違い、ときめきの顔に、気合が充実していたからだ。

「ああ……待たせたな、会長。ときめき、復活や!ほら、早く、早く支度しろや!まずは天一でチャー定でも食って力つけて、それから捜査再開や!」

「おっ、おう!……まあ、しゃあない。ヴァナは少し休みにしといたるわ」

 ちょっと名残惜しそうに画面を見つめながら呟いた会長に、ときめきは苦笑を浮かべながらも、

「全てが終わったら、連続ヴァナPLAY時間記録更新するで!」

 と、にっこりと微笑んだ――

 


<次章へ続く>